シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

37 / 65
三十五話

それから一夜明け。

小吉は、ホシノ救出のための会議のために、便利屋オフィスへと足を運んだ。

 

「ようこそ、先生。こちらお茶です」

 

「おう、チナツ。……引越ししたとはいえ、随分変わったな」

 

「まぁ、えぇ。お金も入ったことですし、少しだけグレードを上げるのを私主導で」

 

アルさんに任せると、お金をかけすぎてしまうので。と、微笑むチナツ。

とはいえ、アルの話を聞く限り、グレードを上げる程度のことで運営資金は尽きないだろうが。

 

「……それで、先生。まず初めに言っておくけれど……。アビドスだけの戦力だと私たちの協力は難しいわ」

 

チナツのいれた美味しいお茶を少し味わったところでアルはそう本題を切り出した。

 

「なんか、意外だな……」

 

彼女が自身の能力を過信しているとは思っていないが、ニュートンとしての力を過小に評価しているとは思っていない。

小吉が思い返すニュートンの例……。

すなわち、ジョセフ・G・ニュートン。人類の到達点とさえ呼ばれた男は、小吉の知る由はないことではあったが、火星において単独でテラフォーマーの死体の山を築いた。

 

恐らく、それに近いと思われる彼女であれば、カイザーの戦力を一網打尽くらいにはしそうなものではある。

 

「ビジネスだもの……、と言いたいけれど、……、あの子たちが立ち上がるためなら、それ自体は、ロハだってかまわないわ。だから、今回は別の理由ね」

 

そういいながらチナツのいれた紅茶を丁寧な手つきで飲み、言葉を続ける。

 

「まず初めに、はっきりさせておくけれど、前回のアビドスでの戦いでうまくいったのは、私たちが相手の動きを呼んで事前に多人数向けの奇襲作戦を用意できてたから……。個々人の戦闘能力はさておくとして、カイザーの連携能力はハッキリ言って風紀委員会よりも上手。流石、民間とはいえ兵力を会社としてるだけあるわ」

 

「それは、俺も理解してる。だが、戦力としてみれば、便利屋とアビドスの面々だけでも上回るんじゃないか?」

 

風紀委員と小吉が対峙した時間はわずかではあったが、カイザーのロボットたちの戦闘はやりにくかったとシロコ達がこぼしていたのを忘れる理由もない。

だが、それでも、彼の目から見れば、あくまでやりにくい。

便利屋という突破力の高い戦力を鑑みれば、十分に戦力比は上回っているように思えた。

 

「……、いいえ。包囲作戦を取られたら、……今の戦力であってもカイザー相手に戦いで負けるとは言わないけれどホシノって子を相手が輸送するのに十分な時間を稼がれるでしょうね。そうなれば、実質負けでしょ?」

 

そういう、アルの指摘はもっともであった。

 

確かに、戦力が上回ろうとも、相手の出方次第では敗北する。

 

目的がホシノの救出である以上、今の自分たちに必要なのは、速さ。

 

「そうだな……、それで、……お前たちの出す条件は?」

 

「……戦力の増強、最低限、私に並べるくらいの戦力と、継続的に大人数に充てられる火力。……その二つね」

 

アルの要求は、つまり、絶対的と言える戦力と、継続的な支援ができる火力。その両方だ。

 

「……よし、分かった。決行は明日になるだろう。準備しといてくれるか?」

 

「えぇ、便利屋68は依頼主からの信頼は裏切らないわ」

 

こうして、アビドスにとっての現状の同盟相手との話し合いは終わりを迎えた。

 

 

「……結構遠かったな」

 

そして、その足で彼が向かったのは、ゲヘナ学園。

 

「……待っていたわ。先生」

 

「キキキッ、ようこそ、小町小吉先生。ゲヘナ学園へ」

 

そこで待っていたのは空崎ヒナと、コートに身を包んだ長身の少女であった。

 

「お、おぉ。悪いな、ヒナ……。いや、でもなんで」

 

「アビドスの情報は既につかんでいた。状況を鑑みれば、次に来るのは、私たちのところ。なんで待っていたかと言えば……」

 

「我がゲヘナの諜報部が、小吉先生がこちらへ向かっているという情報を握っていたからだ。……初めまして。私はゲヘナ学園万魔殿議長。羽沼マコトだ」

 

そういって、恭しく礼をするマコト。

 

だが、小吉は、今の話を聞いて、警戒を強めた。

 

彼の移動に関しては、たしかに時間はある程度要したが、それでも、目立ったことはしていなかった。

すなわち監視を受けていたとみてしかるべきだろう。

 

だが、その様子は彼女にとっても筒抜けであったのだろう。

 

「……あぁ、小吉先生。気を悪くさせてしまったのなら謝罪しよう。……。だが、こちらも先生を狙っていたわけじゃあないんだ。ただ……、陸八魔アル。彼女に対する情報は常に仕入れなければいけない」

 

「……なるほど、な」

 

そういわれてしまえば、小吉からは言葉をそれ以上返すことはできなかった。

なにせ、地球では自分たちも同じように彼らをマークしていたから。

 

外での彼らの暗躍がキヴォトスに伝わっている以上、彼女たちの警戒を否定することはできない。

 

