シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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番外編~アビドス、ホシノVSアル~

「……効果、すごいね」

 

アビドス、および便利屋68の合同訓練。

昼の休憩として、委員会室でアルに用意してもらった食事を食べながら、シロコはそうつぶやいた。

 

訓練を始めて、まだ少ししか経っていないというのに、自分の身体が、以前とはレベルの違う段階に押し上げられてると、感じていた。

 

「はい!あんまり、詳しくない私でも、力が上がったってわかる位でしたし。それに……」

 

「ど、どうかしましたか……?ノノミさん」

 

視線を向けた先。

今日は、カヨコとムツキは仕事ということで、留守番と訓練も兼ねて残ったハルカは、唐突なパスに戸惑う。

 

そう、その成長の具合は、彼女を見れば明らかであった。

肌艶。など、そういったレベルではない。

 

確実に、出会った時の彼女よりも大きくなっている。

元々、栄養不足だったのもあるのだろう。

 

しっかり三食、それに加えてアルによる強化トレーニングの影響で、ハルカの体はぐんぐんと成長を遂げており、百七十センチも目前というところにまでなっていた。

 

「よくないわ!!」

 

だが、……いい面ばかりではない。

その叫び声をあげたのは、セリカ。

 

彼女もまた、この食事に効果を一番実感できている一人だ。

 

……ただし、悪い方向に。

 

そう。彼女たちがしていた悪い予感が、実現したのだ。

 

原因は、いたって単純。

……運動不足と、食べすぎであった。

 

「ん……。セリカはバイトをしたいっていっていたから、アルから訓練メニューを軽くされていたのに、アヤネと同じ量を食べていたから」

 

「ぅ……!」

 

だが、それをサボり、というには、あまりにも酷な話である。

今のアビドスの抱える借金を少しでも減らすためにバイトをする。だから、訓練の減らす。それはいい。

前線で戦う!だから、サポーターのアヤネよりも強く体を作らなければならない。それも、理解はできるだろう。

 

しかし、アルの組んだメニューは、極めて緻密なものである。

それこそ、ごくわずかな変更が、全体に大きく影響するほどに。

 

「あはは……、とりあえず、社長にいって少し変えてもらいましょうね」

 

「う、うわああああああん!!!」

 

そんなアヤネのやさしさに、少し以前よりも物理的に丸くなってしまったセリカの嘆きが、アビドスに木霊した。

 

 

「うへ……ほんとにやるの?」

 

「仕方ないでしょ。私だって、強い人との戦いで腕を上げときたいのよ。それに、貴女にだって、得にしてみせる」

 

ところ変わって、五人の食事中。

アビドス高校の校庭。その真ん中で、アルとホシノ。二人が向かい合っていた。

 

「……ま、いいけどさ……。すぐに終わらないでよ?」

 

「えぇ、……一発くらいはしのげるわよ、試してみる?」

 

互いに、挑発をしながら、少しだけ距離を離して、そして、向かい合う。

 

それぞれ、別々の理由で武器を向けていなかった。

 

ホシノはモチベーションの不足。盾を持った左手も含めだらりとその場に構えている。

アルの方は、彼女の行動を見るため。近接格闘を想定しているのか、彼女の拳は軽く握られている。

 

「それじゃあ、……行くよ」

 

「っ……!」

 

踏み込んだホシノの姿は、まるで掻き消えるような素早さであった。

 

格闘技の技術縮地。それとはまた別。

 

純粋な身体能力から引き出される速度において、彼女はキヴォトスにおいて上位に君臨するものであった。

 

それこそ本気を出した彼女と相対して、彼女を追いかける、……どころか、彼女のことを目で追える人数はそれこそ数えるほどだろう。

 

「へぇ……」

 

……。だからこそ。

目で追う、どころかギリギリとは言えガードを間に合わせたアルに対して、ホシノは小さく声を漏らした。

 

「どう、かしらっ。防いだわよ!」

 

一方で、防いだアルは、そう強がるしかなかった。

 

ホシノが行ったのは、蹴り。

銃でも盾でも、アルを相手にするなら遅い、と判断したからか。

そのおかげで、体に響く痛みは弱い。

 

だが、どちらにせよ、攻撃が来るとわかっていてなお、受けきれなかった。

想定していたよりもはるかに強い蹴りに、数百年の交配の末、頑丈に産み落とされたアルの腕の骨が悲鳴を上げる。

 

「まだ終わりじゃないよっ」

 

そして、ホシノの一撃はまだ死んでいない。

彼女の放った一撃は、飛び蹴り。ホシノの体重+大盾の質量に速度が加わった蹴りは、アルという足の置き場を得たことで十分にエネルギーを蓄え……。

 

「なら言葉にしないことね!」

 

しかし、そのエネルギーは、放たれることはなかった。

ホシノが力を込めたその瞬間、アルの手が爆発し、巻き起こる爆風に二人まとめて吹き飛ばされる。

 

キヴォトスに暮らす生徒たちに宿る神秘。そして、そこから発現する異能。

 

その中でも彼女の異能は、非常に攻撃的で、強力なものである。

爆発の異能。

 

火力もさることながら、何よりも脅威となるのがその条件。

 

アルが触れた弾丸。

それ以外に条件はなく、爆発のタイミングも規模も、彼女の意志一つ。

 

