シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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五十二話

「……電力の遮断、これが起きたということは……」

 

それは、アスナと小吉たちの邂逅する、ほんの少し前のこと。

 

ハレ達によるハッキングのために、小吉たちはミレニアムタワーに停電を引き起こした。

 

……だが、その裏で、ハッキングの他にもう一つ、ある作戦が始動していた。

いや、正しくはこちらが本命である。

 

昼に起こしたアリスの襲撃。

これは、セキュリティを破壊する意味もあったが、それ以上にアリスを反省室に、すなわち、ミレニアムタワーに潜入させる狙いがあったのだ。

 

そもそもの前提として表で動いている作戦は失敗することが念頭に置かれていた。

 

これは、当然だ。

戦闘の素人を中核に据えた作戦で、質も量も上回る相手を超えることなど到底できるはずもない。

 

試算の段階では、どううまく物事が運んだとしてもニ十分もすれば全員が拘束され任務は失敗に終わる。

 

……。だが、それは馬鹿正直に真っ向からぶつかった場合だ。

 

ユウカたちの意識に浮かぶはずがない。

 

強行作戦に失敗し、最初に捕まったアリスこそが本命で、今目の前で懸命に作戦を遂行しているモモイたちこそが真の囮であるということに。

 

こうなってしまえば、『鏡』の奪取は容易い。

妨害はすべてモモイたちに向いている。

既に捕まえ、エレベーターの破壊によるセキュリティの変更によって役目が終わったと思われているアリスへの警戒は皆無と言っていい。

 

普段であれば巡回しているロボットも、全てモモイたちへと投入されている。

 

だから、後はヴェリタスに奪取したそれを届ければそれで終わり……。

それで、皆が幸せになれる。

 

「……ちがいます」

 

そこまで考えて、アリスの足が止まる。

 

確かに、作戦はそれでいいだろう。

G.Bibleが解き明かされて、最高のゲームができ部活も存続する。ハッピーエンドだ。

 

だが、……まだ、彼女の耳は捉えていた。

今も必死に戦う、皆の音を。

 

その音を聞いて、自身に問い掛ける。

 

それで、本当にいいのか?

 

自分の目指す勇者は、本当にそれで正しいと思うのか。

 

そんな自問の中で思い返されるのは、リオの話。

かつて、世界を救った英雄の話。

 

『先代の勇者』と言っていい、彼の話。

 

「……こんなのじゃ、駄目です!」

 

アリスの答えは、その瞬間に決まった。

彼女の歩みは、『鏡』のある保管室ではなく。

 

仲間がいるはずの、エレベーターへと向いていた。

 

 

「クソ、何なんだ、一体……!」

 

そして、もう一つの戦場でも変化が起きていた。

 

「悪いね、呼び出して」

 

「はっ!!油断したな!マイスター!作戦状況はトリニティの娘から聞いている」

 

ウタハを押さえつけていたカリンは、その闖入者に逃げざるを得なかった。

 

それは、ロボットであった。

だが、よく見るものとは違う。

 

大柄なボディ。

背部についたジェットパック。

そして何より、彼が持っている武器であった。

 

それ等は明らかに彼女らが普段目にしている武器よりも更に一回り大きなものでありその見た目にたがわず、火力はカリンのスナイパーライフルにも負けていないものであった。

 

戦場へと降り立ったそのロボットは、ウタハを守るように前に立ち、そして、カリンへと一歩、また一歩と歩みを進める。弾丸が尽きたのだろう。使っていたランチャーをその場に投げ捨て、肩部に増設されたウェポンラックから次なる大型兵装を取り出した。

 

「何、気にすることはない、そういう契約だ。『大人』というものは、それを果たすために死力を尽くすもの。そして……」

 

その男自らの失態により多くを失った。

理事としての地位も、力も、そして金も。

 

正にそれは人生の絶頂から、どん底へと叩き落されたといっていい。

 

だが、そんなあらゆるものを無くした男であったが、それでもなお一つ、今なお彼の中に燃える野心があった。

 

「小町小吉へのリベンジ!!そのために今よりも強くなるためにも!試金石となってもらうぞ!コールサインゼロツ―よ!!」

 

かつて敗北した男に対してのリベンジ。

その思いは、ミレニアムの工房に自らを実験体として売り込むのに、十分な動機であった。

 

男は笑う。

どうだ、小町小吉よ!貴様の手の届かぬ生徒は、私が救っているのだぞ、と。

 

 

 

そして戦場は、小吉たちの場所へと戻る――――――――

 

「光よ!!!」

 

勇者のその一撃は、戦場を光で埋め尽くした。

 

