シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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二十一話

「おはよー!」

 

「おはよう……」

 

便利屋68事務所。

現在便利屋68の面々が共同で寝食を共にしている場所であり、ムツキの元気そうな挨拶が響く中少しだけ元気のないアルの声が返ってくる。

 

「うわー、アルちゃんグロッキーだね。どうしたの?寝不足……じゃないよね?」

 

「……体は問題ないわ。ちょっとずつ寝かせてるから」

 

「……社長のそれ本当に便利だよね」

 

ちょっとずつ寝かせる。

人種改良を数百年単位で続けていた彼女たちニュートンの一族は、デフォルトで、体の一部を眠らせ機能を回復させる、空を飛びながら眠ることのできる渡り鳥のような性質を獲得していた。

 

更に、ショートスリーパーの能力も持ち合わせており、本来必要な時間に満たない、極短時間であっても、人間が必要な分の睡眠を確保できる。

 

故に、彼女の状態は、肉体に起因するものではない。

 

「……じゃあ、やっぱり、アビドスに渡された、それ?」

 

「……うぅ……そうよ!!」

 

彼女の目の前に置かれたバッグ。

その中には、アビドスが昨日強盗で手に入れた一億円がそのまま入っている。

 

「別にぱーっと使っちゃっていいんじゃない?ほら、どうせあぶく銭だし。銀行強盗の証拠なんでしょ?一応」

 

「ダメよ!」

 

「なんでー?」

 

「……いいことに使えって言われたから……」

 

沈黙が流れる。

 

「……ねぇ、社長本当に守る気?」

 

「あ、当たり前じゃない!……あの時の状況はこう。現金輸送車が銀行に入りお金を収めたすぐあと、アビドスは殴りこみに来た。つまり、あれは自分たちのお金が犯罪資金に使われないように妨害するための物。そのために、危険も顧みず強盗に踏み入って、その上で私たちに託したのよ!?」

 

そう、状況を整理すればそうなる。

アルの思考はニュートンの物が混じっている。すなわち、この考えは合理性から導き出されたものだ。

 

わざわざ、カイザーがアビドスを狙っていたという証拠を得るために銀行への攻撃、など。あまりに合理性に欠けるのだから。

 

彼女の視点から見れば、それだけのために銀行への襲撃を行うなど、ありえないということになる。

故に、彼女の視点から見れば、アビドスの行動は正に義賊的。彼女の憧れるアウトローなものとなる。

 

そんな彼女たちから託された金を、自分たちのために、……などとは、到底言えなかった。

 

「とはいえ、どうする?アビドスでの依頼は、アビドスの子たちとの競合になるし……いっそ、ゲヘナに戻るのもありなんじゃない?」

 

「はあ!?」

 

「い、今更帰るのは難しいんじゃないでしょうか……。風紀委員も、アル様を警戒しているでしょうし……」

 

「……うーん。……風紀委員。確かに私たちを目の上のたんこぶみたいに疎んではいるけれど、……ヒナが出てこないなら、大した問題にならない」

 

そう、ゲヘナへの一時帰還を提案したカヨコは言い切る。

 

「まぁ、……風紀委員長以外はへなちょこだもんね?」

 

ゲヘナ風紀委員会。

広大で、多くの生徒数を誇るゲヘナの治安を維持する武装組織。

ともすれば、キヴォトスにおいて最強の武装組織とさえ言われることもある彼女たちであるが、実質は、風紀委員長である空崎ヒナのワンマンチーム。戦力の大半を彼女一人が担保しているといっても過言ではなく、彼女のいない戦場においては、たとえ彼女たちが出張ってきたとしても、ゲヘナの問題児たちは大した障害ではないと認識している。

 

「人数が人数だから、流石に策略は練る必要はあるけれど、ね。逆に言えば、それさえしてれば、十分に勝算はある」

 

「……カヨコ課長はいろいろと考えていたんですね」

 

「いつか必ず相まみえることになるだろうから。……社長がアルな限り」

 

「……」

 

ニュートン。

勿論、それだけがすべてではないだろうが、それでも、彼女がいる限り風紀委員会は便利屋68に強い監視の目を向ける。

 

「……すぐに、ゲヘナに戻るってことはないわ。……とはいえ、どうしたものかしらね」

 

「もう少し南下してみる?シャーレのあるD.U.地区はここよりは大きな街の規模だし、そういう仕事も多いかもしれないし」

 

「うーん……」

 

そんな風に頭を悩ませていると、ぐー、っと、アルの腹の音が響く。

ばっ、っと、素早い動きでお腹をかばうようにするが、狭い事務所の中。当然三人に聞こえないはずもなく。

 

「んー、ご飯食べに行こうか、ラーメン?柴関?」

 

「最近いっつもじゃない?……セリカってこと気まずくならない?」

 

「大丈夫だって―、昼からのシフトって言ってたし今から行けば問題ないよ」

 

「うぅ……一生の不覚だわ」

 

「それ、今月でもう十回くらいいってない?」

 

「ほーら、行こ行こ♪どうせ、アルちゃん他の所だと今お腹八分目も食べれないんだしさー」

 

そういって、彼女たちの今日のランチタイムの場所が決定したのであった。

 

 

「お、今日はみんないないのか?」

 

