シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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十二話

セリカ救出から少し経ったある日。

アヤネからの呼び出しがあり、小吉はアビドスへと足を運んでいた。

 

「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます!本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」

 

「は~い☆」

 

「もちろん」

 

「なによ、いつもは不真面目みたいじゃない」

 

「よろしくね、先生」

 

「あぁ、よろしく……。それで、具体的に定例会議ってのはどんなことをするんだ?」

 

こういった会議そのものは小吉にとっては慣れたものだ。

何せ、彼の元の職場は国連宇宙局。

小吉の職は、宇宙船の艦長だ。

 

だからこそ、彼の仕事では、そういった会議がかなりのウェイトを占めていた。

 

「はい、アビドスで起きている問題などについて話すのですが……。とはいえ、今、目前の問題は一つです」

 

「借金だな?」

 

「はい!そういうことです。ということで、さっそく議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重っ要な問題……。学校の負債をどう返済するかについて、具体的な方法を議論します。ご意見のあるかたは、挙手をお願いします」

 

小吉は、改めて、現在のアビドスの状況を頭の中で整理する。

アビドスの借金はかつての災害に抗うべく投資の結果生まれたもの。

 

数億単位の借金は、過去から現在に至るまでアビドスを苦しめる悩みの種となっている。

 

現状、アビドスには多くの問題がある。だが、それを解決するにはまず、この借金をどうにかしなければ、学園の発展どころか、そもそも、学校そのものの存続が怪しくなるだろう。

 

「気になってはいたんだが、今はどうやって借金を返しているんだ?」

 

そして、そうなってくると問題になってくるのは借金の返済方法。

少なくとも、これに関しては、昨日今日始まったわけではない、ということは、現在もなお継続して行っている借金の返済方法がアビドスにはあるはずだ。

 

施設の切り売りができたとしても、この規模の借金ができている以上、そういった段階はとっくの昔に過ぎているだろう。

 

「えーと、それは、会計の黒見さん、お願いします」

 

「はい。……って、なんかこの感じやめない?ぎこちないんだけど」

 

そう返すも、セリカはこういう雰囲気は苦手らしい。

窮屈そうな感じで、苦言を呈す。

 

「でも、せっかくの会議だし……」

 

「いいじゃーん、おカタ~い感じで。それに今日は珍しく先生が参加するんだし」

 

「珍しく、というか初めて」

 

「ですよね!なんだか委員会っぽくていいと思いまーす☆」

 

だが、他の四人はむしろこの状況を楽しんでいるらしい。

 

状況が変わることがないと判断したセリカは、先輩たちがそういうならと、言葉を区切り、話を続ける。

 

「いい?先生。今、私たちアビドス高等学校は毎月の返済額は、利息だけで788万円。その返済に対して、私たちは、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアをしたりである程度は埋めてきたわ」

 

「要するに、なんでも屋か?」

 

「まー、そうなるね。指名手配犯の方は、結構多いんだよね。ほら、前のヘルメット団みたいな子、キヴォトスだとそこそこいるから」

 

その発言に、ホシノから補足が入る。

確かに、彼女たちのような存在がそこそこいるのならば、そういった指名手配があるのはおかしくはないのかもしれない。

 

……しかし。

 

「……普通に考えたらそんなに指名手配は出ないんじゃないか?そうポンポン資金出したりできないだろ?」

 

「ん、それは軽率な判断。いいー、先生?わかってると思うけれど、キヴォトスは極度の銃社会。外の世界でそういわれてる地域よりも人が死んだりしないから皆気軽に銃の引き金を引く。これは分かるよね」

 

そう言われて、小吉の頭に浮かぶのは部下の二人の顔。

確かに、死ぬのも銃撃も当たり前みたいにいってはいたが、それでも、毎日往来のあちこちで銃撃戦が行われるのが普通だとは、あの二人もいわないだろう。

 

「そうだな。俺もそれなりにこっちに来て経ったから、その差は知ってるよ。戦車が学生でも買えるのは驚いたが」

 

「それは、キヴォトスでも流石にレアケースなんですけれど」

 

そんな納得をしている小吉に、苦笑いを浮かべるアヤネ。

その横から、更にシロコがホシノの話の補足をする。

 

「でも、建物とかはそうじゃない。外とは違って弾丸が当たることは前提になってるけれど、それでも、多分、度を越えて丈夫ってわけじゃない」

 

「あー……なるほど。つまり、だ。……そういう子たちが被害だす前にとっ捕まえてもらったほうが、最終的な被害総額は安くなる、ってことか」

 

これには、確かに納得だ。

外の世界ではどれだけ凄い犯罪者がいたとしても、建物に大きな被害が出るということはレアケースであったがキヴォトスではそれはむしろ前提。

 

