シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
「……セミナーを襲撃しないといけないってどういうこと!?」
廃墟から帰ってきたモモイは、ヴェリタスの部室でそう叫び声をあげた。
「あー、ちょっと説明が端的すぎたね。ごめん、モモ」
その叫びに耳をふさぎながら言葉を返すのはヴェリタス所属、モモイと同級生のマキである。
「まず、このG.Bible。これは本物だった。モモのゲームを確認したけどその中の情報の殆どが、私たちで確認したデータと一致してたから。間違いないよ。だけど……」
「問題は、パスワード、だな?」
その言葉にマキは頷く。
「うん、そうだね。少なくとも、うちでもこれは解読できない……。少なくともあたしには無理かな……」
「なるほど……。それで、マキさん?どうして、セミナーの襲撃につながるんですか?」
「えっとね、パスワードを解読はできないんだけど、ファイル自体を読み取って中身だけを取り出すことはできそうなんだ。けど、そのためには、あるツールがいるんだけど……。実はこの前ユウカに没収されちゃったんだよね……」
はぁ、とため息をつくマキ。
「この前のヴェリタスに対する一斉捜査の話ね……。『鏡』、もそうだけれど、流石に看過していられないものが多かったからユウカに立ち入らせたわ」
マキの反応を見て思い出したリオが、そのことについて言及する。
「看過できないもの……って。例えばどんなものなんだ?」
「盗聴器などの問題物ね。勿論『鏡』も、多くのパスワードの解析の出来る危険物ではあるのだけれど、それに……」
「って!そうだ!リオ先輩がいるじゃん!リオ先輩なら鏡をパパ―ってとってくるの、できるんじゃない!?」
そんな風にヴェリタスの起こしていた問題を上げていたタイミングで、そんなことを言いながら問題解決、というように、モモイは指を鳴らす。
確かに、リオであれば、セミナーの襲撃を行うことなく押収物を回収することができるだろう。
なにせ、彼女がセミナーの会長なのだから。彼女から『鏡』を返してもらえば、問題は解決する。
だが、モモイの言葉を聞いて、リオは申し訳なさそうにうなだれる。
「……ごめんなさい。協力はしたいのだけれど……。流石に、それはできないわ」
「そんな、どうしてですか!?リオは、モモイたちを助けたくはないのですか!?」
謝るリオに対して、アリスはどうして、と。彼女に詰め寄る。
「廃工場の探索はアリスが見つかった場所の調査ということでごまかせたけれど、ヴェリタスからの押収物を……、となれば、正当な理由もなしに勝手に返却するのは難しいの。……それに、その……、ユウカが怖いわ」
「そ、そっかー!じゃあ、仕方ないね!ルールだもんね!」
そう絞り出すように言うモモイ。
だが、リオの表情を見て全員が理解していた。あ、これ、ユウカが怖いだけだ。と。だが、それについて、わざわざこの場で触れようとするものはいない。この場にいるミレニアムの生徒たちには、十分に共有できることであったからだ。
唯一、ミレニアム生でないハナコも、そういった経験があるのか、それとも単に空気が読めるのか、あえてそれを口にすることはなかった。
「そうなると、……セミナーへの襲撃は避けられねぇか」
パスワードを解くカギをセミナーが握っている以上、選択肢は他にない。
小吉は、そう言葉にしながら、ちらりと、リオに視線を送る。
セミナー会長は、彼女だ。
彼女が拒むのならば、作戦を立て直す必要がある。
「……。一応、この行動に関して、セミナー会長として問題にならないように努めるわ」
申し訳なさそうにしながらも、絞り出されたリオの言葉は、むしろ、その行動を肯定する発言。
同時に、彼女にとっては、これ以上何かをすることができないという一種の降参宣言でもある。
「いや、十分だ。少なくとも、これで、モモイたちが学校を追われるってことはねぇ」
だが、そもそもの話、ここまでの協力でも、小吉たちにとっては十分すぎるものであった。
少なくとも、リオがいなければ、不安を抱えたまま作戦に臨む必要があったのだから。
「……ただ、一つ私から言えることがあるわ……。少なくともゲーム開発部とヴェリタスでは戦力が不足しているわ」
「たしかに、お世辞にも戦力が高いメンバーじゃあねぇが……。警備のロボットが多いとかか?」
思い返すのは、正に今日リオが連れていたロボットの動き。
あれが大量配備されているなら、確かにこのメンバーでの攻略は厳しいかもしれない。
ヴェリタスの戦力のほどは小吉も知らないが少なくとも戦いになれているようには見えない。
だが、リオは小吉の言葉を否定するように首を振る。
「……いえ、警備ロボに関してはそう多くは配置されないわ……。けれど……。私の動きを監視している子がいるの。恐らく、セミナーの襲撃は予想されているわ」
「あー……部長だね」
「部長……っていうと」
「明星ヒマリ。ミレニアムで未だ三人しか会得していないという、『全知』の称号を持った生徒です……。ここまでモモイちゃんたちの活動に協力していた部分もありましたが……」
そう、確かに、その名前には小吉も聞き覚えがあった。
G.Bibleを探している時に、モモイの口から出ていた名前だ。
「……なんで、リオと敵対しているんだ?」
少なくとも、ミレニアムの組織がリオと敵対する理由は、……。
予算などの兼ね合いでそこそこありそうだが、それでもそこまで徹底してやるとは思えない。
