シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「みなさん、お疲れ様です」
ヘルメット団を何とか振り切った彼らを迎えたアヤネは、真っ先にセリカへと駆けよる。
「……セリカちゃん、大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫。みてよ、ピンピンして……」
そう、アヤネに元気な姿を見せようとするが、傷だらけの体はぐらりとふらついて、倒れそうになる。
「っと……。無理するなよ、セリカ」
「あ、ありがと、先生」
それを小吉は受け止め支えた。
言葉を返したセリカではあるが、ダメージと疲労がたまっているのだろう。
その意識はぼんやりとしたもので、今にも意識を手放してしまいそうになっている。
「対空砲をまともに喰らったんだから無理ないよ。シロコちゃん」
「うん。セリカ。肩を貸す。保健室に行くよ」
「……やっぱりこっちの人間にも限界はあるんだな」
「うへー。まぁ、外の人よりは頑丈だけどね。流石に戦車級の攻撃に巻き込まれたら、結構痛いよ」
何だと思っているのさ。と、小さく反論するホシノ。
「そう、そうです。戦車!皆さん。これを見てください。さっきの戦闘中、戦車の破片を回収したんです」
「戦車の破片?ヘルメット団が使ってたやつか?」
小さくうなずいてアヤネが取り出したのは、確かに焦げているが、見覚えのある金属片。
「確かに、戦車の破片だが、……戦車は学生でも購入が可能なんだろう?」
「……一応、ブラックマーケットで横流しされたりはありますが……。問題でそちらではなく、その戦車がキヴォトスでは使用が禁止されている違法機種だということです」
「……つまり、ヘルメット団は本来手に入らないはずの武器をどこからか調達している……。なら、この前叩き潰したばかりの連中が装備を刷新してあれだけの規模を継続できていたのもうなずける」
「だれかがバックについているのかもしれませんね……」
委員会室には沈黙が流れる。
ホシノたちの反応からこれまでヘルメット団はあの戦車を使ってこなかった。
勿論、移動の間に存在を認識される可能性からということも考えられるが、あの装備の刷新を考えるに、戦車程度なら容易に与えられる存在が彼女たちの背後についていた可能性が高い。
もしも、それが本当なら、補給すらままならなかったアビドスでは、資金力に物を言わせてすり潰される可能性もある。
今は、あの程度で問題ないと考えられているのだろうが……。
「……でも、いい点もあります。この部品の流通ルートを分析すれば、ヘルメット団の背後関係も探れますね」
「はい、何故、ここまで執拗に私たちの学校を狙っているかも、明らかになるかもしれません」
「うん、わかった。じゃあ、これのこと、じっくりしらべてみよっか」
「俺の方でも当たってみよう……、じゃあ、俺は一旦、シャーレに戻るよ。また明日」
「はーい☆」
そういって、外に出ようと、小吉が扉に手をかけた時。
「……待って、先生」
「?どうした、ホシノ」
「……今日は、危ないのに……。セリカちゃんの救出のためにあそこまで来てくれて、ありがとう」
「気にするな。大人っていうのは、そういうもんだよ」
ホシノの言葉にそう返すと、小吉はそのまま、扉の外に出ていく。
「……わかんない、わかんないよ。先生……」
「ホシノ、先輩?」
ホシノは、彼が去って行った扉を見つめたまま、しばらく動けなかった。
「はぁ……」
シロコが去った後、セリカは一人、保健室でため息をついていた。
体が痛む。
対空砲の一撃のあと、碌に治療も受けられないままあの砂漠地帯を突っ切ったのもあるだろう。
体に残ったダメージは明日には治る程度のものとはいえど、体を少し動かすだけで、悲鳴をあげたくなるものだった。
「よぉ、セリカ」
「きゃ!?って、先生!?……どうしたの?」
「今日は一旦シャーレに帰るつもりだからな。その前にお見舞いを、な?」
そういって、ほら、っと、ジュースを渡す。
冷たいそれを受け取ると、そういえば、砂漠から帰ってきてから水も飲んでいないことを思い出して、セリカはそれを一気に飲み干そうとして少しだけむせる。
「っと、慌てるなよ。ジュースは逃げないぞ」
そんな様子を眺めて笑う小吉に、セリカはうるさい!と、少しばかりの反抗を見せる。
「調子はどうだ?」
「……大丈夫。いつまでも、こうしちゃいられないし。アヤネちゃんや他のみんなも心配してるし……バイトにもいかなきゃだし」
彼女の頭に浮かぶのは、帰ってきたときに見たアヤネの顔。
このまま自分が動かないままでいれば、その分だけ彼女は裏で、悲しい顔をする。
「ほら、元気でしょ……っ!」
だからこそ、動いて元気だと証明したかった。
だが、先ほど倒れそうになったばかりの身体が、言うことを聞いてくれるはずもなく体中が悲鳴を上げる。
顔が苦痛によって歪みそうになる。
でも、心配はかけたくない。
「ど、どう!ほら。元気!」
「……ならいいけどよ。今日はちゃんと寝ろよ?」
その気遣いに触れるほど、小吉は子供ではなかった。
「さて、元気ならそれでいいや。また、明日来るから」
「ま、まって!……先生、その、ありがと……また明日。……先生」
「……おう」
セリカは、小吉の背中を少しだけ見つめた後、そのままベッドへと横になり目を瞑る。
その眠りは、いつもよりほんの少しだけ、穏やかなものであった
「……格下のチンピラ如きでは、あの程度が限界か。主力戦車まで送り出したというのに、このザマとは」
