シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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五十話

「それで、私たちの所に来たんだね?」

 

戦力不足を補うため、彼らが足を運んだのはアリスに光の剣を渡してくれた部活、エンジニア部であった。

 

「あぁ、ヴェリタスの子たちの作戦を行うのには、どうしても君たちの力が必要だ。えーっと」

 

「ウタハでいいよ。先生。お会いできて光栄だ」

 

そういって差し出された手を小吉はためらうことなく握り返した。

 

「それで、エンジニア部としては、だけど……。うん。分かった。協力しよう」

 

「えぇ!?い、いいの?!」

 

二つ返事の回答に、モモイは驚愕の声を上げる。

 

「その、自分たちで言っておいてなんですけれど……。エンジニア部は、たくさん実績もありますし、わざわざこんな危ない橋を渡る必要は……」

 

そう、彼女たちは、モモイたちとは違う。

勿論、彼女たちもトラブルは起こす。

 

それこそ、扱っているものがモノだけに、そのトラブルの大きさは場合によってはヴェリタス、ゲーム開発部を超えるものだ。

 

しかし、それでも彼女たちは実績がある。

『鏡』が必要なヴェリタスに比べて、あまりにも彼女たちが作戦に参加するリターンは少なく、リスクのみが目立っていた。

 

「そうだね、そうかもしれない」

 

そして、そのリスクを彼女は理解していると頷いた。

 

「うん、それは、そのほうが面白そうだから、かな?先生に個人的な興味もあるしね。仲良くなりたいんだ。……リオから話もたくさん聞いているからね」

 

楽しそうに笑いながら言う、ウタハの言葉に後ろに控えたエンジニア部の二人もそうだそうだ、と同意の声を上げる。

 

「……?どうしましたか、ウタハ」

 

「いや、なんでもないさ。急ごう。決行は今日なんだろう?」

 

ただ一つ、ウタハはアリスに少しだけ意味深な視線を向けていた。

 

「なぁ、ところで、ウタハ。気になってたんだが」

 

「ん?なんだい先生」

 

「あれも、宇宙戦艦の兵装か?」

 

小吉の指さした先。

そこには、アリスが使うものよりも、更に一回り大きな武装がいくつか転がっていた。

 

「あぁ、いや。あれはクライアントから依頼を受けていてね……。そのうち話すよ」

 

「そうか。あ、そういえば、光の剣、すごかったぜ。外のそれにだって負けてねぇよ。学園が一部活に割く費用でよく作れたな」

 

「あぁ、そういえば、リオも言ってたね。……うん、うれしいな。ありがとう、先生」

 

 

そして、二時間後

 

 

「っ、まだっ……」

 

「いえ、これで終わりです」

 

セミナーが待機していたオペレーションルームでは既に戦闘が繰り広げられ、そして、決着がつこうとしていた。

 

戦いを繰り広げていたのは、すでに何度も攻撃を受けボロボロになったアリスとC&Cの少女が一人、アカネ。

 

「信じられない、どんな方法で来るのかと思ったら、寄りにもよって強行突破だなんて」

 

その戦いを同じ部屋で見ているユウカは、その戦術に呆れていた。

 

確かに、アリスは強かった。恐らく、今回ゲーム開発部とヴェリタスの誘いに乗った戦力の中でも最高の駒なのだろう。そして、単騎での戦闘を仕掛けている理由もわかる。

 

今の彼女は、あまりにコントロールが効いていない。

 

光の剣と呼ばれたレールガンを振り回し、火力によって制圧する。

それ自体は強力であるが、その動きは明らかに戦闘慣れしていないものである。

 

更に、レールガンの攻撃範囲の都合上、混戦となった場合、ほぼ間違いなく味方を巻き込まざるを得ない。

これでは、複数人の運用は厳しいだろう。彼女の力を十全に発揮させるという意味では、単騎での強行突破は間違っていない戦術だ。

 

だが、それはあくまでアリスを十全に運用する、という部分にだけ焦点を絞った場合の話である。

 

彼女は明らかに戦闘慣れしていない。

いくら、彼女が戦力として強くても、戦いになれていない彼女を指揮もフォローもしないとなれば、その強力な戦力も力を発揮しきることはできない。

 

そんな分析をユウカが終えるころ、爆発音とともに、アリスは倒れ伏す。

 