「……彼女は私を警戒しているの。今回も私がゲーム開発部に関わった時点でその真意を確かめるために動いているはず。きっと、今頃はユウカと接触を終えているはず。彼女がその気である以上、恐らくは目的が『鏡』であることはほぼバレているとみていいわ」
「……じゃあ、何で警備ロボが配備されないんだ?」
セミナーへの襲撃がばれている。と、リオは言った。
ならば、当然次にユウカたちが行うことは警備体制の強化であるはずだ。
なのに、リオは、警備ロボの増員はないという。これは、明らかな矛盾であった。
「……いえ、小町先生。……あるんです。ミレニアムには、警備ロボ以上に優秀なチームが」
「え!?嘘だよね!?あのC&Cがいるってこと!?」
そう切り出したハナコの言葉で予想がついたのだろう、モモイが怯えるように叫びだした。
「……知ってるのか?ハナコ、モモイ」
「詳しくは私も。でも、説明できる人なら……今ここに」
全員の視線が、一点に集中する。
そう、なにせ、ここには、一番ミレニアムに詳しい人間がいるのだから。
「……リオ、どんな奴らなんだ?そのC&Cって」
「……C&C。クリーニング&クリアリングは、ミレニアムに奉仕するために設立されたチームよ……。セミナー傘下のね」
「ミレニアムにおける精鋭部隊、ってわけか」
小吉の脳裏に浮かぶのは、ホシノ、アル、そしてヒナ。
彼女たちが、キヴォトスにおいて例外側であることは理解しているが、それでも精鋭という言葉を聞いた時にどうしても頭に過ってしまう。
それを振り払って浮かべたとしても、浮かぶのはアビドスと便利屋の少女たち。
彼女たちもまた、戦いになれていた。
その上で、今ここにいる面々を見る。
「……確かに、戦力不足だな」
戦えない、というわけではないが、それでもあの面々と並び立って戦える戦力であるか、といえば別の話だ。
ミレニアムがゲヘナ、トリニティと並ぶというのであれば、そんな彼女たちが精鋭部隊と称するチームが、あのメンバーに劣るとは到底思えない。
「……一応、今回の作戦において朗報があるわ。今日は、警備に穴があるわ」
「どういうこと?リオ先輩」
「ネルがいないの。外せない用事があったから、今日は不在で、帰ってくるのも恐らく明日よ」
「そう!それが、私たちの作戦の前提。最強戦力のいない今日!何とかして『鏡』を奪取する!モモ達だってG.Bibleの中身知りたいでしょ!?」
そうモモイたちに力説するマキ。
「……それで、どうするんだ?」
「え?」
「実際危ない橋だ。やるにせよ、やらないにせよ。お前たちが決めることだ。極論G.Bibleなしでゲーム開発をしてもいいんだしな。この子たちの案にお前らが乗らなきゃいけないわけじゃない」
小吉の言葉に、モモイは目を伏せ、考える。
モモイだって彼女たちの噂を知らないわけじゃない。C&Cは少人数ながらも強大な組織だ。
それこそ、名前の通り綺麗に片づけられた武装部活や非合法な部活は数えきれない。
それは、例え最強戦力であるネルが抜けたところで変わらないだろう。
そんな危険なことに、皆を巻き込むべきか。
G.Bibleの解読は、そこまでして必要なことなのか。
「……やってみよ!お姉ちゃん!」
「分かってるの?ミドリ、相手はあのメイド部だよ?」
先生の言う通りなのだろう。と、モモイは理解している。戦力差は、絶望的だといっていい。それでもやるの?と。ミドリを見た。
ゲームをするだけなら、ほかの手段だってある。部活がなくなっても、ミレニアムにいれなくなるわけじゃない。そういったところを考えてもいいんじゃないか、と。
けれど、ミドリはひるまずに言う。
「確かに、散らかってたり、雨漏りしてて、ひどいところのある部室だけど……あの場所は、ただ、ゲームをしたりするだけの場所じゃない……。私たちがみんなでいられる大事な場所なの!だから、守りたい!たとえ、ユウカやC&Cを敵に回すことになったって……。私たちの居場所を守りたいの」
「ミドリ……」
「大丈夫です!」
それでも、と。まだ不安なモモイを前に、勇気づけるようにアリスはつぶやく。
「アリスたちならやれます。なぜなら……私たちには、勇者たちも持ち合わせた最高の武器を持っていますから!そうですよね!先代勇者!」
「……いや、どういうことだ」
そんな風に目をキラキラさせて自分を見るアリスに困惑する小吉。
勿論、心当たりのない小吉はその理由を知るであろう、リオへと視線を向ける。
「……その。武器確保の前に、自然な受け答えのために短い時間だったけれど……先生の話をしたの……。そしたら……。先生のことを勇者だと思ってしまったみたいで」
話したのか、というつもりはなかったが、それにしても、そんな勘違いをするのか。
「……まぁ。いいや。今、俺達にある武器、なんてそんなもん一つしかねぇ」
とはいえ、それを否定するほど大人げない男でもなかった。
アリスがそうおもっているというのなら、それらしい姿を彼女に示してやるべきだ。
「信頼できる仲間。そしてお前たちの仲間を思う気持ちと、そこからくる力は、きっと最大の武器になるはずだ」
「そうです!流石先代勇者です!!」
小吉の答えに、キャッキャと喜ぶアリス。
なんとか、彼女の求める答えを言えたことに、小吉は小さく息を吐く。
「……ところで、アリスの言ってた先代勇者って、なんなの?先生?ねー!」
「さぁ、なんだろうな」
そんなモモイの発言については、……長くなるので、今は流すことにした。