シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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五十四話

C&Cとの戦いから一週間後。

小吉はゲーム開発部の部室にハナコを残し、エンジニア部の部室へと来ていた。

だが、彼の目的は、ウタハたちではなかった。

 

「よお、就職おめでとさん」

 

「……ふん」

 

そこにいたのは、大きく警備の二文字が入った制服を着た、かつてカイザー理事と呼ばれた男であった。

 

結果的に、今回のミレニアムタワーでの戦いは、そのほとんどの行為がお咎めなしとなった。

 

勿論、リオの差し金である。今回の事件を、C&Cとミレニアムのセキュリティに対する抜き打ちのチェックであるということにして問題の矮小化、解決を図ったのだ。

だが、その中でもイレギュラーな存在がいた。それが、カイザー理事だ。

 

なにせ、彼は生徒ではなく、ウタハが勝手に連れ込んだ部外者である。

 

リオも、手を尽くしたが、流石に、生徒でもなければミレニアムの関係者であるというわけでもなく、ウタハも状況をセミナーに上げることはしていなかったために、流石に問題となった。

 

「……礼は言わんぞ」

 

「いいよ。俺だって、礼を言う側だ。あの日はウタハを助けてくれてありがとう。理事」

 

だが、最終的に彼はミレニアムに警備として雇われることになった。

 

なにせ、彼は単独でC&Cのコードネームを与えられたカリンとの戦闘を問題なくこなせるほどに優秀な戦力であった。

勿論、彼女はスナイパーであり、高速で距離を詰めることのできる理事との相性が悪いことは間違いなかったが、それでも、ネルが現れるまでの間、C&Cのエージェント相手に十分な戦闘を成り立たせることができる戦力は、未だ戦力の多くをC&Cと開発しているそこまで強力ではないドローンに頼っているミレニアムとしては、ぜひとも欲しい戦力であった。

 

そして、これに関してはカイザー理事にも利点があった。

ミレニアムは科学において外とも、カイザーとも引けを取らない学園である。

この場での修理、新装備の開発は、彼としても非常に魅力的なものであった。

 

そういったこともあって、今回の件を不問にするという条件で、カイザー理事はしばらくの間ミレニアムに駐留することとなったのだ。

 

「だが、勘違いはするなよ、小町小吉……私はただ、私を拾ったマイスターに恩を返しただけだ。お前への復讐心を忘れたわけではない。次に会った時は敵だ」

 

「……あぁ、分かった。でも、それは、後にしないか?」

 

「なに?」

 

「なにせ、今日は、あいつらの祝勝会だからな」

 

そういう小吉が見せた端末の画面には、モモイからの祝勝会の文面が書かれていた。

 

 

「さて、これで今回のシャーレの仕事は完了かな」

 

歓び、はしゃぎまわるモモイたちの姿を見て、小吉は一息ついた。

 

彼女たちの目標であったミレニアムプライス。

投稿したゲーム、TSC2は、好評を博した。

 

その評価は当初掲げていた一位ではなかった。

 

だが、それは敗北を意味する順位ではない。

 

彼女たちに与えられた栄誉。

それは、彼女たちのために作られた特別賞。

 

確かに、単純な実用性で見た場合、彼女たちの作品は、社会において何ら影響を与えることはないだろう。

なにせ、ただのゲームだ。社会の発展に寄与することもなければ、直接的に新たな未来を作り出すことはない。

恐らく、今回ミレニアムプライスに提出された、あらゆる作品に劣るだろう。

 

しかし、それでも、彼女たちが熱意と魂をもって取り組んだゲームは最高の傑作でこそないものの、プレイした者たちの多くの心を強く動かした。

 

その結果は、言うまでもない。

彼女たちの、ゲーム開発部の継続は認められた。

 

かくして、シャーレに助けてと願った少女たちの願いは無事にかなえられたのだ。

 

「先生」

 

「あぁ、リオか」

 

