シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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十七話

「あ、先生。おはようございます」

 

「おう、アヤネか。今日は普段より早いんじゃないか?」

 

便利屋襲撃から一夜明け、もう、日常となったアビドスへと向かう最中。小吉はばったりとアヤネと遭遇する。

アルのこともあって、今日は早めに出たはずなのだが、と思い、小吉はアヤネにそう尋ねた。

 

「はい!……今日は利息を返済する日なので、いろいろと準備が……」

 

「そうか……。なにか、手伝えることはあるか?」

 

「助かります。返済の準備もありますし今後の計画の見直しもありますから―――――――」

 

「あ、先生じゃん!おっはよー!」

 

そんなことを二人で話していると、後ろから誰かが小吉へと飛びついてきた。

 

「な、なっ!?」

 

「じゃじゃーん!どもどもー!こんなところで会うなんて、偶然だね?」

 

「……ムツキ、だったか?」

 

「そうそう!正解―!ラーメン屋さんであったよねー。うわ、すっごーい!」

 

便利屋68。その一人であるムツキが、抱き着き、すりついていた。

 

「な、何してるんですか!離れてください!」

 

その唐突さに、驚いていたアヤネは、頭を軽く振るうとすぐにムツキを引きはがす。

 

「もう、引っ張らないでよー。……あ、誰かと思いきや、アビドスのメガネっ娘ちゃんじゃーん?おっはよー。昨日ラーメン屋であったよね?」

 

「そのあとの学校の襲撃でもお会いしました!どういうつもりですか!?いきなりなれなれしく振舞って……!それに、メガネっ娘じゃなくて、アヤネです!」

 

「ん?だって、私たち、別にメガネっ娘ちゃんたちが嫌いなわけじゃないし、先生とだって憎い訳じゃないんだよ?」

 

そういって、威嚇するアヤネに対して、あっけからんとムツキは笑う。

 

「……どういうことだ?」

 

「んー、先生ならもうわかってるとおもうって、アルちゃんもいってたけど。……単純に、私たちはお仕事でアビドスを襲ったの。でも、別に、それ以外のところで喧嘩したい、ってわけじゃあないんだよねー」

 

「いっ、今更公私を区別しようということですか!?」

 

「別にいいじゃん。……それに、先生は私たちに興味がある……っていうか、アルちゃんにか。そうだよね?」

 

「……そこまで筒抜け、か」

 

「まぁ、アルちゃんだけならどうだったかわからないけれど……ブレーンは二人いるからね。とはいえ、ちょっと今日とかは無理だけど。じゃあ、ばいばい♪せんせっ。アヤネちゃんも、まったねー?」

 

「また今度なんてありません!」

 

そういって、威嚇し続けるアヤネを飄々と交わしながら、ムツキはその場を去っていく。

 

「……先生、本当に会いに行くんですか?」

 

「相手からの招待もあるわけだし、その内な。とはいえ、アヤネたちの敵になったりはしないよ」

 

「……ぅー。わかりました。……それにしても、何なんでしょうか、あの人は」

 

「まぁまぁ、ああいうのだって、結構いるもんだぜ?」

 

そういって、荒ぶるアヤネをなだめながら、改めて学校へと向かうのであった。

 

 

「……お待たせしました。変動金利など諸々適用して、利息は788万3250円ですね、全て現金でお支払いいただきました、以上となります。カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いします」

 

それから、一時間後。

アヤネとともに、用意しておいた現金バックの中に詰め込んだ金を運び、受け取りに来た取り立て屋に渡し、去っていく姿をみんなで見送る。

 

「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー」

 

「……完済まであとどれくらい?」

 

「309年返済なので今までの分を考え得ると……」

 

「言わなくていいわよ、正確な数字でいわれるとさらにストレスたまりそう……」

 

「まぁ、そうだな……」

 

一仕事終えた。

そう思うと途端に疲れが体に訪れる。

 

途方もない問題を前にしているとなれば、なおさらだ。

 

「ところで、カイザーローンはなぜ現金でしか受け付けないのでしょうね。わざわざ現金輸送車まで手配して」

 

そんな風に、全員で、そんな疲労感にさいなまれているとふと、今のやり取りを思い返し、ノノミが疑問を呈す。

 

「……カイザーローン自体は、今のアビドスに金を貸している以上、慈善事業でもないなら、あんまり真っ当な会社じゃないんだろう。そうなると、現金のほうが動かしやすいんだ。口座だと履歴が残るだろ?」

 

「なるほど……そういうことだったんですね☆」

 

「さて、それでは……今日は二つほど話すことがありますので、委員会室へと向かいましょう」

 

アヤネの発言で、対策委員会の委員会室へと向かうと、既に準備していたのか、資料がいくつか置いてあった。

 

「それで、議題はなんだ?」

 

「はい、昨日の襲撃と、前回のヘルメット団についてです。まずは……、そうですね。彼女たちの方から。私たちを襲ったのは、便利屋68という部活です。ゲヘナでは、かなり危険で素行の悪い生徒たちとして知られていて、特にリーダーの陸八魔アルさん。課長の鬼方カヨコさんに関しては強く警戒がされているようでした」

