シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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三話

「な、なによ、この状況!?」

 

「こいつは、……酷いありさまだな」

 

叫ぶユウカに、ようやく追いついた小吉たちが見たのは、ひどい状況だった。

戦場、とモモカが称したのは、正しいといっていいだろう。

 

何せ、銃に、爆発。

これらが、何でもない街中で頻発するような状況だ。

 

これを、戦場と言わず何というのだろう。

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

 

「話には聞いてたが、あんな武装でも不良で済むんだなキヴォトスじゃ……」

 

とはいえ、不平を漏らすユウカの意見はもっともな話だ。

彼女はあくまで、自分の学区に起きている現状に対する抗議に来ただけであり、こんな状況に巻き込まれたのは理不尽といっていい。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから」

 

だが、ハスミの言う通り、彼女がいう現状を打開する手段は現状、この戦場の先にしかない。

それは、正しく正論ではあったが、納得できるかどうかは別のこと、ユウカの怒りが収まらないのも無理はなく、彼女はハスミに向かって食って掛かる。

 

「それは聞いたけど!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……!」

 

「ユウカ、少し下がれ」

 

「きゃ!?な、なにするんですか先生------」

 

だが、そう不平を続けようとするユウカの腕を小吉が掴み、自分の方へと強く引き寄せる。

 

突然の行動に、続けて文句を言おうとするユウカだったが、数秒と遅れず地面へと穿たれる弾丸を見て言葉を抑える。

大騒ぎした故か、あるいは、元より存在に気が付かれていたのか、何人かがこちらに銃を向けているのが見えた。

 

「先生も伏せてください。さっきのはホローポイント弾のようですね」

 

「JHP弾!違法じゃない」

 

「ホロ―ポイント弾は違法ではありませんよ、ユウカ」

 

「うちではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

「……やっぱり頑丈なんだなこっちの子たちは」

 

騒ぐユウカを尻目に、小吉は、ここでは自分の常識が通用しないのだと、改めて理解させられる。

 

「えぇ。確かに、私たちは頑丈、といっていいでしょう。ですが、あなたは違います。皆さんも、先生が一緒なので、その点に気を付けましょう」

 

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を」

 

「分かってるわ。先生は戦場に出ないでください!私たちが戦ってる間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

現状確認を終え、ユウカはそういう。

 

「……いや、俺が指揮を執ろう。皆、何ができるか軽く教えてくれ」

 

だが、彼の出した答えは、彼女たちの想定とは別のものであった。

 

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか……?まぁ、……先生ですし」

 

「たしか、外の世界では……。警備会社の隊長……でしたね。わかりました。これより先生の指揮に従います」

 

言葉を返した二人も、チナツとスズミも意見は一致した。

実力に関しては分からない。だが、周囲の状態を見て、最悪の場合は自分たちで守って改めて下がってもらえる余裕くらいならあるだろう。と考えたのだろう。

 

「よし、じゃあ、悪いが、前を頼むぞ。皆」

 

幸い、道を塞いでいる不良生徒の数は、今のところ少数であったこと。

 

それに何より、集まっている面々の実力。

抜きんでた実力、というべきか。キヴォトスの知識が未だに不足している小吉に断定することはできなかったが、少なくとも、自身の経験から、彼女たちの実力が目の前で暴れている不良集団たちよりも、大きく上回っているのは理解していた。

 

「スズミ、そこだ」

 

「ユウカ、いけるか」

 

それ故に、少なくとも、この戦場において小吉は多くの指示を出していない。

彼女たちの動きを、誘導することはない。ただ、状況に応じて声をわずかにかけるだけ。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします」

 

「……やっぱりそうよね!?」

 

しかし、それで十分であった。

少なくとも、彼女たちにとって、先生の指揮に従うことが現状では最善だと理解させるには十分なほどに。

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです。……このまま、お願いします」

 

「あぁ、それは、任せてくれ。さすがにあの数の相手は、俺じゃあ厳しいからな」

 

そのまま、彼らは部室を目指して進んでいく。

道中の妨害は、もはや問題にならなかった。

 

「先生。今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました」

 

その道中、リンから通信が入った。

 

「どんな奴だ?」

 

「……ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください」

 

「……先生、あれかと」

 

「えぇ、間違いありません」

 

リンの注意喚起の最中。チナツの指す方を見れば、件の生徒が暴れているのが視界に収まる。

進めば見つからない可能性は極めて低い。だが、迂回する時間があるかどうかは怪しい状況。

 

「会敵する。付き合ってくれるか?」

 

「大丈夫です。目標確認。対処します」

 

選んだ道は、前身。

どちらにせよ、彼女への対処をしなければ、目標物がどうなるかも怪しい状況であった。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。……お可愛らしいこと」

 