「しかし、まさか成長して日が立たずにカジノに動くことであれ程の大金をせしめるとはこのマコト様も思わなかったが、……。まぁ、今は目立った動きを見せていないからいい……。それじゃあ、先生。……要件を聞こうじゃないか」

 

キキッ、と、笑いながら彼女は、交渉のテーブルを用意する。

 

「……頼む、アビドスの生徒のために力を貸してほしい」

 

そして、小吉に出来ること、それは、頭を下げることだけであった。

 

シャーレの予算を割り振って礼金を用意したりは出来ない。

アビドスは確かにピンチではある。

だが、それは恐らく、ほかの学園でも言えることだろう。

 

もしも、同じようなことが起きた時、シャーレに同じような振舞ができるか。

……できるはずがない。

 

つまり、今小吉に出来ることは、善意による協力を期待すること。

 

「……ふふ、安心したぞ、先生。ここで、金などを出されていたらこちらとしても対応できないところだったからな」

 

「えぇ、本当に。助かったわ」

 

そして、小吉の対応にゲヘナの二人は、安堵の息を漏らしていた。

 

「……てっきり、もっと、いろいろ言われるもんだと思ってたぜ」

 

「あぁ、勿論、ゲヘナとしても、何の実績のなくコネクションのない相手であれば、いろいろと条件を言っていただろう。なにせ、アビドスがつぶれようとも本来であれば我々には何ら不都合もない……。いや、むしろ、カイザーが管理に乗り出せば地域の不良は減り近隣に位置するゲヘナの治安も少しはましになるかもしれない……。そうなってしまえば、アビドスを切り捨てたほうが得だともいえるだろう」

 

万魔殿の主。マコトはそういう。

 

「……けれど、小町先生。貴方には『実績』がある。そして、交渉開始の言葉が有利不利ではなく、まず、誠意だった。……元々アビドスには返さないといけない借りがある。ゲヘナは、アビドスの作戦に協力するわ」

 

「とはいえ、……先日の騒動で風紀委員の殆どの戦力はダウン中だ。よって、空崎ヒナ一名の協力になるが、かまわないな?先生」

 

「あぁ!ありがとう!本当に助かった」

 

少なくともヒナであれば、アルのいう、彼女に並ぶ戦力として十分なものである。

 

「……そうだ、先生。次の行き先はトリニティだろう?」

 

「そうだが……。なんでわかったんだ?」

 

「言っただろう?便利屋への監視経由で先生たちの事情を少なからず把握しているんだ。先生はしばらくアビドス通いが続いていた。……繋がりそのものはミレニアムにもあるが、頼りには少々縁が薄いだろう?ならば、頼るのならば、次に向かうのはトリニティだと、想像できる。……さて、そこで、だ。ヒナ。これより数時間先生と同行し、トリニティへ向かえ。その間の治安維持は万魔殿で行う」

 

「それは、助かるが……」

 

小吉には、その意図が分からない。

単なる道案内であれば、それこそ彼女が所属する部隊の者を自分に宛がえば、それで十分だろう。

 

「……はぁ、そういうことね……。先生。短い間だけど、よろしく御願いする……マコトの意図も、道中で説明するわ」

 

「キキッ、そうしてくれ。私から言うのはいろいろとあれだろうからな。それでは、先生。いずれまた相まみえようじゃないか」

 

そういって、マコトはコートを翻し、学園内の建物へと戻っていった。

 

「……それで、どういう理由なんだ?」

 

トリニティへの移動のために電車に乗り込んだ小吉とヒナ。

幸いなことに座席を確保できたこともあり、まずは、先ほど聞き逃したゲヘナ側の意図を聞くことにした。

 

「……まず、エデン条約を先生は知っているかしら」

 

「あぁ……。確か、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の間に結ばれる平和条約、みたいなもんだっけ?もう少し先に結ばれる」

 

「えぇ、脅威に対して互いに力を合わせ戦う。細かい部分を省けば、そうなるわ」

 

「……といっても、今回のことは関係がないだろう?」

 

そう、関係がない。

カイザーは、確かに大きな会社だが、未だ攻撃する理由には乏しい。

勿論、正当性がないとはいえ、まだ、結ばれていない条約を理由に、トリニティの譲歩を引き出すには難しいはずだ。

 

「そう、関係はない。けれど、……条約は、行使されることを示さなければならない。風紀委員としてはもちろんアビドスに借りを返さなければいけないというのはあるのだけれど、今回はあくまでも、ゲヘナ万魔殿が先生からの依頼を受けて、私空崎ヒナという戦力を貸与する形になっている……」

 

「つまり、……トリニティは、ゲヘナに対して、……いや、違うな。周囲に対して、エデン条約が真であることを示すために、一定の要求を呑まざるを得ない。ってことか……」

 

「えぇ……。ゲヘナの政治に巻き込んでごめんなさい。先生。こういうやり方は、好きじゃないわよね」

 

「……いや。少なくとも、今、力を借りれるなら、ありがたい」

 

実際に、今は一刻も争う状態。

戦力を集めている、正に今ですら、ホシノがどうなっているかはわからない。

 

そこに、今、自分の好き嫌いを挟む余裕はありはしない。

 

「それに心配するな。俺だっていろいろやってたからな。こういうことは慣れっこだ」

 

「……そう、強いのね。先生は……」

 

電車は進む。

 

……目指すは、トリニティ総合学園。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。