シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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一話

「先生、起きてください!」

 

強く呼びかけるその声に、小吉は目を覚ます。

 

「……ここ、は……?俺は……」

 

辺りを見回す彼のその様子に、彼に呼び掛けていた少女は少しばかり呆れたように小さなため息を吐く。

 

「少々待ってくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。しばらくお声かけをしたのですが、なかなか起きることができほど熟睡されるとは。……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

「……あぁ、いや、すまない。そうだな。ただ、どうも、……まだぼーっとしてるみたいだ。君の名前も、思い出せないくらいに」

 

そういいながらも、彼は先ほど見た夢の内容を思い出そうとする。

確か、大事なことだったはずだ。そう思ってしまうほどに、彼の頭にはそれだけが焼き付いている。

 

……だが、彼がそう思っているのにもかかわらず、その内容は、どれだけ記憶を振り返ろうとも、思い出すことはできなかった。

 

そんな、心ここにあらずといった小吉の様子に、目の前の少女はもう一度。今度は深くため息をつく。

 

「しっかりしてください。小町先生。……もう一度、改めて今の状況をお伝えします。私は七神リン。学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」

 

そういって、少女は小さく頭を下げる。

しかし、彼女は時間がないというようにすぐに頭を上げ、彼の方へと改めて向きなおる。

 

「小町先生。あなたは、私たちがここに呼び出した先生……なのでしょう。……あぁ。推測系でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しくは知らないからです」

 

「……あぁ。名前はなかったが、連邦生徒会長って子から呼び出しを受けた……んだけど。引継ぎとかはなかったのか?」

 

「……。混乱されていますよね。わかります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも、今は、私についてきてください」

 

一瞬、彼の言葉に少女は目を伏せ……。

 

「どうしても、貴方にやっていただかなくてはいけないことがあります」

 

「……俺にやってもらいたいこと、か。なんだ?虫退治か?」

 

言っとくが、ゴキブリは苦手だぜ?俺は。

 

そう場を和ませようと笑いかける小吉に、リンは目を伏せ、額を抑える。

 

そして……。

 

「この学園都市の命運をかけた大事なこと、ということにしておきましょう。ついてきてください」

 

その顔に浮かんでいたのは緊張。

少なくとも、ほかにこの事態を収束できる人間を知らない。そんな顔をしているリンに対して小吉はただ分かったと頷いて、部屋を出るリンの後をゆっくりとついていき、エレベーターへと入る。

 

外から見えるのは、明らかに、彼の知っている世界とは違う光景。

立ち並ぶビルに、立ち上る黒煙、そして、……空に浮かぶ天使の輪。

 

「……こんな状況ですが、キヴォトスへようこそ。先生」

 

学園都市、キヴォトス。それが、彼の降り立ち、助けを求めた子供たちのいる場所の名前であった。

 

「ここは数千の学園が集まってできた巨大な都市です。これから先生が働くところでもあります。きっと先生がいらっしゃったところとはいろいろなところが違っていて、最初は苦労するかもしれませんが。でも先生なら、それほど心配しなくていいでしょう」

 

「任せてくれ。……事情が違う連中とつるむのには慣れているからな」

 

「……えぇ、信頼しています。あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね。……つきましたね」

 

チン、という音共に扉が開く。

 

エントランス。あるいは、レセプションルームというべきだろう。

ごった返したそこに二人が入ると、幾人かの少女が駆け寄ってくる。

 

「代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!……?隣の大人の方は?」

 

「主席行政官お待ちしておりました」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」

 

青い髪の少女、黒髪の背の高い少女、茶髪の少女がそれぞれリンへと詰め寄る。

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

それに対し、リンの表情は、いや、言動も含め、彼女は面倒だということを隠すつもりはないらしい。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくれた、生徒会、風紀委員、その他時間を持て余している皆さん」

 

「おい、リンちゃん。ちょっと、言い過ぎじゃねぇか?」

 

「……リンちゃんはおやめください」

 

気安く呼ばれるのが嫌だったのか、じとりとした視線を、彼に向ける。

 

「あー、君たちも、事情はまだはっきりと聞いてないんだけれど一旦落ち着けれるか?」

 

放っておいたらこの子たちはヒートアップするだろう。

そう思った小吉は、一旦、彼女たちの間に入り仲裁を測ろうとする。

 

が、少なくとも彼女たちは、落ち着ける状態ではないからこの場所へと乗り込んできていた。

 

「落ち着けるわけないじゃないですか!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるんですよ!この前なんて、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんですから!」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したとも聞きました」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出どころのわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

そのように、捲し立てるように告げられる四人からの苦情。

 

治安の悪化。その言葉で片付けるには状況があまりによろしくない。

特に後半二つに関しては本当にとんでもないところだと、改めて彼に理解させる。

 

「……」

 

返す言葉もないのか、あるいは、何か思案しているのかリンは黙ってしまったまま。

そんな彼女に怒りを覚えているのだろう。青髪の少女は、リンに詰め寄る。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

「……はぁ……」

 

リンは、そう詰め寄られて今日何度目かのため息をついた。

そして、もはや観念したとばかりにつむっていた瞳を開け、少女たちを見据え、言葉を発す。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

「え……!?」

 

「連邦生徒会長が……いない?」

 

それは、彼女から依頼を受けた小吉にとってもまた、想定外の言葉であった

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