シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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三十八話

「爆発、大丈夫でしょうか……」

 

二号車を乗り捨て、カイザー基地の奥に突き進んでもなお、響き続ける爆発音に、アヤネはそんな不安の声を漏らした。

 

「逆に、あれがある間はアルたちが暴れて、無事だってことだ。心配するのは止まってからでいい。それよりも……、シロコ!」

 

「ん、任せて」

 

廊下を走りながら、小吉は前方からくる足音に気が付き、シロコへと指示を出す。

 

シロコの放った弾丸は正確に前方からくるロボットたちを射抜き、次いで、前方へと駆け出したセリカの蹴りが、彼らの意識を奪う。

 

「二人とも弾薬は問題ないか?」

 

「ん、便利屋たちのおかげでだいぶ節約できてる。まだ、大丈夫」

 

「こっちも!まだまだいけるわ!」

 

元気にそう答える二人に頷いて、小吉はシッテムの箱を起動する。

 

「アヤネ。目標までの距離は」

 

「あと少しです、ですが……大型の反応はありませんが……」

 

『カメラ確認できました!二十人の団体さんがまちかまえています!』

 

「よし、一旦止まろう」

 

小吉の指示に、彼女たちも頷いて答える。

 

「シロコ、セリカ、水。アヤネも、ノノミも、軽くでもいいから栄養補給しとけ」

 

「……相手がこっちに来たりしない?」

 

「少しの間なら大丈夫だ。……あいつらはいわば、ホシノを連れ出すか何かするための人員のはずだ。だから、今すぐにこっちに、ってことはない。声も聞こえない距離だろうし、銃声はさっきからひっきりなしに聞こえてるからな」

 

セリカの心配に、そう返しながらも、小吉は、作戦を考える。

 

……とはいえ、状況が悪い。

 

既に建物の中であり、戦車やヘリなどの大型戦力は当然ないが、それでもフル武装の戦力が二十。

警戒は続いており、盾もちも多く、正面から突破するにはかなりごつい兵力である。

 

そして、練度。以前当たった時はすぐに囲まれた。

敵兵力が20人と前回と比べれば半分以下ではあるものの、その戦力は間違いなく厄介。

 

「ん、けど、やるしかない……先生。指示お願い。行ける」

 

「そうだな……先陣は任せたシロコ。ノノミ、シロコとセリカが盾持ちを崩したら」

 

「はい!皆撃ち尽くしてあげます!」

 

「アヤネ、いつも通り、補給品の準備を!」

 

「わかりました!」

 

「……往け!」

 

その声とともに、四人は一斉に飛び出す。

先陣を切るのはシロコ、ではなく彼女のミサイルドローン。

 

ここが建物内である以上、密集は避けられない。

 

そして、それ故にミサイルの攻撃は効果的であった。

何せ爆炎は、盾に防がれようと広がる。

 

決して広くない廊下での回避は難しい。

 

「シロコ先輩!」

 

「ん!」

 

そして、怯んだところに二人が切り込む。

ホシノがいなくなって、二日だというのに、その動きはもはや阿吽と言っていい。

 

あるいは、ほかの影響か。

切り込んだ二人により、盾もちの兵士たちは膝をつく。そして、その盾の裏に潜り込み、盾持ちロボットの腹部へと銃声を浴びせる。

 

「今だ!ノノミ!」

 

「はい!」

 

そして、シロコやセリカへの攻撃が行われる前に彼らを襲ったのは、ノノミの持つリトルマシンガンVによる弾丸の嵐。

既にミサイルで体にダメージが蓄積していた彼らにとっては痛手だった。

 

盾もち以外の兵力はバタバタと倒れ、その盾もちも、僅かな体力以外は残っていない。

 

シロコとセリカの攻撃で、鎮圧は十分であった。

 

「大丈夫だったか?三人とも」

 

「……ふぅ、開けてないところで助かった。……問題ない。それで、ここが……」

 

「はい、例のブロックになります」

 

眼の前にあるのは、巨大な扉……。

 

『ロックはありません!行きましょう!先生!』

 

「あぁ……!ホシノ!」

 

