シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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四十六話

「それで、言われるがままについてきたが……。と、みんなこっちだ」

 

小吉の言葉に、全員が物陰に隠れる。

その少し後、彼らがつい先ほどいたあたりを、いつか見たロボットが横切っていく。

 

「……ここはなんなんだ?」

 

今だキヴォトスを詳しく知っているわけではないが、それでもここが普通の場所ではないと理解する程度には、この廃墟は異常な雰囲気を持っていた。

 

「廃墟……。確か、ミレニアムに存在する、立ち入り禁止エリアで……、キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる場所……と聞いたことがあります」

 

「すごい!ハナコ先輩、廃墟のこと知ってるんだ!」

 

「お姉ちゃん静かに!警備が戻ってきちゃう!」

 

ハナコが口に出した言葉に、騒ぐモモイと、それを抑えようとするミドリ。

緊張感のなさに、少しだけ呆れながらも、焦点を今の状況に向ける。

 

「つまり、あのロボットたちも、そういった類ってことか?」

 

「それは分かんない。けど、可能性はあるね……っていっても、私は、ヴェリタスって部活の先輩から聞いたくらいなんだけど……」

 

廃墟の奥へ、奥へと進みながら、ハナコから引き継いだ説明をモモイが続ける。

 

「……ここには、きっと、G.Bibleがある。それさえ手に入れれば、きっとユウカの出した課題をクリアできるはず」

 

「その、G.Bibleっていうのは?」

 

「私も、聞いたことがありません」

 

時間があまりないから、と、急いでここまで来ていたが、その目的のものについての情報を、まだ聞かされていなかった。

その上で、ハナコも知らないのであれば、恐らくは、公にされることはまずなかった何かなのだろうと、仮説を立てる。

 

「うん。説明するね、G.Bibleは、ずっと前にミレニアムの先輩が残した最高のゲーム作り方が書かれたもの……。らしいけれど、どんなものかはわからない。でも、ヴェリタスの先輩たちに確認してもらった最後の稼働地点は、ここだった」

 

「なるほどな……」

 

それを聞けば、合点がいった。

少なくとも、ユウカの話を聞いた限り、モモイたちゲーム開発部のゲームクリエイターとしての実力は、かなり低い。

そして、部活動としての人数は足きりラインなうえ、募集をかけても新入りは見込めない。

たしかに、そんな伝説にすがろうとするのもおかしくはないだろう。

ならば、問題があるとするならば……。

 

「この警備の厳重さだな……」

 

先ほど通り過ぎたロボット。

何度か出くわしやり過ごしてはいるが、通常のロボットではない。

キヴォトスにいる多くの人型のロボットは意思がある。

 

「砂漠で一回あったな……」

 

だが、小吉には見覚えがあった。

勿論、姿や装備は異なるが、カイザーの基地へと踏み込もうとした時、砂漠付近でうろついていたカイザーのものでないロボットたちに挙動が似ている。

 

「いるところにはいるみたいです、トリニティでも、あまり人のいない区域にいたりするんですが……、それでもこの数は多いですね」

 

「これでも、巡回してるロボットだけだから、前よりは減ってるんだよ。元々この辺りを立ち入り禁止にしていた連邦生徒会が引き上げたから」

 

「連邦生徒会が封鎖してたのか……そんなに危険地帯なのか?」

 

「それは……わかんない!でも、今はこれしか、私たちの部活を守る手段はないんだよ!」

 

「……確かに、危険だろうとやるしかないか」

 

そう、既に、彼女たちの味方をすると決めたのだ。

多少、危険な程度のことで、彼女たちは退くわけにはいかない。

 

「アロナ、ルート管理できるか?」

 

『はい!お任せください!』

 

言葉のままに、表示されるのは、この廃墟のマップ。

だが、地図のデータがないのだろう。そこに表示されているのは赤い点のみ。

 

『……ごめんなさい、先生、この辺りはカメラもありませんし、地図のデータもなかったので……、で、でも、周囲の敵座標は記しました!これで敵との遭遇を減らせるはずです』

 

「いや、大丈夫。十分だ。ありがとう……。みんな、こっちだ」

 

そうして、アロナのマッピングに従いながら、奥へ奥へと進んでいく。

 

「……よし、一旦、この工場っぽい建物で息を入れよう」

 

それから、少し。

ロボットと、多少の交戦はあったものの敵の反応がないあたりまで入り込めた彼らは建物の中へと入りこむ。

 

「はぁ……、探索ってすごい疲れるんですね……」

 

「戦ったりとかは少なかったのに、普段より疲れちゃった」

 

外から見えない位置にまで入り込むと、そんな双子の弱音が漏れる。

 

無理もない。

戦闘中の動きを見る限り、二人は息の合った動きこそできるものの戦闘はさして得意という風ではない。

 

ましてや、ただ、戦うというわけではなく、敵に見つからないようにこっそりと動く。

 

ミレニアムでは結構な悪ガキであったらしい二人ではあるが、しかし、見つかってもユウカに怒られたり反省室に閉じ込められるだけの学校内ではなく危険区域だ。

 

彼女たちの精神のすり減らし方は尋常ではないだろう。

 

「ハナコも、大丈夫か?」

 

「はい。先生がペースを考えてくれたおかげです」

 

一方で、想像よりも動けたのはハナコの方であった。

こちらも、戦いの動きそのものを見る限り、間違いなく戦いになれているタイプではなかった。

 

