シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

39 / 65
三十七話

次の日。

 

アビドスの校門前には、小吉の集めた戦力が集結していた。

 

「全員揃ったか?」

 

「ん、廃校対策委員会。準備ヨシ」

 

「便利屋68。同じく問題ないわ」

 

小吉のその声に、それぞれを代表し、シロコとアルが返答する。

 

「移動中に作戦を先に伝える。……ただしこれはあくまで、基本の作戦だ。状況に応じて変わるから、そこは頭に入れておいてくれ!便利屋メンバーは一号車に、対策委員会は二号車に乗り込んでくれ」

 

「はい!」

 

そして、各メンバーは、小吉とアルに従い、便利屋の用意した砂漠も走行可能な車両へと乗り込む。

 

「うわ、……座席すっごく乗り心地がいい……。あ、え、えっと。それで、先生、作戦はどのようなものをとるのですか?」

 

席へと座った時、そのあまりの座り心地に思わず声を漏らしたアヤネは、切り替えるように先生へと質問する。

 

「あぁ、といっても、そんなに難しいことは考えてない。一号車に乗った便利屋メンバーが、大暴れして戦線作って、基地への扉が開いて、ある程度戦場が荒れたら、二号車の俺たちが基地内部に吶喊、そのままホシノを救出する」

 

「……ちょっと、その作戦は大丈夫なの?先生が言ってた現地での合流の戦力があるとはいえ、便利屋の方に負担が大きすぎじゃない?私だけでも、便利屋と合流して火力役を担うほうがいいんじゃないかしら?」

 

セリカの言うことはもっともである。

この作戦の状態では、便利屋の負担が大きいように見えるのは、間違いない。

 

だが、小吉はその提案を否定する。

 

「いや、この前の襲撃以上、ってことはないだろうが。それでも、内部にどれだけの戦力がいるかはわからねぇし、それに、俺達はホシノを速攻で救出する必要がある。たとえ、基地の外部に出て来た戦力をすべて倒せたとしても、内部に残った戦力に手間取ってホシノをまた別のところに移送されました、じゃ。話にならねぇ」

 

「ん、先生の言う通り……。でも……心配」

 

「先生!前方に小規模戦力……恐らくカイザーの哨戒部隊です!」

 

そんな話をしている彼らの車両の前には、戦車を含めた十数人規模の部隊が展開していた。

 

「丁度いい。なら、……見ればいいさ。正面戦闘のあいつらを」

 

展開した部隊を、車両の屋根に乗り出してアルは確認する。

 

「あら?少ないわね。たった、それだけ?」

 

戦場となる前に、銃声が五度響き渡る。

 

前方の部隊のうち、四人に命中し、戦車への攻撃も命中したのか金属音が響いた。

しかし、まだ敵の戦力は残っている。

 

特に戦車は強敵だ。

いくらキヴォトスの車両がある程度頑丈にできているとはいえ、戦車の砲撃を受けて無傷でいられるほど頑丈なわけではない。

 

「先生!外に出ないと」

 

「いや、問題ない。銃声の数に対して、倒れた人数が少ないっていうなら、問題ない」

 

そういう小吉も、もう一つの車両に乗っているカヨコも、まだ戦車が破壊できていないというのに前進を止めることはない。

 

やがて、敵も必中の距離に至ったのだろう。

戦車は動きを止め、砲撃準備に移った。

 

「ハードボイルド・ショット」

 

その瞬間であった。

戦車が内部から吹き飛んだ。

 

先ほどの射撃で、既に砲塔内部に撃ち込まれた弾丸が、戦車に弾丸が装填された瞬間に、計算されたように炸裂し、戦車内の弾薬庫にまで火が回ったのだ。

当然、そのような衝撃に耐えられるようには作られていない。

 

戦車も、それを動かす人員も一瞬にして戦闘不能に追いやられた。

 

「まだ、心配?」

 

シロコのモモトークにアルからそんな通信が送られてくる。

 

「……ん、ごめんなさい。先生。もう大丈夫」

 

「おう……。大丈夫だ、シロコ。あいつらは信頼できる戦力だ」

 

「ん」

 

もう、第二号車の中にその言葉を疑う者はいなかった。

 

かくして、戦況は動き始めた。

 

確かに、アルの攻撃は敵戦力を一撃で戦闘不能に追いやった。

彼らは通信できたかどうかも怪しいところだろう。

 

だが、それでも、戦車が爆発したのだ。

敵に察知されないはずもない。

 

