シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

34 / 65
三十三話

「……そんな、そんなことになったら、今までの私たちの努力が……」

 

襲い来る、正しい言葉の嵐によって耐えかねたノノミの口から、弱音が小さく零れ落ちる。

 

限界であった。

どれだけ言っても、男の主張は間違いではない。

 

自分たちを認めたのがホシノ……。

彼女が最後の委員会メンバーであったがゆえに、アビドスの生徒の体を保てた。

だが、……彼女がいない以上、その体裁も崩れる。

 

彼女たちは、正しく、アビドスの生徒会長に入学を認められていないのだから。

それこそ、大義名分であったホシノの存在がなくなった以上、彼の言う通り、自分たちは何物でもない。

 

それを彼女は正しく理解してしまっていた。

 

「……ほう、まさか本気だったのか?本気であと百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?これは驚きだ。てっきり、最後に諦める時「でも頑張ったから」と自分を慰める言い訳をするために、ほどほどに頑張っているのだと思っていたが……」

 

「っ……!」

 

「……おい。その位にしておけよ」

 

シロコやセリカが飛び出そうとする前に、そこまで黙っていた小吉が割って入る。

その表情は、生徒たちには見えなかったが、しかし、声で分かる。

 

あまりにも、激しい怒りを。

だが、彼に睨みつけられた男は、怯みはしない。

 

「黙っていろ!小町小吉。お前こそ理解しているのではないか?……金がないということは……。尊厳まで奪われるのだ、と。それでも貴様は、道を選ばせたのではないか?例えば、……そう、そこの少女の来歴を知ってなお、貴様はその道を進ませなかった。違うか?」

 

「……そうだ」

 

「ならばこれも貴様の選択の結末だ!!」

 

男は、そういいながら、小吉を突き飛ばす。

機械のボディによる攻撃を無防備に受け、小吉の体は、派手に押しのけられた。

 

「っ、あんた……!それ以上やったら……」

 

「撃つ」

 

男の攻撃に、小吉に止められていた二人が前に出る。

 

「……でも、……今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか」

 

「アヤネちゃん!?」

 

だが、ノノミ以外にも、限界に来ていた少女はいた。

 

「だって……今も、すごい数の兵力がこちらに向かっています……。それに、例え戦って勝てたとしても……そのあとは……?学校がなくなったら、もう戦う意味がありません。……学校をどうにか取り戻しても、私たちにはまだ、大きな借金が残ったまま……取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩も……、生徒会もないこんな状態で……」

 

「……アヤネ」

 

彼女の周囲を仲間たちが支える。

だが、それでももう、折れてしまった。

 

たった一人、ホシノという先輩を失った彼女たちは、こうまでなってしまうほどに折れてしまうのか。

 

彼女たちとの付き合いがまだ浅い小吉では、……事実として、支えきれていない。

そして、この場をひっくり返すような手も、まだ、彼の中にはなかった。

 

唯一手にもった『銃』も、この戦いを一時止めることはできても、その先には対応できるわけではない。

 

「私達みたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、どうしたら……ホシノ、先輩……」

 

それでも、生徒への道を示すことができるのならば。

 

そういって、ホルスターから銃を抜こうとした、その時であった。

 

爆音が、陰鬱な世界を切り裂いた。

 

全員がその爆音に顔を上げる。

 

「何があった!!」

 

「っき、北の方で大きな爆発を確認!」

 

「合流予定のブラボー正体が爆発に巻き込まれ―――――――」

 

その慌てぶりから、カイザーの攻撃ではないことが分かった。

 

ならば、誰が。

 

そう考える間もなく、東でも、西でも、大きな爆発が巻き起こる。

 

「何が!何が起きている!アビドスの生徒は全員ここに……!」

 

その瞬間。理事の背後からバイクが二両、飛び込んでくる。

 

「全く……せっかくいろいろと準備してようやく来たと思ったら、あたりの通信傍受して聞いてれば、泣き言ばっかり……そんなのでいいの?貴方達」

 

「べ、便利屋68……?」

 

そう、格好こそ、黒のスーツに代わっているが、それは、彼女たちと一度は敵対した陸八魔アル率いる、便利屋68。

 

