シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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序章
プロローグ


地球。

 

かつて、この星には戦いがあった。

人類の手によってこの惑星から火星へと降り立ち、人間の様に二足歩行に進化たゴキブリ、通称テラフォーマー。

 

彼らとの戦いは、火星。そして、再び彼らが飛来した地球。

数十年にわたる、彼らと人類の戦いは、多くの犠牲を出しながらも人類の勝利で幕を閉じた。

 

そして、テラフォーマーと人間との戦争が終わり、数年の月日が流れ、地球へと降り立った彼らは、上位個体を失い、ただの危険な猛獣となりはて、人類にわずかな被害を出したものの種としての脅威を完全に失っていた。

 

そして、その戦争において大きな役割を果たした対テラフォーマーに特化した民間警備会社である一警護は、テラフォーマーの脅威がなくなった今。新たに日本で増え始めたモザイクオーガン手術を受けた人間による犯罪に対する組織として、新たな役割を持ち始めていた。

 

「どうしたんだ一郎。急に呼び出しなんて」

 

「……小吉。そうだな。すまない。ここのところ、多忙だったろう」

 

そんな中、先のテラフォーマーたちとの戦いにおいて人類側の旗印となった男。

元アネックス一号艦長小町小吉は、元日本総理大臣にして旧友の蛭間一郎へと呼び出しを受けていた。

 

「いいんだ。元総理のお前ほどじゃあない……それで、用件は?ゴキブリ退治はごめんだぜ?」

 

「そうだな。……お前に頼みたい仕事は、戦闘じゃあない。これを見てほしい」

 

「戦いじゃない?……端末か」

 

そういって、一郎から彼の前に差し出されたのは一つの端末。

 

そこに書いてあるのは、その肩書と、たった一言だけ。

 

『私たちを、助けてください。先生。学園都市キヴォトス連邦生徒会長』

 

「これだけか?」

 

「あぁ。だが、俺たちにとって重要なのは救助の要請の方ではない。ここだ」

 

そういった一郎が指で示したのは、救助要請の方ではなく、その肩書。

 

「キヴォトス。か……。名前くらいは聞いたことがあるが」

 

「無理もない。キヴォトスは世界から隔離されている。出入りも完全に記録され、テラフォーマーの侵攻の影響もなかった。おそらくテラフォーマーの存在そのもの多くの人間が知らないだろう」

 

「マジかよ……。確かに、そんだけ隔離してるなら情報も手に入らないかもしれないが……」

 

思い起こされるのは、テラフォーマーの戦力と、その被害。

世界中が大きく変革を余儀なくされたそれに影響を与えられなかった国がある。

いくら彼らが日本への攻勢まで潜伏を続けていたとはいえ、小吉にはにわかに信じがたかった。

 

「それで、……なんで俺なんだ?」

 

「……理由は二つ。一つはこの送り主。連邦生徒会長が指名したのがお前だということ。小吉を先生と呼んでいる理由は分からないが。……空手の稽古をキヴォトスの学生に教えたということはないだろう?」

 

「あぁ。ない。それに、それならそれで肩書じゃなくて、自分の名前を名乗るんじゃないか?」

 

彼の言葉に、一郎は確かに。と、頷く。

 

「そして、もう一つ。……こちらの方が、大きな理由だ。これがなければ、お前ではなく、別の者に行ってもらう案もあった」

 

そういって一郎は端末の画面をスワイプする。

連邦生徒会長による救助の嘆願文。それが画面の外へと消え、次の情報が端末に映し出され、小吉の顔色が変わった。

 

「おい。一郎。……これは」

 

そこに書いてあったのはキヴォトスのとある情報。

連邦生徒会長によって添付されたその情報は。今の彼らにとって重要な意味を持っていた。

 

「あぁ、お前の仕事は二つだ。……キヴォトスの困難への対処、そしてもう一つは……」

 

それが、少し前の話であった。

 

 

不意に響いたがたん、ごとんという音が、そんな記憶を思い起こしていた小吉の意識を浮上させる。

 

気が付くと、そこは電車の中。

 

「俺は確か……キヴォトスへの移動の手続きを終えて……」

 

眠っていたのか?と、小吉はぼんやりとした意識を戻そうと小さく頭を振った。

 

「……私のミスでした」

 

そんな声に、彼は顔を上げた。

対面にいるのは、白い服を着た、水色の髪の少女が一人。

胸元のあたりから流れた血は彼女が腰かける座席を濡らしている。

 

外からは、うるさいくらいに電車が揺れる音が響いているはずなのに、その声はやけにしっかりと聞こえた。

 

「おい、君、大丈夫か?」

 

流れる血をみて、声をかける彼の言葉に、少女は少しだけ口元を緩ませ、言葉を続ける。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

 

何をいっているのか、小吉には分からない。

だが、少女が言葉を紡ぐたびに、彼の脳内に、一瞬だけノイズの様に知らない……。

しかし、見覚えのある記憶が流れる。

 

「くそっ、一体何なんだ」

 

「……やっぱり、……初めから貴方のほうが正しかったんでしょうね」

 

彼はそういって、しかし、流れている血を止めるために動こうとする。

だが、彼の体はまるで金縛りにでもあっているかのように力が入らない。

 

「今更図々しいですが、お願いします。小町小吉先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでもかまいません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。……あなた相手に言う必要はないかもしれませんが。大事なのは、経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々」

 

「……なんで、俺の名前を……」

 

「……責任を負うものについて、話したことがありましたね。あの時の私にはわかりませんでしたが、今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあったあなたの選択。それが意味する心延えも」

 

「おい、聞いているのか。君はなんで……」

 

少女は、小吉の言葉に応えることはない。

ただ、口元に少しばかりの笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら、このねじれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかるはずです。だから、先生……どうか……」

 

 

「……先生。起きてください」

 

その先の言葉を聞く前に、彼の意識は、浮上した

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