シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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四十一話

シロコとアルの戦いが終わり一時間ほどが過ぎた。

戦いでボロボロになったグラウンドの整備を終え、各自が校内にも入らず、ゆっくりと時間を過ごし始めた。

 

シロコは、治療された後、アルに懐いている。

アヤネはムツキにからかわれ、ノノミはカヨコと今後についての話を詰めて、セリカはおどおどとしているハルカと仲良くなろうとしていた。

 

これからの未来、アビドスと便利屋の協力して過ごす光景が小吉の目に容易に浮かんだ。

 

「先生、ちょっとここ、いい?」

 

「ん、あぁ、ホシノか」

 

いいぞ、と言われて、ホシノはぽすんっと、小吉の隣に腰かけた。

 

「……先生は、これからどうするの?」

 

「あー……そうだな」

 

そう、考えてみれば、アビドスの問題は解決したのだ。

借金こそ、そのまま便利屋に借りたという形で借り先が移るだけだが、現状のアビドスの立て直しとしては一応は解決した、ということだ。

 

勿論、これからもやらなければいけないことは山積みだが、それも今、小吉が手を出して行うべきものではない。

 

「アヤネから相談されてたことは大体終わったからな。後は、アビドス廃校対策委員会を正式な委員会として認可して、カイザーローンの違法取引に関しては連邦生徒会に報告。もっともこっちは、しっぽ切りするだろうからあんまり意味ないだろうな。……あとは、今回世話になったゲヘナやトリニティの子たちに改めて挨拶しにいく、くらいか?」

 

考えをまとめ、口に出してみれば、気が重くなる。

一応小吉も、さぼっていたわけではない。シャーレに帰った時に、少しずつではあるが書類をこなしていた。だが、今回の件の報告はそこそこ複雑になる。

 

書類仕事に関しては、ベテランと言っていいほどになれている小吉ではあったが、それでも、上げなければいけない書類の量、それに、連邦生徒会から追加で送られてくるであろう書類のことを考えると、少しばかり憂鬱になるのも仕方ないことであった。

 

「うへー……大変そうだね。……でも、それも、全部終わったら、アビドスには、……もう来る理由なくなっちゃうね」

 

寂しそうにそういうホシノ。

そんなホシノの頭を小吉の大きなごつごつとした手のひらが撫でまわす。

 

「心配すんなよ、ホシノ。お前たちが呼んでくれたらいつだって駆けつけるさ。なにせ、俺は……。お前たちの先生だからな。それに、理由がなくてもちゃんと顔くらい出すさ」

 

「……ほんと?」

 

「おう。約束な」

 

頭をぐしゃぐしゃに撫でられながら、ホシノは、その言葉にゆっくりと目線を上げる。

 

「……うん。約束……。先生、皆には、言ったんだけど……。まだ、先生には、いえてなかったから。その、助けてくれて……。見捨てないでくれて、ありがとね」

 

「何当たり前のこと言ってんだよ。当然だろ」

 

小吉は、笑い、それにつられて、ホシノも笑った。

 

「……じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」

 

「もう?まだ日も……、ぁ……。そっか。うん、そうだね」

 

太陽はまだ沈んでおらず、もう帰るのかと、ホシノはそう思ってしまった。

 

「?ホシノ」

 

だが、先ほど確認したばかりだ。アビドスの問題がおおよそ解決した以上、今の小吉に、アビドスに長くとどまる理由はない。

さっき話したばかりのことだったのに。……ホシノにとっては、もう、それが当たり前になっていた。

 

小吉が夜遅くまで一緒にいてくれて、全員を見送ってくれるか、最後にみんなで別れることが。

 

「なんでもない!ほらー、みんな!先生帰るしお見送りしよー?」

 

「え、もうそんな、……ぁぁ、そうですね」

 

「ん……」

 

そして、アビドスの面々は、全員同じことを思っているからだろう。

彼女たちの足取りは重く、のろのろとしたものであった。

 

「……別に今生の別れでもないんだし、遊びに行けばいいでしょ」

 

ぱん、と、そうアルに背中を叩かれ、ホシノは見透かされたような気がして、肩をびくりと大きく震わせる。

 

「で、でも!ほら、先生も忙しいだろうし」

 

「?いや、別にいいぞ?いつでも遊びに来いよ」

 

「いいの?!」

 

そんな小吉の言葉に驚きの声を上げる。

 

「いや、拒む理由なんてないだろ……?あぁ、でも、俺もシャーレの仕事で出かけてるかもしれないから、その時は……」

 

「だ、だって……ううん、大丈夫!!わ、私は気にしないから!じゃあね!先生!!バイバイ!!」

 

そういって、走り去ってくホシノを、小吉はどうしたんだと首を傾げながら見送る。

 

「ん、……そういう時期もある」

 

爆発による火傷で包帯ぐるぐる巻きなシロコはそういってうんうんとうなずく。

お前は一体どの立ち位置から言ってるんだ。と、思いながらも、突っ込んだところで碌な返答が帰ってこないであろうことを察した小吉は。まぁいいか。と、そう思うことにした。

 

「じゃあ、またな。みんな」

 

そういって、小吉はアビドスから離れる。

名残惜しい気持ちがないわけではない。

 

だが、そう。

いつでも会えるのだ。

 

彼女たちは、アビドスにいるのだから。

 

 

「……はぁ。しっかし、どうすっかなぁ」

 

シャーレに戻った小吉は、改めて自身のデスクに積まれた書類の山を見る。

想像以上であった。

 

