シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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五十一話

『作戦成功……ですね』

 

「あぁ、ここまではな……」

 

響き渡る警報を聞きながら無線機越しに話しかけてくるハナコに対して、小吉はそう返す。

 

 

当然ながら、最初に突入したとユウカたちに判断されたのは変装をした、マキとコトリ。

 

彼女たちの役割は囮であった。

 

そもそも、この建物は、入り口が限られている。そして、モモイたちの潜入能力がたけているというわけでもない以上、別の方法で侵入することはできない。

故に、限られた入り口を使うしかないわけだが、それでも、彼女たちで正面から突っ込んでいっても嵌められるのは目に見えている。

 

だから、注意を引くために二人には変装をして相手の戦力を引き受けてもらうことにした。

 

監視カメラの映像をハッキングすることで時間を稼ぎ、違和感に気が付いた相手は、状況を把握するために侵入者へと接触しに来る。

 

そう、この作戦において一番大事なのは、正にそこであった。

 

「今頃大騒ぎだろうね。セキュリティが完全に奪われてるなんて!」

 

「まさか、ユウカもエンジニア部を避けたのに、それがエンジニア部の製品だとは思わないだろうからね」

 

アリスの攻撃の際、エレベーターが破壊され、ユウカたちは、セキュリティシステムを変更せざるを得なかった。

 

しかし、ユウカはアリスの武器からエンジニア部が彼女たちの協力者であると看破し、エンジニア部制のセキュリティを避けた。

それ自体は正しい判断であった。事実、エンジニア部は、ゲーム開発部に協力をしていたのだから。

ユウカの想定は的中していたといっていい。

 

だが、彼女たちにとって最大の不運であったのは、彼女たちを避けた先のセキュリティシステムもまた、エンジニア部によってつくられたものであった。ということだろう。

 

もっとも、これを読み切れというのは、それこそエンジニア部が別名義で幾つも製品を出していると知らねばできないことだ。彼女たちを責めるのも筋違いだろう。

 

『現在、コールサインゼロスリー。アカネさんの隔離に成功しました。セキュリティに設定されている二重の防壁は大変強固です。抜け出すには相当な手間が必要なはず……』

 

「チタン合金製のシャッターだったか?正規以外の突破はそう簡単じゃないだろうな……。他のメンバーはどうなってる?」

 

セミナー専用フロアに入り、隔離しきれなかったセミナー生たちを相手取るモモイたちの指揮をしながら、無線を飛ばす。

最強戦力……。美甘ネルと呼ばれる少女はいないとしても、モモイとミドリは戦闘向きでないということは変わりがない。

 

ただの警備ロボ、戦闘慣れしていない一般のセミナー生くらいであれば彼女たちでも相手取ることができるが、特殊作戦のエージェントとまで称される相手は、どう考えても無理がある。

 

『こちらハレ。今、ミレニアム全域に調査を終えてC&Cの反応は―――――――先生!伏せて!』

 

「っ!モモイ!ミドリ!」

 

ハレの言葉に咄嗟に飛び込んで床に押し倒す。

直後、窓が割れ大型狙撃銃の弾丸が廊下の壁に特大の穴を空ける。

 

『狙撃……コールサインゼロツ―!カリンさんです!』

 

「狙撃手か……!走るぞ!二人とも!」

 

捕捉された以上、今の小吉たちにこの場所からできることはない。

二人を立ち上がらせた後は、彼女の攻撃の届かない位置まで走る以外に道はなかった。

 

 

そんな姿を、別の建物の屋上からカリンは静かに狙う。

 

「なるほど、先生もすごい反応だ……。あれを交わすなんて」

 

だが、その程度。

特殊部隊であるC&Cにおいて、コールサインを拝命したカリンにとってしてみれば想定の範囲内の動きである。

 

攻撃に反応した小吉の動きも、共に逃げるモモイとミドリの動きも。

次に狙うのはモモイ。そして、ミドリ。それで終わりだ。

 

「次は外さない……」

 

「それはどうかな?」

 

