シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「どうするのよー!?」
「あはは♪今更気が付いたの?どうしよっかアルちゃん」
柴関をあとにした便利屋68社長、陸八魔アルは頭を抱えていた。
アビドスの生徒たちと話をしている間、彼女は思考のそのほとんどを店内にいた男。
すなわち、小町小吉へと送っていた。
彼女の出自は特別である。
それが原因で、今現在もある事態に巻き込まれている。
だからこそ、アルにとって彼の存在はどうしても意識を割かなければならない相手であった。
それこそ、あの団欒とした雰囲気の中で、場合によっては銃を取り出し応戦しなければいけないというほどに。
故に、彼女は話している彼女たちに対する情報処理を脳内で止めていた。
顔、名前、話し方、身長。
それで十分だった。
そして、店を出た後少しして、頭の中でのリソースの割り振りが通常通りにもどり、……。
今に至る。
すなわち、彼女たちが事前に調べたアビドスの生徒たちだと理解する。
理解してしまった。
「……、あの人に思考取られ過ぎだよ。社長」
「だって、カヨコがあんなに脅すから……!」
「……す、すみません。私も気が付きませんでした……。ターゲットなら、わ、私が始末して……」
「ダメ。……恩義もあるけれど、少なくとも、あの店の戦力は今の私たちだけで相手取るのは大変よ」
そう急くハルカを、アルは即座に止める。
「アル様の力をもってしても、ですか?」
ハルカはそう、疑問を浮かべる。
確かに、便利屋にはお金がない。依頼も失敗になることは多々ある。
だが、しかし。
戦闘任務において、ゲヘナの風紀委員長のような存在が現れでもしない限り、彼女たちが敗北するという形で失敗したことはこれまで一度もなかった。
「小町小吉先生、暁のホルス……。あと、シロコって呼ばれていた子……私が抑え込めるのは有利な状況を作ったうえで一人が限界。皆で一人を抑えれたとしても、残りは浮くわ」
「……、意外だね、普段ならもう少し楽観視してるけれど」
「相手が違うわ。カヨコの話が本当なら、先生が場に出てきただけで、前線が崩れる可能性まである。刺激はしない。……作戦の初期案も破棄ね」
「初期案って……、校舎の破壊?」
アル、カヨコの二人は、既にアビドスに関してかなりの情報を仕入れていた。
当然、そこには借金があることも。それによって少し前までもっと過酷な状態だったこと。
先生が来て、それが改善されたこと。
「えー?でも、……いいの?アルちゃん。冷酷無比、依頼は絶対に遂行する。でしょ?」
「……アビドスだけならともかく、先生についての情報が欠けていたわ。彼が居ついて、既に結構な日数が立っているのはうかがえた。……残念だけど、依頼人は私たちへの義理を果たすつもりはなかった……。偶然いた、ならまだしも、私たちの調査の段階で割れる程度の情報よ」
裏切ったのは相手から。
ならば、この依頼は成立しない。
これでは、アビドスへの襲撃ではなく、連邦生徒会への襲撃にもなるのだ。
「で、でも、……襲撃はするんですよね」
ハルカの言葉に、アルは頷く。
「するわ。相手の事前調査を鵜呑みした。こちらの落ち度……、まぁ実際、調べていなかった可能性もあるし、トラブルは茶飯事だもの」
「……違うでしょ?アルちゃん」
そんな、さも、相手の裏切りに対して、義理を欠いた行動に対しての作戦の破棄のように思えるその発言。
確かに、それもあるのだろう。と、ムツキは思う。だが、幼馴染の彼女は本当にそれだけでやめる人間だろうか?
