シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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二十六話

「……それで、本当なの?先生……柴関が店をたたむ予定だったって話は」

 

「あぁ。……だからこそ、アルの前では言い出しにくかった」

 

アルたちと別れて、アビドスへの移動の道中。砂漠に行くために三人分の用具を買いそろえていた。

そんな中、話に上がったのは、紫関の話。

 

勿論、あの会話に嘘はなかった。

小吉とアヤネたちが病院へと向かった時、柴関の大将は、かばってくれたアルたちに感謝をしていた。

 

だが、それ以上の問題があったのだ。

 

「元々、少し前からアビドスにはあのあたりの土地の所有権はなかったらしい」

 

「あ、あっさりと言っていますけれど、それって、すごい不味いことなんじゃないでしょうか」

 

そんなハルカの言葉にカヨコは同意を示すように頷く。

 

「実際不味いよ。学園にとって、土地の貸し出しはバカにできない収入の一つ。っていうのを差し引いても、借金の形に学園の土地を取られるなんてこと、そうあることじゃない。……アビドスの子たちは?」

 

そんな疑問に、小吉は小さく首を振り言葉を続ける。

 

「知らなかった。なんせ、シロコ達は入学前の話だったみたいだからな……。最年長のホシノもわからないかもしれないな」

 

「……私たちのせいだ、って思っているわけじゃないけれど、ちょっと、悪いことをしちゃったな……」

 

「……気にすんな。っていうのも難しいだろうが。直接的な原因は、カイザーからの立ち退き勧告だ。今回の件がなくとも、大将は畳む気だったろうさ。……まぁ、風紀委員がちゃんとした賠償をするだろうから。そこからは、大将次第だ」

 

とはいえ、小吉にもその先は分からない。

だが、少なくともセリカは折れるな、と叫んでいた。

その思いに彼が答えるかどうかは、文字通り、神のみぞ知る話であった。

 

「せ、先生。チェックリストにあったもの、集めてきました」

 

そんな会話をしている間にハルカは必要なものを集めていたらしい。

小吉も目を通すが、抜けているものはない。

 

「おう。じゃあ、さっさと買ってアビドスにもどろう」

 

 

「あれ?先生。おかえりなさい、早かったですね……それに……。便利屋さんたち?」

 

アビドスへと戻った彼らを迎えたのはほうきを持ったノノミの笑顔であった。

 

「社長からの指示で、しばらく先生の護衛を務めることになった。鬼方カヨコ。……攻撃の意志はないよ」

 

「そうですか☆先にアヤネちゃんたちが帰って来たので、何かあったのかと思いましたけど便利屋さんたちのところにいってたんですね。納得です」

 

そういうカヨコにすぐに警戒心を解く。

 

「ノノミは……掃除か?」

 

「はい。ちょっと、落ち着かなかったので……大将さんは、大丈夫、なんですよね?セリカちゃんたち、話してくれなくて……。」

 

自分たちのことに負い目があるのか、カヨコは、責めてこないノノミに対して、少しだけ視線を向けているが、小吉はそのことに触れずに話を進める。

 

「怪我はな。アルたちがかばってくれたおかげですぐに退院もできるだろうってな」

 

「ほんとですか!よかったです。……怪我の具合はあの時見てはいましたけれど、やっぱり、入院ってなって心配していたんです。……落ち着いたら、改めてシロコちゃんたちとも一緒に伺おうと思います」

 

そんな言葉を、笑顔でいつものような元気のよさで言うノノミ。だが、それは、ある考えと混ざり、少しずつすぼんでいく。

 

「……ですが、けがは、ということは……」

 

恐らく、答えをある程度予想していたのだろう。

なにせ、セリカやアヤネは先に戻っていて、それでも、彼女たちは口を瞑んだのだ。

 

ノノミは、そこまで疎い少女ではなかった。

 

「……店が壊れちまったのはやっぱりつらいもんがある。でも、今の俺たちに出来ることはない」

 

だからこそ。

小吉は彼女にごまかしの言葉をすることはしなかった。

 

「……まだ、そんなに立っていないのに、思えば、先生がいらっしゃったころから、いろいろなことがありましたね。もちろん、いいことも、楽しいことも、……補給も確保できて、いろいろな問題を乗り越えることもできました……」

 

その言葉を紡ぐ彼女は、笑顔を保ったまま。

だが、声は少しずつかすれて。

 

「なのに、……なんででしょう。何度乗り越えても、……新しい壁が立ちはだかってくる。次は……何が来るんでしょうか」

 

それは、きっと彼女の本心であった。

当然だ。ホシノがしっかりしていない。というわけではないが、それでも、アヤネやセリカにとって。

あるいは、シロコにとっても、強さ、ではなく、精神的な面での支えはおそらく彼女であった。

 

優しく、どんな時でも笑っている彼女。

 

そんな彼女が、弱音を吐けるときなど、……少なくとも彼女たちの前ではそうないのだろう。

 

「すみません。暗い話をしてしまいました」

 

「気にするな。大丈夫だ。お前たちのピンチの時には、俺は必ずノノミたちのところに駆けつけるし、一緒に立ち向かってやる。俺は、アビドス廃校対策委員会の顧問の先生だからな」

 

その場の空気が軽くなるのを、部外者であるカヨコ達も理解できた。

その言葉に、ノノミの表情は明らかに和らいでいた。

 

「ありがとうございます!先生にそうおっしゃっていただけると、心強いです」

 

そんな笑顔を彼女は先生に返す。

 

「ノノミ、先生。それに……便利屋の?」

 

