シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「やはりあの噂は……本当だったのですね」
そういう黒髪の少女の言葉にリンは小さくうなずく。
「どういうことだ?連邦生徒会長が行方不明……?」
「……えぇ。あの人は現在行方不明です。そして、あなた達の求めていた疑問への答えですが、……結論から言うと「サンクトゥムタワー」の最終管理者がいなくなったことで今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態にあります。認証を迂回できる方法を探していましたが、先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」
小吉の言葉に対してそう短く答えたリンは、彼女たちへの回答として言葉を示す。
「それでは、今は方法があるということですか?」
そう、黒髪の少女は、リンへと言葉を促す。
「はい。この方こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「……俺が?」
フィクサー。確かに、彼には経験があった。
多くの人をまとめ上げた経験が。
「ちょっとまって。そういえば、この先生は一体どなた?どうしてここにいるの?」
ここにきて、ようやく、彼女たちは、彼に対して興味を示す。
各自治区によって行政が為されているといっていたが、それでも大本がここだからだろう。
彼女たちの目から見ても、珍しくはあれど、市民の、あるいは教師の一人だと思われていたらしい。
「見たところ、キヴォトスではないところから来た方のようですが」
同じく、長身の少女がそれに同意するように言葉を続ける。
「はい。こちらの方は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、……えぇ、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
彼女に対して答えるリンの言葉も、引継ぎがなかったばかりに少しばかり覚束ないものであった。
「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの……」
勿論、彼女がそんな様子に、彼女たちも事態を把握しきれていない。
故に、彼は、前へと出る。
「……あー。そうだな。一度、ちゃんと自己紹介をしよう。俺は、小町小吉。外では、……小規模な警備会社の隊長、みたいなことをやっていた。君たちは?」
「わ、私は、ミレニアムサイエンススクールの……い、いや、自己紹介なんて今はどうでもよくて……!」
「よくはないだろ?一応……先生やるなら」
「そのうるさい方は気にしなくていいですよ。小町先生。続けますと……」
「誰がうるさいって!?私は早瀬ユウカ!覚えておいてください!先生!」
吠え猛った少女……。
ユウカの言葉が終わり、その場に集まった少女たち……学生とは思えないスタイルの翼をもつ少女ハスミ。
栗色の髪に、腕章をしたチナツという少女と、これまで言葉を発することのなかったスズミとも自己紹介を終えたところで、リンは再び話しを続ける。
「……話を進めましょう。先生は、元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。連邦捜査部「シャーレ」。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で制約なしに戦闘活動を行うことも可能です」
説明を受けても、キヴォトスに知識がまだない小吉をよそに、ユウカたちはその権限に息を呑んだ。
キヴォトスにおいて、各学園の自治は、その学園にゆだねられている。
その前提を鑑みれば、シャーレに与えられた権限はあまりに大きく、その力は無視できないものだということを彼女たちは理解していた。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を連邦生徒会長が作ったのかはわかりませんが……シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこにとあるものを持ち込んでいます。私たちは小町先生をその場所へとお連れしなくてはなりません」
そういいながら、リンは端末を起動し、内線を繋ぐ。
すると、そこには桃色の髪をした幼い少女のホログラムが浮かび上がる。
……菓子を手にしていることは、今更彼女が気にすることではないのだろう。リンは、そのまま話を進めた。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど」
「シャーレの部室?……あー、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだよ?矯正局を脱出した生徒が騒ぎを起こして、そこは今戦場になってるよ」
「……?うん?」
彼女の話の最後の単語に、その場にいる誰もが、引っかかる。
今彼女は何を言ったのか。
「戦場……?」
リンの言葉に、その場の空気など気にすることなくモモカは言葉を続ける。
「連邦生徒会に恨みを抱いた子が地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの」
航巡戦車まで仕入れたみたいだよ。とモモカは、まるでなんともないかのようにいう。
小吉は、これがキヴォトスの普通なのか、というように視線を向けるが、どうやら、そうではないらしい。
程度の差はあれ、ユウカたちの表情は、驚愕が見て取れる。
「それで、シャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」
大事なもの。そういわれて、この場の人間の頭に浮かぶのは、リンの言った【とあるもの】。
そして、視線を事情に詳しいリンへと映せば、その口元は、引きつっている。
「まぁでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大したことな……あ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たからまた連絡するね」
ぷつん、と、それだけ言って通信は終わってしまう。
「……」
通信が切れた後の彼女の表情を見ればわかる。
怒り。それが、濃く浮かび上がっていた。
想像すればわかる。秘密裏に運び込んでいた物資の所在が犯罪者に割れていて同僚は何の対処もするつもりもない。
「その、大丈夫か?リンちゃん」
「リンちゃんでは……、はぁ……大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
本当に?
キヴォトスに来て未だ数時間と経っていない小吉にもわかるほどに、状況が混乱しているのが理解できる。
だが、そう言い切った彼女に深く追求することは流石にできなかった。
僅かな間、場が鎮まる。
……そんな状況で、小さな咳払いが響いた。
「あー。……悪いんだが、少しだけ手伝ってくれないか?」
「わ、私たちですか!?」
小吉の提案にユウカは声を上げる。
無理もない。彼女たちは、抗議をしにきただけなのだ。
それに理解を示しながらも、彼は続ける。
「俺も、ここのことを全部理解してるわけじゃないから、はっきりとは分からないんだが、……それでも、君たちとこの連邦生徒会の目的は共通しているはずだ。もし、今シャーレの部室にある「とあるもの」が奪われてしまえば、この騒ぎは、ますます長く続く」
違うか?
そういう小吉の言葉に、ユウカや、集まった少女たちは、少しだけ顔を見合わせる。
「はい、そうです。小町先生。キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
それに、待っていました。と、ばかりにリンは乗る。
あるいは、元から自分から提案するつもりだったのか、そういった彼女は、速足で外へと足を向けていた。
「ちょ、ちょっとまって!?どこに行くのよ?!」
そんな彼女を、まだ話は終わっていない、というようにユウカは駆け足で追いかけ始める。
「見失ったらまずい。すまないが、君たちもついてきてくれるか?」
そして、その場にのこされた小吉は、同じく残された三人の少女とともに、二人を追いかけることとなった。