 

「うへー。……まぁ、先生の話的に当然かもしれないけれど……組織としてそんなにヤバい感じだったの?」

 

「アビドスを襲ったことは置いておいて、柴関であったときはそんなに悪い子たちには見えませんでしたが……」

 

そういわれて、彼女たちは襲撃よりも前。

柴関であったときの彼女たちの顔を思い出す。

 

美味しそうにラーメンを食べる顔。

彼女たちの学園の話を聞いて、コロコロと表情を変えるアルに、夢を語っていたときの表情。

 

……自分たちを襲ってきた相手である。

それは間違いない。だが、頭に浮かぶ彼女の顔が、悪人なのかと彼女たちに疑問を抱かせた。

勿論、他校を攻めたりなどしているのは間違いなく悪いのだけれど。

 

そう思っている彼女らを、アヤネは首を横に振り否定する。

 

「信じられないかもしれませんが、彼女たちは多くの悪事に手を染めています。風紀委員が拘束していた生徒脱走の手引きや、公文書の偽造、無軌道故の破壊行為などなど……。ゲヘナでもとびぬけた問題児として扱われています。そんな危険な組織が私たちの学校を狙っているのです!もっと気を引き締めないといけません!」

 

「……ん、先生、アヤネなにかあった?とってもあたりが強い」

 

怒気すら孕んだように声を上げるアヤネにシロコは小吉に尋ねる。

 

「……俺もよくわからん、今朝、ムツキって子とはあったが……」

 

眼鏡について触れられるの嫌いなのかなぁ?

などと首をかしげていると

 

「……ん、アヤネが先生に惚れてるとか」

 

「はい!そこ!うるさいです!先生!シロコ先輩!……次です!!セリカちゃんを襲ったヘルメット団について!こちらは、戦車の破片からの分析が終わりまして、……現在取引が行われていないものだと確認できました」

 

「……もう生産してないってこと?」

 

アヤネの発言に、ホシノの目つきが少しだけ鋭くなる。

 

「それ、……どうやって手に入れたのかしら」

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は、……キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」

 

「それって、……危険地帯じゃないですか」

 

ノノミの言葉にアヤネはうなずく。

 

「はい。あそこでは、様々な理由で学校をやめた生徒たちが集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない日認可の部活もたくさん活動していると聞いています」

 

「あの子たち便利屋68みたいに?」

 

「……えぇ。何度か、騒ぎも起こしてるみたいです」

 

「では、そこが重要ポイントですね!便利屋68に、ヘルメット団。どちらも、ブラックマーケットに繋がっているのなら、向かわない手はありません」

 

「よし、じゃあ、今日の方針は決まりだな」

 

小吉のその言葉に、アビドスの面々もうなずく。

 

「ブラックマーケットに調査に行こう……何か、意外な発見もあるかもしれないしね」

 

そうして、アビドスの面々のブラックマーケットへの遠征が始まった。

 

「……しかし、闇市、なんて名前からもうちょっとこじんまりした場所だと思ってたんだが」

 

「ん……、正直驚いた。街一個分くらいの大きさがある」

 

ブラックマーケットにたどり着いた彼らの反応は、まず、その広さと賑わいであった。

 

「この広さが、政府。っていうか、連邦生徒会の手が届いてないのか?」

 

「そうだよー。先生もアビドスとシャーレの行き来ばっかりだから自覚ないだろうけれど、他の学区も含めて結構こういう変なとこ多いんだ。あ、すっごくおっきな水族館とかもあるよー?」

 

「へぇ……そりゃ今度行ってみたいな」

 

「先生も興味あるの?意外だねぇ……うへ……魚、お刺身……」

 

「……そういう意味じゃないだろ。アヤネ。状況はどうだ?」

 

そんな風にとぼけるホシノをよそに、小吉はアヤネに無線を繋げる。

アビドスを空にするのは危険ということで、今回、アヤネは留守を任されていた。

とはいえ、何もしないというわけではなく、遠隔式のドローンを駆使して、既にブラックマーケット上空で状況を確認してもらっていたのだ。

 

『今のところは、特に問題はないように見えますが。油断はしないでください。そこは違法な武器や兵器が取引されるような場所です。何があるかわからないんですよ?』

 

「なるほど。そりゃ、ごもっともだ、っ!?」

 

そんなやり取りをしている間に、響く銃声に咄嗟に近くにいたノノミを看板の後ろに隠すように押し込む。

 

「あはー☆せんせーったら大胆ですね?」

 

「馬鹿言ってるんじゃない……、アヤネ状況は」

 

『女の子一人が不良に追われています!あの制服は―――――――』

 

「わわわっ、そこ!どいてくださいー!!」

 

目まぐるしく変わる状況の中、引きこんだノノミ以外の、シロコ達は、未だに道にいる。

当然だ。小吉は、瞬間的にかばうように動いたが本来、銃撃程度ならば彼女たちが傷を負うことはまずないのだから。

 

だからこそ、眼の前からくる少女をシロコは避けることなくぶつかってしまう。

 

「い、いたた……ごめんなさい!」

 

「大丈夫……、なわけないか。追われているみたいだし」

 

