シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
四十五話
トリニティへの訪問の次の日。
小吉とハナコは予定通り、ミレニアムへと訪れていた。
「しかし、よかったのか?ハナコ。トリニティでの授業とか」
「そういえば、先生は最近までアビドスにいたんでしたね。授業自体は行われていますが、キヴォトスでの勉強は大体これで行われています」
そういいながら、ハナコは、これは、今日の分です。といって、ディスクを取り出す。
「これを見て、授業はそれで終わりです。いつやってもいいですから、一気にやったりする子もいますね。それに、課外の活動や、それ以外でも単位の修得はできますし。今回のシャーレの同行も、申請すれば単位の一つとして認められますよ」
「そうだったのか……ホシノたちの単位も認めてやらねぇと……」
「そのほうがいいかもしれませんね……。さて、先生、ミレニアムについてはどれほどご存じですか?」
少し前に出て、彼女は小吉へと問う。
「それなら、少しは予習したな。確か、科学の最先端を行く学園で、最近、ゲヘナ、トリニティに次ぐ三大校に躍り出た……。だよな?」
「はい。そうです。ここでは、学生たちによって今ある最先端の技術が、いろいろと研究されています。特に、武器装備や、ロボットなどの機械類は現在のキヴォトスで右に並ぶ学園はいないでしょう」
小吉の当たり障りのない、とはいえ最低限の回答に付け加えるようなハナコの答えに思い出すのはアルの出資リストだ。
あの中に、ミレニアムの名を冠する部活がいくつかあった。
彼女がニュートンとしてどれ程優れた力があるかどうか、小吉に判断を下すことは未だできないが、少なくとも、その血からくる知力を疑うことはない。
勿論、読み切れないこともあるだろうが、彼女がそう動いたのだから素直にこの点に関しては彼女の勘を信じるところだろう。
「それで、どういう依頼なんですか?前回は、学校の立て直しだったそうですが」
「今回か?今回は……っ!ハナコ!」
そんな話の最中、突如飛来するそれに気が付いた小吉は、ハナコの体を引き寄せ、咄嗟に何かを蹴り飛ばした。
「せ、先生!?大丈夫ですかっ!」
「ハナコ、けがはないか?それにしても……グレネード、じゃなかったみたいだな」
何かから守られたことに気が付いたハナコは慌てて小吉の無事を確認する。
が、当の彼は、ハナコに怪我がないことに安堵の息を吐くと、自身が蹴り飛ばしたものを確認しに近づく。
「……先生は銃弾一つで大けがなんですから気を付けてくださいよ」
「大丈夫、俺もそのあたりは考えて動いてるよ……。どうやら。何かの機械みたいだが……」
そういいながら、完全に破壊された機械を眺める。
少なくとも、プロペラのようなものも、浮遊するための機構も存在していないそれは、戦闘や監視用のものというわけではなさそうに見えた。
「これは……プライステーション……ゲーム機ですね」
「ゲーム機?なんで、そんなものが……」
「あーーーーーー!!!私たちのプライステーション!!」
そんなやり取りの中であった、少女の叫び声が響いたのは。
二人の視線が、いや、辺りにいる生徒たちの視線も同時にそちらへと向かう。
そこにいたのは瓜二つ、……というべきだろう。
恐らく双子であろう少女が、そこに立っていた。
「もう、ミドリ、そうじゃないでしょ!先生!大丈夫!?」
ミドリと呼ばれた大人しそうな少女を、元気そうなもう一人の少女がとがめる。
「あー、俺は大丈夫だけど……これ、君たちのか?」
「は、はい……。私が投げました」
「……物を粗末にするのはよくないぞ」
「そ、それは、はい。ごめんなさい……」
小吉からのそんな物言いに言葉が出ない。
あるいは、これがもしも、怪我をしたら、などだった場合、まだ苛立ちもあっただろうが、自分の行動によって被害をもたらした相手に、そう諭されてしまえば、何の反論の余地もなかった。
「さて、まぁ、説教は、そんなもんだ。ゲーム機壊しちまったのは俺も悪かったしな。……それで、君たちがメールをくれた子か?俺は、小町小吉、こっちは、シャーレで手伝いをしてくれてるハナコだ」
「そうだよ!私は才羽モモイ!こっちは、妹のミドリ!」
「その、……よろしくおねがいします……。先生」
「それで、……相談。っていうのは。廃部の危機だ、っていう話は書いてあったが」
互いに、挨拶を済ませたところで、本題に入る。
「……えっと。うん、そう」
「何か、トラブルにでも巻き込まれた、とかでしょうか?」
思い出すのは、アビドス学園でのやり取りだ。
まさに、子供がどうこうしようとしても、どうしようもない、悪辣な追い詰め方。
独力での解決は、まず無理な話であった。
小吉も、そして、話を聞いていたハナコもまた、モモイの言葉に耳を傾けようとした。
「いえ、その件は私から、説明しましょう」
「げぇ!?ユウカ!?」
「げぇ!!ってなによ!!」
だが、その場に現れた魔王によって、彼女の言い分は阻まれた。
「ユウカ……。そうか、委員会活動だから、廃部の理由も知っているか」
「はい、先生。数日ぶりですね……。あまりこういった場面でお会いしたくありませんでしたけど……。今回は、この子たちに呼ばれてきたんですよね?でしたら、……言っては何ですが、味方するのはあまりお勧めしません。いくらシャーレの権限と言えど、この決定をひっくり返すのは不可能です」
そういいながら、明らかに、怒りを秘めた目線をモモイに向けるユウカ。
「一体、この子たちは何をしたんだ?」
だからこそ、彼女の目線が怒りだからこそ、小吉はそう踏み込む。
短い付き合いではあるが、それでも彼女はしっかり者の優しい生徒だ。
