シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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十話

セリカが行方不明になったことに最初に気が付いたのは、アヤネであった。

 

彼女の部屋を訪ねると、家に帰っておらず、紫関への連絡も、定時に上がったという話。

しかも、電話は数時間前から電源が切られている状態。

普段彼女は、そう夜遅くまで家に帰らないような生活を送っていない。

 

犯罪に巻き込まれた。

 

シロコとノノミは、アヤネの話を聞きながら小吉たちを待っていた。

 

「悪い。遅くなった」

 

「みんな、お待たせ―」

 

「ホシノ先輩!先生!」

 

不安そうな表情でアヤネは二人の方を見る。

……もしも、を。想像してしまうのだろう。

 

「大丈夫だ、アヤネ。ちゃんと手掛かりはもって帰ってきた」

 

「先生の持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできたよ」

 

「先生、そんな権限までお持ちなのですね」

 

「権限だけは、な。本当はリンちゃんたちに許可もらわないとだめなんだろうが……状況が状況だ」

 

だから内緒な?っと、口元に指をあてる小吉に、アヤネは思わず口を両手で塞ぐ。

 

「それで、……連絡が途絶える直前のセリカちゃんの端末の場所は、ここだったよ」

 

そんなアヤネの姿を、少しだけ微笑まし気に見ながら、ホシノは手早くアビドス地区全域が記された地図にチェックマークを書き込む。

 

「俺は、その辺は確か行ってなかったな……」

 

「無理もないです。確かここは……砂漠化が進んでいる市街地の端の方ですから」

 

「ん、住民もいないし、廃墟になったエリア……。治安が維持できなくて、チンピラばかりが集まってる場所だね」

 

なんで、そんなエリアに。と、シロコ達と首をかしげていると、アヤネがあることに気が付いた。

 

「このエリア、以前危険要素の分析をした際に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です」

 

「なるほどねー。帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分たちのアジトに連れて行ったってことかー」

 

「学校を襲うくらいじゃ物足りなくて、人質を取って脅迫しようってことかな」

 

「急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

「あぁ、……だが」

 

「うへ、どうしたの?先生……何か引っかかるの」

 

息まくアビドスの少女たち。

そんな中で、難しそうな表情をする小吉に、ホシノは先を促す。

 

「……前回の攻撃で少なくないダメージを受けていたはずだ。怪我以外にも、資材なんかにもな」

 

「ん、別の拠点があった、とか?私たちが破壊したのは前線基地。そう考えれば説明がつく」

 

「……それならいいが。いや、どっちにしても、今はセリカだ、足を止めてすまなかった」

 

「大丈夫ですよ☆さぁ!改めてしゅっぱーつ!」

 

引っかかる部分は確かにある。

だが、どちらにしても、選択肢はない。

 

仲間を見捨てる選択肢など、あってはならないのだから。

 

 

「う、うーん……ここ、は……」

 

セリカが襲われ、少しの時間が経った頃。

彼女は、揺れるトラックの荷台で目を覚ました。

 

攻撃を受けた際の衝撃がまだ残っているのか、頭が痛む。

その痛みに、手を添えようとするが、腕は、縛られてしまっていて動かすこともできない。

 

「……私、誘拐されちゃったんだ。ヘルメット団の奴ら、一体、どこへ連れていくつもりなの?」

 

自由に動くことはできない。

意識を取り戻したことを気取られるのも面倒なことになるかもしれない。

 

だが、それでも、なんとか自分のいる場所のヒントを得ようと、体を動かして荷台の隙間から外を見る。

 

「砂漠……に、線路……。線路!?まさかここ、アビドス郊外の砂漠!?」

 

その景色に、セリカの表情に暗い影が差す。

 

カバンの中の装備は最低限度の物だけ。コンパスなどは当然なく、水はあるにはあるが街中で動く常識的な範疇の量。

 

例え抜け出せたとしても、自身の状況を伝える手段はセリカにはなく、脱出ができたとしても砂漠を無事に抜け出せるような方法もなかった。

 

詰み。

そんな思考が、彼女の脳裏に過る。

 

「どうしよう。皆、心配してるだろうな……」

 

