シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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四十話

こうして、とりあえずアビドスにあった喫緊の問題は片付いた。

 

アビドスは便利屋68との契約に基づき、カイザーとの借金を返済し終えた。

奪われた土地は、契約に基づき正式に売り渡したものであり、また、砂嵐もやむわけではないが、それでも。

少なくとも、彼女たちに差し迫ったカイザーたちからの攻撃は、これ以降不法なものとなり、行うことはできない。

 

「まぁ、別に、今回の件はアビドスだけが得をする慈善事業じゃないわ。詳しく知りたいなら、そうね。ヒナにでもきいたらいいわ。先生」

 

アルがそういったのは、アビドスとの契約をヒナとヒフミを交えたうえで、最終的に成立させた後のことであった。

 

その契約の締結を見届けたヒナとヒフミが、そろそろ帰路につくというので見送りに出た小吉は、アルの言っていた意図をヒナへと尋ねる。

 

「……私と彼女……。ヒフミ。だったわね。彼女は一応、トリニティ砲撃演習の引率者。つまり、トリニティの代行が、アビドスと便利屋68間の取引を認めた。それはつまり、現状の彼女たちが、規則違反者が勝手に会社を名乗って行動しているというだという前提がなくなり、正式に、ゲヘナが認可した活動をしている会社。あるいは部活として認めたことになるわ」

 

そんなヒナの発言に、小吉は一応の選択肢を提示する。

 

「……アル個人が渡したってことにすりゃ、いいんじゃねぇか?騙し討ちみたいな形になるが」

 

だが、その言葉に、ヒナは首を振る。

 

「そうね、確かに。その方が都合はいいとおもう。でも、……やり方はどうあれ、正面から彼女はこれを整えた。ちょっと危うい手を使ったのは事実だけれど、……自由と混沌を尊ぶゲヘナで、そういう潰し方をするのはよくないわ。努力を潰すのは簡単だけれど、それは、私たちには合わない。……なんとかできる範囲だし、政治的なことはマコトに任せるけれど」

 

「え、だ、大丈夫なんでしょうか!?トリニティとして認めてしまって」

 

「……まぁ、ニュートンである彼女が設立した企業。っていうこと自体は問題だけど、それで責任を負うとしてもゲヘナだから、貴方は気にしなくていいわ……、別に、あの子も悪だくみがあるわけじゃないだろうし」

 

唐突に湧いた、重要な話に慌てるヒフミに対してフォローを入れ、ため息を小さくつく。

そして口元に笑みを浮かべて、小吉に向きなおる。

 

「さて、それじゃあ、私は帰るわ。先生。またゲヘナに遊びに来てくれるとうれしい……」

 

「あぁ、分かった。今度連絡する」

 

「私もそろそろ帰らないと……あ!先生!トリニティにも!私、案内しますから!」

 

「おう、楽しみにしてるぜ」

 

そういって、アビドスから立ち去る二人の背中を見送って、小吉は肩をすくめた。

 

なにせ、こちらにはまだ問題が残っているのだから。

 

「ん……!勝負!」

 

「だから、なんでよ……」

 

その問題というのが、シロコであった。

 

話はおおよそまとまっていた。というか、しっかりと締結された。

 

最終的な結論を言えば、アビドスが便利屋に作った借金の返済方法は、便利屋68からの仕事を割り振りそこから返すというものとなった。

 

勿論、便利屋が請け負う仕事の都合上、アビドスに悪い評判が行くことを考慮し、あくまで便利屋に所属するのではなく、アビドスに拠点を持つ便利屋が、外部の戦力として雇う形を基本として、いつでもアビドス側は悪評から逃れることのできるようにしている。

 

いざというときは、借金の形に脅されてやったといえばいい。ということも便利屋側からも、ヒナからもお墨付きだ。

 

だが、結果として、それは、一時的とはいえ、上下の関係を作ることになる。

 

「ん、私の上になるなら、勝ってからにして」

 

「……別に、下につきたくないならいいのよ?契約の形を変えればいいだけだし……」

 

そのことについて、拒絶するシロコに対してのアルの対応は、別にそれならそれで別の形でもいいというものであった。

そもそも、今回の件はすべて、アビドスへの恩を返す意味合いが大きい。

彼女たちが納得いかないなら、ゲヘナとトリニティからの認可でも、今は捨てていい部分であった。

 