銃を構えた彼女は、その声にびくり、と肩を跳ねる。

 

「残念だけれど、私の計算によると、君の弾丸は、彼女たちには当たらない」

 

「誰だ!」

 

咄嗟に振り向き、銃口を向ける。

彼女のその視線の先にいたのは……。

 

「椅子……!いや、タレットか!?」

 

銃撃を浴びせてくるそれの攻撃を飛びのいて避けながら、カリンはそれに攻撃を加える。

 

しかし、体勢を崩した状態ではなった攻撃などそれは容易く避けながら、声の主の元へと下がる。

 

「よくわかったね。これは、エンジニア部の新作。全天候に対応した二足歩行型の戦闘用の『椅子』。雷の玉座。私は雷ちゃんと呼んでいる」

 

「なんで椅子をあるかせ……いや、それ以前にカタパルトが付いてるのはおかしいでしょう!?」

 

困惑するカリンに対して、雷の玉座の主……。いや、その製作者であるウタハは、理解してもらえないか。と、首を振る。

 

「……。それに関しては理解できないけれど、分かったことがある……。ヴェリタスとゲーム開発部だけで、セキュリティの突破はできない。でも、あなた達が協力していたなら説明がつく」

 

そうなると、情報主のヒマリのことについても怪しくなる。

そう、考えながら、突撃してくる雷座……。ウタハの言葉を借りれば雷ちゃんへと銃撃を撃つ。

 

「っ、雷ちゃん!」

 

「銃を撃つ椅子。その発想は面白いし、硬いから弾避けくらいにはなるけれど。本気で私を倒すつもりなら、それは計算ミスだろう。ウタハ」

 

少なくともこの椅子に戦況を変えるほどの戦力値はない。そこらの警備ロボットよりは強いかもしれないが、それでも彼女には遠く及ばない。銃弾を浴びせられひっくり返った雷ちゃんを抑えながら、カリンはウタハへと銃を向ける。

 

そう、この空間は遮るものも何もない屋上。

 

いくら狙撃手であろうとも、戦闘畑ではないウタハに対して運動能力で劣るはずもない。

そして、今頼みの綱であろう雷ちゃんは、倒れ伏した。

 

やるならば、声など掛けず、不意打ちで一気に仕留めるべきであった。

……アドバンテージも、戦力も失われ、今のウタハにできることはなにもない。

 

この状況は、王手、いや、その一歩先であるといっていいはずだった。

 

「あぁ、そうだね。君の思っている通りだ。ここは遮るものも何もない……。そう、天井すらもね」

 

「天井……!?まさか!」

 

彼女の耳に届く風を切る音。

 

その音に彼女が上を向けば、迫っていたのは榴弾。

 

「風がなくて助かったよ。おかげで、……ヒビキなら十分に狙える。たとえ、ミレニアムタワーの反対側からでもね」

 

降り注ぐ榴弾の雨を何とか潜り抜けるカリン。

状況は、振出しに戻った。

 

雷ちゃんは復帰し、ウタハの元へ。

上空からは、彼女を狙った攻撃が、またいつでも降り注ぐだろう。

 

そう、だが、所詮は振出しに戻っただけ。冷静にカリンはそう判断を下す。

いかに強力な支援を得ても、カリンとウタハの間には小さくない戦闘能力の差は埋まらない。

 

だが、それでも。仕切り直しだ、と、楽しそうにミレニアムのマイスターはこの苦境を笑い飛ばすのだった。

 

 

「はぁ……はぁ……。何とかしのぎ切ったね」

 

一方で、小吉たちは無事に狙撃可能位置を抜け、保管庫目前までついていた。

 

『先ほど、ミレニアムタワー内で爆発を確認しました。状況から考えて、アカネさんによるシャッターの破壊だと思われます』

 

「猶予はそんなにねぇか……」

 

その言葉と同時に、数秒の間、あたりが暗闇に包まれる。停電だ。

 

『……ううん、さっき作った。作戦通り、停電の間にハッキング完了。これで、保管庫までのロックは皆の情報で認証できるよ』

 

