シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「アリスの問題は解決した……、アリスの言語学習についてもリオが何とかしてくれる……ってことにはなったが……」
「うぅ~……。まさか、アリスが、ゲーム開発部の部員として認められないなんて……」
そう、アリスの学籍問題が解決したことで部員の増員による解決が視野に入った。
正式な学籍をとることになったため、エンジニア部にアリスの装備の開発依頼とコミュニケーション能力のさらなる強化をリオに任せた彼らは、現状の進捗をユウカに伝えることにした。
アリスのことはセミナーにもカバーストーリーとして伝えられており、アリスがミレニアムに就学することは把握していた。
だが、彼女を部員として入れると聞いたユウカの表情は、少しだけ申し訳なさそうな表情をしていた。
「現状のアリスちゃんの状況だと部員として数えられないなんて……」
「ユズちゃん……。落ち込まないでください……」
落ち込むユズを、ハナコが肩を抱いて励ます。
……もちろん、ユウカとて鬼ではない。いや、むしろ、これほどまでに問題を起こすゲーム開発部に対して今のように猶予を与えていることからもわかる通り、彼女は優しいといっていい。
実際に、彼女もアリスを保護した話を聞いた時は、三人をとてもほめていたのだ。
だが、セミナーとしての判断は、現状ではゲーム開発部にアリスを数えることはできない。ということであった。
その理由は……至極真っ当な理由であった。
なにせ、今のアリスはミレニアムの正式な学生とは扱いが異なる状態であったからだ。
正直に言えば、認めてあげたいけれど。と区切りながらも、功績のない現状の彼女たちに対して特例扱いはできない。
それが、セミナーの会計としてのユウカの意見であった。
「それで、……どうする?」
諦めるか?
などと、小吉は口に出さなかった。
なにせ、今も、モモイの瞳は燃え上がっていたのだから。
「……G.Bibleを見つけ出すよ!先生!前回は探索の途中だったからね!」
「でも、……一体どうするんですか?小町先生」
モモイの言葉に、ハナコは小吉に問い掛ける。
そう、問題はどうやって、だ。恐らく、目的のものはアリスを見つけたあの工場にある。
だが、そのためにはあのロボットたちが邪魔になってくる。
しかし、新たについてくることになるユズも、その戦力はモモイたちと同じか、それよりも下回る。
「正面突破は無理だな。だが、すり抜けたりしてたら日が暮れちまうし……」
アリスを人員と数えられない以上、今のゲーム開発部に時間はない。目立った成果。……近々行われるミレニアムプライスで一定以上の成果を出さねばならないと確定した今、、僅かな時間の遅れも致命的になる。
前回のような慎重な動きは、もうできない。故に、一同は、どうにかロボットを回避できる手段はないか、と。頭を悩ませる。
だが、攻略するには、手札が足りない。
「それに関しては、手があるわ」
彼女たちが帰還したのは、そんな時であった。
「あ、おかえりー!リオ先輩!アリス!……って、なにそれ!」
「モモイ!先生!見てください!勇者の剣です!」
リオと装備の確保に向かっていたアリスが背負っていたのは、通常の生徒たちが持っているものに比べてもあまりに未来的な形状をしている何かであった。
「……随分でけぇが、……パワードスーツとかが持つタイプの光学兵器か?よく持てたな」
とはいえ、それはあくまでキヴォトスの内部での感覚である。
惑星間の航行でさえも、現実的に行うことができる小吉の感覚でいえば、現代兵器として見ないこともないようなものであった。
「そういえば、外ではそういった兵器があったと聞くけれど……」
「あぁ、……つっても、強化スーツやロボット、宇宙船なんかに使う分だから人間用のはもっと小型だし、高いからそんなに見るもんじゃねぇ……にしても、スゲェな。こんなの作るなんて」
「……そう。この製作者……ウタハが聞いたら喜びそうな話ね」
そうリオは言う。なにせ、アリスが持ち出したレールガン。彼女の言う「光の剣」の本来の用途は宇宙戦艦。
すなわち小吉の言う通り、彼女の武器は小吉の言う通りの仕様で作られたのだから。
「ウタハ先輩が……って、そういう話してる時じゃなかった!ねぇ!リオ先輩、その手段って何!?」
「……以前廃墟に関しては私も捜査協力をしたわ。先生、確か、マッピングをしたという話だったけれど、データはまだあるかしら?」
「あ、あぁ。今端末に送る」
リオに促されるままに、小吉は、前回の探索で得た情報。
ロボットを可能な限り避けるために手に入れた周辺情報を送る。
「えぇ、問題ないわ……。比較して、地形に関しての変動は前回の調査と比較してなし。先生たちの言う工場がこれなら……アリスのレールガンと、私のAMASがあれば行けるはずよ」
