シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「先生、出発する前にちょっと時間が欲しい。相談したいことがあって」
「ん。あぁ。わかった。カヨコ、アビドスのみんなと準備の方を頼む」
会議の結果、アビドス砂漠へと向かうことは、確定した。
カイザーが何をしているかはわからない。
だが、少なくとも、砂漠には何かあることが分かった。
そして、……現状はそれ以外、手詰まりであることも事実。
故に、元々、用意していたこともあり、一度カイザーが何を目的にしているのかを調べる必要があるという結論に至った。
すぐに出発。
……と、考えていた時である。
シロコが小吉に相談を持ち掛けていた。
会議前のことだろうか。と、思いながら、小吉はカヨコたちに砂漠行きの準備を任せ、先に進むシロコの後を追いかける。
「それで、なんだ?シロコ」
彼らがはいったのはアビドスの使われてない教室。その一つ。
小吉の問いかけに、シロコは、カバンの中から一枚の紙きれを取り出した。
「……これ。ホシノ先輩のカバンから見つけたの」
「っ!?」
それを受け取った小吉は、驚きを隠しきれなかった。
なにせ、その紙には、……ホシノの名前で、退会届が描かれていたのだから。
「ん……先生以外には誰にも見せてないし、言ってもないけど……。バッグを漁ったことはホシノ先輩にバレてると思う」
「……シロコ、お前はどうしてそんなことをしたんだ?」
「……言ったでしょ。ホシノ先輩は……いつも、私たちの前に立ってくれてる人。……あそこまで長い時間、席を外すなんてこと、今までなかった。それに、あんな状態になってまで、先輩が来ないなんて……。だから……ドウシテも引っかかって、先輩のバッグを漁ってみたら、それが」
「……そうか、俺も、その引っ掛かりは気が付かなかったが……確かに、お前たちと活動を共にしてきて、あれだけ長時間、お前たちからホシノが離れていたことはなかったように思う」
彼女の言う、些細な違和感は、恐らく、シロコとノノミにしかわからないことなのだろう。
「……ごめん。こんなこと、悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩からはもちろん、先生にも怒られても仕方ない」
「……いや、ホシノが心配だったんだろう?なら、俺からは今は何も言わない。……けど、あんまりしないようにな。それと。他のみんなには……」
「……うん。先生もわかってると思うけれど、……。先輩は、何か隠し事をしてる」
「あぁ。……分かってるよ」
だが、それに対して、今、自分たちがどうにかしてやれることはない。
教室のなか二人は、無力感に苛まれた。
いつか、話してくれるかもしれない。
だが、そのいつかは、……手遅れになった後かもしれない。
「……だが今は、ホシノのことを知るためにも、俺達は、アビドスの現状を正しく把握しないといけない」
「……ん。わかった。行こう、先生。アビドス砂漠へ」
そういって、二人は教室を後にした。
そして、数時間後。
『ここまでは列車で来ることができましたが、ここからの移動手段は徒歩しかありません』
「大丈夫だ、準備ならしてきた」
アビドスから列車に乗り、遂にカイザーの動くアビドス砂漠の目前までたどり着いた。
『もう少し進めばアビドス砂漠……このアビドスにおける砂漠化が進む前から砂漠だった場所です。普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタなどが徘徊してる危険な場所なのですが……』
「……なんでそんなものが?もう廃棄されて久しいなら、とっくの昔に、パーツも限界を迎えてるんじゃないのか?それとも、どっかに供給元でもあるのか?」
そんなアヤネの言葉に小吉は疑問を挟む。
『すみません。私たちも、普段から出入りするような場所でもなく……』
「そういう、情報とかも、本館から移動するときに散逸しちゃったからさー。私たちもよくは分かってないんだ~。ごめんね?先生」
「いや、いいんだ……なら」
『はい……ここからは実際に進んでみるしかありません。アビドス砂漠で、カイザーが一体何を企んでいるのかも……。皆さん、火器のチェックをお願いします。ここからは強行突破になります』
砂漠地帯。
ただ広く、戦闘となれば僅かな砂の起伏も遮蔽となるが、身を隠すという面で見ればそれができる場所はあまりに少ない。
故に、この先を進むには、ある程度ならば回避もできるだろうがそれにも限界はある。
……なにより、カイザーコーポレーションの暗躍が本当なのだとしたら。
人員が配置されている可能性が非常に高かった。
「けどさ、アヤネちゃん。よく考えると、その情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ?……それってなんかおかしくない?どうしてほかの学園の生徒が、私たちも知らないような自治区の情報を知ってるわけ?」
『……ゲヘナの風紀委員会はかなり情報収集能力に秀でてるって聞いたことがあるから……、私達じゃ想像もつかないような情報網をもってる、とか』
「まぁ、そういうこともあるだろうな……」
キヴォトスにおいて、自治区は小規模な国家のようなもの。
で、あるのならば、当然。存在してもおかしくはない。
『委員長ということは、その情報が集約するのは何もおかしなことではありません……』
「……どうなんだ?カヨコ、ハルカ」
『あ、そうですね!今ならゲヘナから来たお二方がいるので』
「……そうだね。ゲヘナは確かに、そういうところもあるよ。……今の風紀委員がどれほどの規模で情報を集めているかはわからないけど。少なくとも、今はゲヘナにとっては大事な時期だから。普段以上にわずかな情報でも逃したくないのかも」
「大事な時期?」