「本当!」

 

作戦は現状、上手くいっている。

カリンからの狙撃こそあったがC&Cの戦力の一部を隔離し、ミレニアムのセキュリティを乱し、ここまで無事に大きな戦闘もなく突き進んできた。

 

彼らは、残りわずかとなった次の部屋へと足を踏み入れる。

 

「あ、やっときたんだ!ゲーム開発部の子と……先生?だっけ?楽しみに待ってた甲斐があったなー」

 

「っ!?」

 

だれかが言っていた。

作戦なんて当然想定外があるものであり、むしろそのほうが多いのだと。

 

そして、そんな想定外は、当たり前のように一番来てほしくない時に来るものだ。

 

そこにいたのはメイド服の少女。

 

今この場において、00は不在、02と03はともに足止めを受けている。

故にこの場にいる可能性があるのはたった一人。

 

「あ、アスナ先輩!どうしてここに!?」

 

ミドリが叫ぶ。当然だろう。

 

ミレニアム全域の探索で、彼女はいなかった。

故に、彼女がここにいるとすれば、最初からここにいたことになる。

 

最初から分かっていた?

いや、違う。

 

ならばそれこそ、カリンが狙撃を行っていた廊下にいるべきだろう。

二人であれば、ここまで戦況を進められなかったはずだ。

 

「ん~……なんで、って言われても、なんとなく?」

 

だからこそ、そんな非合理な答えに少なくとも小吉は納得した。

 

戦いの場には、いるのだ。

野生的というべきか、本能的というべきか、第六感というべき力に優れたものが。

 

「モモイ、ミドリ。構えろ」

 

「おっ、先生。わかるんだ~」

 

小吉の言葉に、アスナは無邪気に笑う。

そう、そして、そんな相手はそうじて、こう笑う。

 

「私、戦うのが大好きなんだ~。流石先生だね、もしかして、全部お見通しだったり?」

 

「え、えっと……」

 

「来るぞ!」

 

小吉の言葉と同時に、アスナが飛び出す。

 

「あぁ!もう!」

 

始まった銃撃の応酬。

 

しかし、そのやり取りは一方的と言えた。

モモイとミドリの銃弾はアスナを捕捉できず、逆にアスナの銃弾は容赦なく二人を捉えている。

 

「モモイ!牽制だ!とにかく弾丸をばらまけ!ミドリ、落ち着いて狙え!当たらなくても気にするな!」

 

「う、うん!っ、でも先生!」

 

そう叫ぶミドリの顔は青ざめている。

モモイも隙を作ろうと必死に銃弾をばらまいているが、しかし普段の威勢のいい彼女とは違い、そこに浮かぶのは焦り。

 

状況は最悪である。

目的地は、彼女の背後。

 

空間は広くなく、柱がわずかにあるばかり。

そして、何より、……圧倒的と言っていいほどの実力差。

 

モモイとミドリ。二人の実力は、アスナと比べれば大きな開きがある。

それこそ、二対一、指揮をしている小吉を含めれば、三対一になるこの戦場でなお、明確な不利であるといえるほどに。

 

改めて、戦力差を思い知る。

 

そもそも、この作戦において、正面から当たることは計画に含まれていない。

何せ、戦闘力の合計値ではどうあがいたって彼女たちに一矢報いることくらいしかできはしないのだから。

正面突破での作戦など、成功するはずがないことは明らかだ。

 

だが、幸いにして、この作戦はあくまで狙った品の奪取であり、彼女らの撃破ではない。

 

故に、この作戦は彼女たちの一時的な無力化を前提にしている。

 

例えば、誘い出した相手の隔離。

例えば、狙撃に対する別方面からの攻撃。

例えば、不意打ち。

 

ならば、正面から挑まねばならないとなったのならば……

 

『先生……!』

 

「あぁ、プランBだ!モモイ、ミドリ一度……」

 

ハナコの呼びかけに、選択は固まった。

一度、退く。

 