そもそも、最初。リンが置いて行った書類の山もアビドスに行く数日の間にある程度片付いただけであり、それから今日にいたるまで、アビドスでの書類はまとめていたものの、それ以外には手を付けられていなかった。

 

勿論、間を見て、細々とは書類仕事をこなしてはきた。その自負はあったのだが……。

単純に時間も手も、足りていなかった。

 

あくまでも、やらなければならないからこなせるようにはなったが、別段、好きというわけではないのだ。

 

しかしやらないわけにもいかない。

小吉は、頬を張り気を引き締め、とりあえず何から始めるかをまとめようとしたその時であった。

 

「あーーーーーー!!!!先生!今帰って来たんですか!?」

 

懐かしい声がシャーレに響いた。

 

「お、おう。ユウカ。……久しぶりだな」

 

とりあえずは、アビドスとの協力に力を貸してくれたゲヘナ、トリニティに挨拶に伺うためのアポイントメントでもとって書類仕事を進めようかと思った。正にその時。

 

キヴォトスに訪れた時、最初に協力してくれた生徒の一人、ユウカがやってきた。

 

「久しぶりだな!じゃないです!今まで何をしてたんですか!書類こんなにためて!」

 

「いや、ちょっと、生徒たちの問題解決をな?」

 

「誰も連れずにですか!?危ないですよ先生!不良なんていくらでもいるんですよ!?」

 

小吉の発言に、驚愕。といった具合だ。

 

無理もない。銃弾一発が致命的になる外の人間は、彼女からしてみれば、脆い生き物になってしまうのだから。

 

「悪かったって。それより、今日はどうしたんだ?」

 

「そ、それは……先生が、いつまでもミレニアムに来てくれないですし……。それに、毎日来ても全然いなかったから……その、心配になって……」

 

「毎日来てたのか!?」

 

その発言に小吉もまた驚くことになった。

 

こまめに戻っていたとはいえ、小吉がシャーレをあけていた期間はかなりのものだ。

それこそ、二週間。あるいはもっと。シャーレに戻ったとしても、大抵の場合終電もなくなるころである。

 

「シャーレの方に連絡くれてもよかったんだぞ?」

 

「そ、そんなのできるわけないじゃないですか!本当に困ってる生徒の連絡の邪魔になったらいけませんし……と、とにかく。無事でよかったです。でも、これからはちゃんと誰かに頼んで出かけてくださいね!危ないですから!」

 

まったく!と、怒るユウカ。

とはいえ、その怒り様を見てしまえば、彼女がどれほど自分の身を案じていたのかは理解できる。

 

故に、まさかアビドスに行くまでに遭難して死にかけた。などと伝えることはできなかった。

 

「とにかく!この書類を終わらせましょう!」

 

「あぁ……じゃあ、ちょっと仕分けするから待っててくれ」

 

そういって、小吉は書類に目を通していく。

 

まだ、仕事が始まってそう経ってはいないとはいえ、学園間の問題などを取り扱う都合上、どうしても、生徒の目に触れるべきではない仕事も少なくないのだ。

 

「ユウカ、金銭関連得意か?」

 

「!はい!もちろん、任せてください!」

 

「じゃあ、こっちのアビドスの事件で取り扱った資材の経費とかの算出頼むよ」

 

「わかりました!」

 

仕事上のテンプレートはあらかじめリンに知らされていたので、それをユウカの端末に送り、小吉も自身の仕事に戻るべく、連絡を取り始める。

 

「ふぅ……。案外、あっさり行けたな」

 

幸い、というべきだろう。

アポイントメントは、そう時間をかけずにとることができた。

 

元々、話を把握していたのもあるだろう。

 

ゲヘナ、トリニティ。

その両学園とも、既に学園へと戻った協力者から話を聞いているのだから。

 

そう考えれば、小吉の連絡は相手を待たせてしまっていたかもしれない。

 

「問題なし、っと……。さて、それじゃあ改めて書類に……」

 

「ちょ、ちょっと先生!!」

 

書類に取り掛かろうとしたところで、そんな悲鳴がユウカから飛び出した。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないですよ!なんですか!?この車代って!」

 

ユウカが持ち出してきたのは、アビドスでの戦いで使用した弾薬と経費。

 

「あー……、ちょっと、無茶をする作戦が分かってたから」

 

「ちょっとじゃありませんよ!?めちゃくちゃ高いじゃないですか!」

 

「……まぁ、そうだな」

 

確かに弾薬費に対して、明らかに高い。

 

「それだけじゃありません!爆弾の使用も!本当に使い切ったんですか!この量!」

 

「……使った分だけ請求をしてもらった」

 

何せ相手が相手。

単純な強さであれば、同人数の不良たちにも劣るが、連携、装備。

 

そして何より最終的に設備を使用不能にする程の攻撃を仕掛けたのだ。

 

元々キヴォトス故に生徒たちの攻撃に曝されることも考えられていたのだろう。

 

そんな施設を行動不能に追い込むまでに攻撃していたのだから、爆弾の量に関しては恐らく正しいのだ。

 

「……まぁ、車の方に関しては本人たちからも無理筋だから却下してもらっていいって言われてるから、そっちの爆弾だけでも通しておいてくれ。学校の防衛に必要な分だと、俺も判断した」

 

「……それなら、仕方ないですね」

 

「あぁ、すまなかったな。ちょっと、相手が相手だったからな」

 

「……ミレニアムはその件について、あまり詳しくないんですが、差し支えなければ教えてもらえますか?」

 

「あぁ……ちょっとカイザーPMCに……」

 

「カイザー!?」

 

そんな話をしながら、結局書類仕事は次の日までかかるのであった。

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