彼女の中に、降り積もる不安。

漏れ出す光はあるものの薄暗い荷台に、不定期に来る揺れとトラックのエンジン音以外何も聞こえない状況は、少女の精神を蝕んでいくには十分すぎるものであった。

 

「このまま、どこかに埋められちゃうのかな。……みんなに、私も、他の子みたいに、街を去ったって思われるんだろうな……裏切ったって、思われるんだろうな……」

 

口をついて漏れ出す弱音は、延々と彼女の心を闇へ、闇へと引きずり込んでいく。

 

耳にしたくない、そんな思いが、反響して頭にこびりついていく。

自分の発した言葉が、鋭い刃となって、彼女の心を傷つける。

 

「誤解されたまま……皆に会えなくなるなんて……そんなの、ヤダよ……」

 

セリカの頬に、あふれ出した涙が伝っていく。

弱り切った精神には、それを止めるすべはなく、無力な彼女は、小さく丸まってすすり泣くしかできなかった。

 

誰か、助けに。なんて、言葉は出なかった。

第一、どうやってこの場所を見つけるというのだ。

 

攫われた周辺には、人はいない。

あの騒ぎだったのに、人が騒ぐ様子もないのだから。いたとしても、気が付いていないか、気にもしていなかっただろう。

 

だから、この話はこれでおしまい。

もう、自分はおしまいなのだ。

 

そんな考えに至ろうとしたときであった。

 

轟音とともに、トラックが爆発し、彼女の体は砂漠へと放り出された。

 

「カハッ……!?ケホッ、ケホッ……、なに!?トラックが急に爆発した!?砲弾にでもあたったの!?」

 

そんな彼女の下に、見覚えのあるドローンが駆けつける。

 

「セリカちゃん発見!生存確認しました!」

 

「ん、こっちも半泣きのセリカを確認した」

 

「あ、アヤネちゃん!?それにシロコ先輩も!?」

 

「なにぃー!?うちのセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの?」

 

そんな風に、次々と集まってくる彼女たちに、セリカは大慌てで涙をぬぐおうとするが拘束されたままの腕では涙をぬぐうことはできない。

 

「う、うるさい!な、泣いてなんか!」

 

「嘘、この目でしっかり見た」

 

そう、からかいながらシロコはセリカの腕の拘束を慣れた手つきで外していく。

 

「泣かないでくださいセリカちゃん!私たちがその涙を拭いて差し上げますから!」

 

「あー!もう!違うったら違うの!!黙れー!!!」

 

「元気そうで何よりだ」

 

「!先生!どうやってここにきたの!?」

 

「生徒が攫われたんだ。なんだってやるさ」

 

「っーーーーーー」

 

そういって、笑う小吉を見て、今度こそ、安心しきってしまったのか、セリカは声も出せずに泣いてしまう。

 

「さて。セリカは確保したが……」

 

だが、話はここで終わりではない。

周囲が騒がしくなってくる。

 

「まだ、油断は禁物だよねー」

 

「ここは、まだ敵のど真ん中だから」

 

「人質乗っけた車両を破壊したからな。相手も怒り狂って攻撃してくる、か。アヤネ。反応は?」

 

「前方にカタカタヘルメット団の反応多数!更に巨大な重火器も多数確認。徐々に包囲網を構築しています!」

 

そう、救出そのものには成功したが、ここは未だに敵陣深く。

トラックを爆破までしたのだ。敵が気が付かないはずもない。

 

「包囲を完成されると厳しくなる。今のうちに突破するぞ」

 

「それじゃ、行こうか!」

 

だが、幸いまだ、接敵されていない。

全ての敵を叩き伏せるのは厳しいが、それでも、逃げ果せるのには十分な距離だ。

 

「アヤネ、情報をこっちにも回してくれ。ルート構築はこっちでもする」

 

「分かりました!」

 

シッテムの箱にアヤネからの情報が送られてくる。

それを確認しながら、一瞬だけ意識をアロナへと傾ける。

 

「行けるか?」

 

「はい!任せてください!……できました!アヤネさんに送信します!」

 

送られた情報を基に、アロナは、逃走ルートを制定。即座に構築できたのか、

 

「確認できたか!」

 

「……はい!確認しました!これより、ナビゲートを開始します!皆さん準備はいいですか!」

 

その言葉に、全員駆け出した。

 

