シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
(あー!!!強い!想定以上じゃない!)
一方で、攻めあぐねているのは、便利屋側も同じであった。
アルの正確な銃撃は、カヨコの近接格闘術と組み合わさることで確実に最強をその場にとどめることはできている。
ハルカとムツキもそれぞれノノミとセリカに対して圧をかけている。
だが、それでも、押しつぶすまではいけていない。
理由は二つ。
「来た!」
戦場を飛び交う青と赤の二種の戦闘用ドローン。
回復と爆撃を繰り出すドローンが、戦況を維持している。
便利屋側は問題がない。だが、傭兵たちは、強者であれど、便利屋の面々ほどの腕はない。
戦い始めて短くない時間が経過しているとはいえ、既に五人倒れ伏しているのが見える。
「……貴方達の指揮官、指示上手ね!」
「ん、自慢の先生」
そしてもう一つが、シロコの存在であった。
当初の作戦では、アルがホシノをけん制し続け、残りの面々を、三人と傭兵で削るのが当初のアルの作戦であった。
そもそも、傭兵たちが指揮下に完全に入りきらなかったこともあり、便利屋側は常に小町小吉を警戒し続けなければならない。
故に当初の予定ではアルが常に他の動きに入れるようにする前提であったのだ。
だが、シロコが全員を振り切ったことで作戦は崩壊。
アルは、敵の最大戦力を二人同時に牽制しなければならなくなった。
そして、その負担は、同時に他の個所にもいく。
「……社長!」
「分かってるわ!」
特に、元々、ホシノを相手する予定ではなかったカヨコへの負担が大きい。
既に支援の申請が、五回を超えていた。
そして、本来であれば、ハルカとムツキはタッグで三人をまとめて抑える予定だったのが、一人が一人を受け持つ形になっている。
一人当たりの負担は減っているが、それでも、防御面の薄いムツキは、当初の予定以上のダメージを受けており、ハルカは、ノノミに対して致命的な攻撃を与えるよりも早くミニガンの掃射でその場に押しとどめられている。
「よそ見ばっかりしてて大丈夫?」
「っ!」
頭を狙ったシロコのハイキック。それを片腕で受け止め膝蹴りを放ちながら、ホシノの盾へと一射打ち放つ。
戦場は、便利屋68の想像以上に硬直させられていた。
「……おかしい」
「先生?」
その戦場で、違和感を覚えていたのは、小吉であった。
陸八魔アルは、ニュートンの一族。
その情報を、小吉はシャーレに就任後すぐにキャッチすることができた。
簡単な話だった。
その一族だけは表の舞台でニュートンの力をもって……。
すなわち、人体最高の能力を持って動いているのが確認できた。
故に、確証こそないが、恐らく陸八魔はニュートンの一族なのだろう。
だからこそ、小吉は彼女を警戒していた。
事実、彼女は、外のニュートンと同じ生体を持っている。
例えば、シロコを相手にしながら、ホシノへの銃撃は正確な物である。
僅かに目を閉じる瞬間があるのは、恐らく、ニュートンが習得した、体の一部分だけ休める技能だろう。
銃撃以外にも無茶な姿勢からの攻撃、防御を繰り返しているのも、ニュートン一族の幼少期に収めた肉体バランスなのだろう。
一つ、一つを上げていけば、そういった能力を持つ者もいるだろうが……。
小吉の目には、ニュートンが持っていた能力をかなりの割合で持っているように見えた。
だが、それ故に、違和感があった。
それは、彼女が戦場だけを狙っていること。
現在小吉たちのいる部屋は、彼女たちの位置から隠れられる位置ではない。
勿論、わざわざ狙うのは大変ではあるが、片手でホシノを対処しながら戦闘を行えている彼女が、この部屋に対して何もできないとは考えられない。
そして、もう一つ。
「動きが悪いな」
「え?今もシロコ先輩相手に優位に戦ってるように見えますけれど……」
「いや……、……そうだな、動きが悪い、わけじゃない」
だが、やはり、彼の想定からしてみれば、明らかに動きが悪い。
一般的に見れば、片手でホシノへの攻撃を仕掛けながら、シロコからの近接の対処を残りの手足による近接戦闘でさばいている。それは、ホシノの言った通り曲芸の域に、いや、それすらも超えているだろう。
だが、彼の知っている『彼ら』は、数十年の練度の力を持ち、別の種族の力さえも併せ持つ相手を三人相手取り互角以上に戦って見せていた。
故に、彼の目に映るアルの動きは、精彩に欠けるようにみえているのであった。
「……大丈夫ですか?先生」
「あぁ……。なるべく、気が付かれない程度に、全員の距離を協力可能な位置に持って行くんだ、特に、ノノミの広範囲の火力はアヤネに集まっている傭兵たちに効果的だ」
「分かりました。シロコ先輩のドローンで、そちらへの道をこじ開けて誘導してみます」
バイアス。
彼女があの『彼ら』と同じであるという事実は、小吉の警戒レベルを上げるのに十分なものであった。
「……!いい加減!倒れて!」
「そう簡単にやられるわけないでしょ!」
そして、舞台は戦場へと戻る。