「あ、シロコちゃん、遅かったですね」

 

シロコが帰って来たのは、そんな風に和やかな空気になり始めた頃であった。

カヨコとハルカの存在に疑問を持ちながらも、特に気にした風ではない。

 

「ノノミ、ホシノ先輩は?」

 

「先輩ですか?今日も、学校のどこかでお昼寝中かと

 

「……そっか」

 

「何かあったのか?」

 

「ん、そうじゃないよ。……先生、大将の容体は?」

 

「大将は、体の方は無事だったそうです☆ただ、それ以外にもいろいろとあるそうでして。あ、便利屋のお二人はそれ関係できてるんですよ、みんなが集まったら改めてそのあたりのお話もしましょうね」

 

「ん、わかった。じゃあ、先に入ってるね」

 

そういうと、早足で校内へと入っていく。

 

「……?」

 

「なんだか、変、だったな?」

 

普段であれば、一緒に行く。

そうでなくとも、少なくとも少しくらいはカヨコ達への警戒はする。

 

共闘をしたとはいえ、一度はアビドスへの襲撃をした二人だ。

だが、それを、あとで説明するとだけ言われて、納得し、去って行った。

 

「……何でしょう、ちょっと、不安そうといいますか、焦っているといいますか……」

 

「気のせいならいいが……。今すぐに、っていうのも、難しいだろうな」

 

そういいながら、小吉は頭をかく。

思い出すのはU-NASAでのこと。

 

思えば、あそこにいた仲間たちも抱えこんでるものも、それぞれあった。

だが、それでも、彼らは立派な、と言っていいかはわからないが、少なくとも独立していた。

【大人】であったのだ。

 

だが、彼女たちは違った。

どれだけ、独り立ちしているように見えても、彼女たちはまだ少女で、子供であった。

 

だからこそ、難しい。

 

時間が解決してくれる。そう、信じたいが、時間があるかはわからない。

 

「せ、先生、その、そろそろ、入りませんか?」

 

「……そうだな」

 

だが、それは立ち止る理由にはならない。

 

彼らは今後の方針の話し合いのために、アビドスの校舎へと向かうのであった。

 

そして、彼らがいつもの部屋へと向かおうとしていた時だ。

 

争う音が、少し離れた教室から響く。

 

「いたた……痛いじゃ~ん、どしたの?シロコちゃん?反抗期?」

 

「いつまでしらを切るつもり?」

 

「っ!シロコ!ホシノ!」

 

教室からわずかに届いた声に、小吉と、それにつられて全員が走り出し、教室へと駆けこむ。

 

「うへ……。何のことを言ってるのか、おじさん。わからないな」

 

「……嘘、つかないで」

 

「嘘じゃないって……ん?あー。ノノミちゃん、それに先生と、便利屋ちゃんたち?」

 

そこにいたのは、やはり、ホシノとシロコであった。

 

「シロコちゃん!ホシノ先輩!何があったんですか!?」

 

「……ん、その……。ホシノ先輩に用事があるの。先生も、悪いけれど、二人きりにして」

 

「うーん……それは、だめです☆対策委員会に、『二人だけの秘密♡』みたいなものは許されません。なんせ運命共同体ですから」

 

そんな、説得に、シロコは明らかに困った風な様子を見せていた。

 

「……でも、」

 

「きちんと状況の説明もしてくれない子にはお仕置き☆しちゃいますよ?」

 

「え、えっとねー?実はおじさんがこっそりお昼寝してたのバレちゃったんだよねー。」

 

もう、シロコちゃんったら真面目だなー。なんて言いながらホシノは時計を見て、集合時間でしょ?行こう?といって、一人すたすたといってしまう。つられて、シロコも、頷いてしまい、そのまま、彼女についていく。

 

「……いいの?先生。あれ。……絶対、面倒なことになるよ?」

 

反応もできないままに行ってしまった二人を見て、カヨコは、そう、小吉に耳打ちをする。

 

「そうだな。だが、その前に、だ。……ノノミ」

 

「は、はい!?な、なんですか?先生」

 

ぼーっと、二人の背中を眺めていたノノミは、声をかけられたことに驚いてしまう。

 

「大丈夫か?」

 

「……私には、言いたくないことがあるみたいですね。仕方ありませんね。誰だって、言いたくないことの一つや二つくらい……」

 

「仕方なくはないだろ」

 

「え?」

 

ノノミの俯きそうになった顔が上がる。

その表情は、今にも泣きそうなもので、彼女の不安を読み取るには十分なものだ。

 

そう、仕方なくなんてない。

少なくとも、もう、ノノミは限界だ。

 

「ごまかさなくてもいい。……ちゃんと、話をするべきだと俺は思う」

 

「……。ありがとう、ございます。先生。でも、……今はきっと、二人は話してくれません。だから、……もう少し、待ってみます。行きましょう、もう、みんな、集まってるはずですから」

 

少なくとも、その言葉を聞いてノノミの表情は緩んだ。

だが、それだけだ。

今のこの状態を変えるには、あまりにも状況が悪い。

 

少なくとも、ホシノはごまかすつもりで、シロコは、その喧嘩の内容を後ろめたく思っている。

先ほどのホシノの言葉が真実であるとは、誰も、それこそ、カヨコやハルカでさえ思っていないのだから。

 

「難しいなぁ……」

 

「……先生、あの子行っちゃったよ。ついていかなくていいの?」

 

「っと、そうだったな……。それじゃあ、俺達も行くか」

 

「は、はい!」

 

そういいながらノノミの背を追うように、三人はアビドスの廃校委員会の部室へと向かうのであった。

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