シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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四十三話

「あ、先生」

 

「おう、ホシノ、元気そうだな」

 

ゲヘナ訪問の次の日。

トリニティでの会合は、まだ先であったため、小吉は彼女たちの様子を見にアビドスへと訪れていた。

 

「私たちにー……って、感じじゃないよね?メインは、アルちゃんたちに用事かな?」

 

「皆の顔を見に来たっていうのもあるんだが……。メイン、ってなると……そうなっちまうな。今日はこっちにいるって聞いたから来たんだが……」

 

前日の訪問。ヒナとの話し合いで、やはり中心になったのはアルの話であった。

そこで聞いた規模の拡大について、小吉は寝耳に水であった。

未だ数日だというのに、ヒナたちが警戒しなければならないほどの成長を遂げたというのであれば、やはり、確認は必要だろう。

 

「あー、今日は。っていうよりも、アルちゃんたちには、アビドスの部室の一つを拠点として貸し出してる感じかな?」

 

「いいのか?」

 

思い出すのは、カイザーがこの地で行っていたこと。

借金のため、土地を奪われて、彼女たちが追い詰められたのは、まだ記憶に新しいことだった。

 

「仕事をこっちに回してもらう都合、毎回アルちゃんたちに来てもらうのものね~……。というか、そうでもしないと、便利屋に返すお金が足りないし、これに関しては契約、ちゃんとしてるよ。貸し借りに関しては、どれだけ長くても、私がアビドスを卒業するまで。それ以降の延長は認めないって、形にしてるし、あっちもそれに頷いた」

 

契約書、確認してみる?

と、差し出されたそれに、小吉は目を通す。

 

「多分、大丈夫だな。一応写真とっていいか?」

 

「どうぞー。先生は部外者ってわけじゃないしね」

 

少なくとも穴はない。

悪用するとも思えないが、……その上で、カイザーの時のように、いつの間にか学校がアルたちに乗っ取られていた、ということにはならないだろう。

 

「あぁ……。そうだ、ホシノ」

 

「うへ?」

 

思い出したように小吉は、ホシノに財布から取り出したチケットを渡す。

 

「……これ」

 

「水族館のチケットだ。あの時はお前を守ってやれなかったからな。これは、そのお詫びだ」

 

「……えー……いいのに……。ぁ」

 

チケットを見ながら、ホシノはあることに気が付いた。

 

「先生、これ、ペアチケットだよ」

 

「?……ほんとだな……気が付かなかった。よし、じゃあ……二人で行くか」

 

皆には秘密な?と、言いながらホシノに告げる。

 

「いいの?忙しいんじゃ……」

 

「全員でいくには難しいだろ?俺も、アクアリウムの鑑賞も趣味でな。あ、それとも、誘いたい奴いたか?」

 

「ううん!!いい!先生が……」

 

その先の言葉をホシノがつむごうとしたその時。

ちょうど、二人が目的としていた扉が開く。

 

「……ちょっと、事務所の前でいちゃつかないでほしいんだけれど」

 

そこには、今日、小吉がここに訪れた理由。

 

キヴォトスに現存する唯一のニュートン。

アルが立っていた。

 

「で、話は何かしら」

 

今日事務所の中にいたのは、アルだけであった。

今はアビドスと便利屋のチームワークを上げるために、バラバラに組ませて危険度の低い依頼に当たっているらしい。

幸い、というべきか、アビドス近辺の治安は、キヴォトスでもすこぶる悪い。

これでも、ホシノがある程度は、減らしたらしいのだが、それでも、不良の数は少なくない。

 

土地こそカイザーがこの前の件で碌に管理をしない以上、現状住民の困っていることに対応するのも、アビドス、ひては現在の便利屋の仕事であった。

 

「先生はアルちゃんのやってることが心配なんだって~」

 

「……便利屋業務?ホシノたちのことなら逐一報告は上げてるでしょ?」

 

そう、アルたちはアビドスに関わる仕事について小吉に対して細かく報告を上げていた。

 

「あぁ、そっちはそうなんだが、……ヒナからちょっと聞いてな」

 

