シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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二十話

『封鎖地点を突破。この先は安全です。お疲れ様でした!』

 

「やったー!大成功!」

 

それから、慎重に進んで数分。

アビドスの生徒と先生は無事にブラックマーケットを脱出できた。

 

元々の作戦と脱出経路の準備がよかったこと。そして便利屋68の謎の協力があったとはいえ、手際よくスムーズに事を終えることができた。

 

『でも、本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて……』

 

「ま、そこらへんはいいとして。シロコちゃん。集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」

 

「う、うん。バッグの中に……ただ……」

 

「?何か問題があったのか?折れてるくらいならまだしも、破けてたりとかはことだぞ?」

 

「そ、そんなことはない……でも」

 

そういって、彼女はカバンを開く。

 

そこに入っていたのは……

 

「……現金だな」

 

「札束だねぇ」

 

「うえええええええ!?シロコ先輩、書類じゃなくって現金を盗んじゃったの?!」

 

「ち、違う……。目当ての書類はちゃんとある。このお金は、その……銀行の人が勝手に勘違いしていれただけ……」

 

とはいえ、そうなってしまうのも無理はない。

なにせ、書類目的だったとはいえ、彼女たちが行ったのは、間違いなく銀行強盗。

 

書類一枚を奪うためにやるにはあまりにも大掛かりな行動であった上に、銀行員のロボットにとっては命の危機でもあったのだ。

機嫌を損ねないようにひたすらにお金を詰め込んだというのも、変な行動ではないだろう。

 

「こいつは、面倒なことになったな」

 

「え。何でですか!?ぼーっとしてないで運びましょうよ」

 

「……。そうだな、シロコ。お前はどうしたい?」

 

無邪気に喜ぶセリカを見ながら、小吉はホシノに少し視線をやった後に、シロコへと問いかける。

 

「どうしたいって、……先生!決まってるじゃない!」

 

「……お金は使わない」

 

「なんで!?」

 

シロコの言葉に、驚愕するセリカ。

 

「セリカちゃん何言ってるんですか!使ったりしたら本当に犯罪ですよ!?」

 

「っ、そ、それの何が悪いのよ!このお金は、そもそも私たちが汗水流して稼いだお金で……それが!あそこにあったら、悪い人たちの犯罪資金に……」

 

彼女たちの青春を食いつぶす、借金の苦労。

それを思えば、そういった考えになるのはおかしくないのかもしれない。

堂々とした悪行の宣言であるにもかかわらず、その悲痛な叫びにヒフミは何も言えなかった。

 

「……私は、セリカちゃんの意見に賛成します。犯罪者の資金ですし、私たちが正しい使い方をした方がいいと思います」

 

「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」

 

「……そうか。じゃあ、セリカ。ノノミ。……そうやって減らした借金で学校を守ったところで、お前たちはこの先胸を張っていけるのか?街を往く人に、後輩に、学園の外の人に、すごい、なんて思われて……その実、ずっと犯罪者から強奪した資金を使った記憶が残るんだぞ?」

 

小吉の言葉に、二人は少しだけ、言葉に詰まる。

 

「……先生の意見とは違うけれど、私も使うのは反対かな。……今回のは悪人の犯罪資金だったけど、今、ここでそういうお金に手を出したら、きっと私たちは、どんどん引き金を軽くしていくよ。次は、不法に侵入していた子たちから巻き上げて、次は治安を悪化させてる子から巻き上げて。きっと最後は、普通に暮らしてる人からもお金を取る。アビドスの危機なんだから、仕方なかったって……、どこまでも堕ちていく……。セリカちゃんやノノミちゃんがそうなっちゃうのは、おじさんやだなー」

 

「……そう、ですね。……どんな手段を使ってもいいのなら、私がアビドスに来た時、私が返済するって言った言葉に反対なんてしませんよね。ごめんなさい。先生、ホシノ先輩。安直な考えでした。きちんとした方法で返済しない限り、アビドスは、アビドスじゃなくなってしまう……。そうですよね」

 

そんな二人の言葉の前に、ノノミは過去を思い出して苦く笑いながら意見を引き上げる。

その姿に満足したのか、ホシノは張り詰めた緊張を解す様に息を吐いて、そういうことと。と、二人に笑いかける。

 

「だから、このバッグは置いていく。いただくのは必要な書類だけ。これは委員長命令だよ。セリカちゃんもいいね?」

 

「ああああああああ!!もう!もどかしい!意味わかんない!!変なとこで真面目なんだから!!」

 

分かったわよ!と吐き捨てるセリカに、うへー、厳しいなぁと笑いながら、

 

「ヒフミちゃんもいいよね?報酬とかは、出せないんだけど」

 

「私も、大丈夫です。アビドスさんの事情も深く知っているわけじゃありませんし……このお金を持ってると何か別のトラブルに巻き込まれるかもしれませんし」

 

「うん、ありがと。じゃあ、先生―――――――じゃなくて、ノノミちゃん、処分お願いね?」

 

「おい、どうして俺を避けたんだ」

 

「えー?だって先生お金困ってそうだし?」

 

「……借金も過去の話で今は普通にそこそこの貯蓄があるんだぞ?」

 