「さて!我が社員たち!準備はいいわね!」

 

しかし、敵に気取られたことなど、彼女たちは何の不安も抱かない。

高速で移動する車両の上に乗ったまま、彼女は、高らかに社員たちに号令をかける。

 

「もちろんおっけー♪装備も充実させたしねー♪」

 

「ヒナ委員長到着まで恐らく後十分。もう一つの増援の到着時間は、想定できません」

 

「そ、その前に敵を全部やっつけます!」

 

「いや、全部はしなくていいんだって……。うん、でも、それくらい暴れちゃってもいいかな?」

 

「ヨシ!私たちの最終目標は二号車の先生たちを無事ゲートの奥まで送り届けて、その後も敵戦力をなるべく多く削ることよ!……それじゃあ、始めるわ!」

 

エンジンの音はさらに強くなり、より一層加速する。

 

アルは意識を集中させ、人類の頂点種たる、そのスペックをもって、流れていく景色のあらゆる情報を取得していく。

 

その能力故に、彼女に見落としはない。

 

時速百数十キロの速度で走り抜けているというのにもかかわらず放たれたアルの弾丸は捜索に出ていた兵士たちに寸分たがわず突き刺さり、誰一人逃すことなく戦闘不能にしていく。

 

「ムツキ!スモーク!」

 

「はーい!スモーク発動!」

 

そして、カイザー基地ゲート付近数千メートル。

敵側からの直接視認可能距離まで到着した瞬間に、アルの指示により、便利屋の乗った車は煙を纏う。

 

勿論ここは屋外。

煙を纏ったところで、すぐに晴れる。

 

稼げる時間など一瞬あればいい方だ。

そして、その瞬間が過ぎ去れば、彼女たちの車両は、基地に備え付けられた兵器の一斉砲火を受けるだろう。

 

だが、一瞬。

 

一瞬でも銃を放つ時間があれば、彼女(ニュートン)にとってはあまりに十分な時間であった。

 

再度、鳴り響く四発の銃声。

 

彼女が次にうがったのは、カメラと見張り台。

 

爆発の威力は、それらを無力化するのに十分すぎるものだった。

 

「スモーク解除!カヨコ!状況!」

 

「目標の沈黙を確認。扉の駆動音が聞こえた。チナツ。車両任せていい」

 

「わ、分かりました!」

 

そして、チナツがカヨコとハンドルを変わり、そのままアルたちは車を降りる。

 

「……俺達は、増援の突入まで待機だ」

 

前線で暴れはじめた便利屋の後方数百メートルの二号車の中で小吉はそう話す。

 

「……もどかしいわ。私たちがやらなきゃいけないのに」

 

「セリカちゃん……」

 

「……お前たちが暴れるタイミングはちゃんとある。今は……アヤネ。ドローンで戦況を確認しておいてくれ」

 

「分かりました」

 

ドローンが飛び始めれば、前方の戦況が映し出される。

 

敵は四十。

 

対する便利屋は4。

 

実に十倍の戦力ではあるが、しかし。

戦車などの兵器が用意できていないのか携行式のロケットランチャー程度はあるが、それでも展開しているのは歩兵ばかり。

 

「ほらほら!!数が減ってきているわよ!」

 

そして、その都合上。最高火力を出すには、ある程度の距離をとっていないといけない。

なにせ、自分たちがまきこまれてしまうから。

 

それを理解しているアルたちは、即座に敵との距離を詰め、敵陣で暴れはじめる。

 

総合的な能力で考えて、便利屋の実力はホシノを含めたアビドス五人の実力とほぼ同等である。

 

その上で、今回の戦場はアルたちにとっては不利な戦場であった。

 

それは、便利屋の本来の戦い方に起因するもの。

 

元々便利屋68の戦い方は爆弾などを駆使し、敵の戦力を削る。

勢い任せに見えるところもある彼女たちは、意外というべきか、あるいは、アルとカヨコという頭脳担当がいるのだからか当然というべきか、彼女たちの戦いは事前準備をかなりしている。

 

資金を獲得し、装備を更新した現在も変わらず、彼女たちのメイン武器は爆弾だ。

 

それこそ、アビドス内でのカイザー撃退戦の時などには、その力を存分に見せつけた。

 

だが、現状ではその力を発揮しきれない。

なにせ、仕掛ける時間も余裕もなく、その上、小吉たちの乗る二号車を突撃させるためには、前線を切り開く必要がある。

 

「アルちゃんこれよろしく~♪」

 