「何をすればいいのかわからない。どうすればいいかわからない。やることなすこと、全部失敗に終わる。……、そうね。間違いないわ。あなたの言う通り、ここを潜り抜けたところであなた達に待ってるのは、逆境と苦難だけ……。で、……それがどうしたの」

 

「えっ……?」

 

「状況はだいたい知ってる。仲間がピンチなんでしょ?それなのに、この先がとか、なんとか考えて、このまま全部奪われて、それで納得できるの?私が手を貸そうとしてるあなた達は、そんな情けない子たちだったの?」

 

そう、強く思いをぶつけられ、未だに状況を飲み込めてないアヤネは、困惑するばかり。

 

「まーまー、アルちゃん。その辺で勘弁して上げなよ、メガネっ子ちゃんは繊細なんだから、こういうときもあるって」

 

「ど、どうしてあなた達が……!?」

 

「言ったでしょ……。手を貸しに来たの」

 

バイクから降りた五人は、そのまま、アビドスとカイザーの間に立つ。

 

そして、正面から、カイザーを見て笑う。

 

「そーそー……、で、さ。私のカワイイメガネっ娘ちゃんを泣かした罪は重いよ?だからもうこれは、ぶっ殺すしかないよね!」

 

「準備はできています。アル様。昨日のうちに仕込んでおいた爆弾も、まだまだたくさんありますので……」

 

「はぁ……。徹夜でやったんだから……後で、いろいろ、埋め合わせしてもらうからね、社長……」

 

「か、カヨコさんから聞いたんですけれど、この分断作戦本当に風紀委員相手にやるつもりだったんですか?!」

 

「ふふ、……私たちはアウトローだもの、これくらいするわ……。さぁ、アビドス。目を開けなさい。今のあなた達にこれから、真のアウトローの戦い方を見せてあげるわ」

 

そういって、ハルカ、と声をかければ、彼女は握っていた爆弾のスイッチを起動する。

 

それまで以上の激しい爆発の嵐。

 

あたりは吹き飛び、カイザーの精鋭たちは悲鳴を上げ追い込まれていく。

 

「さて、……先生?手を貸してもらうわ。私たちを、上手く使って見せなさい」

 

「お手柔らかに。流石にお前ら以上の功績はきついぜ?」

 

「えぇ、問題ないわ……。その代わり。あの子たちの目を覚まさせるくらいの、キッツいのを見せてあげましょう」

 

「仕方ねぇな……。行けるか!便利屋68!」

 

小吉のその言葉に、高らかに言葉を返す面々。

それに苛立ちながらも、カイザー理事は、残存戦力を展開する。

 

だが、既にぐちゃぐちゃになった戦場。

 

本来であれば合流する予定だった戦力の喪失。

 

そして何より、自力の高さ。

そもそも、本人たちがアビドスでの戦闘を切り上げた故に、正確な実力を把握することはできなかったが……。

 

改めて、その実力はかなりの物。

 

あのアビドスでの一件を経て、明らかに以前よりもニュートンに備わっていた力を自覚しているように見えるアルだけではない。

そのアルを軸にして戦う四人も合わせれば、強大な戦力となっている。

 

それこそ、今小吉が出しているアルたちへの指揮は、最小限。

多くの場合はアルの反応を見て、ムツキたちが先んじて行動をしており、小吉が行っているのは精々、まだついていくのが大変そうなチナツの行動のタイミングに口を出す程度。

 

……そして、その構造を、小吉は知っていた。

 

「アビドスに近いな……」

 

カイザーが彼女たちをアビドスにぶつけるのを決めたのも理解できる。

確かに、これがヘルメット団との戦いで疲弊を重ねていた状態でぶつけられていれば、いくら練度の高いアビドスの面々と言えど、無事では済まなかっただろう。

 

「さぁ!もう終わりかしら?」

 

「っ、貴様らっ!」

 

そうこうしているうちに、あまりに不利だったはずの戦況は五分、あるいは、こちら側の有利にまで逆転している。

 

「悪いけれど、簡単に手を切ったのに納得した自分を恨むことね」

 