「大丈夫ですか!先生!モモイ!ミドリ!」

 

「アリス!どうしてここに?」

 

「当然です!アリスは勇者ですから!……仲間のピンチは見捨てたら、絶対に後悔します」

 

そうモモイたちがやり取りをする間にも、小吉は状況を確認する。

 

ユウカとアカネは、まだ動ける。

だが、不意打ちを直撃したらしいアスナは、横たわって動けない。

そして、ユウカたちが引き連れていたロボットたちも半数は機能を停止している。

 

『先生!外は突然来たロボットが抑えています!』

 

「は?なんで……、まぁいいか、多分ウタハの方の作戦だろう」

 

突然現れたカイザー理事に関する情報も来るが、その情報の詳細を知るのは、現時点でエンジニア部のメンバーのみであり、現在は連絡が取れない。

だからこそ、彼の存在を知るものは、この場にはいない。

 

彼の影響があるとすれば、それは、カリンからの援護射撃を気にする必要がなくなったこと。

 

そして、それらから導き出される、今、最も重要なことは―――――――。

 

「突破するぞ!」

 

「はい!」

 

勝機が、今、ようやく彼らへと転がり始めたということ。

 

「っ、一人でやるしかありませんか!」

 

この状況に、アカネは焦りを覚えていた。

 

モモイ、ミドリ。

彼女たちの動きを見て、アカネは彼女たちを取るに足らない戦力であると判断した。

事実、アカネにとって、彼女たちは本気でかかれば、例えコンビであったとしても倒すことは難しくない。

 

アスナとの戦いでのダメージもあり、状況の変化による気力の回復を考えたとしても、問題のない相手であった。

 

そう、その二人だけに気を回せるのであれば。

 

アリス。捕らえられていた彼女の戦力はこの状況を十分に突破する力があった。

アスナを倒したその一撃。直撃でなくとも大ダメージは避けられない。

 

故に彼女が選ぶべきは速攻。

自身の火力を押し付け前線をこじ開け、最大の脅威を排除すること。

 

しかし、それができない理由があった。

 

アカネはここに来るまでに戦闘を行っていない。

マキとコトリによる足止めは、あくまでミレニアムによるセキュリティを用いたトラップであったためだ。

彼女たちは直接、アカネを攻撃したりはしなかった。

 

だが、それでも、その戦術をとれないほどにアカネは大きく消耗していた。

 

彼女を阻んできた壁によって。

彼女はここに来るまでにかなりの爆弾を使用していた。

 

それほどに、ミレニアムのセキュリティは強力であったのだ。

……だからこそ、今彼女の手持ちの爆弾は残りわずかとなっている。

 

「ロボットがいるとはいえ、……これはっ」

 

未だ彼女とともに戦っているミレニアムの管理下のロボットはいる。

 

しかし、その数は最初に比べ半分。火力も足りないそれは、小吉の指揮に従うモモイとミドリによってじりじりと数を減らしている。

 

その上、アリスはこの状況において、まだ攻撃を行っていない。

 

ただ、じりじり、とエネルギーをためて保持して見せている。

 

そのプレッシャーはこの状況において、あまりに強い牽制となっていた。

 

この状況を打開するには、モモイとミドリを、一時的とはいえ戦闘不能にさせるほどの強力な一撃が必要だ。

その捻出自体は問題ない。数は少ないが、爆弾の火力があれば、押し切れるだろう。

 

だが、モモイとミドリを突破するために攻勢へと動いた、次の瞬間。

その隙をついたアリスの攻撃に曝されることになる。

 

故に、彼女は、自身に劣る戦力しかない二人を突破しきることができなかった。

 

どうする、と。アカネは思考を回す。

こみ上げる焦燥感は、彼女の余裕を奪っていく。

 

「今だ!!アリス!!」

 

「っ!」

 

そして、勝負を決したのは、その瞬間であった。

 

小吉の大きな声。

それに反応し、アカネは視線を、そちらへと向け咄嗟に爆弾を放ろうとする。

 

彼女の視線の先、そこに浮かび上がるのは青白い光……。

 

通信端末から表示される、アリスの姿であった。

 

「しまっ――――――――」

 

「光よ!!」

 

そして、それだけ大きな隙があれば、それで十分。

 

溜まり切ったエネルギーは、動きを止めてしまったアカネの光に包まれ、その場に倒れ伏す。

 

「……やりました!ダウンです!」

 

「ごめんね!アカネ先輩!」

 

「先生行きましょう!」

 

「……ユウカ、悪いな、進ませてもらうぞ」

 

倒れた彼女を気遣うも、今は時間がない。

合流したアリスとともに、小吉とゲーム開発部の面々は資材置き場の奥へと走った。

 

