シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
便利屋68事務所
そこでは、緊迫した空気が流れていた。
「カイザーとの契約を打ち切る……だと?」
電話越し。大人の驚愕した声が耳に届く。
有り得ない。と、そういったような印象をムツキたちは感じた。
「えぇ……。そうよ。何か問題が?」
だからこそ、というべきか。
アルの声に迷いはない。
だが、電話の相手は、あくまで疑念を晴らせない。
「……何が不満だ。たかが廃校寸前の学園を潰す程度……お前たちの一族の力なら……!」
そう、何故、が足りていない。
だが、既に義理を果たしたアルはためらわない。
「……確かに、そうね。たかが廃校寸前の学園を潰す程度なら、私たちも動いたわ……。調査不足じゃないかしら。既にアビドスにはシャーレの小町小吉先生が着任していた。連邦生徒会に喧嘩を売るのに、私たち単独?冗談じゃ……」
「……待て、今なんといった」
そう、そこで、アルの言葉に待ったがかけられた。
「?連邦生徒会に喧嘩を売るなら……」
「違う!その前だ!」
「?……シャーレの『小町小吉』先生……」
「そうか……。わかった。いいだろう。そこまで言うのであれば仕方がない。契約打ち切りの件了解した。金は払えないが、貴殿らのこれからの健闘を祈るよ」
ガチャリ。
と、通話が切れる。
それを聞いた後、アルは深く椅子に腰かけなおして、大きく息を吐いた。
「お疲れ社長」
「えぇ……疲れたわ……。しかし、先生の何が引っかかって……。カイザー、そういえば、外の企業だったわね」
「そう、だけど。……個人的な因縁?」
「多分そうでしょ……」
「ところでアルちゃん。昨日はあてがあるみたいにいってたけど、どうするの?」
改めて、現状の便利屋68の状況は最悪であった。
アビドスとの戦いにおいて、戦闘が短時間で終わったこともあって、弾薬の類は多く残っている。
戦闘依頼は問題なくこなせるだろう。
だが、アビドスには移ってきたばかり。
伝手などがない故に、依頼人が来ることはまずないだろう。
そして、金もない。
陸八魔の家の金は、外の世界の戦いの後、連邦生徒会によって凍結されていた。
アル個人の金は没収されなかったが、それも、現在はゲヘナの風紀委員に止められている。
事務所を良いところに構えているのもあるが、これでは次の食事さえ怪しい状態である。
「ふふ……、心配はいらないわ。……銀行に行ってお金を借りればいいのよ」
「……融資ってこと?」
「でも、普通の銀行は断られちゃうよね」
少なくとも彼女たちはゲヘナにおいては問題児で、事業である便利屋も決して安定したものではない。
故にムツキの心配は間違いではない。
「だ、大丈夫なんですか?アル様」
それを聞いて、状況を理解したのか、ハルカも不安げにアルのことを見上げていた。
「えぇ。まず、通常の銀行は使わないわ」
「ブラックマーケット?……まぁ、確かに実績だけ見ればできる、かな?」
実のところ、最近は依頼に続けて失敗し、最終的にアビドスの実力を鑑み傭兵の雇用に踏み切ったためお金がなかったが、便利屋68そのものは、依頼成功経験がないわけではない。
戦闘のみの仕事がメインにはなるが、そこそこの成功を果たしている。
「そのあたりの書き出し、やっておこうか?」
「そう。なら、お願いカヨコ。ムツキとハルカは軽くおめかししときましょう?」
「はーい♪アルちゃんに髪整えてもらうの好き。ハルカちゃんも」
「わ、私なんかが、いいんですか?」
「えぇ!もちろんよ」
そうして、彼女たちはブラックマーケットへと足を運んだのだ。
「陸八魔アル様。申し訳ないですが弊社での融資は行えません」
「……!なにが、問題ですか?長く審査に時間がかかっていたようですが」
開口一番のダメ出しに、アルは、叫びそうになったのを、何とか堪えた。
その言葉に、銀行の受付はため息をついた。
「……社員の人数、は、まぁいいとしましょう。少人数で仕事をこなす小規模な会社などいくらでもあります。肩書やオフィスも『あなた』ならいずれ問題なくなる、故に、これも問題ありません。業務の成功率も、……そこまで高いとは言えませんが、こと戦闘依頼においては、有数の成功率といえるでしょう」
「……なら、何故」
「貴女が『ニュートン』だからです」