なにせ、街中での銃撃戦が、生徒間で当たり前のように行われているのだから。

そうなってしまえば、保険会社も上がったりだろう。

 

「まー、そういうことだねー。警察学校のヴァルキューレも人手が足りないみたいだし、それを補うためにもそこそこの金額の指名手配は気軽に出されてるよ。情報だけだとお金がもらえないし、結構大変だけど」

 

こういう感じで、と、差し出された指名手配書には、数人の顔と十万単位での報奨金が出ている。

確かにこれが高頻度であるのならば、なるほど、それなりの収入にはなるだろう。

 

だが。

 

「これだけじゃ、確かにきついな」

 

そう、確かに収入源にはなる。

さきほどセリカが言ったとおりであれば、アビドスには収入源となる仕事には碌な生産業がない。

 

言ってしまえばアビドス高等学校の収入はすべてが他者に依存する第三次産業なのだ。

 

対して、支払わなければならない金額は利子だけで七百万を超えている。

つまり、単純な計算で、指名手配犯を70人以上捕まえなければならない。

 

それも、全て借金の返済に充てると考えて、だ。

彼女たち自身が使うお金も含めれば、その倍は必要になるだろう。

 

「そう!だから、何かこう、でっかく一発狙わないといけないの!」

 

「……なにか案があるのか?」

 

明らかに何か案を持っていそうなセリカに、そう尋ねる。

確かに、彼女の言う通り、今のアビドスに必要なのは一発逆転の手立てではあるのだ。

それがあるのならば、こんなに心強いものはない。

そして、そんな小吉のその言葉に待ってましたとばかりに彼女はカバンをあさりある紙を取り出した。

 

「これこれ!街で配ってたチラシよ!」

 

「こ、これは……」

 

「どれどれ……、ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金……」

 

詐欺だ。明らかに。騙されている。

 

「却下」

 

そして、これには普段、後輩たちに甘いホシノも、楽し気に話を続けようとしたセリカをバッサリと切る。

 

「な、なんで!?周りの人に売るだけで儲かるっていう話だったのに」

 

「セリカちゃん……、それ、マルチ商法だから……」

 

「儲かるわけない」

 

ホシノに続けて、アヤネとシロコによる追撃をもらい、セリカはあっさりとグロッキーになってしまう。

相当自信があったのか……。あるいは、もう買ってしまっていたのか、その場で泣き崩れてノノミに慰められ始めてしまう。

 

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうよー?」

 

「えっと、それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……。他にご意見のあるかたは……」

 

アヤネが辺りを見回せば、すぐに手を上げるホシノの姿。

 

「えっと、……はい、三年の小鳥遊委員長。……ちょっと嫌な予感はしますが」

 

「とはいえ、さっきはセリカをあんなにばっさり切り捨てたんだ。期待しておこう」

 

流石にいきなり、そんな予感だけで決めるのも。というように、小吉もフォローに入る。

あれだけの否定をしたのだから、流石に詐欺ではないだろう。と。

 

二人が向きなおったのを見るとホシノは自身の提案を始める。

 

「先生もアヤネちゃんもひどいなー。ごほんっ。わが校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよね。生徒の数=学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはず」

 

「そ、そうなんですか?!」

 

「ほう……」

 

その切り出しに、小吉もアヤネも少し姿勢を正す。

少なくとも、セリカのように騙された、などというものが出ることはなさそうだ。

 

事実、先ほどの通りアビドスの欠点は産業の弱さ。

だが、それも人数が五人、というのが一番の原因だ。

 

どれだけ彼女たちが働いても、五人では限界がある。

ホシノの提案したその意見は間違いなく真っ当なものであった。

 

「そういうことー!だから生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」

 

「なるほど、確かに良い意見だ……、言ってることも筋が通ってる。で、このアビドスでどうやって生徒を確保するんだ?」

 

そう、問題はそこだ。

なにせ、アビドスにはアピールポイントになりうるものが現状、何もない。

 

おまけに借金が大量にあり、設備は砂にまみれて充実しているとはいえず、更に砂嵐の被害をいつ受けるかわからない。

 

だが、少なくとも、転校なり、新入生を誘って生徒を確保するには、他の学校によりも優れている点をターゲットたちに示さなければならない。

 

「簡単だよー」

 

「そうなのか?!」

 

これには、話を聞いていた全員が驚愕する。

なにせ、現状がこれなのだ。それほど優れた手段があるなどと、誰も思ってもみなかった。

あるいは、ヘルメット団の影響がそれほどまでに大きかったのだろうか。

 

「うん、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

最悪だった。

間違いなくヘルメット団襲撃状態でできるようなものではなかったが、これならヘルメット団がいたほうがマシまである。

 

「却下だ。どっちにしても、他校ともめごとになったらアビドスが不利だろう」

 