「ふふ、この子がゲーム開発部の子たちが拾ってきたアリスちゃんですか?可愛らしい子ですね、私たちの六人目のエージェントにしたいくらいです」

 

「ダメよ。今は生徒会を襲撃した犯人の一人なんだから……。とりあえず、一旦生徒会の反省室に閉じ込めておくわ」

 

それにしても、とつぶやき、ユウカは彼女の突入してきた場所……。

エレベーターを見る。

 

「セミナーの使ってるエリアに入るためのエレベーターの指紋認証システムを突破するために扉ごと吹っ飛ばしちゃうなんて……」

 

無理をやったものだ、と彼女は呆れる。

これも、恐らく単騎になった理由だろう。限界まで入れたとしても、レールガンの光に巻き込まれるのがオチだ。

 

「すみません、ユウカさん。エレベーターのセキュリティロックをすぐに修理するのは難しいみたいで、対処としては丸ごと取り換えるしか……」

 

「そう、じゃあ、新しいのに……」

 

と、そこまで言いかけて、ユウカは言葉を止める。

 

アリスは単騎で挑んできた。

 

だが、セミナーに襲撃を仕掛けてくるのは情報の提供者であるヒマリ曰く、ゲーム開発部とヴェリタス。

そして、その作戦担当にはほぼ間違いなく先生が付いている。

 

そこまで予測がついた彼女からしてみれば、違和感が残る。

 

先生は、頭の良さでは自分たちに劣るかもしれないが、考えなしではない。

そんな彼が、アリスのみでの作戦に踏み切るか?

……いいや、踏み切らない。

 

勝率があるならばかけるだろうが、それでも、勝率がないのに無理な行いはしないはずだし、許可もしないだろう。

 

ならば、今回の目的は―――――――

 

「……エンジニア部」

 

「え?」

 

「きっと、今回の作戦エンジニア部が協力しているわ。アリスちゃんの武器もきっとエンジニア部で作られたものよ。……エンジニア部の作ったもの以外で、一番強力そうなセキュリティを購入して取り換えて」

 

力が足りないなら、仲間くらい増やす。

勿論、ゲーム開発部とヴェリタスという問題児集団であることを考えれば、全員が協力するわけではないが、ロマンを普段から語る彼女たちであれば、可能性は十分にあり得る。

 

そして、アリスの無謀な単騎特攻も、これならば説明がつく。

 

目的は扉。セキュリティの破壊だったのだ。

 

子の襲撃で、エンジニア部の存在にたどり着かずにそのままセキュリティを交換すれば、普段から彼女たちの製品に信頼を寄せている自分たちは必ず、エンジニア部に頼り修理をする。

 

そうなれば後は、簡単だ、バックドアなり直接的なハッキングなりをしてしまえば、エレベーターの操作など思うがまま。鏡を奪取されていたことだろう

 

「でも、おあいにく様です。そんな手には乗りませんからっ!」

 

 

 

「……って、考えているころでしょうか」

 

「うぅ……ごめんね、アリス、すぐ助けるから」

 

そんな、セミナー室でのやり取りを想像しながら、アリスの身を案じる。

だが、それは想定内。

 

「ウタハ、そっちはどうだ?」

 

「うん、問題ないよ。トロイの木馬は無事に潜入した」

 

そこまで聞いて、小吉は、気落ちしているゲーム開発部の面々をみて、強く手を叩いて顔を上げさせる。

 

「……よし、捕まったアリスは心配だが、ユウカが相手だ、セミナーの子たちも話を聞く限り悪い子たちじゃない。少々甘いが、やられても生徒会の反省室送りだ。ケガも今から作戦の時間まで休んでりゃ治るくらいのものでおさまってるはず……。今のところ、メインプラン、サブプラン、どちらも想定通りだ……。行けるか?」

 

「……!うん!大丈夫!」

 

「よし、それじゃ、夜まで解散だ。各々しっかり休んで準備を済ませておけよ」

 

かくして、作戦は始まった。

 

「ターゲットの位置を確認しました、1番ゲートポイントA1にターゲットを確認。まもなくポイントA2へと移動します」

 

監視カメラ越しに映る、モモイや先生の影をユウカたちは確かめた。

 

「来たわね……」

 

「えぇ、あそこまで踏み込めば、もう脱出は不可能とみていいですね?私が行きましょう」

 