「……ま、今回の仕事には関係ないから、終わったらはなそ?先生」
「あ、あぁ……」
少しはぐらかされてしまったようではあるが、少なくとも、現状のカイザーの事件とは関係ない。というのは本当なのだろう。話さない、と言っているわけではないのだし。
「じゃ、セリカちゃんの疑問も、わかったところで、そろそろ出発しよっか。言ってみたら、いろいろ分かるでしょ。行って、自分たちの目で確かめれば早いんだからさ」
そういって、砂漠への道を七人で進んでいく。
「とはいえ、この辺りはまだ不良たちもいるんだな……」
「この辺りはまだ砂漠じゃないからね。ほら、整備されてた痕跡が残ってるでしょ?」
だが、いざ駅から進んでも出会うのはノノミが危険と言っていた存在ではなく、ただの学生たち。
一般にスケバンと言われているような少女たちが縄張りに入ったといって攻撃を仕掛けてくる。
「この子たちも行き場がなかったからこの辺りを縄張りにしてるんだろうね。この辺りに人が来ることは滅多にないし、生活圏までは電車で行ける。私たちも来ないから隠れ住むには悪くない、って感じかな」
「……そういえば、議題にあったの、こいつらみたいなやつらじゃダメなのか?」
それは、単純に浮かんだ疑問である。
以前、ホシノは冗談交じりとはいえ他校生徒の拉致を企てていた。
それを考えれば、不良たちを生徒に引き込むことの方がまだ健全だろう。
「んー……。ダメ、っていうわけじゃないけれど、不良の引き込みもリスクだからね……」
「実際、生徒の減少に焦って引き入れた結果、内部で暴れられて廃校か、乗っ取られたって小さい学校は少なからずあるよ」
「なるほどな」
納得ではある。
確かに、アビドスの面々は強いが、それはあくまで個人として。
数人であれば叩きのめすのは難しくないだろうが、それが数十、数百となれば変わってくる。
今、こうしているということは、少なからず彼女たちも何かしら問題があったのだろう。
何も知らないまま、無理に学園に引き込むのはどちらにとっても損失である。
「難しいもんだな……」
「先生もアビドス以外の問題に向き合うことになったら、いつか戦わないといけないことかもしれないね―……っと。ついたよ」
そして、十数人のスケバン少女を倒したころ。
視界に現れた景色は、先ほどまでと一変した。
「……ここが、捨てられた砂漠か」
「砂だらけの市街地に行ったことはありますが、ここから先は私も初めてです……」
ノノミの言葉に、小吉が周囲の表情を見てみれば、カヨコ達も含め僅かばかりに緊張した面持ち。
勿論、真相に対する考えもあるのだろうが、この緊張は、それ以上に初めての本格的な砂漠に対するものだろう。
「いや~、久しぶりだねぇ、この景色も」
ただ一人。ホシノを除いては。
「ホシノは来たことがあるのか?」
「うん、前に生徒会の仕事で何度かねー。もう少し進めばそこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」
「え、オアシス?!こんな砂漠のど真ん中に?!」
驚くのも無理はない。あたりの景色は一面、砂ばかり。
そのようなものがあるようには、とても見えない景色であった。
「うん。まぁ今はもう全部干上がっちゃったんだけどねー。元々はそんじょそこらの湖よりも広くって、船を浮かべられるくらいだったとか。とはいっても、私も直接見たことはないんだけどねー」
「……私も聞いたことある。アビドスでは有名なお祭りで、すごい人数の人が集まるって」
「そんなのがあったのか……」
「別の学校からも祭り見たさに人が来るくらいだったらしいからね。とはいっても、砂漠化が進み始めるよりももっと前のことだけど……。この辺りも住みやすい場所だったらしいしね」
そんな話をしながら、一行は砂漠の道を進んでいく。
砂漠の熱は、一行の体力を少しずつ奪っていく。
いくら対策をしているとはいえど、極限環境であることに違いはない。
「アヤネ。目的地まではあとどれくらいだ」
『目的地になっているセクターまでは、まだ少し時間がかかりそうですね。みたところ、この辺りには何もありませんが、とりあえず警戒しつつ前進を続けて……!すみません!敵影、近くに発見しました!こちらに来ます!』
「……そうみたいだな」
アヤネの言葉に警戒を強めれば、不自然な砂ぼこりが前方に上がっているのが見えた。
風によるものではない。
『敵影捕捉……オートマタの集団です!』
「例の奴らか……。ホシノ!ハルカ!」
「は、はい!」
「りょうかい~。先生は下がっててねー?」
声をかけられた次の瞬間。二人は前線の構築のために走り出す。
その行動は普段よりも早い。
何故ならここは、街中ではなく、砂漠地帯。
しかも、運の悪いことに、遮蔽物までにはかなりの距離がある。
接敵距離が近い場合、小吉を巻き込まないで済む保証はなかった。
戦闘集団のオートマタに対して、二人はほぼ同時に銃口を向ける。
互いの実力を、彼女たちは理解していた。
その上で、互いにその速度に舌を巻く。
「うわ……、あの子、ホシノ先輩に並べてる」
「ん、元々前回の襲撃の時、私たちは便利屋に抑えられてた。……実力は折り紙済み。私たちも行こう。地上は先輩たちが抑えても、ドローンは上から抜けてくる」
「はーい。それじゃあ、先生、行ってきますね☆」
そういって、三人もまた、戦場となり始めた前方へと駆け出していく。
「……さて、しかし、本当になんなんだろうな……あの兵器は」
小吉は、眼の前の戦場で破壊されていく兵器たちを観察する。
それらの姿は細部を除けばマーケットガードたちと変わらないようにも思える。
「くそ、ロボの市民と見分けがつかないな……。カヨコは、分かるか?」
「……戦闘中は難しいかな。でも、人なら、その動きに個性が出る……先生なら、分かるんじゃない?」
「……慣れるまで苦労しそうだ」
そう、息を吐きながら小吉は戦いが終わるのを見守った。