シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
『皆さん!前方に何かあります!』
アヤネからそんな言葉が飛んできたのは、オートマタとドローンの集団を潜り抜け、少し進んだところであった。
「どんな施設だ?」
『巨大な町……いえ、工場か駐屯地……?と、とにかく、ものすごく大きな施設のようなものが!』
「ホシノ」
アヤネの報告に、小吉はホシノへと視線を向ける。
「……ううん、私も、こんな場所にそんなのがあるなんて知らない。何かの見間違えとかじゃない?」
だが、周辺のことをある程度は知っているはずのホシノも、その施設には心当たりがないといった様子であった。
ホシノは、その知識故に、見間違いではないかとアヤネに返す。
しかし、アヤネも、それが何かであるかは判別できていないために、少しだけ困った様子を見せている。
『おそらく見間違いではないと思うのですが……。とにかく、肉眼で観察できる範囲まで皆さん前進をお願いします』
だからこそ、オペレーターである彼女はこう答える以外にない。
彼らがすべき決断もまた、彼女の示したもの以外にありはしない。
警戒を続けながら、一行は前へと進み始めた。
そして、
「……」
「なにこれ……」
険しい表情を浮かべる中、セリカが一人、声を漏らす。
無理もない。ここは砂漠のど真ん中。
だが、眼の前に広がる有刺鉄線は、どう見ても数キロメートルまで広がっている。
奥行までは想像がつかないが、恐らく同程度はあるだろう。
それほどまでに巨大な施設でありながら、彼らには、その中で行われることが想像しきれない。
工場か、それとも何かの採掘施設か。
「こんなの、昔はなかった……」
少なくとも、今彼らにわかるのは、ホシノが知らない以上、ここ数年のうちに建てられた施設である。ということだけ。
「とにかくっ!?皆、避けろ!」
次の方針を示そうとしたその時、辺りに小吉の言葉が響き、次の瞬間に彼女たちの前に銃弾が飛び込んでくる。
「侵入者だ!捕らえろ!」
『前方から正体不明の兵力が攻撃を仕掛けてきます!』
「見つかったか……。どうやら、さっきまで砂漠をうろついてたやつらとは違うみたいだな」
「そうみたい。ま、よくわかんないけど、歓迎のあいさつなら返してあげないとね!」
そういって、ホシノが前線を構築し、少しだけ反応が遅れたハルカがそれに続く。
先ほどの戦線構築能力でも挙げられたが、この二人の突破能力はかなり高い。
盾により着実に攻撃を防ぎながら、前線を押し上げるホシノ。
相手の攻撃を物ともせずに、前進し、敵兵力を打ち破るハルカ。
その間に、セリカがせわしなく動き回り、相手の位置を少しずつ一か所へと固定していく。
そして、前線二人に押し固められた敵をノノミやシロコが火力で制圧する。
「……なんだかんだで、慣れたもんだよな」
「道中数回の戦闘も挟んでるしね。先生の指揮もあるし、これくらいならできて当然」
「辛辣だな……カヨコは」
戦場を眺めながら、その戦いの流れを少し厳しく見積もるカヨコに小吉はそう零す。
「そう?少なくとも、これくらいのことをしてもらわないと……。私たちは最悪……ううん。今はいいや。そろそろ、あっちも終わるだろうし」
「そうだな……。すぐに合流しよう」
「あ、先生。指揮お疲れ様です☆」
「うへ~、結局なんなのこいつら?」
戦闘が終わった直後、ホシノはそんな風に声を上げた。
「……どうかしたのか?正体が不明なのは、砂漠で戦ってたオートマタも同じだっただろ?」
「うぅん……。そう、なんだけど。……それとはまた違って。そんなに強くはないんだけど邪魔っていうか、めんどくさいっていうか……今までの奴らよりも、ひときわ厄介って感じで」
「ん、下手したら、風紀委員たちより面倒だった……」
「ほう……」
戦闘の指揮をしている間、シッテムの箱に映し出されていた戦場のモニタに改めて目を通す。
スペックでいえば、間違いなく、この前戦った風紀委員たちの方が強かった。
だが、よくよく見れば確かに、彼らの動きには、小さな技が挟み込まれている。
直接対峙し、戦わなければわからないような些細な動き、戦術。
つまりは、経験を積んだ相手ということ。
「一体、何なのでしょう、この方たちは……それに、こんなところでなにをしていたのでしょうか?」
「そうだな……」
そして、行きつく先はそこだ。
戦闘能力で及ばない。だが、確かに技術のある敵がこの場にいた。
それは、この場には、何か重要な物があると考えていいはずだ。
ただの警備であれば、それこそ、歴戦の兵を送る必要はないのだから。
『会話中に失礼します!施設に、何らかのマークを発見しました!』
「本当か!助かった!どんなマークかわかるか?」
『はい!すぐに映像を映します!』
そういって、アヤネが映っていた画面が切り替わり、彼女が見つけたマークが映し出される。
「……これって」
『確認、とれました……』
「カイザーPMC……そうでしょ、アヤネちゃん」
『っ!?……はい!おっしゃる通り、このマークはカイザーPMCの物です』
先取りするように言う、ホシノに驚きながらもアヤネはそれが正しいことを認めた。