そういって、笑い合ってるところであった。

 

「随分と楽しそうね」

 

「っ……」

 

耳にしたその声に、小吉を除く全員が臨戦態勢に入る。

 

その声は、マーケットガードではなく、最近聞き覚えがあり……、なおかつ、彼女たちにとって敵対した相手であったからだ。

 

「……アル、だったか」

 

「はーい。どうも。そういえば、ちゃんと対面したのは初めまして、かしら。改めまして、私は陸八魔アル。……さっきは、銀行強盗お疲れ様ね。先生と、アビドスと……トリニティの子がなんでいるのかしら」

 

「……!?完璧な変装だったはず……」

 

「……いや、せめて体格とかごまかす服着なさいよ。というか、せめて制服でやるのはやめなさい。特にアビドスの制服は着てる子限られてるんだから」

 

驚愕に目を見開いたシロコに対して、そう、冷静に突っ込みを入れるアル。

ヒフミはヒフミでトリニティであるとバレていることで混乱気味にアルに銃を向けそうになっているのをホシノに抑えられている。

 

「……それで、何の用なの!?まさか、前に負けた時のお礼参り?」

 

「マーケットガードのことならお礼は言わないよ……まだ、敵同士……」

 

「あぁ、もう敵対はやめるわ。仕事なら破棄したの。単にしばらくアビドス周りで厄介になるから、その挨拶よ」

 

銃を向けられ警戒されながらも、あっけからんと、彼女は言う。

 

「……アビドス周り云々はいいとして……大丈夫なのか?」

 

「なにがかしら。小町先生」

 

「依頼元を特定するつもりはない。詮索のつもりもないし、お前もそのあたりは隠してくれてかまわない……。その前提で……、だ……。かなりデカい組織だ。違うか?」

 

「否定はしないわ。そうね、確かに、依頼人は便利屋68からみて大企業よ」

 

笑いながら、彼女はそう言う。

便利屋68社員四名。戦闘を得意とする傭兵染みた何でも屋で、戦力こそ、多くの学園でもトップクラスの練度を誇るが、規模でみれば、これ以下の企業など、まずないだろう。

 

「……大丈夫なのか?」

 

だからこそ、小吉はそんな言葉は相手にせず、ただ、そう聞いた。

 

今回の件も、詳しく調べればすぐにわかることだろう。

 

依頼の破棄。それが本当なのだとしても、ブラックマーケットでの破壊工作、アビドスへの加担。

どちらも、相応に不味い対応なのだと、キヴォトスの状況に関して勉強中の小吉ですら理解できた。

 

「まぁ、大丈夫よ。……ゲヘナでは、こういう時はこういうの。それは過ぎた事でしょう。ってね」

 

「そうか。まぁ、何かあったら、シャーレに来てくれよ?」

 

「えぇ、そのうち。っと、早めに逃げたほうがいいんじゃないかしら。……私がここに来れたってことは、封鎖も完璧じゃあないわ。あれも、完全封鎖がメインじゃなくって、貴方達の身元を追われにくくするための一時的な工作だし」

 

「うへ……そういうことかー。ほら、みんな!急いで撤収するよー!」

 

ホシノの呼びかけに、全員が急いで走り去っていく。

 

「……。さて、私もムツキたちと合流を……。って、あら?」

 

そんな走り去っていく彼女たちを見送りながら、アルは自分の足元に転がってる何かに気が付く。

 

「……これ盗むときに使ってたバッグよね……、重いけれど、何が入って……」

 

ジーーーーーっと、ジッパーを開けるアル。

 

「……えぇっ!?ちょ、ちょっと!?アビドス!?」

 

その中身に、彼女は驚愕し、アビドスの面々を止めようと声を上げる。

だが、既に彼女たちの影も形もなく逃走した後だった。

 

「私、アウトローなんだけど!」

 

そこに入っていたのは、一億円と、少し丸っこい字で書かれた「何かいいことに使ってくださいね☆」という紙が残されていた。

 

 

バッグと、彼女あての手紙を残し、走り去ったアビドス。

 

「なにこれ!!どういうことなの!!」

 

未だに、盗んだお金を自分たちの物にしなかったことには、納得はできていない上に、そのお金を譲り渡した相手にも文句を言いたかったセリカの怒りは、今や、別のものに向いていた。

 

他の面々も、彼女たちが手に入れた集金記録にあった情報に驚きを隠せないでいた。

 

「……あのトラックが私たちのお金を集金したのは、間違いない。……でも、そのあとすぐに、カタカタヘルメット団に対して、『任務補助金五百万円』って記録がある……」

 

「これって、……カタカタヘルメット団とカイザーローンが組んでいた、ってことですよね……」

 

明かされた真実。

それは、借金を取り立てていたカイザーローンが、ヘルメット団と手を組んで債務者であるアビドスを攻撃していたということだ。

 

「……何か後ろ暗いのがあるとは思っていたが……」

 

「理解できません!先生!どういうことでしょう!?学校が破産したら、貸し付けたお金は回収できないでしょうに……どうしてこのようなことを!?」

 