「AMAS?」
「これよ」
そういって、彼女が呼びだしたのは、一機のロボット。
ただ、キヴォトスで一般的に見る二足型の物とは異なり、一輪のタイヤにより駆動するタイプのロボだ。
「この子たちを使って周囲の徘徊しているロボットをある程度誘導するわ。そして、一か所に集まったところをアリスのレールガンの最大出力で攻撃して、工場までの道を拓く。あとは工場まで走り切ればいいわ」
「それは、確かに有効そうだな……。アリス、そのレールガンの威力は?」
「はい!ウタハたちの所で一度撃った時には天井に穴が開きました!」
「……そうか」
試し打ちだろうに、なんで天井に穴が開く結果になったんだ。と、突っ込みを入れたかったが、リオがその時のことを思い出したのか胃が痛そうな顔をしていたので、小吉は口をつぐんだ。先生という役割であっても、藪に手を突っ込んでかまれたくはない。
「よし!それじゃあ!行こう!廃墟に!」
そのモモイの号令に、拳を上げて一同は、廃墟へと再び向かうのであった。
そして……。
「本当にあっさりだったな……」
数時間後。工場についた小吉は、そう漏らす。リオの作戦は大成功だった。
AMASによる、陽動によって一点に集められたロボットたちは、アリスのレールガンにより一掃された。
ダメージにより集まっているロボットは一時的な機能を停止。この廃墟付近全てのロボットを倒せたわけではないがそれでも、この周辺の敵は片付いた。あとは、走って工場に駆け込むだけ。
リオたちが合流するまで頭を悩ませる状態だったとは思えないほどに簡単な作戦であった。
「モモイ。ヴェリタスの彼女たちから聞いた反応の詳細位置はあるかしら?」
「ううん。流石にそこまで詳しくはなかったから……」
「施設全体の調べ直しが必要そうですね……」
「そう、なら……」
そう言って、リオが、工場全体の解析を行おうとした瞬間であった。
「……先生、リオ、みんな。こっちです」
「お、おい。アリス?」
止める間もなく、アリスは迷いなく歩き始める。
まるで、この工場の内部を知っているかのように。
「……付いて行こ!先生!」
「あぁ」
どちらにせよ、アリスを一人にしては置けない。
いくらレールガンが強力な兵器であり、数百キロにも届くそれを振り回すほどのパワーがアリスにあったとしても、彼女自身は戦闘慣れしているわけではない。
外のロボットは入ってこないにせよ、ここの安全が保障されたわけではないのだ。
内部に警備ロボがいる可能性だって十分にある。
「私は、ここに……来たことが……でも、ここに見覚えはないのに……」
「……確かにアリスはここに安置されていたみたいだけれど……」
「あ、先生、見てください!」
そんな声をだすミドリの指さす先に目をやれば、そこにあるのは……
「……ありゃあ……。コンピューターか?」
それは、工場であればあること自体はおかしくないものである。
……だが、気になる点は、そこではない。
「電源が付いているわね……」
「……予備電源でもあったのか?いや、それでも起動しっぱなしはおかしいだろ」
そう、何時から放置されていたかはわからないが、少なくとも、それなりに人の出入りがなかったことは前回確認している。故に、未だに起動し続けているというのは明らかな不審であった。
「今、解析を……」
そのコンピューターにリオが解析のために小型のドローンを飛ばそうとした時であった。
コンピューターから、ピピっという起動音の後、文字列が表示される。
『Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください』
「ディヴィジョンシステム?」
「あたりかも!ねぇ!先生!G.Bibleについて調べてみよ!」
「いえ、それよりも解析を……」
そんなことを言っているうちに、前に出たアリスはキーボードに文字を入力していく。
その内容は、勿論、G.Bibleについて。
だが、アリスがそれを入力しきる前に、コンピューターは異常な文字列を吐き出し始める。
そして、そのコンピューターは少しの間を空けて……。文字列を吐き出した。
『あなたは、AL-1Sですか?』
その場にいる全員に……。
いや、自身の本来の名前を知る由もないアリスとユズを除いて、緊張が走った。
「あ、アリスはアリスで……」
「待って!アリスちゃん!ちょっと、待って。今は、とりあえず入力しないほうが」
名乗ろうとするアリスを手で制す。ミドリは当然、この状況に疑問を持った。
アリスはこの工場で発見された。だから、AL-1Sという単語が出てくる。それはいい。
だが、彼女は今、コンピューターに触れただけである。
