シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「お」
「あ、先生。おはよう!」
アビドス対策委員会の顧問を始めて数日。
流石にアビドスの中を迷うこともなくなったころ、学校へと向かう途中小吉はセリカと出会った。
「セリカ。今日はどうした制服なんか着て。確か、自由登校の日だろ?」
そう、確か事前に聞いていた話では、アビドスには自由登校の日がある。
とはいえ、そもそもアビドス自体が、授業を行える環境にはないわけで登校日となっても、大抵の場合はアビドスの借金の返済のための仕事をこなすだけ。
小吉も戦闘以外の仕事は直接協力したりもしたが、かなりのハードスケジュールだ。
そのため、この自由登校を設けているのも、肉体的、精神的な休養日を作るためだと考えていた。
「えぇ!でも、学校の借金は何もしないと減らないから。今日は、バイトなの。……制服なのは、あんまり服がないからで……」
「へぇ、バイトか。偉いな」
「あ、遅くなっちゃう!それじゃあ先生!またね!」
そういって、セリカは足早に走り去っていく。
「……よし」
その姿を見て、小吉はシロコにモモトークを送ると、アビドスへと足を向けた。
「いらっしゃいませ!紫関ラーメンです!」
それから、数時間後のお昼時。
セリカはアビドス郊外の都市部のラーメン屋で働いていた。
郊外であるのに都市部。というのは違和感もあるが、なにせ、アビドス地区は大半が砂漠に埋もれている。
それ故に、街として機能している場所は、このようなアビドスとしてみれば郊外の場所しかなく、住民や店なども、この地域に集中し現在、アビドス地区に存在する場所としては都市といえる場所はこの辺り位のものであった。
そして、お昼時とあってか、ここ柴関にはそこそこの人がいた。
従業員もセリカと大将くらいなもの故に、動き回っているセリカは大忙し。
客の案内、オーダーの受付など様々な仕事をこなしていた。
そんなときであった。
また、新たな客が、扉を開いたのは。
「いらっしゃいませ!紫関ラーメンで……」
「よう、セリカ。今朝ぶりだな」
「あの~☆五人なんですけれど!」
「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……。」
彼女にとって、よく知るアビドスの面々であった。
「うん、やっぱりここだった」
「う、……皆には秘密にしてたのに……。先生がバラしたの?」
恨めし気に、小吉を見上げるセリカ。
「うへ、先生は、……まぁ、バイトやってるのをバラしたのはそうだけど、どこでやってるかは知らなかったよ。でも、セリカちゃんと言えば、このお店くらいしかないじゃん?だから来てみたら、ね?」
「うぅ……、ホシノ先輩!」
「っと。アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」
そんなやり取りをしていると、奥の方から二足歩行の犬の住民が歩いてくる。
「……やっぱ慣れねぇなぁ……」
頭に光輪の浮かんだ少女たち、漫画にでも出てきそうなロボットの住民と、彼のような動物の姿をして、二足歩行であるくファンシー、というには、デフォルメ化した動物系の住民。
存在自体がファンタジーなこの世界の住民に、彼は未だ時折ぎょっとすることがあった。
これで、世界そのものがファンシーならともかく、体が丈夫なこと以外は、外と大して変わらない世知辛さな世界がギャップに拍車をかける。
「先生。何ぼーっとしてるんですか?どうぞこちらへ!私の隣、空いてます!」
「ん、私の隣も空いてる」
そんなことを考えていたら、もう、シロコ達は席についてしまっていたらしい。
ノノミとシロコは、互いに自分の方へと座らせようとしているが……。
「いや、俺が座るにはそのスペース狭すぎるだろ」
彼女たちの体格なら確かにもう一人座れるスペースはあるが、彼の身長は187センチ。
また、恐ろしく鍛え上げられた肉体は、もう五十台も目前という男の体躯とは思えないほどに分厚いものだ。
「セリカ。空いてる椅子。一個もらえるか?」
「はい、どうぞ!ノノミ先輩もシロコ先輩も!先生困らせちゃだめでしょ!」
「ん……」
「はーい☆」
彼に椅子を渡したあと、二人にしっかりと注意し、注文を取っていく。
「……そういえば、皆お金はどうするの?また、ノノミ先輩におごってもらうつもり?」
そこで、セリカの中に浮かぶ疑問。
あれだけ余裕のないといっているアビドスで、それこそ、今、自分はバイトをしてでも借金返済の足しにしようとしているのに、そんなお金が果たしてあるのかどうか。
「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」
「いや、俺が出すよ。こういう場だしな」
「うへー。太っ腹だね?それとも、大人の余裕ってやつ?」
「茶化すなよ。かわいい生徒の腹を満たせるなら……ま、若い子が腹いっぱい食うのは、うれしいからな。とはいえ、少しは加減してくれよ?」
そんな風にセリカに言われて、財布をあさるノノミを小吉は止める。
ノノミがいわゆる御令嬢である。というのは本人からも聞いていたが、それはそれ。
というよりも、今回は元よりそのつもりだった。