「それに、こっちだって悪党だからね?裏切りくらい当然でしょ?」

 

そういいながら投擲された爆弾入りのバッグが理事を守ろうと寄ってきた兵士を吹き飛ばし、チナツの方にまで抜けようとしていた兵士の一人を、アルが片手で投げ飛ばす。

 

「便利屋の……皆さん」

 

「……そうだね。悪党としては、それが正解……」

 

その暴れぶりに、膝をついていたアビドスの面々が立ち上がる。

 

「目が覚めました……。私たちに今、こうして迷っている時間はありません」

 

「そうよ!ホシノ先輩を取り返すんだから!」

 

「ん、ホシノ先輩を助ける。今はただそれだけ」

 

「……お前ら……。よし、行けるか」

 

立ち上がったのならば、小吉が彼女たちにかける言葉は一つだけだった。

そして、それにこたえるようにシロコ達は力強く頷いて、アルたちの隣へと歩を進める。

 

「くっ!……この期に及んで無駄な抵抗を……!」

 

「どうだかな?それよりも……俺の大事な生徒だ……。ホシノを、返してもらうぜ」

 

「っ。ふざけるな!小町小吉!お前にどんな権利が!!!」

 

「権利なら……いや、義務ならばあるさ!!今の俺は先生だからな!!」

 

「それが……いや、まさかっ!?」

 

その可能性に到達した男は、明らかに動揺する。

 

そして、その同様の間にも、彼への包囲は完成していく。

 

「っ……!お前たち!やってしまえ!」

 

「先生、どうやらあいつら負け戦がしたいらしいわ」

 

「ん、……先生。指揮を。力を貸して」

 

「あぁ!」

 

既に、シロコ達にも迷いわない。

 

そして、戦力的な意味でも、安定を取り戻していた。

 

ホシノの抜けた穴は、前線にアルとハルカが立ちふさがることによって、埋められ、アビドスだけでは足りなかった決定打を、同じくアルとムツキによって完全なものとなる。

 

そうなってしまった以上、既に便利屋の作戦により食らいつくされた戦力しかないカイザーの軍団は、太刀打ちすることができない。

 

「っく!?この、私が……!」

 

そして、戦線に加わったカイザー理事もまた、小さくないダメージを負っていた。

 

「理事!傷がすぐに治療を……それに我々だけではこれ以上は抑えきれません!」

 

「~~~~~くそ!退却だ!戦力を再編する!覚えておけ……!この代償は高くつくぞ!!小町小吉!!!」

 

その言葉を最後に、カイザーの者たちはいっせいにアビドスから引き揚げていく。

 

「……ふぅ、なんとかなったわね」

 

「あぁ、助かったぞ。アル」

 

「いいのよ、依頼のついでだしね」

 

「「依頼?」」

 

その場の、小吉とアビドスの面々から疑問符が浮かぶ。

 

「えぇ、覆面水着団からのね?ほら、前に一億渡して言ったでしょ?良い事のために使ってくださいって」

 

「あぁ……。……じゃあ、今回のも……?」

 

そう、シロコは考える。

 

確かに、カイザーへ大きな打撃を与えた火力は、少額では難しいものだろう。

一億、とまではいかないが、それでも、かなりの金額をかけたのか?

 

「あれは、別件よ。カイザーが動くと思ったから先に、この前あなた達と戦うときに使おうと思ったけど先生がいたから使えなかった分の爆弾」

 

その言葉に、少しだけではあるがぞっとする。

アビドスの状況を鑑みれば、あれだけの爆弾により校舎を破壊されれば、立て直しはできなかっただろう。

 

「え、えっと、じゃあ、何をしに……」

 

「えぇ。あなたたちの状況を知って、貴方達を助ければ、善いことになるわよね。と思って、ちょっと、一億を元手に稼いで来たの。ムツキ」

 

「は~い♪じゃ、メガネっ娘ちゃん、先生♡とりあえず、さ・ん・お・く・円♪」

 

そういって、ムツキから、二人にぼすんっと、カバンが渡され……。

 

その中には、ぎっしりと札束が詰まっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。