シロコとアルの戦闘は、互角の様相を見せていた。
その理由の一つは、やはりアルが銃を使えないことにある。
カヨコとホシノの戦力差は、圧倒的である。
それこそ、一つのミスでカヨコが倒されてしまうことを、アルは理解していた。
そんな実力者であるホシノを止めるためには、一発一発を丁寧に、想定通りの箇所に撃ち込み続けなければならない。
それ故に、シロコへと一瞬銃を向ける暇すらない。
あるいは、リロードする一瞬ですら、今のアルにはもったいないと感じていた。
彼女が、小吉の警戒通りの存在であれば、こんなことは起きないだろう。
外の世界でニュートンが求めていたものは、人類の危機に王として立ち上がれる性能を備えた存在。
人間という生物種が得られるあらゆる特徴を最大値で獲得するように、遺伝子的に計算した一切の科学的な計算を用いられていないある種の人造人間。
その完成種であるのならば、陸八魔アルは、キヴォトスにおいて一対一での、ましてや格闘での戦闘において半端な性能であるはずがない。
……そう、原因がなければ。
戦場にて、気の抜けるような腹の音が鳴る。
「っ……!もう、だから、いやなのよ!」
そう、彼女は、栄養不足であった。
数年前、外の世界でニュートンが絶滅した際、彼女に訪れた悲劇。
外の世界でも行われた裏の世界でのニュートン一族に関与していたものへの制裁。
主に金銭面での攻撃が行われた。
そして、それはキヴォトスにも及んだ。
そう、数年前。
彼女は、突如、通常運用するはずの資産が、外の事件の影響で凍結されたのだ。
彼女の手元に残された個人資産は、学園生活を送るのには十分であったが、逆に言えば、その程度しかない。
ニュートンの落ちこぼれと言われた少女は、その瞬間、成長のための栄養を蓄える機会すら奪われたのであった。
「もう、ガス欠?」
「うるさい!」
そうがなり立てるが、実際にガス欠なのは事実。
肉体的な成長どころか、今、体を動くのにすら栄養が足りないアルは、かなり追い詰められている。
撤退の判断。
それを下そうか、迷いが生じた彼女の思考が、一瞬で確定したのはシロコとの後方で、ノノミとセリカが合流するのが見えた、その瞬間であった。
「カヨコたちも傭兵も!撤収!!!!!」
そう叫ぶと同時にシロコの体を蹴り飛ばし、アルが投げたのは五つの手榴弾。
自分とシロコの間に一つ、そして、ホシノとカヨコの間に二つ。そして、今まさにミニガンを構えたノノミとその後ろに退避したセリカとムツキとハルカの間に二つ。
アビドスと傭兵たちが呆然とする中、敵の前にもかかわらずムツキたちは素早く耳と目の保護をする。
それを見た瞬間アビドスの生徒たちも対応しようとするが、一秒遅い。
次の瞬間、彼女たちの視界と耳が強烈な閃光と音量に焼かれ、広がったスモークは、全員の姿を隠す。
「……ラーメンの借りは!そのうち返すわ!!」
「あはは。襲撃しておいていつ返すの?アルちゃんったら♪」
「っ、待って!!」
逃げ出そうとする敵を前に、ただ一人、閃光の影響を受けていないシロコが、眼の前にいたはずのアルを追いかけようとするが。
「悪いけど、社長に追撃はさせないよ」
誰よりも早く離脱し、アルの隣まで来ていたカヨコのはなった強烈な銃声が耳を焼く。
体に傷はない。だが、脳を揺さぶるほどの銃声が、彼女を地面へと転がした。
そして、前線で戦っていた四人の状態が回復したころには、辺りには誰もいない。
煙の中動かそうとしたドローン二基はどちらも、損傷少なく撃墜されている。
終わってみれば、損害は薄い。
ドローン二基の修繕は、専門店に持って行く必要のないメンテで終わる範囲。
使った弾薬数も、数えるほど。
アヤネが傭兵相手に撃ったものがほとんどで、そもそも、ホシノたちは銃を撃つ機会すら与えられなかった。
彼女たちの勝利だ。それは間違いない。
自分たちが受けた被害。相手が出した損害。
どれをとっても彼女たちにとっては、勝利としか言えないものだ。
それは、間違いない。
だが。
「……あの子たちが損切してなかったら、どうなってただろうね」
そう、損切。
ホシノの言う通り、彼女たちの撤退の余裕ぶりからみて、まだまだ戦えたのだろう。
少なくとも傭兵含め、戦力の大部分は余裕がある状態だった。
しかし、彼女たちの選んだ選択は撤退。
その理由が、アルの空腹によるものか。
それとも、シロコ以外の戦力が合流したことで不利になったと判断したのか。
「まぁ、ともあれこれで判明したね……」
とはいえ、だ。
彼女たちにとって、どうして便利屋がこんな状態で退いたのかは問題ではない。
「ヘルメット団なら、まぁ、偶然を装えたかもしれないけれど」
「ん、便利屋。つまり、依頼人がいる」
「裏の人たちも、おしりに火がついたってところでしょうか」
「はい!これから少しずつ調べて……」
「ううん。その前に、もう一人。話を聞かないと」
次の瞬間。ホシノは、校門にいたにも関わらず、小吉の目の前の机に飛び乗っていた。
「ねぇ、そうでしょ?……先生?」
その瞳は、冷たく彼を見下ろしていた。