「先生は隠れていてください!彼女を相手に先生を守り切れる自信はありません」

 

他の三人も同じ意見なのか、こちらに視線を送ってくる。

 

「……そうだな。見えるところで隠れていよう」

 

相対したことで、ワカモの危険性を小吉も理解していた。

 

少なくとも、彼女につき従っていたと思われる不良少女たちと比べて、段違いに強い。

 

勿論、今、自身に従ってくれている少女たちの実力を疑っているわけではないが、それ故に、彼女たちの言葉は真なのだろうということもわかる。

 

今この瞬間に、指揮のために自身が戦場に体を晒すことで生徒たちにかける負担が増えれば、人数で勝っているとはいえ、敗北する可能性は十分にある。

 

それを理解したからこそ、彼は、すぐさま遮蔽に身を潜めた。

 

「さて、……指示はここからでも届けられるか……?」

 

それでも、ワカモの隙をいつでもつけるようにと、体を少し乗り出そうとしたときであった。

ざりっ、と、足音が、背後から耳に届く。

 

「っ、お前を人質にとってワカモ様に……!」

 

「……一人か」

 

辺りに他の生徒はいない。

ボロボロの服を見るに先ほど蹴散らした生徒たちの一人であろうことはうかがえる。

ダメージが浅かったのか、意識を取り戻した彼女は、別ルートから追いかけてきたらしい。

 

「お前、外の人間だな?知ってるよ、外の人は、銃の一撃でも死んじゃうんでしょ?」

 

「まぁ、……そうだな」

 

向けられた銃。

ユウカたちは戦闘に必死でこちらまでくることはできない。

 

確かに、外の一般人であれば、この時点で悲鳴を上げる以上のことはできない。

あるいは、銃を恐れず飛びかかったとしても、銃弾を浴びせられその場に倒れ伏していただろう。

 

だが……

 

「は?消え―――――――」

 

キヴォトスの人間と外の人間では種が違う。

彼らが痛がる程度で済む銃弾の雨に、外の人間はあっけなく倒れ伏し、グレネードは致命傷。

身体能力も、彼女たちの方が平均すれば高いのだろう。

 

だが、それと同じ、いや、それ以上に。

 

小町小吉。空手六段。

段位が二つ違えば、それは生物が違うといっていい。

 

少女には、幼少からキヴォトス内で積み上げてきた戦闘経験はあれど、体系的な武の心得はなかった。

故に、彼女は、地面にたたきつけられ意識を失うまで、空手家、小町小吉の動きをとらえることはできなかった。

 

そして、浮遊感を覚えた彼女に次の瞬間訪れたのは強い衝撃。

 

肉体的な防御に関しては、確かにキヴォトスの住人は銃弾すらも痛いですまし、爆発に巻き込まれても意識を失ったり、多少のダメージで済む。それこそよほど傷つけることを狙って継続しない限りは死にすら至らない。

 

だが、キヴォトス内の生徒と人間の肉体の構造は大きくは変わらない。

骨があり、筋肉があり、神経があり、……それらを司る脳がある。

 

まだ、彼女がヘルメット団であったのであれば、頭にかぶったヘルメットで衝撃を殺すことができただろう。

 

しかし少女はスケバンであった。

思い切りひっくり返されて、受け身も碌に取れなかった少女は脳を揺らされ、そのまま意識を失った。

 

「まずい!?やりすぎたか?」

 

「先生!あの子退きました!どうします……って!?大丈夫ですか!?」

 

ワカモを撤退させたらしく、様子を見に来たユウカが倒れ伏している生徒と相対していた小吉の姿を見て、慌てて彼へと詰め寄る。

 

「あー……。多分、大丈夫。気絶しただけだ。怪我もしてない。救急車を……」

 

「その子じゃなくって先生です!!私たちは地面に強くたたきつけられたくらいじゃ何ともなりません!でも、先生は銃弾撃たれただけで死んじゃうかもしれないんですよ!?気を付けてください!」

 

後ろでのびた少女のことなど気にも留めず、小吉へと食って掛かった。

 

「銃弾一発くらいじゃ、死なねぇって」

 

「それでも重症でしょ!!いいから、気を付けてください!」

 

怒り狂うユウカをなだめようとする彼に、ユウカはなおも納得しない。

 

「わかったよ、無理はしない。だから、心配してくれて、ありがとうな。ユウカ……。それで、逃げたなら深追いは避けるべきだ。俺たちの第一目標は、あくまでシャーレって施設の奪還。実行犯らしい、ワカモって子に関して気になるが、……今は後にしよう」

 

「はい!それじゃあ、あともう少しですから……急いで――――――」

 

そう、彼女が言おうとした瞬間。

二人のいる遮蔽の向こう。

 

すなわち、残りの三人がいるはずの場所で、激しい音が響き渡った。

 

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