とある高層ビル。
その男は、ヘルメット団からの報告を見てため息をつく。
支援は十全であったといえるだろう。金もかけた、本来なら手の届かない装備まで使わせた。
だが、その結果はあの程度。
敵の一人を攫ったにもかかわらず、途中で逃したうえ、結局成果はなし。
送った戦車を一両潰されるという、碌でもない結果であった。
「だが、そうなると。……専門家が必要だな。ただの不良ではない。専門家が」
男は、既に調べてあったリストから、とある会社へと連絡を取る。
この世界の住人ではない、彼にとって、特別な家系のある女。
まさか、初めにこの世界に来た時は、存在しているとは思わなかったが。
何度目かのコール音共に、ガチャリと、通信がつながる音がする。
「はい、どんなことでも解決します。便利屋68です」
「仕事を頼みたい、便利屋」
「……えぇ、勿論です」
ただ男の依頼に、女は電話越し、自信を隠さずに、そう返した。
数時間後
「うわああああああ!?」
カタカタヘルメット団のアジトでは、殲滅戦が行われていた。
最初は、アビドスの生徒たちだと思った。
だが、……違う。
姿も、戦い方も、まるで違う。
爆弾が、銃弾が、爆撃が。
彼らのアジトにいる存在を、一人残さず平らげるように襲い来る。
確かに、彼女たちは昼間の戦いで疲労していた。
怪我をしていたものもいたから治療中であったのも事実だ。
なにより、ここは彼女たちのアジトであり、一台潰されたとはいえ戦車さえ所有している彼女たちに襲い掛かるものは、この地域にはいない。だから、安心していた。
「っ、また!!」
だが、彼女たちは違った。
姿を見せている三人と、どこからか攻撃を打ち込んでくる、恐らく司令塔のスナイパー。
戦車があることさえ理解していた彼女たちは、それにひるむことなく。
いや、それすらも含めて、対処が容易だと言わんばかりに、襲い掛かっていた。
「まだ戦車は動かないのか!」
ここに攻め入ってきた彼女たちは、アビドス同様に、戦力としてかなり高いのだろう。
銃弾の雨をわずかにも気にしない少女たち。
それを相手取るには、銃撃の何倍もの火力を持つ戦車を使うしかない。
「もうすぐ!っ、よし!!いけるぞ!!」
全てのチェックが終わり、戦車が前へと出る。
「うっわー♪やっばー」
「だ、大丈夫です。いざとなったら、わ、私が盾に」
「流石にあれに当たったらハルカもまずいでしょ……。大丈夫」
「『もう終わる(わ)』」
戦車の出撃に楽しげに笑う少女と、ハルカと呼ばれた少女。
二人の心配をよそに、前線で指揮を執っていた少女は、何一つ、恐れも不安もなく紡いだ言葉は、無線越しに仲間に送られた言葉と重なる。
そして、遠くから聞こえた銃声とともに放たれた一撃が、戦車の砲の中へと滑り込む。
「ムツキ、ハルカ。離れよ。ここだと、巻き込まれる」
「はーい♪」
「そ、それでは、失礼します」
「は?お、おい!待……。くそ!逃げる気か!追うぞ!!」
三人が走り出したのを追おうとする、ヘルメット団の少女は、戦車の方を振り向いて、動きを止める。
砲の奥。弾丸が撃ち込まれたそこに、光がちらついている。
そのちらつきは、少しずつ、まるで、警告であるように瞬く速さが上がっていき、そこで少女は、その正体に気が付いた。
「爆発するぞ!!!!」
少女も、そして、戦車の中の少女たちも必死でそこから離れようとする。
だが、その動きはあまりにも遅かった。
砲の内部で起きた爆発は、そのまま戦車内の弾薬に引火し、辺りを巻き込んで大爆発を起こす。
当然、その爆発は、彼女たちのアジトをも巻き込んで、崩落を引き起こした。
「あー、みみいたーい。こっちは終わったよー」
「さっきので制圧完了したみたいだね、他のところは……社長がやったんだよね」
先ほどまで現場を指揮していた少女が視線を送れば、彼女たちのボスの背後には叩き伏せられた少女たちの山ができていた。
「まぁ、皆、慣れてないもの、近接戦」
「クソっ……何者だ、貴様らは……」
「あら、もう起きたの?……あー、そういえば、ヘルメット団の相手をしたことなかったから、ヘルメットでどの程度ダメージが軽減されるかは、検証したことなかったわね」
立ち上がろうとした少女の手を、社長と呼ばれた少女は、容赦なく踏みつけ、ヘルメット団の少女はその痛みをこらえきれずに、地面をのたうちまわる。
「お前たち!アビドスに雇われたのか!仲間を攫われた報復に……!くそ!!よくも、我々のアジトを!だが、我々のバックにはあの――――――――」
警告のつもりだろう。別の少女が体を起こし必死に吠えた。
だが、彼女たちは動揺もしない。
ただ、社長と呼ばれた少女はため息をつき、吠える少女に体を向ける。
「全く、こんな不潔で変なにおいのする場所がアジトだなんて。あなた達も冴えないのね。それと、もうあなたたちのバックは、貴方達を切ったのよ。だから、私たちが送り込まれた」
「な、なんだと、そんなの……」
「そんなに気になるなら確認してみたら?もっとも、会社に乗り込んだところであなた達が改めて排除されるだけだけれど……」
「っ、お前たちは一体……!」
その言葉に社長は笑う。
ただ、楽しそうに、不愉快そうに、眼の前の少女の存在を笑った。
「……ほんとに、リサーチ力のないチンピラね。いいわ、教えてあげる。……私たちは、便利屋68。金さえもらえれば、何でもする……なんでも屋よ。ハルカ」
「はい、アル様」
笑う少女の声が響く中。
ハルカと呼ばれた少女の一撃が、ヘルメット団の少女を沈黙へと追いやるのであった。