少なくとも、資金力も人員もアビドスを下回る学園などほとんどない。

彼女の提案が、実行可能か、不可能か、そして、正しい、正しくないを考慮しなくとも、ヘルメット団の件が片付いたばかりだというのに余計な火種を増やすのは間違いなく今のアビドスには致命的な行動だろう。

 

「うへ。やっぱ、そうだよねー」

 

「やっぱそうだよねー、じゃありませんよ、ホシノ先輩……もっとまじめに会議に臨んでいただかないと……」

 

「……じゃあ、私の銀行襲撃も……」

 

次に手を上げようとしていた、シロコは、その場で配ろうとしていた計画書を床に落とす。

 

「ダメです!」

 

「ん、……準備もしっかりしておいたのに……」

 

そういう彼女の手には、厚手の紙袋が一つ。

 

「シロコ、その中身は?」

 

「覆面。銀行強盗用の」

 

本格的である。

しかも、ご丁寧に耳をだしたりできる用の穴まであけている。

 

「わぁ、それって、シロコちゃんの手作り?」

 

こくこくと、その覆面をかぶりながら心なしか嬉しそうに頷くシロコ。

 

「わぁ、見てください!レスラーみたいですよ」

 

「先生の分は、……ごめん、用意してなかった」

 

「いや、それはいいんだが……。とにかく、一旦落ち着け」

 

「そっ、そうですっ!ホシノ先輩もシロコ先輩も犯罪はいけません!」

 

小吉に止められ、アヤネに怒られたシロコは、しぶしぶと、被っていた覆面を外す。

だが、その頬を不満げに膨らませて、明らかに文句がある。といった表情を、二人に見せる。

 

「そんなふくれっ面をしてもダメです、シロコ先輩っ!」

 

そう言い切って、アヤネは肩で息をし始める。

流石に突っ込み疲れたのだろう。

 

思えば、詐欺、拉致、強盗。

ここまで碌な意見が出ていないのだ。

無理もない。

 

「はぁ……みなさん、会議なんですから、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

 

それでも、書記である自身が、投げ出すわけにはいかないとアヤネは呼吸を整え、会議の進行を続けようとする。

一人でも歩みを止めないその姿は、正に勇者。

 

「あの!はいー!次は私が!」

 

その勇者に挑むのは、先ほどまでセリカを慰めていたノノミであった。

 

意見をまとめるアヤネを除けば、これで最後。

 

アヤネは小さく息を吐くと、犯罪と詐欺は抜きで、と、釘を差しつつ先に進める。

 

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!アイドルです!スクールアイドル!」

 

「あ、アイドル……!?」

 

「そうです!アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たち全員でアイドルデビューすれば……」

 

「却下」

 

「あら、ホシノ先輩これもだめなんですか?」

 

「なんで?ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」

 

「こんな貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて人としてダメっしょー。ないない」

 

けらけらと笑いながら、そうホシノは言う。

確かに、そういう彼女は、幼い体躯をしていた。

 

「あ、先生、今、こっちみたー?もしかしてイケナイ人なのかなー?」

 

「馬鹿言うなよ。一回りどころか二回りは歳の違う相手にそんな気持ちはもたねぇつーの」

 

「あのう、……議論がなかなか進まないんですけれど、そろそろ結論を……」

 

盛り上がっているところに、水を差すのは、気が引けるのか。

少しばかり及び腰にアヤネは声をかける。

 

「と、悪い悪い……。でも、結論か……」

 

「先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」

 

「全部却下だ。アイドル以外碌な意見がないし、そのアイドルだって、強いて言うならって範囲だ。計画から資金まで何もかもが足りねぇ」

 

「えー。じゃあ、やっぱり拉致するしかー」

 

「ん、銀行強盗」

 

結局、碌な意見が出なかった結果、結論はまとまらず、わーきゃーと騒ぎ始めるシロコ達。

シロコもホシノもノノミも、自分の出した意見をしたいと、小吉に詰め寄って、自分の意見を通そうとする。

 

「……い」

 

そんな中、詐欺だと教えられ一人落ち込んだままであったセリカは、わなわなと肩を震わせるアヤネを見てしまう。

 

ヤバい、そう思った彼女は、噴出の前に少しでもガス抜きをしようと、アヤネに声をかける。

思い出すのは、少し前の先生の姿。大丈夫、自分ならきっとやれる、と。

 

「……い?ね、ねぇ、アヤネちゃん、す、すこしおちつ……」

 

「いいわけないじゃないですかー!?」

 

だが、無理があった。そもそも、声をかけるのが遅すぎたのだ。

部室中央に置かれた机が、空を舞う。

こうして、遂に我慢の限界を迎えたアヤネの手によって、議会は完全に崩壊するのであった。

 

アビドスの方針は、今日もまとまることはない。

 

……ヘルメット団の脅威を超える、新たな敵が迫っていることも知らずに。

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