そういって、アビドスに来た小吉が対策委員会の部室へと顔を出すと、そこにはノノミとそのノノミに膝枕を受けているホシノだけがいた。

 

「おはよー、先生」

 

「先生、おはようございます。今日は早いですね」

 

「あぁ、おはよう。なんだ、ホシノ、いつにもましてリラックスしてるな」

 

「ん?うへー。ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよー?私だけの特等席だもんねー」

 

「先生もいかがです?はい、どうぞ~☆」

 

「流石に駄目だろ。四十過ぎのおっさんが女子高生の膝枕何ぞ堪能してたら捕まっちまうぜ」

 

「そうそう、ここは私の場所なんだから、先生はあっちの座り心地の悪そうな椅子にでも座ってねー」

 

へいへい。と、言いながらも椅子に腰かける。

 

「それで今日はみんなはどうしたんだ?セリカは……昼からはバイトって聞いてたんだが……」

 

「んー、シロコちゃんはきっとトレーニングでしょうね。アヤネちゃんは多分勉強をしに図書館に、昨日はあんなことがありましたけれど今日は、久しぶりにゆっくり出来そうですし、思い思いにやりたいことをやってるんだと思います」

 

「ノノミちゃんも教室とかの清掃してたからねー。皆頑張り屋さんだよ」

 

「へぇ、じゃあ、ホシノは何してたんだ?」

 

「ん?私?私は当然ここでダラダラしてただけだよー」

 

そんな彼女にがくり、と崩れ落ちる小吉。

 

「ホシノも何か始めてみたらどうだ?格闘技とかなら俺も教えられるぞ?」

 

「無理無理、おじさんは年齢的に無理が効かない体になっちゃったもんでねー。それにキヴォトスだと近接戦はあんまり重要視されてないし」

 

「歳は私とほぼ変わらないですよ?」

 

「うへ~……。とにかく、先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない?そんじゃ、私ゃこの辺でドロン。」

 

「?どこか行くのか?」

 

そういって部屋を出ようとするホシノに小吉は声をかける。

 

「うへ~今日おじさんはオフなんでね。てきとーにさぼってるから、何かあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん。先生も、今日はお疲れさまー、頑張ってねー」

 

それだけ言うと、すたすたと去って行ってしまう。

 

「……まぁ、今日明日にどうこうってことはないからいいか?」

 

「そうですねー。便利屋の子たちを雇ってた相手も、彼女たちが手を切ったのなら、そう簡単に同戦力を用意できるとも思えませんし……。それにしてもホシノ先輩も、以前に比べてだいぶ変わりました」

 

「お?……そんなに尖って……あー、いや、そういえばそうだったな」

 

そうでも、と考えた小吉の頭に過るのはあの時。

ニュートンのアルがアビドスに攻め入った時のホシノの必死さ。

 

あれがあるのならば、確かに昔は尖っていたと言われれば、納得できる。

あるいは、今も底では余裕がないのかもしれない。

 

「昔のホシノってどんな奴だったんだ?」

 

「そうですね……今はいつも寝ぼけてるような感じですが……私がはじめてであった頃の先輩は、常に何かに追われているみたいでした。……ありとあらゆることに、です」

 

「……続けてくれ。ただ、話しにくいところとかがあったら、止めていいからな」

 

昔話をし始めるノノミの言葉を先へと促す。

 

「そんなに知っているわけじゃありませんよ。……昔、ホシノ先輩にはとある先輩がいたんです。アビドス最後の生徒会長だったらしいんですが、とても頼りない人で、その人が去ってからはすべてをホシノ先輩が引き受けることになった、と。そんなホシノ先輩も当時一年生だった、とか……」

 

一旦、言葉を区切り、でも今は、そうノノミは続ける。

 

「今は、先生もいますし、他の学園の生徒たちとも交流できています。以前だったら、ほかの学園と関わること自体嫌がってたはずですから、かなり丸くなりましたね。うん、きっと、先生のおかげですね☆」

 

「ははっ……そうならいいけどな」

 

二人の談笑は、他のみんなが来るまで続いた。

 

「……」

 

仲良さそうに話すノノミと小吉を見ながら、ホシノは街へと歩く。

 

安心した。

 

そう思いながら、呼び出しを受けた場所へと歩く。

 

アビドスの街。

その中のビル。その上層階。

 

そこにいるのは黒づくめ……。いや、そう表現するにはあまりにも異形な、黒の男であった。

 

「これは、これは……。お待ちしておりましたよ。暁の……いえ、ホシノさんでしたね。これは失礼。いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。こちらへどうぞ」

 

「それで、黒服の人。……今度は何のようなのさ」

 

「……状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

 

「提案!?ふざけるな!それはもう……」

 

その物言いに、ホシノは激昂する。

だが、黒服の異形は意に介さずなだめる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください」

 

その言葉にホシノは歯を食いしばり、目線で先を促す。

 

「落ち着きましたか?……貴方達の文化を知るために最近は映画というくだらないものに目を通していましてね……この状況にあった言葉を送りましょう……」

 

異形はそういうと、とさりと椅子に腰を掛け、小さくため息を吐くと、ホシノをみて口元を歪ませる。

 

「ホシノさん。あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。興味深い提案だと思いますので。ぜひご清聴ください」

 

目つきをより鋭くするホシノの前で異形はただ、笑うのであった。

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