「……」

 

ぴくり、と体が動いた。

 

「今やってること、詳しく聞かせてくれないか?」

 

「……大丈夫よ。ヒナや先生が心配するようなことは、今はしてないわ」

 

そもそも、やっていたら、チナツが急いでヒナに知らせるでしょ。と、アルは言う。

 

「……というか、先生。日を跨いできてる時点で疑ってないでしょ」

 

「そりゃ、な。アビドスでの動きを見て、そんなに悪辣なことをするとは思わないよ」

 

「あら、ホシノやシロコ狙いかもしれないわよ?」

 

「うへ?私たち?」

 

確かに、戦力としてみた時、アルと戦うことができる領域のシロコとそれを超えるホシノの存在はかなり大きい。

 

大きいが……。

 

「単純に肩入れするほどの理由には足りないな。戦力という面でアビドスを手に入れるのは大きいが、企業を敵に回すほどじゃあない。それこそ、十億払って、引き入れるならもっと別にアプローチもあるだろ」

 

「……分かったわよ、降参。そんな意図はありません……っもう。悪ぶらせるくらいさせてくれてもいいじゃない。アウトローなのよ?私」

 

小さくため息をつきながら、アルは両手を上げて白旗を振る。

 

「とはいっても、残念なことに今は悪いことはしてないわ」

 

「そうか?じゃあ、ヒナが便利屋の規模が大きくなったっていってたのは?」

 

「そりゃ、資金を遊ばせるわけにはいかないから出資したからじゃないかしら?」

 

「出資……ってことは、私たちにやったみたいな支援を?」

 

ホシノの疑問に、彼女はこくりとうなずいた。

 

「今の便利屋の総資産は、それこそ、小中規模の学園なら十分上回る量よ。それを手元に置いているだけにしておくのは、腐らせるだけ。勿論、資産を隠して動きを隠すこともできるけれど、それは私好みじゃない」

 

「でも、どうして出資なの?お金があるって見せたいならほかに色々あるんじゃ」

 

「それは、時間とか設備とか、いろいろ事情があるけれど、一番はコネね。それと、動きを大きく見せるためね。出資先見る?」

 

アルから渡される書類の束を小吉は受け取る。

 

そこに記されているのは、いくつかの会社の名前と、それ以上に多くの学園の部活の名前。

 

「部活にも出資するのか?」

 

「人員確保、ってなるとこっちの方がいいのよ、先を見ないなら今ある会社に投資すればいいけれど。それ以上に、生徒たちの才能は素晴らしいから」

 

既に金銭という基盤がしっかりとしているからだろう。

彼女の考えは既に未来を見ていた。

 

「で、動きを大きく見せる理由は?」

 

「さらなるお金稼ぎと、仕事のためね。今はアビドスの治安維持を中心にしてるけれど、そんな小さくまとまる気はないわ」

 

「……」

 

「で、……先生に相談があるのだけれど」

 

「……なんだ?」

 

「私と取引しない?」

 

ぴくり、と体の動きが止まる。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「んー、まぁそうね。私たちは自由にしたいけれど、先生から見たら、手放しで見るには危険かもしれない。これは、先生だけじゃなくて多分、ゲヘナでも思ってるはず。実際、ヒナに今も首輪されてるわけだし。だから、そう。先生に便利屋の首輪を渡してあげる」

 

「……先生に何をさせるつもり?アルちゃん」

 

ホシノの問いに、アルはふてぶてしく笑う。

 

「そう難しい話じゃないわ。先生には、私たちがやろうとしてることが本当に不味いと思った時に、口を挟む権利をあげる」

 

「そこは、止める権利じゃないのか」

 

「本気でやらないといけないと思った時は、私は進むわ……。たとえ、誰が目の前に立ちはだかることになっても。でも、その前に、……先生が言うなら、一度止まるくらいはしてあげる。勿論、その結果、必ず結論が変わるとは限らないけれど」

 

十分とは言えない。

本気で彼女に対しての対策をするというのであればこんなもの、首輪と言えるほどの拘束力はないだろう。

 

「……分かった。それでも十分だな」

 