だが、二人とは違う点が一つあった。

それは、頭の良さだ。

 

勿論、洗練され切っているとは言い難いが、それでも、無駄な動きは少なく、彼女なりに抑えているのだろう。

また、二人とはそもそも立場が違う。

 

自身の進退がかかっている二人とは違い、彼女自身は小吉の手伝い故に、メンタル的な余裕もあったのも大きいだろう。

 

「しかし、妙だな……」

 

「?何が妙なの?先生」

 

「あぁ、……これなんだが……」

 

小吉は、持っていたシッテムの箱に表示されている敵の反応を、モモイたちに見せる。

 

「……この工場周辺だけ、明らかにロボットが避けていますね……」

 

画面の違和感に気が付いたのはやはりハナコであった。

小吉も、彼女の言葉に同意するように頷く。

 

「何かあるのかもしれない」

 

「ひょっとして、G.Bibleですか!?」

 

「それは、分かんねぇな……。ゲーム開発のための極意書だけをあいつらが気にするとは思えねぇし」

 

「それは……そうですけれど……」

 

小吉の言葉に、落ち込むミドリ。

折角見えた光明が、暗闇に消えた気分であった。

 

「まぁ、そう落ち込むなよ。ロボットが避けてる理由は違うかもしれないが、ロボットがここを避けて、その上警備までしてくれてるんだ。ミレニアムのその先輩がここを保管場所に選んだって、全くおかしくはないぜ?」

 

「そ、そうですよね!よーし!そうなったら、この工場を早速……」

 

そんな時であった。

突如として、工場の機器が動き始める音がする。

 

「なんだ……。皆、警戒を―――――――」

 

『接近を確認。対象の身元を確認します。才羽モモイ、才羽ミドリ、浦和ハナコ……資格がありません』

 

突然動き出した工場に警戒を強めようとしたその時、謎の機械音声が工場に響いた。

 

「な、なんで私たちのことを!?」

 

「……分かりません、少なくとも、私の名前が出た以上、ミレニアムの警備システムという感じではなさそうですが……」

 

『対象の身元を確認します……。小町小吉先生……。資格を確認しました。入室権限を付与します。同様に、同行者である三名の生徒にも、権限を付与。……承認します』

 

連続で続いた、資格なしの宣告の後に、続けられた、彼らの存在を承認する音声。

 

「え、どういうこと!?」

 

「俺が知るはずがないだろう。こちとらミレニアム付近に来たのも今日が初めてだぞ!?」

 

「じゃあ一体だれが……」

 

それらの事情について、この場の誰も理解していない。

 

……だが、状況は、必ずしも理解を待ってくれるというわけではない。

 

『下部の扉を解放します』

 

「……下部の扉……?」

 

「そんなのどこにも……!?」

 

刹那、彼らの身体を襲ったのは浮遊感。

 

下部の扉。それは言葉の通り、認識していなかっただけで、小吉たちの足元には使われず閉鎖されたままの扉があった。

 

「くそっ……」

 

その瞬間、咄嗟に小吉は生徒たちを守ろうと、両腕でモモイ、ミドリ、そしてハナコを強く抱いて落下する。

 

僅かな落下時間の後、生徒たちのクッション代わりにした彼の身体が床へとたたきつけられる音が響く。

 

幸いであったのは、その落下の時間が短かったことだろう。

碌な受け身を取れる状態ではなかったが、それでも、彼の肉体が砕け散ることはなかった。

 

「せ、先生!?大丈夫ですか!?」

 

「なんとかな……、それよりも、悪いが降りてくれないか?」

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

才羽姉妹がいくら小柄であるとはいえ、少女としては体格のいいハナコも加えれば、鍛えている小吉といえど少しばかり重たい。

 

「それで、……ここは地下階層か?」

 

「そうみたいですね……いえ、……その前に」

 

「せ、先生!あれ見て!」

 

「……女の子か?」

 

起き上がって、辺りを見回した彼らの視界に映ったのは、少女。

よく観察しようと、近づこうとしたその時であった。

 

「せ、先生見ちゃだめ!」

 

「お、おう」

 

モモイの声に、小吉は冷静に後ろを向く。

無理もない、なにせ、僅かに見えた少女の姿は、一糸纏わぬ生まれたままの姿だったのだから。

 

「……とりあえず、俺のジャケットでも羽織らせるか?」

 

「流石に先生のだと、大きいですから……。私のを着せますね」

 

「私も手伝ってきます。出来ましたら声をかけますので、先生はそのまま」

 

「大丈夫だ、でも、どうしようもなかったら呼んでくれよ?」

 

そういって、ミドリたちは少女に近づいて、自分の予備の服を着せていく。

 

「お待たせしました。先生」

 

「おう、その子の容態、どうだった?」

 

「うーん、よく分かんないけれど、……眠ってる、っていう感じじゃなかった」

 

「?どういうことだ?もしかして遺体……にしちゃ、綺麗に見えるが」

 

少なくとも、ここの環境が肉体の保存に適しているとは小吉には思えない。

空気があるということは、微生物の排除までは行われていないだろう。

 

「正しいかはわかりませんが、……眠っているというよりも、機能をすべて停止しているような状態です。まるで、……」

 

その先の言葉を阻むように、警告音のような音が、少女の身体がから鳴り響く。

 

「状態の変化を確認、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

 

「……ロボットのような」

 

そんな、ハナコの言葉に応えるように、愛らしい人形のような少女が、目を覚ました。

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