結果的にアビドスの彼女たちの懇親会のようなものになってしまったが、今回の目的は、時折消えるセリカが何をしているか確認をするためというのが、彼にとっての本題である。
アヤネも心配していた様子であったし、学生をだましてどこかに連れ去るというのはキヴォトスにおいて珍しい話でもない。
そういった状況になっていないかの調査費と考えればシャーレの経費で落とせる範囲だし、そもそも、そう無駄遣いする余裕も時間もない小吉は金に関しては困窮するような生活は送っていない。
「あ、セリカも。先に代金は大将に払っとくから、店終わったら食えよ?」
「ほん、……じゃなくて……いいの?」
「こういうの、区別つけるのはよくないしな」
「あ、ありがと!あ、ラーメンできたみたい!」
そんな風に慌ただしく駆け回るセリカの姿を見ながら、みんなで空腹が満たされるまでラーメンの味を楽しんだ。
「はぁ……やっと終わった、目まぐるしい一日だったわ」
それから、さらに数時間。
アビドスの仲間たちが帰った後も日が暮れるまで働いたセリカは、一人一日を振り返る。
朝に、先生と会い、昼にみんなで押しかけてくる。
「騒がしいったらありゃしない。……けど」
楽しかった。と、そう思う。
普段、借金返済のことばかり考えて動いている時よりも、……。
「あ、明日、先生にラーメンのお礼を……」
そんな風に、考えていた時であった。
彼女の周りを、何人ものヘルメット団の少女たちがセリカの周りを取り囲む。
「黒見セリカ……だな?」
「あんたたち、拠点も壊されたのにまだこの辺をうろついて……!?」
そう、彼女たちの拠点は間違いなく彼女たちに徹底的に蹂躙された。
勿論、原形が残っていない、というほどではないが、それでも、弾薬、武器、装備。
それら諸々は使い物にならず、拠点として使うにしても、資金、そして、装備の一新を余儀なくされる……。
はずであった。
だからこそ、セリカは驚愕した。
怪我は、まだいい。
もう数日たっているし、復帰してもおかしくない程度のダメージだった。
だが、装備の一新は話が違う。
そもそもヘルメット団は大抵の場合、不良や、ごろつき。
碌な収入源はなくブラックマーケットや、そこらへんをおそって金を稼ぐことが多い。
故に、かつかつな状態で生活している者たちもすくなくない。
彼女たちも、例にもれず。
少なくともアヤネの調査で特別な収入はないと思われていた。
だから、こんなにも早く戦える状態にできるなど、想定外であった。
「……丁度いいわ。折角いい気分だったのに邪魔されて、ムカついてきたの……。相手、してもらうわよ!」
セリカはそういうと、彼女たちに向かって駆け出した。
小吉の見立て通り、セリカの戦闘能力はかなり高い。
勿論、アビドスの上級生とは比べるべくもないが、それでも、眼の前にいるヘルメット団の少女たちと比較すれば大戦力といっていい。
機敏な動き、好戦的な性格、突撃をためらわない勇敢さ。
能力の差も加味すれば、彼女の敗北は、よほどのことがない限りありえないだろう。
彼女が単独でなく、相手が複数人でなければ。
「っ!?うし、ろっ!?」
突撃してがら空きになった背中に弾丸を撃ち込まれ、動きが止まる。
そう、セリカには、明確な欠点がある。
悪癖とも言っていいそれは、視野の狭さ。
しかし、それも他のだれかがいるのなら、その欠点は容易くカバーできる範囲のものだ。
事実、アビドスでの戦いの際、それは精々被弾数が多少大きい程度で済んでいる。
だが、単独となれば話は別。
銃弾も、傷にこそならないものの、ダメージは溜まる。
そして何より、受け続ければ足が止まる。
機動力と性格からくる攻撃能力の高い彼女の強みは、数という暴力に抗うほどの絶対性はなかった。
反撃することもできないまま、セリカの体に、何度も弾丸が突き刺さる。
「くっ、……そんな、最初から、私を狙って……」
単なる遭遇戦では、こんなこと、滅多に起きえない。
ヘルメット団という集団であるがゆえに固まって行動していること自体は珍しくないが、今回は、明らかに、セリカを囲うために最初からある程度の人数が伏せていた。
計画性のある襲撃であることは、セリカの目から見ても明らかであった。
状況は最悪である、
撃退は困難。
「にげなきゃ……」
そんな思考に至ったのは、彼女の身体が既にボロボロになった段階であった。
誰が見ても、手遅れ。
そんな状況でも、彼女は突破を試み、ヘルメット団の壁を越えようと、駆け出そうとする。
「捕らえろ」
だが、そんな攻撃を受け続け、碌に動かなくなった彼女の体を、遠距離からの砲撃が辺りの風景ごと吹き飛ばす。
(対空砲……違う、この爆発音Flak41改……?火力支援?ちがう、これは……)
「もう、駄目……意識が……。ホシノ先輩、みんな……せんせ……」
そして、それが、彼女の意識が失われるまでの最後の思考であった。
「止め、さしますか?」
「いや、生かさなければ意味がない。十分だろう。車に乗せろ、ランデブーポイントに向かう」
そういって、彼女たちは倒れ伏したセリカの体を車の中に乗せる。
戦闘の終わったアビドスの街。
治安の悪化によって、爆発程度日常になってしまったからか。
あるいは過疎化の影響か。
その場に駆け付けるものは誰もなく。
そんな戦闘があったということすらも、気が付くものはいないのだった。