頭を殴られるような衝撃が、彼女に走る。
……それも飲み込んで、言葉を吐き出す。
「っ……それが、何なのよ」
「我々カイザーグループは外の企業です。他の企業以上にあなた方の悪行を知っています」
「わ、私は関係ないでしょ……!」
「どうだか。……現に、キヴォトスにおいても、ニュートンの一族は資金凍結を受けていますね?……第一、貴女は何故その力を使って金を稼がないんです?」
「……どういうこと?」
「ニュートンの血族。その血に流れる力は、何も身体的な物だけじゃない。……貴女がその頭脳を使えば、お金など、それこそ山のように稼げるでしょう?」
「……」
それは、……。事実であった。
彼女にとって他の指標がないため、省かざるを得ないが、彼女は、一族の事情のために、三大校。すなわち、ゲヘナ、ミレニアム、トリニティの入試を受けている。
結果は、圧巻。ゲヘナ、トリニティにおいてはパーフェクト。ミレニアムに関しては、同率で一位であった。
勿論、これで測れるのはあくまで学力でしかないが、それ以外の面でいっても彼女の力があれば、金を稼ぐだけであれば、それこそ二日もあればできるだろう。
その上で、彼女が今考えているのは。
(ムカつくわね……銀行潰して、金、持ち去ってあげようかしら)
あまりにも短絡な暴力的な思考であった。
とはいえ、考えがないわけではない。
何せここはブラックマーケット。所詮は無法者たちの土地でしかない。
各地のマーケットガードがいるにせよ、そんなもの叩き潰して外に出てしまえば、彼らの法は通じない。
戦力に関しても、肉体的精神的に問題のないカヨコ達と彼女の力が合わされば、負ける道理は一ミリたりもなかった。
「陸八魔アル様?」
「……いえ、失礼するわ」
だが、そうはしなかった。
眼の前の男は、彼女を巨悪と同じ存在だと断じた。
力で、資金で、頭脳で。人間という生命の持てるスペックを用いて、世界を蹂躙した人間と同じだと。
なら、それを今彼女がするのは、同じであろう。
「帰るわよ」
「えー……詰まんないよ。そんなの」
待たされて、何もないのはつまらないからだろう。
ムツキは、頬を膨らませてアルを見上げる。
「……いい、ムツキ」
そう、だから、アルは言い訳をしようとした。
今、胸を締め付ける束縛から逃れようと、必死の言い訳を。
「そうじゃなくって……、そんな顔のアルちゃん。詰まんないよ」
「っ……」
胸に突き刺さる、幼馴染のその言葉。
その言葉に、アルは、……ムツキの顔が見れなかった。
「……はぁ、もう、仕方ないなぁ。そんな顔しないでよ、アルちゃん、ほら、帰……」
「っ、こっち!」
帰ろ?と、ムツキが言おうとした瞬間であった。
銀行全体の電気が消える。その瞬間に、アルは、三人の体を引き込んで、柱の影に滑り込んだ。
そして、なんだなんだと、周囲が騒いでいるうちに、銃声があたりに鳴り響く。
「強盗ね。白昼堂々と……」
「うわああああ!?」
上がる悲鳴は、急に暗くなったことで隙を晒したマーケットガードのものだろう。
情けない悲鳴の後に、被弾する音、鈍い殴られる音。
「……制圧されたわね」
「アルちゃん見えるの?」
「外の光が全部入らなくなったわけじゃないからね……。一体どんなのが……」
「あ、明かりが付いた」
恐らく最初の、防衛をすべて無力化したのであろう。
銀行内の明かりはすぐついた。
一体どんな相手なのだと、アルたちは相手の顔を確認する。
「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」
「いうこと聞かないと、痛い目見ちゃいますよー☆」
「あ、あはは……、皆さん、怪我しちゃいけないので……伏せていてくださいね」
そこにいたのは、今どき古典的とさえいえるような覆面をした生徒たちであった。
少し時はさかのぼる。
「はあ……しんど」
「もう数時間は歩きましたよね」
騒動が落ち着いた後アビドスの面々は、変わらず探索を続けていた。
「私も、もう膝も腰もがくがくだよ」
「え?ホシノさん、おいくつ何ですか?」
「お前たちと同じ年代だよ。大丈夫、俺みたいなおっさんでも歩けるんだ。まだまだだよ」
助けてもらったお礼も兼ねて、ヒフミにはブラックマーケットの案内を続けてもらっていた。
