シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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十九話

「非常事態発生非常事態発生!」

 

乗り込んで、瞬く間に警備を倒した銀行強盗達を前に、銀行員は緊急通報用のアラームを懸命にたたく。

だが、一向に警報が鳴り響くことはない。

 

「うへー、無駄だよ?緊急警報の電源は落としちゃったからね」

 

「ひっ!?」

 

真横につけられ、銃を突き付けられた銀行員は、ただ悲鳴を上げるばかり。

 

「ほら、そこ、伏せて?下手に動くとあの世逝きだよ?」

 

「皆さん、おとなしくしていてください……あうう……」

 

最初は嫌がっていた四号もといセリカとは対照的に同じように嫌がっていたヒフミは、未だに一歩を踏み出せていないのか、おどおどとあたりを見回すのみであった。

 

「ここまでは計画通り!次のステップに進もうー!リーダーのファウストさん!指示を願う!」

 

「えっ!?え!?ファウストって私ですか!?リーダーですか?私が!?」

 

そんな風に話題を振る一号、もといホシノに対してヒフミは大混乱。

 

「はい!リーダーです!ボスです!ちなみに私は……覆面水着団のクリスティーナだお♧」

 

「うわ!?なにそれ!いつから覆面水着団なんて名前になったの!?それにダサ過ぎだし!」

 

「え……ダサい、ですか……?」

 

セリカに言われ、ショックを受けるノノミ。

 

「あう、リーダーになっちゃいました。これじゃあ、ティーパーティーの名に泥を塗ってしまいます……」

 

明らかに打ち合わせもない急ごしらえ。

ドタバタとした彼女たちの動きではあるがしかし、実力と、実際現在進行形で行われている制圧の腕は見事な物。

 

これではコントのような三人の振る舞いを冷静に見れる者は一般客の中にはいないだろう。

そう、一般客では……

 

「社長、どうする?あれ……」

 

「分かってるわよ……アビドスね」

 

ラーメン屋の時のように、夢中になっている時ならばともかくとして、状況を冷静に見ることができる今の状態で、アルが制服などの特徴を見過ごすわけがなかった。

 

「んー、どうする?知らない子もいるけれど、というか、なにやってるんだろ?」

 

「ね、狙いは私たちでしょうかっ!それなら、返り討ちにしちゃいましょうか」

 

「落ち着きなさい、ハルカ……。アビドスには借金があった。だから、銀行強盗……?いえ、違うわね。何か、別の目的があるはずだわ……もう少し、様子を見ましょう」

 

彼女たちの選んだのは静観。

アビドスとの敵対は、今やする必要がない。

むしろ、ラーメン屋の借りを返さなければならない。

 

便利屋が静観を、アビドスの面々が騒いでいる中シロコは一人、銀行員へと詰め寄り銃を突き付けていた。

 

「無駄な抵抗はしないこと。監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、すべて頭に入ってる。このバッグにさっきの現金輸送車の……」

 

「わ、わかりました!なんでも差し上げます!現金でも債券でも金塊でもいくらでも持って行ってください!!」

 

集金記録を、と、続けようとした。

だが、この状況で冷静にことを構えられるほど、銀行の審査官は修羅場を潜り抜けていなかった。

確かに、キヴォトスの住民は銃で撃たれた程度で死ぬものはいない。

しかし、銃で撃ち続けられれば死ぬのだ。

 

普段なら、日常に溶け込む銃も、場面が変われば、恐怖になりえないというわけではない。

 

「そ、そうじゃなくて、集金記録を」

 

その反応は想定していなかったのか。シロコは困惑のままに、脅迫を続ける。

だが、銃は突き付けられたまま。冷静でいられない審査官は、急いで背後の金庫に走り、中にあった金を大量に詰めて持ってくる。

 

「これでもかと詰めました!だからどうか!命だけは!」

 

「あ……う、うーん……」

 

 

「……すごいわね」

 

「あぁ、うん、まぁ、……確かにブラックマーケットを敵に回す覚悟はすごいかも……」

 

「……そうじゃないわ」

 

そんな光景を見ていたアルは、ぽつり。とつぶやいた。

 

手際もいい。ブラックマーケットを襲う、その覚悟もいい。

だが、……何より、自由であることが。

学校に、借金に、きっと、それ以外にもあらゆるものにがんじがらめになっているはずなのに。

今の彼女たちは、何よりも、自由に、……今のアルには。輝かしく見えた。

 