「分からん。アビドスの事情は俺も詳しくないからな。一般的なことで考えれば、ノノミの意見で間違いないだろう」

 

そう、ノノミの意見はもっともなものであった。

アビドスは、彼らに借金をしている。そんな彼女たちを攻撃すれば、アビドスは借金返済ができなくなり、ただでさえ滞りそうなギリギリの借金は返済されないままになってしまうだろう。

 

「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない……」

 

「……はい。そう見るのが妥当ですね」

 

「っと。……ヒフミ。そろそろ出ないと門限に間に合わなくなるんじゃないか?」

 

「っは!?本当です!」

 

小吉の指摘に、時計を確認したヒフミは慌てて荷物をまとめ始める。

 

「見送りいこっか。慌てなくていいよヒフミちゃん」

 

そういって、焦るヒフミをなだめながらホシノたちは外へと出る。

 

「皆さん、今日はいろいろとありがとうございました」

 

「こちらこそ変なことにまきこんでしまってごめんなさい」

 

「あ、あはは……」

 

そんなことを言われれば、ヒフミからも苦笑いを返すしかない。

改めて思い返してみても彼女にとって今日は濃い一日であった。

 

モモフレンズのもう手に入らないと思っていたグッズを探しに来たのに不良たちに追われ、助けてくれた相手に恩返しだと共に行動していたら、銀行強盗をする羽目になり、最終的には大企業の不正の証拠を手に入れたことになる。

 

「今度遊びに行くから、その時はよろしくね?ヒフミちゃん」

 

「はいっ、勿論です。今回のこと……まだ詳しいことは明らかになっていませんが、これはカイザーコーポレーションが犯罪者や反社会的な勢力と何かしらの関係があるという事実上の証拠になりえます。戻ったらこの事実をティーパーティーに報告します!……それと、アビドスさんの現状についても」

 

「……まぁ、ティーパーティーはもう知ってると思うけれどね……今回のこと」

 

「は、はいっ!?い、今なんて……?」

 

「あれ程の規模を持つ学園の首脳陣ならこれくらいのこと、多分掴んでるよ。皆遊んでばかりじゃないんだからさ。カイザーだって、大っぴらじゃないとはいえ秘匿して行動してるわけじゃないでしょ?」

 

事実、彼らの犯行は大胆の範囲を超えて迂闊といっていい。

なにせ、集金した車でそのままヘルメット団のアジトに向かっており、そのうえ、集金記録と同じ紙に提供の証拠を残している。

 

大規模な学園であれば、たかが追跡回避のために電子的な繋がりを断った程度で存在を追えぬほど諜報能力が低い訳もなかった。

 

「そ、そんな……アビドスの皆さんがこんな目にあってるのに……」

 

「ヒフミちゃんはいい子だね。……でもさ、世の中甘くないんだ。アビドスは小さい学校だからさ、ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけれど、帰って私たちがパニくることになっちゃうと思うんだよね」

 

「そ、そうですか?」

 

ホシノは直接的なことは言わない。

だが、簡単なことである。

 

アビドスは継続的な武力を置かれてしまえば、詰む。

 

例えば、『カイザーの脅威からアビドスを保護する。』

そんな名目でトリニティから常駐戦力を置かれれば、アビドスはどうすることもできないだろう。

 

ヒフミは、いい子だと言われた。だが、ホシノの言葉の意味が分からないほどにバカでもない。

 

「政治、って。難しいですね」

 

導き出した答えは、……自分の力では、今のアビドスにはなにもできないという無力感。

 

「ヒフミ、そう落ち込むな。お前の気持ち自体は、ホシノだって嬉しいんだぜ」

 

そんな気持ちに苛まれたヒフミの背中を小吉は優しく推した。

 

「うん、ごめんね、ヒフミちゃん。私は他人の行為を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー?……その、万が一をスルーしちゃったから、アビドスはこんな風になっちゃったんだ」

 

痛いほどの沈黙が、その場を包む。

ホシノに、アビドスに一体、どんなことがあったのか。

 

小吉を含め、正しくそれを認識しているものは、この場にはいないのだ。

 

「……えっと、それじゃあ……私はこの辺で。今日は本当に、楽しかったです!」

 

「ん、私も楽しかった」

 

「ファウストちゃんもお世話になったねー」

 

「そ、その呼び方はやめてください!もう……と、とにかく……これからも大変だとは思いますが、頑張ってくださいね。応援してます!……それでは皆さん、また会いましょう!」

 

そういって、遂にトリニティの少女はアビドスを去っていく。

小さくなっていく背中を見届けた後、ふぅ、と、小さくため息をつく。

 

結局、一歩は前進したものの、アビドスを取り巻く状況を解決するにはあまりにも小さな一歩であった。

 

「みなさん、おつかれさまでした。今日はゆっくり休んで、明日改めて集まりましょう」

 

それでも、前に進めたのだ。

なら、それは、顔を下に向ける理由にはならない。

 

またね。と言いながら、彼女たちは家へと向かうのであった。

 

「カイザーコーポレーション、か。……まさか、こっちでもその名前が出てくるなんてな」

 

シャーレへと帰る道すがら。

小吉は一人そうつぶやくのであった。

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