実際、彼女の案内のおかげで、アビドスの面々だけなら起こっていたであろうトラブルを避けれており、探索自体はかなり捗っている。
だが、それでも数時間。
彼女たちは一向に手がかりを手に入れることができていない。
「少し休みましょうかー。あそこにタイ焼き屋さんもありますし、私買ってきますね」
「あ、ノノミ。俺が出す」
「いえいえ、私が食べたいから買うんですから。先生はそのお財布をしまってください」
勿論、小吉が全員が食べるものを出させるわけにはいかないと財布を取り出そうとすると、先手をとられ、ノノミがさっさと買ってしまう。
仕方ない、といい財布をしまいながら、小吉はシロコたちと座れる場所を探す。
幸いにも、空いてる場所はすぐに見つかり、その場にいる全員でノノミの買ってきたタイ焼きを頬張る。
柔らかくもちもちとした皮に、みっちりと詰まった暖かなあんこが口に広がり美味しい。
「……おかしい」
「?どうしたんだ?ヒフミ」
「確かにブラックマーケットは、広いですし、いろいろなものを取り扱ってるんですが……。もし、ここで本当に取り扱ってたとしたら、ここまで情報がないってことは、ありえないんですよ」
「……?そうなのか?」
「はい。普通は、そんなに出所を徹底して隠したりなんかしません。なのに、今回の話は、販売ルートや保管記録、全部誰かが意図的に隠してるような、そんな気がします。いくらここを牛耳ってる企業でもここまで徹底してブラックマーケットを統制することは不可能なはず……」
「でも、ここを牛耳るってことはそこそこでっかい会社ってことだろ?普通は汚点は隠したがるもんじゃないか?」
小吉の言葉に後ろでシロコがこくこくと同意の意志を示している。
「普通であれば、そうです。ですが、ここはブラックマーケット。こそこそ出展、みたいな形をとっているならともかく、思いっきりビルとか建てている方はある意味で開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりはしないんですよ」
例えば、と言いながら、視線を動かし、ヒフミはある銀行に指をさす。
「あれは、ブラックマーケットに名をはせる闇銀行です」
「や、闇銀行!?何よそれ!?」
「ブラックマーケットで最も大きな銀行のひとつです。噂レベルの話だと、キヴォトスで行われた犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです。横領、強盗、誘拐などなど、様々な犯罪によって獲得した財貨が、違法な武器や兵器に変えられてまた他の犯罪に利用される……。そんな悪循環が続いているのです」
「そんなの……、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか」
「……その通りなのです。正に、あの銀行も犯罪組織なのです。……あくまで、聞いた範囲ですけれど」
「酷い!そんなの放置なんて、連邦生徒会は何をやってるの!」
そこまでの話を聞いて、セリカは憤る。
無理もない話だ。アビドスもそういった犯罪の影響を受けているのだから。
「理由はいろいろあるんだろうけどねー、どこもそれなりの事情があるだろうからさ」
「現実は、思った以上に汚れているんだね。私たちはアビドスばかりに気を取られ過ぎて、外のことをあまりに知らな過ぎたのかも……」
世知辛い。言葉にしなくとも重苦しい空気が、その場に流れる。
そんなときであった。
『お取込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中!気が付かれた様子はありませんが一度身を潜めましょう』
「あぁ、わかった。ブレイクタイムもいったん終了だな。ヒフミもこっちに」
「は、はい!」
騒ぎになるのはこちらとしても避けたいところ。
彼らは、ささっと物陰に身を潜め、武装集団へと目を向ける。
「あれ、マーケットガードです。ブラックマーケットの治安部隊。その最上位の」
「あれが、か。……何か、護送してないか?」
「トラック……現金輸送車みたいだけど……!!闇銀行に入ってく」
遠目ではあるが、闇銀行から出てきた生徒と思われる少女とやり取りをしている。
……だが、問題はそこではない
「なんで、あれ!」
「うちで毎回集金している、銀行員の方、ですよね……」
「あれ、ほんとだ」
「えっ、えぇ!?」