「それは、……あの子たちのためでしょ?」
ちらりと、ムツキは視線を、まだ見える範囲にある紫関へと向ける。
勿論、建前、先生をもし傷つけてしまったら、というのがあるのは間違いないだろう。
だが、それ以上に、彼女たちの会話の中、彼女たちの努力を聞いてしまった。
情け無用、お金さえもらえれば何でもやる冷酷なアウトローが聞いてあきれる。
眼の前の彼女は、依頼達成のために、いや、こういうべきだろう。
自分たちが負けた時、彼女たちが勝った時に被る被害を可能な限り少なくしようとしている。
「……違うわよ!ほら、行きましょう、バイトの子たちが待ってるんだから」
その言葉を聞いたアルは、それを、受け止め、苦い表情を浮かべながら話を打ち切って、道を進む。
……彼女たちも向かうであろう、アビドスへと向かって。
「あ、遅かったじゃん」
「えぇ、……ちょっと長引いて。……最終確認よ。バイトは残業なし、私の指揮下に入るなら時給に+100円だけど」
アルたち便利屋一行は、バイトとして雇った傭兵たちと合流する。
打ち合わせは、先の段階で行った。
「了解。残念だけど、後ろはお断り。あんたの指揮能力は知らないけれど、大抵そういうのって、私たちのことうまく使えないからさぁ。戦ってあげるから、それ以上は聞かないよ」
勿論、結果はNo。
彼女たちにも戦い方があり、それを、その場その場で変えられるのは、信頼関係の築けていない状態では互いに負担になる。
それに関して、彼女たちは何も言うことはない。
彼女たちの全滅が早まる以外に違いはないのだから。
「校舎より南十五km付近で大規模な兵力を確認!」
一方で、そんな彼女たちの動きをアビドスの側でも察知していた。
「まさか、ヘルメット団……?もう復活を……」
「ち、違います!あれは……恐らく傭兵です!」
「……そんなのも、……いや、需要考えりゃ当然か」
「そうだね、とはいえ結構高いんだけど」
銃を持っているとはいえ、その全員が全員優れた戦闘力を持っているとは限らない。
そのうえで、ヘルメット団などが存在しているのであれば、それに対応する形で、そういう振る舞いをする者たちが出るのは、当然のことであった。
「これ以上接近されるのは危険です!先生、出動命令を」
「俺がか?そこはオペレーターの……いや、なんでもねぇ。行けるか?皆」
その声に、全員が頷いて、部室においてある装備をもって、外へと飛び出る。
ヘルメット団との戦いのために備えられたバリゲートのおかげで、準備は手早くすんだ。
だが……。
「……前方に傭兵を率いてる集団を確認……あれは……」
「あなた達、……ラーメン屋さんの?」
「誰かと思えばアンタたちだったのね!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
「……流石に、それに関しては返す言葉もないわね……」
「あははは、やっぱり怒られちゃった。その件はありがと。おいしかったよ。でも、それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさー?」
「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」
正面に構えたハルカ。そして、笑うムツキに、アビドスに目線を向けるカヨコ。
三人の目には、迷いがなかった。
……その一方で、その後方に控える社長のアルだけが、申し訳なさそうに、視線を少しだけそらしている。
「……なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ」
「もう!学生なら、ほかにもっと健全なアルバイトがあるでしょう?それなのに便利屋だなんて!」
「アルバイトじゃないわ。これは、れっきとしたビジネスなの。……というか!あなた達だって似たようなものでしょ?地域の仕事を受けて、お金を稼ぐ……。そう大した違いはないわ」
「私たちは委員会活動です!」
「……ともかく。……そういった手合いなら、今度こそ確定。……アビドスへの度重なる襲撃には、裏に誰かいる。……力尽くで、口を割らせて見せる」
「……できるものなら、やってごらんなさい」
その言葉を皮切りに戦闘が始まる。
最初に切り込んだ傭兵たち。
それとは別に思惑をもって動いたのは、二名。