だが、……今の小吉は、世界を憂うものではない。

このキヴォトスを頼まれた、先生であった。

 

ならば、眼の前のアルもまた、自身が導くべき生徒だ。

自身の善の基準で縛り付けては、彼女の成長の妨げになる。

 

もしも、それをよしとするのならば、きっと、師としての資格を失い。

……『彼女』が言っていた、燈火と思われることもないだろう。

 

「……。受けてくれて感謝するわ。当然これは取引よ。私はこれで、先生に常にみられるリスクの代わりに、面倒ごとの一部に対する免罪符ができた……。だから、先生に協力する理由が生まれたわけね」

 

「……めんどくさくねぇか?それ」

 

「仕方ないでしょう。シャーレの先生だからって、タダで情報渡してたら、ほかに示しがつかないわ」

 

「……じゃあ、先生も巻き込んじゃえばいいんじゃない?」

 

ホシノの発言に、小吉とアルの動きがピタリと止まる。

一瞬、ホシノは、自分が何かダメなことを言ってしまったのか、と思い、二人の顔を交互に見る。

 

「……ありね。ただ、便利屋をシャーレが抱き込むっていう形はいただけないわ。そこまで癒着する形にすると私たちが自由に動けないし、何より、シャーレ側への不審も出てしまうもの」

 

「ありだな……。なら、いい感じの役職を用意してくれ。外部の存在であり、監視も兼ねた存在だと言い張れば、大体の相手は納得するはずだ。特にアル相手なら」

 

ニュートンの監視。

お題目さえ立てていれば、大抵の場合何も言われないものである。

 

「……じゃあ、外部顧問、小町小吉先生に、次の交渉相手の情報を提供するわ……。桐藤ナギサ。ティーパーティ。……トリニティの生徒会長ね。一回はあったことがあるのよね?」

 

「いや、あの時はヒフミを通して、だったな……」

 

そう。

あの日、小吉とヒナはティーパーティのホストに合うことはできなかった。

 

その理由はたった一つ。

 

マコトの策がハマりすぎたのだ。

 

ナギサはあの日、マコトの意図をすぐさま読み取り、アビドスに対して必要なものを即座に用意し、次の日には見事間に合わせた。

 

……。そう、それがどれほどの仕事だったか、など。考えるまでもない。

 

既に用意していた土地からの移動。

必要と予想される戦力を、カイザーに気取られることなくかつ、時間に間に合うように到着させる。

敵対する相手がいる実戦演習になるため、人員、作戦の変更・準備。

 

それ等の選定に時間を取られると判断したのだろう。

 

ナギサはその日、小吉に合うことはなく、全ての対応を知り合いであるヒフミに任せた。

 

「そう。なら、ますます重要になってくるでしょう?」

 

「いや、人柄については俺自身があってから判断するよ」

 

「……そう?それなら……トリニティの問題児リストとか、どう?」

 

「いつ集めたんだ……」

 

そう呆れる小吉に対して、アルは、投資の前にリサーチくらいはする。と返した。

 

「さて、……今うちでできる話はこれくらいかしら……ホシノ、先生を送ってあげて?」

 

「え!?で、でも……ほ、ほら!アビドスが空に……」

 

「私がいるんだし、こっちはちょっとくらい、空けても心配ないわ。先生も、護衛くらいつけたほうがいいわよ?」

 

ほら、と。ホシノの背中をアルは押す。

 

「え、えっと、先生。じゃあ、送ってくね?」

 

押し出されて、僅かばかりに頬を赤らめながら、スカートのすそを気にするホシノ。

 

「いや、行きたくないならいいんだぞ?やりたいこととかあるんじゃないか?」

 

そんな彼女に対して、投げられる小吉の言葉に、後ろでアルが笑いをこらえるのに必死になる。

その様子を見たホシノは、普段の飄々とした態度はどこへやら。

 

「い、いく!!!行くから!ほら行くよ!先生!出発」

 

先生の手を引っ張りながら留守番よろしく!といって、彼女は先生の護衛としてシャーレへと向かうのであった。

 

 

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