 

「……この部屋、だな」

 

「はぁ……、はぁ……。うん。間違いないよ!先生、……ミドリ!アリス!大丈夫?」

 

僅かに残ったロボットを撃破しながらやっとたどり着いた目的地に、ここまで走り続けた疲労を吐き出すように、全員息を整える。

 

「はい!アリスは大丈夫です……でも、武器のバッテリーが……」

 

「ほんとだ……チカチカしてる……」

 

もはや、モモイたちは余力を残していなかった。

無理もない。アリスは、最初に潜り込んだ戦い以外は固定砲台としての役割をこなしていた故に体力的な余裕はあるが、それでも、ここまでの戦いでの攻撃によって、武器に十分なエネルギーは残っていない。

 

そして、モモイたちに至っては、ここまでずっと戦い詰めだ。

弾薬も残りわずかだろう。

そうなれば……。

 

「もう戦える余裕があるのは俺だけか……」

 

モモイたちが『鏡』を探す中、小吉は冷静にそうつぶやく。

 

「え?先生戦えるんですか?」

 

「ちょっと信じられないー……、けど、プライステーション蹴り壊してたよね?」

 

「おう。これでも空手やってるからな。……といっても、ロボットに囲まれたらきついだろうな。流石に多方面からの銃撃は対応は……お、アリス、それじゃないか?」

 

「ほんとです。やりました!アリスは、クエスト対象を手に入れました!」

 

てれてれーん。と、そんな効果音が聞こえてきそうな風に手にしたそれを翳すアリス。

やった、と喜び、抱き合う三人。

 

だが……。

 

『っ!先生!!隠れてください!彼女が来ます!」

 

ハナコからの通信。

 

「彼女?」

 

『コールサインダブルオー……。美甘ネルさんです!急い……』

 

「遅ぇよ!」

 

そして、それを遮るように、扉の砕ける音が響き渡る。

 

「……ったく、アタシのいない間に、ミレニアムで滅茶苦茶しやがって」

 

そこに立つのは、睨みつけてくるのは、小柄なメイド服の少女。

 

「それで、アンタらがこの騒動の中心でいいんだよなぁ……?」

 

だが、そんな特徴など、彼女の手に持っていたものを見た瞬間、どうでもよくなっていた。

 

「っ、先生、……それに、モモイ、ミドリ、アリスちゃん……ごめんなさい」

 

「っく……無念だ」

 

「ユズ!?」

 

「それに、カイザー理事?!外で暴れてたロボットはお前だったのか!?」

 

彼女に捕まっていたのは、その二人であった。

四人は、動揺していた。

 

カイザー理事に関しては、小吉にはわかっていた。エンジニア部に転がっていたパーツは明らかに、生徒向きではなかった。恐らく、彼女らが彼に何かをしていたのだろう。

そして、エンジニア部への助太刀に行ってネルに敗れた。

 

彼女がいつ、ミレニアムに戻ったかはわからないが、それでも男の戦いは目立ったのだろう。

事実、内部からも爆音が聞こえていた。だから、その流れも想像がいった。

ミレニアムの外の存在である彼が騒ぎを起こしたのだから、捕まっていることも驚きはない。

 

だから、彼らが動揺したのは、もう一人。ユズの存在であった。

 

……ユズのこの作戦での役割は、本来、単独で保管庫へと侵入したアリスが確保した『鏡』を受け取り、どうにかしてゲームを作ること。だからこそ、彼女は今回の潜入作戦には加わらず、待機していたのだ。

 

もし、作戦が失敗した時に、彼女一人でも作戦とはかかわりがないとして、ゲームを作れるように。

 

「……こいつが気になるか?みりゃわかる。こいつは戦闘員じゃない。荒事も得意じゃねぇだろ……?でも、作戦の状況が聞こえるところにいたんだろうな……。アタシ相手にハッタリかまそうとしてたんだ。ロボットの暴走で、あなたじゃないと止められないからってアカネたちの方に誘導しようとしてな。根性は認めてやる。実際、普段なら引っかかってたな。アカネが倒れたって通信が飛んでこなけりゃ」

 

でも、流石に通らねえだろ。そんなウソは。

と、そこまでいうと、ネルは捕まえた二人を地面に投げ捨て構える。

 

「さぁて、問題児ども。誰が来る?お前か?お前か?それともお前か?」

 

アリスに、モモイに、ミドリに銃口を順に突き付けながら、彼女は不敵に笑う。

 

彼女を支えるのは、圧倒的な実績。

築き上げたものが違う。

 

コードネームダブルオー。

勝利を意味するその二つ名は、彼女の任務の成功率……。

その、勝利の歴史そのものだ。

 