「シロ……じゃなかった!!ブルー先輩!例のブツは!?」

 

「ん、か、確保できた」

 

「それじゃ、逃げるよー!全員撤収!!」

 

「アディオース☆」

 

「け、けが人はいないようですし……すみませんでした!さよならっ!!」

 

ものの五分。

 

あっという間の出来事であったが、目的を達した彼女たちは銀行の外へと駆け出していった。

 

「……私たちも行きましょ。用は終わったし。……それに、借りも返せるかも」

 

「はーい♪じゃ、ハルカちゃん借りてくね」

 

「……まぁ、しょうがないか」

 

そういって、便利屋たちもこっそりと、銀行から離脱する。

 

「や、やつらをとらえろ!!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!一人も逃がすんじゃない!」

 

そして、彼女たちの離脱の数分後。銀行員はそう叫んでいた。

 

「先生!ただいま!」

 

「作戦は成功したな?急ぐぞ。アヤネのドローンで周囲にマーケットガードが出ているのを確認した。長居してたら包囲網が完成してしまう」

 

作戦の完了を見届け、状況を確認した小吉は、アヤネとアロナを通じて用意していた撤退路へとナビゲートする。

 

「先生はあんまり前に出ないように」

 

「見られたらアウトってのもあるけれど、流石に、あのレベルの兵士の相手は厳しいでしょー?」

 

「……そうだな。単独ならともかく、あのでかい盾持ちがいるのが厄介だからな……」

 

「え……。まって、単独なら行けるかもしれないの?」

 

平然とそんな発言をする小吉に、こわっ、と、素直に引きながら、セリカが一人、駆け抜ける。

 

実働されている人数は間違いなく多いのだろう。

 

少なくともブラックマーケット全体を封鎖するための人数だ。

三桁に届く。

 

だが、それはあくまでブラックマーケット全体に動員されている人数だ。

 

ブラックマーケットは広く、そして、入り組んでいる。

なにせ、街一つ、ともすれば、学園が三つ収まるほどの広さを完全封鎖しようとなるとそれなり以上の人数が必要で、その初動ともなれば、とりあえず、出入りそのものを難しくするために、小規模な部隊を派兵するのだ。

 

そして、その小規模となると部隊の中でも選りすぐりがいくもの。

そんな相手を倒すのは、基本的には現実的ではない。

 

……そう、通常であれば。

 

「指揮はどれくらいがいい?」

 

「これくらいなら適当でも大丈夫だよー。それよりも、ナビゲートよろしくー」

 

彼女らに必要なのはそんな確認だけ。

 

そう、ホシノたちであれば、話は別であった。

彼女たちの実力は、何度もいった通り、相当高い。

 

学生の間で、などという装飾はいらない。

少なくとも、現状、キヴォトスに来て彼女たちに並ぶ実力があるのは、あの便利屋だけ。

 

ワカモでさえも、恐らく単独の戦闘能力で見れば、アビドス、あるいは便利屋との戦闘では敗北を喫する。

 

少なくとも小吉の目にはそう見えていた。

 

「うへ、でも、あれは流石に厄介かも」

 

「あれ?……うおっ!?」

 

正面に現れた敵を確認しようとした小吉の前にホシノがかばい盾を地面に立てる。

降り注ぐ銃弾の雨は、盾でなんとかしのげたが……。

 

「ありゃなんだ?」

 

「ゴリアテっていう、パワードスーツだね。相手も本気だね?」

 

「……先生、指揮を」

 

「あぁ、……まずは、取り巻きを潰そう。ノノミ、ヒフミ、後ろからの追撃への対処を頼む」

 

「はい!」

 

「わ、私もですか!?わかりました!」

 

そういうと、二人は後方から迫っている生徒たちにバラバラと銃弾を浴びせにかかる。

 

「……少し足りないか?」

 

現状を改めて整理し、小吉が小さくつぶやいた。

 

このまま戦っても十中八九ホシノたちが勝つ。

これは間違いない。

 

だが、今行っているのは撤退戦だ。

 

この場の戦闘に勝利してもブラックマーケットが封鎖されてしまっては意味がない。

 

シロコ、ホシノ、セリカ。

三人の装備での最大火力はシロコのドローンによる爆撃。

 

三人の火力を集中して浴びせ続ければ勝てるが、早期に押し切るにはゴリアテの装甲が硬い。

 