「どういうこと……」
『確認しました……車も、カイザーローンのものです』
今のアビドスに金を貸す企業がまともではない。
そのことは小吉もわかってはいたが、それでもと。
「え……?皆さん、カイザーローンからお金を借りてたんですか?」
「……ヒフミ、何か知ってるのか?」
そう問われ、ヒフミは頷く。
「カイザーローンはかの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融会社です」
「有名……マズいところなの?」
「……ギリギリ犯罪はしていません。ですが、合法と違法のグレーゾーンでうまく振舞ってる多角化企業で……私たちの学区にも進出しているのですが生徒たちの悪影響にならないように、ティーパーティー……。生徒会に当たる組織が目を光らせています……本当に、カイザーローンから借りちゃったんですか?」
そういうと、心配そうに皆の顔を見回すヒフミ。
それに対し、芳しくない状況を理解した面々の表情は硬い。
「正確には個人ではないがな……」
「詳しく話すと長くなっちゃうからさー……、それより、アヤネちゃん、さっきの現金輸送車の走行ルート調べられる?」
『少々お待ちください……駄目です。すべてオフラインで管理されてて全然ヒットしません』
「だろうね。」
「現金支払いだったのは先生の言う通り足がつきにくかったから……」
「それを、ブラックマーケットの闇銀行に流していた?」
話は、少しずつつながっていく。
「じゃあ、私たちは、ブラックマーケットに犯罪資金をずっと流してたの?!」
「……」
その言葉に、誰もが口を紡ぐ。
その場にいる、誰もが、小さくないショックを受けていた。
『そ、それでも、まだ、はっきりしたわけじゃ……。証拠も足りないですし、少なくとも、あの輸送車のルートをたどるまでは』
それでも、必死に声をアヤネは絞り出す。
セリカの言葉が真であると半ば確信しながらも、それでもと。
「……さっきの集金の書類、あれを見れば、証拠になりませんか?」
「おぉ」
「ナイスアイデアだね!ヒフミちゃん」
「あ……でも、書類はもう銀行の中だし、無理ですね。銀行のセキュリティはトップクラスですし、それにあれだけマーケットガードが目を光らせているんじゃ……」
何か別の案を考えないとと、あたふたするヒフミの肩を。小吉は軽くつかんだ。
「あぁ、そのことなんだが、……ヒフミ。つまりだ。銀行のセキュリティを突破出来て、マーケットガードがなんとかなるなら、問題がないってことだとはおもわないか?」
「え?」
その言葉に、困惑の表情を浮かべ戸惑うヒフミ。
そして、小吉の後ろから出てきて、頷くシロコ。
「うん、……ホシノ先輩。先生。あれをやろう」
「え?な、なにをやるんですか?」
「なるほどー、あれかー……」
「あの方法ですね!」
シロコの言葉を、すぐに理解したホシノとノノミは、どこか楽しそうに笑う。
「ねぇ、ちょっとまって?シロコ先輩。小町先生……もしかして、……私が考えてる方法じゃ……」
「セリカ」
「……なに?」
「「銀行を襲う(ぞ)」」
既に、覆面のない小吉と、準備の出来ていないセリカ以外は覆面の装備を終えていた。
「え、ちょ、ちょっとまってください!せ、セリカちゃん、と、とめ……」
「はぁ……そっかぁ……やるしかないのか……なら、徹底的にやるしかないわ!」
「準備万端!?そ、そうだ、あ、アヤネちゃんなら……」
『……了解です、こうなったら聞く耳持たないでしょうし何とかなるはず……』
「止めてくれない!?」
「ん、ごめんヒフミ。貴女の分まで覆面がない」
「うへー、じゃあ、もしバレたら全部トリニティのせいってことになっちゃうねぇ」
既に巻き込む気満々のシロコとホシノはヒフミのことをしっかりと挟んで逃がす気がない。
「ちょっと待ってください。流石にそれはひどいです」
「ノノミさん……」
「はい、ヒフミちゃん、とりあえずこれをどうぞ」
そういって、取り出されたタイ焼きの紙袋を、ヒフミはかぶせられる。
「……悪いなヒフミ」
「うぅ……乗り掛かった舟ですし。それに、助けてもらった恩も、ありますから……」
「それじゃあ、行こう。先生は、いつも通りよろしく」
「あぁ、それじゃあ、作戦開始だ」
そして、彼女ら覆面水着団は銀行を襲うのであった。
便利屋68がいるカイザーローンを。