天愛星さんと勉強会   作:肌石友樹

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 初めましての方は初めまして、お久しぶりの人はお久しぶりです。
 この作品は筆者がより深く数学を理解するために、今ある知識を言語化することを目的として書かれています。
 天愛星さんと温水の絡みは副次的なものなので、期待しないように。


1話 ガストで天愛星さんと勉強会

 雲一つない青空とは対照的に、冬の寒気が身に沁み始めてきた。

 今日はクリスマス兼俺生誕祭が終わってから初めての日曜日。

 本来なら怠惰で退廃的な休日を謳歌する俺だが、今日は一味違う。

 

「なにボーっとしてるんですか温水さん。勉強を教えてくれるんですよね?」

「ああ、ごめん天愛星さん。知ってるVtuberが引退するらしくて……」

「ぶい、ちゅーばー?知らないですね……。あと下の名前で呼ばないでください!」

 

 ツワブキ高校生徒会副会長・馬剃天愛星とガストで勉強会をしているのだ。

 

 10日ほど前、天愛星さんは言った。

『私の味方になってください』

 それだけ聞くとラブコメの始まりのように思えるが、実際は生徒会書記・志喜屋夢子先輩と元副生徒会長・月之木古都先輩の仲に決着をつけてほしいという、天愛星さんからのお願いもとい命令だった。

 天愛星さんの悲惨な成績表をダシにナマモノ同人誌を取り返そうとしていた罪悪感から、俺は素直に従った。

 そしてクリスマスイブ、俺は文芸部元部長・ 玉木慎太郎と協力し、無事彼女らを仲直りさせることに成功したのだ。

 

 だが、俺は()()()していた。この問題はすべて解決したものだと。

 そう、天愛星さんの成績は悪いままなのだ。

 生徒会の一員として、皆に恥じぬ成績を取ろうとする彼女に頼まれ、こうして休日を返上して勉強を教えに来たという次第だ。

 

「……」

 

 天愛星さんが俺の首元に熱い視線を注いでいる。

 おっと、マフラーを着けっぱなしだった。店の中でマフラーを着けてるのはおかしいよな。

 ちなみに、マフラーは天愛星さんが俺の誕生日プレゼントとしてくれたものだ。緑色は俺の好きな色でもあるから気に入っている。

 

「……外さなくてもよかったのに

「天愛星さん、何か言った?」

「な、なんでもありません!それと下の名前で呼ばないでください!」

 

 天愛星さんが毎度お馴染みの大きな声で叫ぶ。

 それにより、周りの視線が俺たちに集まる。

 

「ほら、ここは公共のファミレスの中だし、あんまり大きな声は……」

「……確かにその通りです。以後気を付けます……」

 

 天愛星さんは顔を赤らめて俯き、肩を狭める。

 そうされては、側から見るとまるでか弱い女子高生を同級生が理不尽に怒っているように見えてしまう。何だか居心地が悪い。

 

「ま、まぁ天愛星さんの良いところは元気の良さだから、そんなにしょげなくても……」

 

 本当に、毎度毎度怒る元気は一体全体どこから湧いて出ているのだろうか。そう皮肉を交えたつもりで俺は言った。

 天愛星さんは顔を依然として赤らめている。

 

「私の良いところ……」

「どうかしたの、天愛星さん」

「ハッ!なんでもありませんってば!それと下の名前で呼ばないでください!」

 

 顔を真っ赤にするほど怒らせてしまったということだろうか。

 でも、天愛星さんはこうでなきゃ。

 

「どうどう、落ち着いて」

「その落ち着かせ方は何だか癪ですが、落ち着くことにします」

「そうだ、何か頼まない?勉強モードに切り替えるきっかけにさ」

「うーん、何があるんでしょうか……」

 

 天愛星さんがメニュー画面をスクロールしながら吟味している。

 この手の店にあまり来たことがないのか、大分悩んでいるようだ。

 

「温水さんのおすすめとかってありますか?」

「おすすめか……」

 

 ガストのメニューと言われて一番先に思いつくのは――

 

「あ、山盛りポテト!」

「は?」

 

 天愛星さんがゴミを見るような目でこちらを見てくる。

 どうやら選択肢を間違えたようだ。選択肢が多すぎる!

 

「温水さんが私のことをどう思っているかは知りませんが、これでも私は女子なんですよ?そんな私に高カロリー・高脂質のフライドポテトを勧めるとかいい度胸ですね?大体――」

 

 天愛星さんの口からフライドポテトと俺への罵倒が出てくる出てくる。フライドポテトに親でも殺されたんじゃないだろうか。

 少なくとも、ガストに来ては大盛りポテトを一人で食べ切っている八奈見さんは、天愛星さん基準だと女子ではない。それだけは分かった。

 

「――というわけです。温水さん、分かりましたか?」

「あー、うん。じゃあこれとかどう?『国産イチゴのサンデー』だって」

「よろしい。温水さんもようやく乙女心というものが分かってきましたか」

 

 甘いものを与えておけば喜ぶ――それが乙女心なのだとしたら、そんなもの知りたくはなかった。

 注文を終えた天愛星さんが鞄から見慣れた数学の教科書と問題集を取り出す。

 

「事前にお伝えしておきましたが、今日は"三角関数"について教えてほしいんです」

 

 三角関数――サイン・コサイン・タンジェントと口ずさみやすい一方、数多の数学嫌いを生み出してきた、高校数学の難所の一つである。

 

「三角関数か……。これから俺の知ってる知識の全てを天愛星さんに授けようと思う。覚悟は良いね?」

「よろしくお願いします。あと下の名前で呼ばないでください」

 

 俺と天愛星さんとの勉強会・三角関数篇、開幕!




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