「あー!もう!どこに行ってもカイザー、カイザー、カイザー!一体何なのよ!!」
「お、落ち着いてください、セリカさん……」
そうセリカが叫びだしてしまうのにも無理はない。
既に、アビドスの事件の裏には、カイザーがいるのは明白であったが、それでも、ここしばらく、彼女たちがかかわった件に、彼らの存在がなかったことはなかったのだから。
「……しかしPMC、ということは……先生」
「あぁ、今までの、ヘルメット団みたいな不良の集まりとは訳が違う。文字通りの軍事的な組織だろうな……」
「ぐ、軍隊!?」
「……退学した生徒や不良たちを集めて、企業が私設兵として雇っている噂もありました……。けれど、まさか……」
大きなことが動いている。
アビドスの少女たちも、そんなことは、理解していた。
カイザーという会社が大組織であることも、大まかには理解していただろう。
だが、それでも、現実に目の前に実態を伴って現れた組織の存在は、彼女たちに自分たちの力をちっぽけなものと思わせるのには十分すぎた。
話のスケールの大きさに、その場のほぼ全員が驚いていたそんなときであった。
警報が、施設内に響き渡った。
「……まぁ、戦闘したんだ、バレても仕方ねぇか、だが……」
警報の音に、まぎれるどころかそれをかき消すほどの音が近づいてくる。
「先生!ヘリの音が……」
「それに、この揺れ、戦車も来てる」
『先生、大規模な戦力が接近してきます!恐らくこちらを包囲するつもりです!先輩たちのおっしゃる通り、装甲車以外にも戦車やヘリまで……ものすごい数です!まずはこの場の脱出を!』
「……っ」
そう問われ、小吉は脳内で逡巡する。
彼の常識において、大型兵器に勝てる歩兵は存在しない。
……だが、同時に思い出されるのはシャーレの奪還戦、そして、ゴリアテと呼ばれた巨大な兵器に対して打ち破った生徒たちの姿。
「やるぞ!退路を切り開いてくれ!」
それに応じる生徒たちの声。
彼女たちの行動は迅速であった。
この施設に雇われたであろう生徒たち、オートマタ。
それらを、容易く蹴散らし、次いで現れる戦車やヘリも、そう時間はかからず叩きのめした。
だが……
「キリがないっ」
そう、何せここはカイザーPMCの本拠地である。
その警備が、たかだが数人で打ち崩せるほど軟なものであるはずがない。
まだダメージは少ない。だが、それでも、ホシノと小吉の護衛に徹しているカヨコ以外は、息を切らし始めている。
「このままじゃ、抜け出る前に包囲が完成しちまう……」
『……せい、聞こえますか?包囲網を抜け……また……。……が不安定……早く……退却……が……接近……』
「アヤネ……!聞こえねぇ、なにがいいた……くそ!」
通信チャンネルも、何かを伝えようとするアヤネの意志をよそに、途中で切れてしまう。
その直後。
「……絶体絶命?」
「あちゃー、包囲されちゃったか」
包囲網は、完成してしまっていた。
「……」
小吉は、自身のジャケットに入っているものに視線を向ける。
これを使えば、この状況を打開することもできる。
だが……。
それが今のベストな選択か?
「なら、使うべきは……」
そう思い、手を胸ポケットに動かそうとしたその時であった。
この戦場に、おおよそ似つかわしくないブレーキ音が、その場に響いた。
「侵入者とは聞いていたが……アビドスと……ふふ……貴様か。シャーレの先生……」
「……誰だ。お前は」
少なくとも、小吉側からそのロボットに見覚えがなかった。
だが、少なくとも彼から、明らかに強い感情を向けられていることだけは、肌で感じた。
男は小さく鼻を鳴らすと、まぁいい。と言いながらも、向けていた視線を生徒たちに向け直す。
「……しかし、まさかここに来るとは思わなかった。……勝手に人の私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額。君たちの学校の借金に加えてもいいのだが、まぁ、大して額は変わらないか……」
「あんたは、あの時の」
「ホシノ?……奴を知っているのか?」
「……確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副会長だったか?ふむ、面白いことを思いついた……」
男は視線を一瞬だけカヨコに向け、しかし、そのまま言葉を続けようとする。
だが、その言葉の前に、ノノミが話を切り出した。
「あなた達は、一体誰なんですか?」
「……まさか、私のことを知らないとは。アビドス、君たちならよく知っている相手だとおもうのだがね。私は、カイザーコーポレーションの理事を務めているもの……。そして、君たちアビドス高等学校が借金をしている相手でもある」
「……!?」
シロコ達に衝撃が奔る。
そう、彼の言葉は正しい。
カイザーの企業から金を借りている以上、彼女たちに、金を貸しているのは、間違いなくカイザーという企業の代表であるこの男、ということになる。
「では、古くから続くこの借金について、話し合いでもするとしようか……。拒否などは、……まぁ、しないだろう?」
包囲され、突破する手段すら浮かばないこの状況。この場の面々は、男の言葉に、頷くほかになかった。