シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「っ、ありゃ、戦車か!?どっからそんなもの……」
轟音の先、ハスミたちが迎え撃っている相手に小吉は驚愕する。
彼の知識から見れば、装備としてはかなり前時代的なものではあるがそうだとしても、学生が手に入る代物ではない。
「クルセイダー!不法に流通されたものに違いないです!」
「嘘だろ!?こっちだと戦車も学生が買えるもんなのか!?」
……だが、その常識はあくまで外の世界のもの。
ここ、キヴォトスにおいて銃火器の類はごく自然に売買されるもの。
入手ルートが限られているとはいえ、戦車のようなものであっても、学生の手の届くものらしい。
「……なんとかできるか?」
だが、驚いていても仕方がない。
どちらにしても、彼らの目的地はあの戦車の先なのだ。
「はい!PMCが流したということはあの戦車は使い古された中古品、つまり……ぶっ壊しちゃっても大丈夫ってことです!」
合流します!といって、ユウカは既に交戦を開始していた三人の方に駆け寄る。
小吉から見れば不思議なことに、少女たちらしくデコレーションされた以外は何の変哲もない銃火器の攻撃が戦車へとダメージを与えていた。
当然の話であるが、戦車相手に歩兵がやりあう、などというのは、創作の中だけの話であって、現実的なものではない。
「俺たちみたいな人間じゃなければ、の話だが……」
いざというときのために腰にぶら下げていた【銃】を戻して、改めて戦況を見る。
どうやら、ユウカの発言は正しく自分たちの戦力を評価していたらしい。
巨大な砲を構えた戦車を相手にしているにもかかわらず、彼女たちは優勢にことを進めていた。
「ハスミ!戦車に火力を!」
「!はい!!」
そして、小吉の声に応えたハスミの一撃により、追い詰められていた戦車は致命的なダメージを受け爆発する。
中の搭乗員も、慌てて外に逃げ出したところを、ユウカたちに追撃されて意識を失った。
「全員無事か?」
「はい。問題ありません。先生」
「それに、……到着、ですね」
丁度クルセイダーを破壊したその少し先。
そこにあったのは全面ガラス張りの建物。
彼らの目指していたシャーレである。
「シャーレ部室の奪還完了。私ももうすぐ到着予定です。建物の地下で合流しましょう」
そして、シャーレへの到着を確認し、モニターを続けていたリンとの通信が途切れる。
「さて、……それじゃあ、俺達はリンちゃんが来るまでに、中の簡単な確認でもしておくか。ぶっ壊れてたり、まだ中に隠れてるかもしれないし……。悪いけど、もうちょっとだけ手伝い頼むよ」
そうして、彼らは、シャーレへと突入した。
「内部の案内だと地下はこっちだな」
まだ、中は荒らされていなかったのか、内部に目立った損傷はなく、探索も順調に進んでいった。
「ここです、先生。入りましょう」
「あぁ、そうだな」
そう、散策は、滞りなく進んでいた。
そして、その間、敵の痕跡も、重大な手がかりも、彼らは見付けられていなかった。
だから、それは一種の油断。
「うーん、……これが一体何なのか、全くわかりませんね、これでは壊そうにも……あら?」
「……くそっ。マジかよ」
それは、いわゆる鉢合わせ。
突入したその部屋には、先ほど撤退したワカモと呼ばれた狐面の少女が、すぐそこにいた。
「……」
後ろにいる少女たちが前に飛び出し、刺激しないように手で制しながら、小吉とワカモは互いに見つめ合う。
彼の方からしてみれば、ただの警戒。
彼女の次の動きに即座に反応するために、場合によっては【銃】を使うことも視野にいれながら、意識を張り詰めさせていた。
一方でワカモはといえば……。
「……あ、あぁ……///」
ジーっと、小吉の方を見つめながら、頭上に生えた狐耳をもじもじとさせ、声を上ずらせ、あぁ……とか、うー……みたいな言葉を口から漏らし続けている。
「ちょっと、先生!どうしたんですか!!」
その言葉に、ようやく、他者の存在を感知したのだろう。ワカモは小さくびくりと体を震わせて、そして。
「し、し、……失礼しました~~~~~!!!!!!」
その素早さは、正に神速。
その場にいた全員が、止めることも、捕らえることもできない速度で彼らの横を少女は走り去っていった。
「……逃げられちまったな……」
「なんだったんでしょうか」
逃げた理由に察しのつかない面々は、とりあえず、リンを待つ間、施設の破損状態などを調べるのであった。
「お待たせしました。何かありましたか?」
そして、十分後。
彼らのチェックが一通り終わったころ、丁度、待っていたリンが到着した。
「いや、何でもない」
あたりを調べても何の異常もなかったのだから、わざわざ、彼女のことを言う必要はないだろう。
そうおもった小吉は、先ほど走り去っていったワカモのことは伏せることにした。
そして、リンの方も、現場の状況を軽く見まわして、違和感を持たなかったのだろう。
「……。そうですか。では……改めて。ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています」
それだけいって、彼女は、ごそごそと保管庫を漁り始める。
「……幸い、傷一つなく無事ですね。これを受け取ってください。先生」
取り出したそれを、彼女は、小吉に向かって差し出した。
「端末……随分、旧式に見えるが……」
彼女が差し出したのは、何の変哲もないように見える、ただのタブレット端末であった。
「はい。これが、連邦生徒会長が貴方に遺したもの。『シッテムの箱』です」
「シッテムの箱?これを、彼女が?」
その言葉に、小吉は少しだけ、なつかしさを覚えた。
初めて聞く。そのはずなのに、どこかで聞いたことがあるような。
そんな不思議な感覚であった。
「はい。普通のタブレットに見えますが。実は正体のわからないもので、製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みさえもすべてが不明。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は、貴方の物で先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだといっていました」
「……これでか?」
その言葉に、リンは静かにうなずく。
そんなすごい機能があるようには見えない……。
事実、眼の前の彼女もその表情に僅かに不安の色を滲ませている。
「私たちでは機動すらできなかったものですが、先生なら、これを起動させられるのでしょうか、……それとも」
「……」
分からない。彼女は、これを小吉の物であるといっていたが、少なくとも、彼には、そんな記憶はない。
これくらいの大きさのタブレット端末など、U-NASAで支給された端末程度で、少なくとも、私物として持っていた覚えはなかった。
「……私から言えることはここまでです。ここから先は、すべて先生にかかってます。……邪魔にならないように、離れていますね」
それでは。と、いって、リンは部屋の隅へと移動する。
「……やってみるか」
彼は、一言つぶやくと。シッテムの箱の電源を入れる。
暗かった画面は光をともし、システム接続のパスワードを要求してくる。
「パスワード……」
そんなもの、知っているはずがない。
なにせ、彼自身、初めて見るはずのものなのだから。
だが、そのはずであるにも関わらず、彼の脳裏には、ある一つの文章が浮かび上がった。
「我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を」
それが、正しいはずはない。
直感などで解ければ、生徒たちも苦労しないだろう。
そう思っていた。だが……。
画面に表示された文字列には、パスワードの承認が示されている。
【シッテムの箱へようこそ、小吉先生。生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します】
次の瞬間、画面は光輝く。
「ここは……」
気が付くと、そこは見慣れない教室。
そして……
「くううぅぅ……」
「君は……」
そこには、一人の少女が、机に向かって眠っていた。