「アロナ、どこか別ルートは……」

 

一瞬。その思考がよぎり、シッテムの箱からルート構築を再開しようとした瞬間であった。

 

『先生!便利屋のカヨコさんからメールです!』

 

「……このタイミングで……?」

 

シャーレの先生としての小吉のアドレスは現在シャーレの案内にて公開されている。

アビドスからの連絡を受けたのもこれを経由してた。

 

迷惑メールもアロナがいる限り、問題にならない。故に、深く考えずに公開しているのだが。

今回は、その送り手。便利屋68が問題であった。

ムツキのことがあったから、いずれ接触はしてくるだろうと思ってはいた。

だが、このタイミングで。

 

思考は一瞬。迷う必要はなかった。

 

「アロナ!頼む!」

 

『読み上げます!合図で一撃。併せて。先生』

 

「合図……?」

 

何のことかと、思った、正に次の瞬間。大きな銃声が、鳴り響いた。

ともすれば、今まさに戦っている戦場で響いているものすらもかき消すほどの巨大な咆哮。

その音が発生した方向にわずかに視線を向ければ、小さく見えるのは、便利屋68、課長カヨコの姿。

 

「先生、一体何が……」

 

「今だ!シロコ!!あいつに突っ込め!!」

 

「……ん!」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ、シロコは戸惑いそうになった。

だが、小吉の言葉にすぐにその疑念を振り払うとシロコは前へと駆け出した。

 

それを狙って砲門がシロコをとらえようとするが、既に、戦況は決していた。

 

今度は、合図とは違う。先ほどより小さなだがそれ以上に力強い銃声が、三度鳴り響く。

直後、ゴリアテに備わった左右と背中の砲門全てに撃ち込まれた弾丸が、砲門に装填されていた砲弾を誘爆させる。

 

アビドスでホシノの盾で受け止められていた爆発。いや、それ以上の力で、ゴリアテの武装を引きはがした。

 

それでもなお、眼の前に立ちふさがろうとするゴリアテ。

 

だが、ここまでダメージがあるのならば十分。

 

「これで!終わり!!」

 

シロコのドローンによる爆撃で止めを刺すには十分なダメージであった。

ありったけのミサイルをぶち込まれたゴリアテは、その場に崩れ落ち行動不能となる。

道は開けた。

 

「急ぐぞ!皆!」

 

そういいながら、小吉は、弾丸の飛んできた方にいる狙撃手に目をやる。

陸八魔アルが、不敵に笑ってそこにいた。

 

そして、一分。

彼らの背中が小さくなったころ。

 

「アビドスの脱出を確認したわ。ハルカ、ムツキ、いいわね」

 

『くふふー♪こんな悪いことしちゃっていいの?』

 

『ば、爆破なんてしたら、ブラックマーケットを敵にしちゃうんじゃ』

 

「いいのよ。さぁ、派手にやりなさい!」

 

アビドスの全員が、走りぬけた数秒後。

アビドスを含む四大校へと向かうブラックマーケットの道が便利屋の少女たちの手によって爆破され、彼らの思惑通り、ブラックマーケットは大きく封鎖されたのであった。

 

 

それからしばらく走り続けて、ブラックマーケットの領域を離脱して、少しだけ息を乱しながら、彼らは立ち止った。

もう、アビドスの校区も近い。

汗で濡れた覆面を脱ぎながら、一息つく。

 

「はぁ、息苦しかった……」

 

「追手は、あれじゃあ来ないだろうねぇ……」

 

改めて思い返す。背後で起きた爆発と、途切れた道。

便利屋68が行ったであろう、破壊工作。

 

「もうちょっとで封鎖ポイントになるであろう場所を越えられる……こっち、急いで」

 

「……シロコ先輩、何時まで覆面被ってるの?邪魔じゃない?」

 

ただ一人、まだ覆面姿のままのシロコに対して、セリカは問いかけた。

 

「気に入ってたからなぁ、シロコ。元々計画してたのもあって、ちょっと興奮してるんだろ」

 

「天職感じちゃったっていうか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって脱ぎたくないんじゃない?」

 

「シロコ先輩。アビドスに来て正解だったわね……。他の学校だったらもっとすごいことやらかしてたかも……」

 

「……ん」

 

そこまで言われ、恥ずかしくなったのか。シロコはようやく覆面を脱いだ。

 

 

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