「え、えっと、それが……」

 

何が起きているかをいい淀む少女の後ろから、追いかけてきた不良の少女たちが現れる。

 

「なんだお前ら!どけ!私たちはそこのトリニティの生徒に用があるんだ!」

 

「あ、あうう……わ、私の方は特に用はないんですけれど……」

 

『そうだ!思い出しました、その制服、キヴォトス一のマンモス校の一つ、トリニティ総合学園のものです!』

 

「そう!そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!だから拉致って身代金を――――――――」

 

「あ、先生。かばってくれてありがとうございますね」

 

「ん、あぁ……気を付けろよ?」

 

「はい♪シロコちゃん」

 

状況を理解したノノミは、

 

「あ?なんだ?……うぎゃあ!?」

 

正に横暴、だがしかし、悪しきもの世に蔓延らず。

とくに、実力のないものであればなおのこと。

 

少なくとも彼女たちの実力は傭兵たちとは比べ物にならないほどに弱かった。

 

その上でたった二人ともなれば、彼女たちが弾丸を使うまでもない。

銃床と砲身を思い切りたたきつけてやれば、それだけで少女たちはその場に崩れ落ちる。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

 

「うん」

 

「あ……え?えっ?」

 

二人で納得しているノノミとシロコに、まだ理解の追いついていない少女は明らかに混乱していた。

 

「ぁー……。君、怪我とかはないか?」

 

「え!?あ、は、はい!あ、ありがとうございました!皆さんが助けてくださらなかったら、学園に迷惑がかけちゃうところでした。あ、私、トリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミっていいます!」

 

突然看板の裏から現れた小吉に驚きながら、少女、ヒフミはぺこりと頭を下げながら、感謝の言葉を告げる。

 

「そうか。ヒフミだな。俺は小町小吉。シャーレってところで先生をやってる。……ところで、お嬢様学園の生徒がこんなところで何してたんだ?」

 

「あ、あはは……それはですね……。実は、探し物がありまして……もう販売されてないので買うこともできないものなのですが、ブラックマーケットではひそかに取引されているらしくて」

 

その情報に、その場の全員の耳が動く。

 

「ねぇ、それって、もしかして戦車?」

 

「もしくは違法な火器?」

 

「化学兵器とかですか?」

 

ずいっと、ヒフミに対して詰め寄る三人。

 

「シロコ、ノノミ、ホシノ。詰め寄るんじゃない、話しにくくなるだろう」

 

「あ、え、えっと、大丈夫です、小町先生。えっと、ですね。その、……ペロロ様の限定グッズなんです」

 

「ペロロ?」

 

「はい!」

 

首をかしげる小吉に、ヒフミはそれまでの不安そうな表情がなかったかのように、ごそごそとカバンを漁り、それをとりだす。

 

「これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!限定生産で百体しか作られていないグッズなんですよ。ね?かわいいですよね!先生!」

 

「……若い子のセンスは分かんねぇな……なんなんだ?その、ペロロって」

 

「モモフレンズですよ!先生はご存じありませんか?ヒフミちゃん、ペロロちゃん可愛いですよね☆私はミスター・ニコライが好きなんです」

 

そういって、ノノミとヒフミが盛り上がっているころであった。

少し離れた所から足音が聞こえる。

 

『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かってきています!』

 

ドローンで周辺の警戒をしていたアヤネが一歩遅れて、連絡をよこす。

 

「……まだ、追手がいたみたいか」

 

「私たちこんなのばっかだけど何か悪いことした!?」

 

「仕方ない……、あのくらいの相手なら、大したことないし。ちゃちゃっと片付けちゃおう?セリカちゃん。先生の護衛よろしくねー?」

 

とはいえ、……セリカが護衛のために頑張る必要性はなかった。

そもそもが、シロコとノノミが弾薬さえも使わずに倒せた相手。

 

例え数が多かろうと、練度が圧倒的に足りていない上に、碌に連携も取れていない。

 

彼女らにとって全く動きを取れなくされた便利屋の方がよほど厄介であった。

そして、彼女たちも実力差をある程度認識したのだろう。

 

徐々に後方へと引いていく。

 

「実力差、これで分かってくれるといいけれど」

 

「……ここで一気に叩き潰そう」

 

だが、ここは敵のホームである以上、一度引いたところでいつ襲撃されるかわからない。

だからこそ、シロコはこの場で全員を再起不能にしようと、駆け出そうとして……。

 

「だ、だめです!」

 

それを、ヒフミによって止められた。

 

「……どうした?ヒフミ」

 

「この辺りにも、治安組織はあるんです。これ以上騒ぎを大きくしたら彼らに見つかってしまうかも。だから……いったんこの辺りから離れたほうが……」

 

「……無法地帯にもそういうのがある、か。まぁ、そうじゃなけりゃ、こんなに発展はしないわな。ホシノ」

 

「うん、一理あると思う。ヒフミちゃん、……案内お願いできるかな?私たち、まだ、ここに来たばかりだから」

 

「はい!こっちです!皆さんついてきてください!」

 

こうして、アビドス一行はヒフミの案内に従ってその場を離れることに成功したのであった。

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