そんなモモイたちが歓んでいる姿を、少しだけ遠巻きに見ていると、リオが声をかけてきた。

 

「アリスの件。正式にミレニアムの生徒としての登録が終わったわ。これで、一時的な預かりではなく、アリスもゲーム開発部として参加できるように……」

 

「そうか。なぁ、……リオ、本当によかったのか?シャーレでの預かりも、出来るんだぞ?」

 

小吉はその言葉に、もう一度、彼女にその意志を確認する。

彼女が現れた時。アリスについての処遇を決める際に彼女は語った。

 

アリスを保護するなら、シャーレの今後の運営に差しさわりがある。

だから、ミレニアムに引き取ると。

 

それは、確かに間違いではなかった。

 

だが、それは、彼女にとっても同じことが言える。

 

彼女を引き取るということは、ミレニアム。いや、リオが、アリスに対する責任を負う、ということだ。

アリスには悪いが、彼女の存在は未だに不鮮明な部分が多い。

 

彼女を引き取ることはそのまま、アリスという不確定なリスクをミレニアムで背負うということにもなるのだ。

 

それは、生徒の味方でありたいという小吉の考えとしても、容易く肯定できないことであった。

責任を負うのは、本来大人がやるべきことであるのだから。

 

「……大丈夫よ、先生。……、でも、よくないわね。私は、あの時の私とは違うのよ」

 

「?どういうことだ?」

 

小吉の疑問に、リオは一つ、呼吸をして、緊張した面持ちで彼を見据えた。

確かに、最初の動機は憧れであった小吉への助力であった。

だが、今は、……それだけではない。

 

「……手を、握ってくれたの。……アリスは、私に笑顔を、向けてくれたの」

 

そんな、ちっぽけな理由で、あった。

だが、確かに今、リオはあの子の力になりたい。守りたいのだと、確かに、そう思えたのだ。

例え、どんな困難があったとしても。

 

そう、彼女はまるで、好きな女の子への告白のように小吉に、自分の思いを吐き出した。

 

「……そうか。リオ」

 

「……何かしら、先生」

 

言うべきことは、きっと、多い。

生徒会長としてではなく、彼女は、一人の人間として。あるいは、アリスの親のような立場で、彼女のことを背負おうとしている。

 

だからこそ、本当であれば、多くのことを語らうべきなのだろう。

きっとこの先にリオを待ち受けている困難は、ただ、計算通り、合理的な回答を用意していれば解決するといったような類のものではないのだから。

 

だが、それでも、今、小吉が伝えたい言葉は、一つであった。

 

「アリスのことは、任せたぞ」

 

「!……えぇ!」

 

たった、それだけの。しかし、小吉の告げたその信頼の言葉は、彼女に次の一歩を踏み出す勇気を与えるのに、十分な理由となった。

 

「先生!リオ!」

 

「どうした?アリス」

 

そんなやり取りの後、アリスがパタパタと二人の下に駆け寄ってくる。

 

「どうした?じゃないです!せっかくお鍋を用意したのに、先生たちが来ないから始められないじゃないですか!」

 

さっきから、アリスはステータス:空腹を示しています!と、ぷんすかと怒るアリスに、小吉は苦笑を、リオは困った顔をして、彼女たちの待つ食卓へと座るのであった。

 

 

「あ~~~~。食ったなぁ」

 

「ふふ……、そうですね。私も、思わず食べ過ぎてしまいました」

 

そして、帰り道。

小吉とハナコはトリニティへの道を歩いていた。

 

「それで、どうだった?シャーレの正規部員一号、浦和ハナコくん」

 

「もう、先生。からかわないでください……。そうですね。とても、充足した時間でした」

 

ハナコの頭を、わしゃわしゃと大きな手でなでる小吉に、ハナコはそう、笑顔で答える。

 

そう、ハナコにとって、この時間はとても楽しいものであった。

 