「あら、随分と高く買っているのね」

 

正直に言えば、ユウカからしてみればもっと警戒を緩めてもいいとさえ思っている。

 

確かに、小吉の指揮は素晴らしいものだ。

自分の動きが間違っていないと、背中を押される。彼が後ろに構えているだけでそんな勇気を与えてくれる。

そんな力強さが彼にはある。それを、あの時にユウカは学んでいる。

 

だが、学んだ上で、脅威ではないと判断した。

 

確かに、指揮を受けたならば、相手の脅威は一段階上がる。

それは間違いない。しかし、……その程度なのだ。

 

C&Cと、ゲーム開発部。

両者の間には、大きな実力差がある。

 

それこそ、一段階どころではない。二段階、三段階。

 

不意を突いてなお、まだC&Cの方が有利であろうことは、想像に難くない。

 

ましてや、今やゲーム開発部は最大戦力であろうアリスを失っている。

エンジニア部、ヴェリタスの協力はあるだろうが、それでもその差を埋めるにはまだ、たりないはずだ。

 

だからこそ、ユウカはアカネに尋ねる。

彼女たちに、貴方が直接出向く必要があるのか?と。

 

だが、その問いに対してアカネは笑みを浮かべてこう返す。

 

「お客様のお出迎えは、メイドとしての基本ですから」

 

そういって、アカネはオペレーションルームから外へと向かった。

 

 

そして、襲撃者たちを見付けるまでに、そう時間はかからなかった。

 

昼間の作戦同様。C&Cに見つからずに行けると考えたのか、彼女たちの侵攻はかなり直線的でアカネの想定通りのタイミングで、小さな二つの背中を視認できた。

 

ここが目的地であっているのかな、という声も聞こえる。

 

だから、アカネは彼女たちを驚かせてやろうと、その背中に声を投げる。

 

「あっていますよ」

 

そんな彼女の言葉に小さな二つの背中はびくりと跳ねる。

 

「こんばんは、いい夜ですね。お二人のここまでの行動は、監視カメラですべて見せていただきました。私が現れた時点でうすうすお気づきかもしれませんが、あなた達の作戦はもう失敗しています。お早めに投稿することをお勧めしますよ」

 

「あ、アカネ先輩!」

 

「暗殺が特技で有名な、あの?」

 

彼女たちへの勧告に続いて名乗ろうとした彼女の言葉は、二人の声に遮られる。

 

「……うーん、一応秘密のエージェントのはずなのですが、いつの間にそんな知られ方を……」

 

正体不明の謎のヒロイン。という風にするのはもう古いのか。

と、考えながら、おや、と、彼女は違和感を覚える。

 

何かがおかしい。

 

確かに侵入者を見つけたのに、……何かが欠けているような……。

 

「……まぁ、いいです。モモイちゃん、ミドリちゃん。そろそろ姿を見せてもらいましょうか」

 

「……ふふ」

 

「?」

 

この追い詰められた状況において、まだ余裕の笑みを浮かべる彼女たちに疑問符を浮かべながら、アカネは一歩彼女たちに近寄る。

 

「まだ気が付いてない感じかな?失敗してるのは、そっちの計画の方だよ」

 

「はい?……!?」

 

ばさり、と、その場にいた少女たちは服を脱ぎ去る。

だが、そこにいたのは、アカネの探していた少女たちではなかった。

 

「ハ~イ、アカネ先輩!いやぁ、寮に戻ろうとしてたんだけど、道に迷っちゃってさー!」

 

「あ、あなたたちは」

 

「あなた達はと聞かれた答えてあげるが世の情け!!」

 

「っ!ユウカ!これは、一体どういうことですか!?」

 

変装を解いて現れた少女、ヴェリタスのマキとエンジニア部のコトリの言葉を交わしながら、通信をユウカへとつなぐ。

 

「分からない!こっちのカメラでは確かにモモイとミドリの姿だけで……。それに、アカネの姿が……!?まさか!カメラの設定を初期化して!クラウド接続遮断してか、プライベートで……やっぱり!!」

 

回線をつなぎ直せば、そこに映ったのは今、正にアカネが対峙している状況。

 

すなわち……。

 

「ハッキング!!」

 

やられたと、舌打ちをしながら、ユウカは侵入を伝えるために警報装置を鳴らすのであった。

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