「っ!」
小鳥遊ホシノと陸八魔アルであった。
ホシノの考えは単純、いつも通り攻め上げ、前線を押し込み優位な状態に持ち込むことであった。
その一歩目の踏み込みが大地へと穿たれる瞬間。
アルの弾丸が、彼女の持つシールドに直撃した。
「ホシノ先輩!」
その一撃を堪えるために、彼女の加速は封殺された。
狙撃銃の一撃。当たったのは盾とは言え、直撃の衝撃は強く、しっかりと地面を踏みしめていなければ体ごと吹っ飛んでいただろう。
「大丈夫、ちゃんと防いだ。にしても片手うちなんてまるで、曲芸師だね」
だが、それでもしっかりと踏み込んで受け止めたのならば、その衝撃はホシノにとって何らダメージにもならない。次の一歩には何ら支障は――――――――
「忠告よ。まだ、構え解かないほうがいいわよ」
「うへ……!?」
ないはずであった。
だが、その忠告の直後、時間をおいて、盾に突き刺さった弾丸が爆発した。
彼女の言う通り、盾を構えたままにしていなければ、今の爆発はホシノを巻き込んでいただろう。
「……っ、やるね。便利屋ちゃん。でも、そう何回も……」
「そうね。直接はできないわ。けど……」
直後、アルの銃から三度の銃声が響く。
そして、それらは、寸分たがわず一直線に、アビドスの、彼女の仲間へと迫った。
「っ!!」
「え?!ホシノ先輩!?」
それを見た瞬間に、ホシノは駆け出し、セリカへと向けられた銃弾を受け止めていた。
「さて、……っと!」
「あなたは自由にさせられない」
しかし、一方的に攻撃を受けるほど、アビドスはやわな学園ではない。
戦況を動すべく、傭兵の海をすり抜けシロコが一人戦場を駆け、アルのところまで攻め上がっていた。
「アル様!」
「問題ないわ!そのまま!みんなで三人の相手を。私が支援する。……傭兵たちは適当に相手してやりなさい!」
その指示に従い、便利屋の少女たちは、それぞれに相対した。
「……くそ!不味いな」
「そう、ですか?」
戦況を見て、悪態をつく小吉に、アヤネは疑問を持つ。
現状、確かに多少数の差はあるものの、相手のトップはシロコが、大戦力の一人をホシノが。
アヤネやノノミの位置に、傭兵が送り込まれているのはまずいが、戦力としてアビドスの中でも上位の二人がタイマンを張れている状態。
アヤネからはまずいどころか、優勢なように思えた。
「……あぁ、アヤネの言う通りだ。……仮にあの二人がすぐに合流できるなら、問題にならないだろう。合流ができるなら」
「……ホシノ先輩は強いですし、シロコ先輩も、相当だと思います……。少なくとも、今ホシノ先輩が対峙してるカヨコって人とホシノ先輩には、かなりの戦力の差があると思います」
「そうだ。実力だけなら、間違いなくそうだろう。そうじゃないかは、すぐわかる」
やりにくい。
ホシノが、受けた印象はそれだった。
小吉とアヤネの見立て通り。
眼の前で立ちはだかる相手を、ホシノはそれほど問題視していなかった。
実際、後ろでシロコと戦っているアルのほうが、はるかに強い。
それは理解している。
けど
「……上手いね」
「どうも」
戦闘技巧。そういうべきだろう。
キヴォトスの少女たちは格闘技を修めている子たちは少ない。
それは単純に護身としても有用性に欠けるという点が大きい。
なにせ、キヴォトスにおいてまず行われるのは銃撃戦。
そもそも、互いの手足が届く距離にまで詰めることはまずないのだ。
故に格闘技は廃れていった。
使われない技術とは、そうして消えていくものだ。
だからこそ、眼の前の相手の距離は異常だった。
使っている武器がハンドガンだとしても、あまりに近い。
勿論、ホシノとしては一刻も早く振り切りたい。
それこそ、盾でぶつかりに行って、距離を放して、ショットガンの連打で沈めたい。
だが……
「っ!」
時折挟まれる支援狙撃によって阻まれる。
視界の先、ちらりと見えるのは、同じく近接戦を仕掛けている。
いや、距離を詰められ、仕掛けさせられているシロコの姿。
ホシノは片手うちを曲芸だといって、笑った。
事実そうだ。そんなもの、何のアドバンテージにもなりはしない。
普通の存在は、正確な狙撃をしながら、片手で相手を対処するなどできないのだから。
しかも、支援は目の前の少女以外にも行われている。
この戦況が続けば、不味い状態になる。
彼女は、硬直した戦況に小さく舌打ちをした。