トリニティでの日々は、……。ただ、自分の能力だけを見られた鬱屈としたものであった。

勿論、発端は自分の才能をひけらかしていた自分にあるということは理解しているが、しかし、それでも。

そこに、『浦和ハナコ』という個の意味はなく、ただ、その才を求めた人間が集まるだけであり、その日々は彼女を蝕んだ。

 

だが、小吉と、ミレニアムで過ごしたこの数日は違った。

 

勿論、能力故に頼られたことも何度もあった。

しかし、見られていたのは、間違いなく『彼女自身』であり、利用されたのではない、頼られ、そして、ハナコ自身がその期待に応えたかった。

 

結論自体は、同じであった。

ハナコは、その力をこの数日の間使い続けた。

違ったのは、その決定を自分で能動的に行ったこと。

 

才能だけを見られていたトリニティの生活とは、全く違う。本当に、充足した日々だったのだ。

 

「本当に、ありがとうござます。先生」

 

「俺は何もしてねぇよ。今回だって、ほとんどみんなが頑張っただけで、俺が役に立てたのは最後逃げるとこくらいだったろ」

 

小吉は、改めて、自分の行動を思い出す。

アビドスの時は指揮以外にも多くのことをした気でいたが、ミレニアムで直接的に自分ができたことは、やはり、ネルと最後に対峙したところだけ。

 

ハッキング、セキュリティへの工作、それに戦闘。

それらを行ったのは自分ではなく、生徒たちであり、唯一直接指揮を執る部分も、作戦立案に関しては、頭脳派メンバーがそろっていたおかげで、小吉が考える部分はかなり少なく、現場での咄嗟の判断くらいであった。

タワー内での行動も、逐一ハナコたちオペレーターの指示あってこそのスムーズな行動であったと理解している。

 

故に、なにをしたのか。といわれると、あまりできたことはなかった。

 

と、そう思ってしまうのだ。

 

「そんなことありませんよ。きっと、先生のおかげで救われた子が一杯います」

 

一方で、この数日、隣で彼を見てきたハナコの感想は違った。

 

彼がいなければ、リオは舞台には上がらず、ミレニアムで受け入れるという判断も下さなかったかもしれない。

彼がいなければ、アリスにたどり着くことはなく彼女はずっと、地下で眠っていたかもしれない。

そもそも、小吉が活動をしていなければ、ゲーム開発部は誰にも助けを求められず、そのまま廃部になっていたかもしれない。

 

きっとそういう人間なのだろう。

彼は、彼自身が自覚することなく人を集め、影響を与えていく。

だからこそ、その影響を自覚できない彼からしてみれば、多くのことができていないと、そう思ってしまうのだろう。

 

「実際、私もそうですから」

 

きっと、言っても、先生にはあまり伝わらない。

だから、ハナコに出来ることは、少なくとも自分は助けられた。と。伝えるだけだ。

 

「……。そうか、それなら、よかった」

 

「それで、次はどんなお仕事なんですか?」

 

この話題を続けるのは良くないと、そう判断したハナコは切り替え、次の話を小吉に振る。

 

そう、次。

キヴォトスには、何千と学校があり、困っている生徒は星の数ほどいるはずだ。

最初の事件を皮切りに、アビドスの事件も解決し、小規模ながらミレニアムの事件も解決したシャーレには、次の話が来てもおかしくはない。

 

故にハナコは、気持ちを切り替えれるように小吉に次を意識させる。

 

「ん?あぁ……メール、そういや、見れてなかったな」

 

あまりできることはなかった、といいながらもゲーム開発部のゲーム開発に奔走していたり、あの後ネルと組み手と稽古を行ったりで、そうでない時間はシャーレにたまっていた書類の内電子で処理できるものを行ったりと、せわしない時間を過ごしていた。

 

故に、次の相談について、未だ小吉も確認できていなかった。

 

だからこそ。

 

「……トリニティ、ティーパーティ……。ナギサから?」

 

だからこそ、少し前に届いていたメールの送り主の名前に、驚きを隠せなかった。

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