「んっ……!まだ、決着ついてない」

 

「あー、……。そういえばそうだな」

 

「たしかに、アビドスの時は私たちが退いたけど……。それなら、貴方達の勝ちでいいじゃない」

 

「……私とアルの戦いは終わってない」

 

つまりは、そういうことであった。

 

別に、シロコがアルを嫌ってるわけじゃない。

下につく関係。それを本当の意味で嫌がっているわけじゃない。

 

ただ、関係に区切りをつけたい。

 

「あの日、私は負けた。片手間で相手をされて、貴方達に大したダメージも負わせられずに、撤退された。リベンジがしたい」

 

あの日のままじゃ終われない。

なぁなぁにしていいことじゃない。

 

「……どうするんだ?アル。受けるか受けないかは、お前の自由だ」

 

「あのねぇ、先生……。受けるに決まってるでしょ。だって、名目上は部下になる子がそういってるんだもの。答えるのが社長よ。砂狼シロコ。私は、貴方の挑戦を受けるわ」

 

小吉にとって、その響きは、どこか、懐かしいものであった。

 

「気に入らない」

 

ルールを聞いたシロコは、そう、つぶやいた。

 

一対一。

距離はシロコが好きな位置から。

そして、『開始時間』は、シロコがアルに対して攻撃をしてから。

 

あまりにも、シロコに有利なルール。

 

「んー、まぁ、ハンデとしては、めちゃくちゃだね」

 

「そう?私は結構、順当だと思うなー」

 

シロコへの協力として、トラップを仕掛けながら、そんな愚痴を聞いてしまったホシノの反応に対して、ムツキが口を挟む。

 

「……私がそんなに弱いと思うの?」

 

「んーん。多分、ムツキちゃんじゃ結構大変なくらい狼ちゃんは強いと思うよ?でも、……今のアルちゃんは特別。多分、やりあえる相手だけでも相当すくないよ?そうなるくらいに前までのアルちゃんより強くなってるから」

 

「……」

 

「どう、シロコちゃん。行けそう?」

 

ホシノに問われ、前回の戦いを思い出す。

 

事実上の二対一。

ホシノの攻撃こそないものの、シロコが肉薄し攻撃を続けている間、アルはそれをさばきながら、ホシノへの攻撃による足止めを行っていた。

それをさらに強く。

 

そんな風に、思い悩むシロコを前に、ムツキは笑みを浮かべて彼女に言葉を贈る。

 

「じゃ、そんな狼ちゃんにアドバイスー。戦闘中は余計なこと考えずに自分の得意距離で戦ったほうがいいよ」

 

そういって、トラップの敷設を終えたムツキは、スキップをしながらアルの方へと向かっていった。

 

「……あら?いいの?ドローンミサイルからの攻撃から来てもよかったのよ?」

 

彼女の正面、【二十メートル】。

ムツキのアドバイスを、彼女は受け入れなかった。

 

「いい。私は、負けるとしても納得できる勝負がしたい」

 

二人の考えは、全く同じだった。

 

つまり……。

 

「「私を舐めるな」」

 

瞬間。数度の発砲を交え、互いに同じ行動をとる。

 

すなわち。

 

【前進】。

 

それに驚愕したのは、シロコのほうであった。

アルの武器は、あくまでスナイパーライフル。遠距離に優れた武器だ。

対するシロコの銃はアサルトライフル。中距離から近距離までを得意とする。

 

どちらも高性能な銃でありそれを前提に考えるのは、状況を分けるのは互いのレンジ差。

ロングレンジに長けた武器を用いるのに、初期位置である二十メートルですら近いというのに、今以上の接近は、自殺行為。

 

敗北へと一歩近づくマイナス行動でしかない。

それが、陸八魔アルが行うことでなければ。

 

「っ!!!」

 

それに反応できたのは獣のようなシロコの直感によるものであった。

アルは以前の戦いの時よりも成長している。膂力も、そして、背丈もだ。

 

ありていに言えば、以前の感覚が当てにならないほどに彼女の性能は伸びていた。

一瞬、前へと踏み込んだアルの体はさらに加速し、彼女の照準が間に合わない速度で、シロコが発砲しようとした銃を蹴り上げた。

 

引き絞られた引き金によって吐き出された銃弾の嵐は、天へと放たれる。

 

「少しは、やるわね」

 

その回避に、アルは素直に称賛の声をかける。

 