もしも、カメラでの判別であるというのならば、以前、小吉たちと落ちた時のように触れずとも解析ができたはずだ。だが、このコンピューターは明らかにアリスの存在を触れてから認識した。それに、カメラで認識しているのならば、彼女がAL-1Sであるという疑問を持つはずがない。ミレニアムの制服を着ているとはいえ、彼女の容姿は見つかった時から変化していないのだから。
つまり、このコンピュータ―には何かがあるはずだと。推測を建てた。
そして、それは小吉やリオ、ハナコも同じ疑問にたどり着いていた故に、ミドリの行動によくやったと、声をかけようとした。
『音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S』
しかし、状況は、彼女たちを無視して進む。ただ、少しばかり発した音声で、コンピューターはアリスの正体を断定する。マイクも見当たらないのに、音声認識まで備えているようだった。
「え。えっと、……AL-1Sっていうのは、アリスちゃんのことなの?」
「アリスの、……本当の名前、……本当の、私……。貴方は、アリスのことを知っているのですか?」
状況をつかみ切れていないユズ。
しかし、それを気にかけている余裕は、アリスにはなかった。音声認識をしていると理解した彼女は、そのままコンピューターにそう話しかける。自分の正体を知るために……。
だが、アリスの問いかけにも関わらず、システムは何も答えを返さない。
それどころか……。
「……なんか、画面の色がうすれてきてねぇか?」
「内部の処理に時間がかかっているのでしょうか。音声認識の機能はついているみたいですが、コンピューター自体はあまり新しいものでもないみたいですし……」
大型のコンピューターは、少なくとも最新式ではないだろう。ここは廃墟なのだから。
だが、それでも、アリスの言葉に画面にそうで―――――――と、まで返答しようとする文章が画面に踊る……。しかし、そこで文章は途切れ、代わりに文字化けしたような理解不能な文字列がいくらか続く。そして……。
『緊急事態発生。電源限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間五十一秒』
「!?」
唐突に告げられる、制限時間。
「ええっ!?だ、駄目!せめて、G.Bibleのことを教えてからにして!」
リオが、追加の電源を確保しようとするよりも早く、現状の謎をすべてぶっちぎって、モモイが滑り込みでそうコンピューターへと問いかける。
その問いに対して、コンピューターは最終確認をするかのように短く、それでいいのかと、YESかNOかでの返答を求めてくる。
問いに対する返答があったことに驚くモモイを差し置いて、ミドリがその問いに対して矢継ぎ早にYESと返す。
その言葉を認識した次の瞬間。コンピューターはアリスの問いに対して長時間の間を空けたのがウソのように、G.Bibleについての情報を表示し始める。
その一文の中には、G,Bibleが廃棄データとして混入されていることが書かれている。
どうして、と、思う中、コンピューターは続けて、彼女たちに提案をする。
『G.Bibleが欲しいのであれば、データを転送するための保存媒体を接続してください』
「保存媒体!?G.Bibleのありかを知ってるの!?」
『あなた達も知っています。今、眼の前……私の中に、G.Bibleがあります。しかし、現在私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します』
「新しい保存媒体……えっと、このゲーム機のメモリーカードでも大丈夫?」
「待って頂戴、ほかにも媒体は……」
「ケーブル接続!」
肯定の言葉が表示されると同時に、スタンバイしていたユズが、リオの行動よりも早く、モモイのゲーム機にコードを突き刺す。
『接続を確認しました。転送を実行します……。容量不足につき、データを削除』
「え!?ちょっと待って!?私のデータがぁぁぁぁ!?!?」
その叫びに応えるように、コンピューターの画面には、残念、削除完了しました。との文字が表示され、それを最後に、コンピューターの電源がぷつり、と切れる。
終わった、というように、膝から崩れ落ち、涙を流すモモイ。
「……その、……悪かったわ。早く私が記録媒体を出していれば……」
「う、り、リオ先輩のせいじゃありません……そ、それで!転送は!G.Bibleはどうなったの!?」
「え、えっと、お姉ちゃん、それが……」
ミドリは、モモイに画面を見せる。
そこには、確かにG.Bibleの起動プログラムが保存されていた。
だが……。
「パスワードが必要みたいなの……」
そこには、プログラムの起動に必要なパスワードを求める画面が表示されていた。