手をかけ、無理やりにこじ開ける。

 

そこで待っていたのは……。

 

「せん、せい……」

 

「待っていたぞ!!小町小吉!!」

 

「……カイザー理事」

 

捉われたホシノと、カイザーの男であった。

 

「しつこいわね、またアンタなの!」

 

憤るセリカを、シロコは手で止め、訝しんだ。

 

「……待って、おかしい。なんでこいつは、ここにいたの?」

 

そう、おかしいのだ。

もしも彼が、アビドスへの侵攻と同じように、アビドスを目的としていたならば、彼がいるのは、戦利品であるホシノの場所ではなく、前線。あるいはその中心。

 

どちらにせよ、これではまるで。

 

「そうだ、私はお前たちを、いや、お前を待っていたのだ!!小町小吉!」

 

「……悪いが、俺にはお前みたいなロボットに面識はないし、カイザーコーポレーションと繋がりなんて」

 

「……ふふ、そうだ。お前とは繋がりなどない!だが!私はお前に常に挑み続けた!!いや!!お前という名の被検体にな!!」

 

ぴくり、と、彼の身体が、僅かに動いた。

 

「お前に、いや、バグズ手術に敗北してから、こちらに企業ごと移り、借金に苦しみながらも青春を過ごす子供に憎らしい思いをしていたが……もはや!どうでもいい!お前だ!お前こそが私の青春を打ちのめした!」

 

「……そういうことか……。バグズ二号……。いや、アネックス計画においての火星探索、その、候補の一つ!!機人改造の研究者か、被検体ってところか」

 

「せ、先生。何の話?」

 

「……聞いたことがあります。外の世界では、はるか宇宙の別の惑星……火星を地球のように暮らせる環境にする、計画があったと」

 

その言葉に、理事は笑う。

 

「ふふ、確かに当初はそんな予定だった。だが、既に我々の世代ではその意味は変わっていた……。故に、こいつや、私のような人間は、改造手術を受けたのだ。特殊環境下で生き抜き、そこにいる生物と戦うための手術をな!」

 

「……戦うための、手術……?」

 

「あぁ、そうだ!なればこそ!見せてみろ!小町小吉お前の力を!私たちは、お前たちと比較されることもなく、高価という理由で退けられた!だが、我々はお前に負けてなどいない!小娘を助けたければ!!私を越えていけ!!」

 

そして、男は身に纏ったスーツを脱ぐ。

その下にあるのは、強固な鎧と、数多の武装であった。

 

「……あの装備!先生、下がってください!!ここは……」

 

「いや、下がるのはお前たちの方だ」

 

「ん、……先生。それは冷静じゃない。確かに強そうだけれど、ここは、私たちが」

 

「……いや、あいつは俺を望んでる。なら、これは、大人と子供の戦いじゃなくて、俺と、アイツの決闘だ」

 

そういって、彼は、銃を向ける。

ただし、その方向は、眼の前の敵ではなく、己。

 

「“人為変態”」

 

バツン、と、生徒たちが止める暇もなく、彼の体にその弾丸が撃ち込まれる。

しかし、その弾丸は彼の身体を貫通することなく、彼の体の表面で留まる。

 

「っ、……ぅおおおおおおおおお!!!」

 

そして、彼の肉体に変化が訪れる。

屈強な彼の腕は、さらに太くなりその手の甲から、鋭い針が生まれる。

それまで纏っていたスーツの腕部が張り裂ける。

顔には、燃えるような隈取が浮かび、あごには硬質な何かが生まれ、こめかみのあたりからは角を思わせる触覚が生える。

 

「……待たせたな。カイザー理事」

 

それは、まさしく、変態……。

いや、変身であった。

 

彼の肉体は、薬によって、人と虫が一体となった姿へと変貌していた。

 

「ふふふ、ははははは!!!ついに!!ついにだ!!この時を、5年いや、十年は待っていた!!覚悟しろ!!小町小き……」

 

それは、男からしてみれば、見えなかった。

いや、恐らく、戦闘になれているアビドスの面々でさえ、分からなかった。

 