完全無敗、絶対勝利、任務成功率100%。

 

ネルもゲーム開発部に関する話は少しばかり聞いていた。

ミレニアムの問題児、トラブルばかりで碌に実績も出さない不良集団。

 

だが、それがどうした。そんなものは見飽きている。

同僚がここまで手こずったのは中々ないが、それでもいつもと変わらないと。

 

例え無傷だろうと、自分が勝ってみせると。

 

獰猛な笑みを口元に浮かべながら、少女は、どうした、早く決めろ。と、口にしようとして。

 

「どうした?」

 

その言葉を小吉に奪われた。

 

生徒を下がらせ前に出たのは、男一人。

武器はなく、それまできていた背広をアリスに預け、ネクタイを外しネルの前へと立つ。

 

「……確か、先生だったっけか?どういうつもりだ?まさか、説得に応じてもらえるとかおもってるんじゃあねぇよな?」

 

その姿にこめかみを銃の背でたたきながらネルは尋ねる。

その苛立ちを隠さずに。

 

自分は今、戦うといったはずだ。

なのに、なぜこの男は前に出てきた。

 

銃弾を受ければ死ぬ外の人間が。

キヴォトスの、それも、強者の部類に入るはずの自分に対して。

本気で挑むつもりなのか、と。

 

「こいつらは限界だ。だから、戦える俺が前に出た。どこもおかしなところはないだろ」

 

その苛立つ自分を前にして、小吉はただ、理路整然と言葉を吐く。

 

どうやら、本気でやるらしい。彼女はため息をつく。

 

銃を撃たれないとタカをくくっているのか。

 

「……ハンデはどうすんだ」

 

前に立つ小吉に、ネルはそう吐き捨てる。

どうせなら、先に言え、と。

 

スペックに差があるのだ。

そして、彼女に殺すつもりはかけらもない。

だから、ネルは内心毒を吐いた。

 

一体、自分はどれくらい手を抜いてかかってやればいいか、と。

 

「……あぁ、そうだな。じゃあ、……『俺は左腕を使わない』」

 

「は?」

 

一瞬、ネルには理解できなかった。

 

自分が与えるはずだったハンデを、眼の前の男が、俺が背負うと言い出したことが。

本来、種のレベルで優位なはずの自分に対して身体能力で劣るはずの男が。さも当然のようにそう言ったことが。

 

勿論、小吉に悪意はない。

ただ、殺し合いの舞台でもない場所で、ハンデと問われた故に、武術の有段者である彼は自然とそういったのだ。

 

「……ぶっ殺す!」

 

だが、それは当然、彼女の逆鱗に触れるようなものであった。

舐められた。彼女はそう判断し、弾丸のように飛び出す。

 

勿論、銃など使うはずもない。

自分はただ、問題児を懲らしめ、舐めた大人を潰すだけ。

 

いや、そもそも外の人間の耐久力が伝え聞いた通りならば、武器を使うまでもない。自分の蹴りだけで決着がつく。

 

骨の二、三本へし折れるかもしれないが、それは、実力を見誤った自分の判断を呪えと。

ネルは、思考しながら、三歩目を強く蹴りこみ、小吉に一撃を叩き込むために飛び込んだ。

 

そして、銃を使わずに小吉の間合いに無防備に飛び込んだ、この時点で勝敗が決定してしまった。

 

確かに、ネルの速度は速い。並の人間では目で追うのも難しいほどに。

また、その力もすさまじいものだ。小柄な体格からは想像もできない力は、その脚力から生み出される速さも相まってビルの壁くらいなら砕くことができるだろう。

 

「……は?」

 

だが、彼女は知らなかった。

 

男にとって、自分よりもスペックが上程度のことは、慣れたものであった。

 

そして、超速で走る敵を相手にすることも、肉体を容易に破壊する相手との戦いもまた、そうであった。

 

どちらも、経験がある以上、対応できない理由もない。

 

ネルの、壁すらも破壊できるその一撃を、小吉は勢いを完全に殺し、受け止めた。

 

頭に血が上り、直線的に大地を蹴り、反応できないと高を括り飛び蹴りを選んだ時点で彼女にはもう、逃げ場がなかった。呆けたように漏らした声の後、ネルの背中を奔るのは痛み。

 

投げられた、それを理解した彼女は咄嗟に、銃を撃とうとして、固まった。

 

そして、それは十分すぎる隙だった。

倒れたままのネルの眼前。

 

小吉の拳が付きつけられた。

 

「……俺の勝ちだな?」

 

小吉の言葉に、彼女はただ脱力したまま、小さく頷くのであった。

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