故に、彼女の降す決断が理不尽であるはずはない。
「……なにも、してないんです」
「ん?」
「部員数が足りなくて成果が出てないから評価できないんです!!」
あるはずはない、と、理解していたが、……まさか、それほどまでに一般的な話が出てくるとは小吉も想定していなかった。
「せ、成果物はあったでしょ!」
「悪い方のランキング一位とったのを堂々と成果物として語らないで!それに、この前の非合法カジノのも忘れてないわ!これ以上容認はできない!!廃部は確定よ!諦めることね!……言っておきますが先生。これに関しては先生でも手出しできませんよ!各部活の運営は、その学園に任せられていますから!」
「まぁ、そりゃそうだよな……。大丈夫だ。権力で無理やり維持させるみたいなことはしない」
「えー!?ダメなの!?」
「当たり前だろ……」
シャーレの権力は絶対的なもの。
だが、それは決して無制限に振るえるわけではない。
この権限を付与したのが連邦生徒会長である以上、権力の及ぶ範囲はあくまで連邦生徒会で実現ができることに限られる。
例えば、ある学園からある学園に、資産や生徒の移動を勝手に行う。などは、当然できない。
可能であるとしても、精々、入学に便宜を図り融通を効かせる、くらいのものだろう。
それでも、絶対的な権力というのは間違いない。
しかし、それでも、生徒たちに対して、直接的にできることは、存外そう多くないのだ。
実際に、アビドスで小吉がシャーレの権限を用いて行えたことなど数えるほどであった。
「……けど、もうちょっと、待ってやってくれねぇか?」
「先生……。わかりました。元々、期限自体はもう少しありましたから。でも……今のゲーム開発部には難しいと思いますよ?」
ため息をつきながらユウカは小吉へと言う。
しかし、彼にはユウカのその言葉に少し疑問が浮かぶ。
「……まぁ、確かに、ゲームを短期間で作るっていうのは難しいかもしれねぇけれどよ……。流石に部員集めくらいならできるだろ」
そう、確かにゲームを作ることは難しいだろう。
特に実績がないという、彼女たちにとって高い壁となる。
だが、部員を集めるという目的であれば、そうでもないはずだ。
例え、複数の部活に所属することが認められていないとしても、この広い学校の中で、全員が部活に所属しているということは考えられない。
それならば、事情を話せば籍だけは入れてくれる。そんな生徒が、一人や二人いてもおかしくはないはずだ。
「え、えっと、その……」
だが、小吉の言葉にモモイたちの表情はわずかに陰りを見せる。
「……えぇ、確かに。委員会の私が言うのもなんですが、いわゆる幽霊部員という形で部活に在籍することもミレニアムで認められていないわけではありません。勿論、それで責められたりもしません……けれど。少なくとも今のミレニアムにゲーム開発部に所属したいという子はいないと思いますよ?」
「それは、どうしてですか?部活がつぶれそうだと訴える子がいれば、手を貸す子がいてもおかしくはないはずです」
ユウカの言葉に、ハナコはそう返す。
「えぇ、確かに、お人よしな子がいれば、ゲーム開発部の取りつぶしという部分に同情を示して、部活に入る。なんてこともあるかもしれません。でもそれは、そこに、デメリットがなければ、の話です」
そんな含みを持たせたユウカの言葉に浮かんだ予想に、小吉の頬に汗が流れる。
「……いや、まさか……」
「えぇ!この子たちが起こしたトラブルは一回や二回じゃありません!総被害額もあって、委員会に目をつけられてる部活!たとえお人よしでも名義を貸したいとは思わないはずです!」
言い切るユウカの言葉に、小吉は天を仰ぐ。
「つまり……」
「はい。そういうことです。……彼女たちは、彼女たちの事情を知らない誰かを連れてこない限り、そういった協力も得られない……。つまり、最低限、部活を継続したいのであれば、私たちが認める成果をださないといけない。と、いうことわけですね」
「それは……」
それは、まさしく、絶望的な宣告だといっていい。
ユウカはあぁはいっているが、それでも、冷酷ではない。
それこそ、どちらかの問題さえ解決できれば、時間的な猶予を拡大することもできるだろう。
だが、彼女の言を信じるのであれば、ゲーム開発部は、実績としてのゲーム作りをしなければならない。
「……まぁ、そういうことです」
「……先生……」
諦めたほうがいいですよ。と、言外に示すユウカと、それを受けて不安そうに小吉を見るモモイとミドリ。そして、ハナコ。
「大丈夫だ。こいつらがそれをしたいっていうなら、俺はできる限り力になる」
「……わかりました。なら、私からはもう何も言いません。ですが、期限はそう長くありませんから、そこのところは覚えておいてくださいね!モモイ!ミドリ!あなた達もよ!」
それだけ言うと、ユウカは学園へと戻っていく。
彼女の背中が小さくなったころ、モモイとミドリは小さく息を吐く。
「さて……、改めて、俺はお前たちの力になるぜ。モモイ、ミドリ。けど、そのためにこれだけは聞いとかないとだ。何か方針はあるか?二人とも」
「……ありがとうございます。でも、……えぇっと」
小吉の言葉に、ミドリは礼を返しながらも、言い淀むように口ごもる。
「作戦はあるけれど、言いにくいこと、でしょうか?」
「っ、そ、そうじゃないけれど……」
まるで心の中を言い当てるようなハナコの言葉にミドリの肩はびくりと跳ねた。
「……ミドリ、今更言ってても仕方ないよ!先生!そっちのお姉さんが言うように、あるよ!作戦!ついてきて!」
「お、おう……。どこに行くんだ!」
そういって駆け出すモモイの背中に小吉は声をかけ、彼女はそれに応えるように振り返る。
「廃墟だよ!先生!」