その一言を絞り出そうとした瞬間であった。

 

彼らの背後から、暴力的と言っていいほどの大きな銃声が一度響いた。

 

「だ、大口径弾!?」

 

「うそ、じゃあ、ウタハ先輩……!?」

 

そんなものを、この場に撃ち込める人間は、この戦場に一人しかいない。

 

『先生、ごめんなさい!今、ウタハさんの拘束と、アカネさんの脱出を確認しました。……それに、セミナーが管理していたロボットを放出したみたいで、大量のロボットも引き連れているみたいです』

 

カリンによる、ウタハの制圧。

マキたちの時間稼ぎの終焉。そして、さらなる増援の通達。

 

「あははっ、なんだかわからないけれど、……私たちの優勢って感じ?」

 

この戦場で、傷一つない少女は、絶望的なまでの事実を楽しそうに言う。

 

そうだ。

間違いなく、アスナの言う言葉は正しい。

 

「で、でも……ここで、捕まったとしても、謹慎ぐらいだったら……」

 

「あら?そんなことをかんがえてたの?まぁ、この状況ならあきらめたほうが賢明だけど」

 

一瞬、モモイの脳裏に浮かんだ言葉。

そう捕まったとしても。G.Bibleがなかったとしても、ゲームを作れなくなるわけではない。

あきらめにも似たその言葉を発した直後であった。彼女が現れたのは。

 

「ユウカ、か……」

 

「はい。……もう、先生も甘いんですから」

 

そう言いながら、改めて、ユウカはモモイたちに向き合う。

 

「……とはいえ、正直驚いてます。先生が付いていたとはいえ、これだけの戦力を味方につけて、ここまで引っ掻き回すだなんて……。あなた達のこと、甘く見てたわ。ほめてあげる。でも、それはそれ、これはこれ。ハッキングや破壊工作。何でもやりすぎよ。こうなったら、イタズラじゃ済ませられない。一週間の停学、それか、拘禁かしら」

 

「っ!?」

 

停学、拘禁。

たとえどちらであっても、一週間も拘束されてしまえば、ミレニアムプレイスには参加できない。

モモイたちにとって、ゲーム開発部にとって、それは致命的だ。

 

「せっかくだし、拘禁にしようかしら。アリスちゃんも、今は反省室で一人ぼっち。かわいそうだし、あなた達が一緒になったほうが、喜ぶと思わない?」

 

「……だめ、どうにか、突破しないと……」

 

「突破、へぇ、私たちを……?この状況で?」

 

解決の糸口を探そうと目線を動かすモモイの言葉に合わせるように、この場に更に戦力が集まる。

 

「ふぅ……。遅くなってしまいました。ふふ、今度こそ、本物のみたいですね、……マキちゃんやコトリちゃんたちについては、まだ許される範囲かもしれませんが、あなた達はそうはいきませんよ」

 

「先生も、抗議文くらいは送らせてもらいますので、覚悟しておいてください」

 

アスナ、ユウカに、そして、彼女に続いてロボットそして、アカネも到着し、背後には、ウタハを制圧したカリン。

 

陣は、緩やかに迫り縮んでいく。

 

「ごめんね、先生……。皆も、いろいろ動いてくれたのに……こんなところで」

 

とうとう、モモイは自身が背負う責任に耐えきれず、涙を浮かべ膝をつきそうになる。

 

「……いや、まだだ。まだ、あきらめちゃだめだ。モモイ」

 

「そうだよ、お姉ちゃん!だって……」

 

『先生!』

 

ハナコからの短い通信。

その言葉に反応して小吉はモモイとミドリを脇に抱えて咄嗟に横へと飛び、柱の影へと転がり込む。

 

「先生そんなことしても……?あれ?エレベーターが動いて……」

 

扉が開く。

そして、その先にいるのは……。

 

「ターゲット確認!魔力充填100%!!……光よ!!」

 

この絶対的な状況を切り返すための、切り札。

 

次の瞬間、部屋を光が埋め尽くした。

 

 

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