戦力的には正面の部隊程度、容易に蹴散らすことができるだろう。

真っ当に打ち合った時の戦力差は、以前挙げた通り。明確に有利といっていいほどに差がある。

 

だが、包囲が完成すれば、その優位も覆る可能性は十分にある。

個人での戦力で勝ろうと、連携になれているとしても、大多数からの暴力を受け止めるには限度があるのだ。

 

さらに、相手が持っている戦車。

 

反応を見る限り数両はあるだろう。

それを壊滅させることは、実力差があれど簡単なことではなかった。

 

「ホシノ!そこを押し込め。シロコ、ホシノの側面をカバーだ!」

 

「ん……っ!先生後ろ!!」

 

包囲網突破戦はうまくいっていた。

包囲の薄い場所を狙っているとはいえ、正面の敵も、彼女たちの障害になりうる存在はいない。

 

だが、背後から追いついてくるものも、僅かにいた。

 

そして、その銃口は、至近から小吉の体に狙いを定める。

 

「喰らえ!!!」

 

ヘルメット団の少女は、彼に向って引き金を引き絞る。

指揮官を潰せば、戦況は揺らぐもの。

ましてや、彼は外の世界の人間である。

 

銃弾が当たりさえすれば、黙らせることなど容易。

 

「っと……あぶねえな」

 

そう、銃弾が当たれば。

シロコの声で、僅かに早く彼女の存在に気が付いた彼は、彼女が引き金を引く前に、彼女の内側に飛び込んでいた。

 

ガン、と、裏拳で銃を弾かれ銃撃はあらぬ方向へと打ち尽くされる。

 

「先生!大丈夫ですかー!」

 

そして、小吉が軽く彼女の体を突き飛ばし距離を取った瞬間に、ヘルメット団の少女に向かって、ノノミのミニガンの斉射が襲い掛かる。

当然、体勢を崩し、弾を撃ち尽くした彼女はなすすべもなく、弾丸の雨を浴びて倒れ伏す。

 

「ノノミ!ありがとう、助かった」

 

「はーい☆でも気を付けてくださいね!」

 

「……先生、戦車が見えた。隠れてて」

 

ノノミのおかげで致命的な攻撃は回避できたが、流石に戦車を相手に先ほどのような立ち回りはできない。

 

「あぁ、……そうさせてもらうよ」

 

「……よーし。ノノミちゃんは先生のカバー!シロコちゃん!アヤネちゃんはおじさんといっしょに戦車を」

 

そんな三人の前に立ちはだかるのは戦車。

……少し前の小吉であったのならば、その戦力に歩兵が挑むのは、などと考えただろうが。

 

既に撃破の実例を見ている。

だが、あの時は火力があった。そして、時間的にも余裕がある。

 

しかし、今は撤退戦。あの戦車を相手に、三人の銃では、恐らく火力が不足している。

倒せない。と、そんな心配はないが、それでもあれを相手に時間をくえば包囲網が完成してしまうだろう。

故に、導き出される結論は一つ。

 

「シロコ!戦車下部を狙え!」

 

「……!分かった!」

 

ピンポイントへの爆撃。

戦車の足元へと撃ち込まれたミサイルは、それだけでトラックを破壊できるだけの威力がある。

当然、それは戦車相手にも有効な打撃になる……。

 

だが、今回の狙いはそれではない。

この一撃だけでは、戦車を破壊しきるには足りない可能性がある。

 

「も、持ちあがった!?」

 

そう、足元への爆撃で、戦車本体を弾きあげること。

そして、ドローンに搭載されたミサイルは、複数本。

 

戦車を持ち上げるのに半分使ったが、まだ、あと半分も残っている。

 

「これで、おわり……!」

 

放たれた残りのミサイルはかちあげられた戦車の下部に叩き込まれ、持ち上がった車体を一気にひっくり返す。

 

その衝撃で、砲塔もひしゃげ戦車の履帯は虚しく空をきるだけになる。

 

「今のうちだ!」

 

「はい!皆さん、離脱してください!」

 

包囲網の要となる戦車と随伴の少女たちは攻略した。

そうなれば、もはや、彼らを止める戦力はない。

 

彼らはセリカをつれて、無事、カタカタヘルメット団のアジトから離脱したのであった。

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