理事は確信していた。

例え人間が、虫の……。彼のベースとなったオオスズメバチという強力な昆虫の力をもってしても、今の強化改造を上乗せした自分にはかなうはずはないと。

 

だが、一つ彼は、知らなかった。

いや、理解していなかったのだ。

 

彼らの改造手術。

機械化改造手術と人体改造手術バグズ手術の差を。

 

彼らの手術は、人を、一部重要器官以外を機械の部品とすることで、多少のコストこそかかるものの、どんな人間でも高スペックな兵士へと進化させるものであった。

 

しかし、バグズ手術は違った。

人が主であり、虫が従であるのだ。

 

だからこそ、彼は見誤った。

彼が使うのは、スズメバチのベースの力であると。

 

彼の初動は、それ故に、彼の警戒をすり抜けた。

 

なにせ、その動きは、ただの空手の足運びであったから。

彼が愚直に鍛え続けた、武術。

 

その動きを彼の高級センサーは、捕らえきれなかった。

次の瞬間、撃ち込まれるのは、正拳。

 

小吉の肉体を上回る大きさの理事の、鎧に包まれたボディに、拳の痕が付き、二、三歩たたらを踏む。

 

しかし、それだけ。

人体であれば、恐らくキヴォトスの人間でさえも意識を失うか、あるいは強く悶絶するその一撃を、彼は耐え抜いた。

 

そして、数歩離れたことで、彼の攻撃の範囲外。

 

彼の脳は、空手の攻撃に対して警戒を強める。

例え、先ほどの歩法で距離を詰めたとしても武装が動く、そのはずであった。

 

次に彼を襲ってきたのは、スズメバチでも、あるいは、空手にも見られない攻撃。

 

彼が腕から生やした、スズメバチの毒針が、弾丸のような速度で飛来したのだ。

 

「遠距離に射出できるなど聞いていないぞ!!」

 

しかし、それを何とか肩部に搭載した盾で防ぐ。

だが、その盾も、針によって穴が開いた。

 

もしも、これが頭部であったらと、理事は肝が冷える。

 

……そう、彼は、安堵してしまったのだ。

今、自分が戦場に立っているにもかかわらず。

 

「それで終わりか?」

 

その声に気が付くと、盾をマウントしていた腕部が引き裂かれていた。

 

振るわれたのは肘。

男は、小吉の肘に目を向ければ、そこには、刃のように、いや、合金でできた男のアームすらも切り裂く刃よりもさらに鋭いオオスズメバチの大顎がそこに生えていた。

 

そして、それが切り裂かれたということは。

 

「いや、これで終わりだ」

 

小町小吉はそこにいた。

 

幾つも装備した武器を振るう間などありはしない。

 

男の懐に潜り込んだ小吉は、そのまま、何度も拳を、蹴りを、刃を、彼の肉体へと浴びせていく。

その度に金属のパーツは、折れ、砕け、切り裂かれ。

 

彼の手足は、丁寧にもぎ取られていく。

 

「……捕獲……。っつってもおいてくけれどな」

 

武器の最後の一本まで引き裂いた小吉は、そのまま地面へと何の容赦もなく、カイザーの体を叩き伏せる。

 

「か、勝った……?」

 

「すごい……でも……」

 

でも、アヤネには、そのあとの言葉は続かない。

そんな声を聴きながらも、小吉は、ホシノの元に歩み寄る。

 

「ホシノ、大丈夫か?」

 

「せん、せい……」

 

「?どうした?」

 

「……せんせいは、本当に、人を、殺したことがあるの?」

 

その場が凍り付くような言葉を、ホシノは吐き出す。

否定してほしい。悪い大人が言ったような言葉は嘘であってほしい。

揺れる瞳は、ただ、小吉の顔を見上げる。

 

「……あいつが言ったのか」

 

小さく、ホシノは頷く。

 

だが、ホシノには、そんな人間には、見えなかった。

彼女の前の小吉は、優しく、強く、そして、……いい大人だったから。

 

「そうだ。俺は、人殺しだ」

 

だから、彼女は小吉に、そんな言葉を言ってほしくなかった。

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