「もう!こっちも忙しいのよ!カヨコ銃お願い」

 

「わかった。ハルカ、悪いけれど前線を」

 

「は、はい!」

 

だからこそ、対応を変える。

 

普段の戦い方で足りないのだから、更に工夫する。

ムツキがカバンに詰めた爆弾を、アルがニュートンの身体能力を持って投擲する。

 

カヨコは自身の拳銃で牽制しながら、何時でもアルが銃撃に切り替えれるようにフォローをし、アルが抜けた前線の穴をハルカと、地雷を設置がてらムツキが補う。

 

しかし、所詮は間に合わせの戦術である。

どれだけその場の戦術として最善であろうとも、高い知能を活用したとしても、乱雑な数の波には押し切られるのが道理。

 

ムツキの仕掛けた地雷の壁で遅延できるが、それでも、数の壁を倒し切るにはわずかに一手足りない。

 

「っ……先生!扉開きます!」

 

そして、何より足りないのは時間であった。

 

敵の戦車、そしてゴリアテなどの重兵器の準備が完了してしまった。

 

扉は開く。

だが、まだ道は拓かれない。

 

しかし、このタイミングを逃せば、道はさらに険しくなる。

 

小吉が覚悟を決め、アクセルに足を乗せた瞬間であった。

 

「待たせたわね。先生」

 

車の屋根が揺れると同時に、紫の弾幕が、カイザー基地の前方を薙ぎ払った。

 

「ヒナか!助かった!」

 

「えぇ……。これより、アビドスの支援に入るわ。さて……」

 

車の屋根を蹴り、彼女は前線の便利屋の場所に舞い降りる。

 

「この前の大暴れの割りに。随分苦戦してるわね、便利屋68」

 

「うるさいわね!数が多すぎるし、瓦礫もないし、武器が少ないのよ。それで、トリニティの方は?」

 

「もう来てるわ」

 

その言葉に合わせて、ヒナの攻撃によって足を止めた哀れなカイザーの兵士たちに砲撃の嵐が降り注ぐ。

 

「……ひっどい火力。というか、これ、絶対私たちが戦ってるうちにもいたわよね?」

 

「目立つところで動かないと印象に残らないでしょうからね……。そういうのは、万魔殿の狸に任せてるわ……。さて、目に見える範囲での戦力は……戦車が数台と、戦闘ヘリが数機、ね」

 

「先生、ヘリが落ちたら突っ込んで!」

 

アルの言葉に、小吉はエンジンを噴かせて応える。

 

「すぐに終わらせる」

 

「当然」

 

撃ち放たれるのは、炸裂する銃弾と、光線とすら思えるほどの高密度の弾幕の嵐。

その技量により回避など不可能な攻撃に晒されたヘリたちは、彼女らの言葉通りに瞬く間もなく破壊される。

 

「いくぞ!」

 

「ん、ホシノ先輩を助けに!」

 

それを合図に、二号車は勢いよく基地内へと突入した。

動き出したばかりのゴリアテなどを撃退した以上、即座に、追加の戦力が内部に発生するということはないだろう。

 

「さて……あとは、あの子たちに任せましょう」

 

「……えぇ。そうね。あとは、アビドスの頑張り次第」

 

そして、外部の残存戦力はそう多くはない。

だが、それでも、内部へと戻られれば面倒だ。

 

故に、アルとヒナは、ゲートの前に立ちふさがる。

 

「カヨコ。ハルカとムツキを連れて内部制圧をお願い」

 

その上で、アルは、もう一つ別のことをカヨコたちに指示する。

 

「……基地の掌握ってこと?」

 

「全部終わってアビドスに八つ当たりで攻められても面倒だもの。少なくともしばらく戦えないようにはなってもらわないと」

 

少なくとも、アビドスがカイザーの兵力に晒されれば、ダメージを受け続けるのは間違いない。

 

「……そうだね。二人とも、行くよ」

 

「はーい♪先生と別ルートだね。行くよ、ハルカちゃん」

 

そういって、ムツキたちは、小吉たちとは別の経路を切り開き始めた。

前線に残されるのは二人。対する相手は、四十を超える兵力。

 

「……ま、後は余裕ね」

 

「あら、自信あるのね」

 

「貴方の部下何人叩き潰したと思ってるのよ」

 

「まぁ……そうね。面倒だし、早めに終わらせましょう」

 

現状、ゲヘナの最高戦力の二人はそういって、敵へと肉薄した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。