もし、本能的なその反応がなければ、今頃シロコの銃は手元から離れていた。

だが、この距離ではもはや戦いにもならない。

それを理解したシロコは、距離をとろうと、足に力を籠め大地を蹴る。

 

「まさか、私より早く走れると思ってたの?」

 

「っ!」

 

だが、距離は離せない。

 

元より、彼女たちの一族は、種の品種改良を極めていた。

彼女は、アルはその完成系の一人だ。

 

理論上。よーいドンとともに動き始めて、彼女よりも速く動ける人間は、存在しない。

 

いるとすれば、それは、黒服の言っていた『神秘』かキヴォトスの住人がもつ『異能』によって速度を強化されたものだけだろう。

 

「ほら、もう終わりなの?」

 

嵐のようにシロコへと振るわれる素手による攻撃。

キヴォトスではめったにない、打撃を中心に組み立てられた戦闘。

 

銃撃よりもはるかに威力は低いが、アルの一行動一行動が、シロコの次の動きを止めていた。

 

仕掛けたトラップも無意味だ。

手は出さなかったが、アルはそれの敷設をみていた。

 

どこに何があるかなど、ニュートンの記憶力をもってすれば、容易く記憶できる。

 

「まだっ……!!」

 

この距離ではどうしようもない。銃で攻撃する隙も、彼女の攻撃を防ぐ手段もない。

シロコはこの短時間で、いやというほど理解させられた。

 

そして、もはや普通の手段では彼女との距離をとることすらできないということも。

 

更に、このままでは、彼女に罠を利用され、自分の仕掛けた罠にやられてしまう。

 

少なくとも目の前の彼女には、それができることを、シロコは察知していた。

 

ならば、やはり距離をとるしかない。

自分で選んだ間合いだが、それでも、この距離では戦いにならないことを示されてしまった。

 

だからこそ、シロコは懐から手榴弾を取り出し、体の近くで起動させる。

 

「惜しいわね、普通の相手なら、それで正解よ」

 

だが、アルの視覚には、その動きが完全に見えていた。

そして、そもそも、その動きをすることを完全に読まれていた。

 

手放された手榴弾を、アルは、思い切りシロコに向けて蹴りこむ。

その方向は、正に、シロコが距離を取ろうとしていた方向の逆。

すなわち、……敷設された地雷地帯。

 

巻き起こる爆発は、シロコの身体とともに砂埃を巻き上げる。

 

「まぁ、……当然だろうな」

 

起きた爆発に、顔を腕でかばいながら、小吉はそんな評価を下す。

 

「どうしてよ!シロコ先輩があんな行動するなんて……そんなの」

 

「んー、まぁ、無茶で、中々、普通なら選ばない手段だよね?でもさ、あの戦況が普通だと思う?」

 

そう、確かに突拍子のない、奇襲的な手段である。

普通の戦いの状況であれば、そんな手段は択ばない。距離をとるにしても、もっと別の方法を考えるだろう。

 

だが、戦況は普通ではなく、シロコには退くつもりもなかった。

 

「だから、貴女の行動は制限される。一つはいま、貴女がやったようなグレネードの爆風を利用した、強制的な位置替え。敷設された爆弾でやる可能性も考えられたけれど、まだ距離があったからしないし、出来なかった。そしてもう一つが、……普段貴女が使ってるドローンでの特攻」

 

そして、それをアルには読み取られていた。

ならば、彼女の動きを警戒しつつ、ただ、近接格闘を繰り返せばいい。

 

「……まだ……」

 

だが、シロコは立ち上がる。

 

その目は死んではいない。

そしてなにより、目的は果たされた。

 

アルによる蹴り。そして、敷設された爆弾による衝撃でアルとの距離を目的通り広げることができた。

 

「これで!!ようやく」

 

「えぇ、それでようやく終わりよ。シロコ」

 

その言葉に、シロコは、目を見開き、地面を見れば彼女の足元には、アルの弾丸が撃ち込まれている。

 

「でも、銃を撃ったのは……、あの時!?」

 

そう。アルは、最初の銃撃以降、銃を撃っていない。

ならば、それがどれほど、ありえないことであっても、正解なのだ。

 

シロコが正面から挑んできた時点で、この結末は決まっていた。

 

「出直してきなさい……。ハードボイルドショット」

 

少女は、爆炎に包まれた。

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