勿論、巻き込まれれば、発動者である彼女も相応のダメージを受けるが……。

 

問題はない。

蹴りで吹き飛ばされれば、ホシノからの攻撃を受け続けるほかにない。

受けに回り続けるよりかは、遥かに安い上りだと、アルは笑う。

 

そして、ここでようやく、彼女は銃撃を放った。

 

スナイパーライフル、ワインレッドアドマイヤ―から連射された弾丸たちは、全て、寸分のズレもなく真っすぐにホシノの下へと迫る。

 

「っ……」

 

そして、この瞬間、ホシノは複数の選択を迫られた。

通常であれば、受ける、あるいは交わす。

 

どちらも容易である。

たとえ、戦車の弾丸ですら彼女はいなす自信があった。

 

だが、そこにアルが触れた銃弾であるという前提が加われば話は変わる。

 

銃撃を終え、一瞬ホシノの視界に映ったアルは既にリロードをはじめ、次の行動に移っていた。

すなわち、前進。

 

この瞬間に、盾で受ける選択肢は消失する。

先ほどの爆発は、互いに軽く吹き飛ぶ程度のものであった。

 

しかし、彼女がアビドスを襲った時の爆発は、ホシノをもってしても、その場に釘付けにされてしまうほどのものであった。

 

迫る銃弾。それをすべて盾で受け、爆発するとなれば、ダメージはなくとも、体は硬直し動けない。

 

そして、そうなってしまえば、今迫ってきている彼女に盾をはがされるか、あるいは、盾ごと空中に投げ飛ばされ回避不能に追いやられる。

 

ホシノ本人はまだ見ていないが、アルは瓦礫を片手で放り投げるほどの力があることを聞いていた。

 

情報に敏いというわけではないが、そういった力を持った生徒の話を何人か耳にしたことがある。

そして、自分はその力に対して抗うのは難しいということも自覚していた。

 

故に、彼女が選んだ選択肢は、回避。

 

自身の速度であれば銃弾の隙間を潜り抜けられるという、自信。

 

そして彼女は、前に向けて駆けだし、銃弾の合間を潜り抜け、接近するアルに銃を向けたところで、爆発に巻き込まれた。

 

「っがっ!?~~~~~~いたぁ!!」

 

「よし、巻き込み成功」

 

そう。当然な話だ。

 

ホシノは銃弾を避けられるほどに早く、盾受けはリスキーな選択肢だとアビドスでの戦いで理解していた。

そして、弾丸は爆発する以上、避けきれるはずもない。と。

 

「けど、ここまでくれば、こっちの距離だよ?」

 

「まぁ、そうなるわよね!覚悟決まりすぎでしょ!」

 

だが、それだけ。

言ってしまえば、痛いだけ。そのほうが、盾を失うか、回避不可能に陥るよりははるかにマシであった。

 

そして、盾で爆発のダメージを抑えながら、ホシノは、アルの懐まで潜り込んでいた。

 

アルは銃を構えている。

 

先ほどと違い、弾丸による防御はできない。

 

一方で、ホシノもまた小さくない隙を晒していた。

 

駆け抜け、弾丸の爆発を盾で防いだことで、体が浮き上がっている。

ヒナのように翼のない彼女は、攻撃態勢に移行はできても、この状態から回避行動をとることも、急加速をすることもできなかった。

 

だからこそ、彼女たち二人の動きはほぼ同時であった。

 

ホシノはトリガーを引き絞り、アルは銃撃によるダメージが来ることを気にせずに、ホシノの腹を思い切り踏みつけた。

 

「「~~~~~~~!!」」

 

互いに漏れる悲鳴。

 

銃撃に撃たれたアルの足に、散弾銃を正面から受けたことで小さくないダメージを負い、同時にホシノも、アルの全体重とそこに至るまでの運動エネルギーを乗せたストンピングを受け、息を詰まらせた。

 

……だが。

 

「……こっちの負けね」

 

「いや~……。正直ギリギリだったけれどね」

 

決着は、ついていた。

そんな痛みに悲鳴を漏らす状態でもなお、ホシノはアルの額にショットガンを突き付けていた。

 

単純な話だ。

 

互いに、次の手は読み切っていた。

 

だが、その上で、勝敗を分けたのは、衝撃の差と、獲物の差であった。

 

アルの一撃は確かに、ホシノの臓器を揺らすほどに強力な一撃ではあったが、それでもホシノのショットガンの一撃と比べれば威力が劣っていた。

 

そして、ショットガンの方が、相手に向ける速度が速い。

 

「いい経験ができたわ、そっちはどうだったかしら?」

 

「んー。まだまだだね、社長ちゃん」

 

手痛い評価ね。またやりましょう。

と、笑うと、アルはすたすたと校庭を後にする。

 

「……、まだまだ、ね……」

 

今は、まだまだ、と言える。

だが、その差は一体、どの程度なのか。

 

……彼女なら、次に戦うときには、あの速度くらいなら容易に対応するだろう。

 

今回のは不意打ちだから成立したのだ。

 

「おじさんも強くならないと、かなぁ……」

 

思い浮かぶのは、先生の顔。

 

……そう、助けてくれたあの人に、恥じないくらいに。

強くならなければならないのだ。

 

 

「……、あら?連絡?……もしもし、先生」

 

そして、そんな裏で物語は次へと進もうとしていた。

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