シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

62 / 65
五十七話

ヒフミと合流した小吉たちが次に足を向けたのは、正義実現委員会の部室であった。

 

「その、こちらに二人いるみたいで……」

 

先に立ってここまで案内したヒフミは、言いにくそうにそう伝える。

 

「二人か……」

 

「ひ、一人は正義実現委員の子なので!問題を起こしたとかじゃないはずです!」

 

「つまり、片方は問題を起こしたわけか」

 

とはいえ、小吉たちに取ってこれに関して言えば、ある程度想定していた範囲のことであった。

 

そもそも、ナギサに目をつけられたのはテストの点数だけではない。

補習授業部の設立において、テストの点数はあくまで名目であり、そこに加えて、怪しい動きがあったからこそ、彼女らは補習授業部としてあつめられたのだ。

 

ヒフミのブラックマーケットの出入りのような。

 

故に、治安組織にお世話になるような人材がいる。

ということについて、むしろ自然な話であった。

 

「あはは……、誰かいればいいんですけれど。え、えっと。失礼します」

 

数度のノックの後、扉を開く。

 

部屋は広々としており、静か。

まばらには人がいるものの、多くの者が何かの作業をしているようだった。

 

故に、ヒフミは、その中でも、手が空いてそうな桃色の髪の少女に話しかけた。

 

「え、えっと。こんにちは」

 

「……」

 

少女は、声を返さない。

僅かに、一歩、じりりと後退する。

 

その様子に、ヒフミは、何かしたのだろうかと、視線を小吉やハナコへと向ける。

 

「心配いりませんよ、ヒフミちゃん。その子は少し、人見知りみたいです」

 

「ち、ちがう!ただ知らない人だったから警戒してただけ!!」

 

そんな反応を返す少女に対して、ハナコもヒフミもくすりと笑ってしまう。

 

よく見れば、あたりの少女たちと比べても小柄に見える。

そんな少女から見れば、大柄とは決して言えないヒフミ。ましてや、ヒフミと比べても大きなハナコや小吉までいれば、警戒心を抱かせてしまうのも無理はないことであった。

 

そんな空気に、少女は顔を赤らめる。

少女も、自分で言っていて、人見知りと、何が違うのかと、分かったのだろう。

強引に話を進めてくる。

 

「そ、それで、正義実現委員会に何の用なの!!」

 

「あぁ、探してるやつがいてな」

 

「人探し!?私たちはボランティア団体じゃないの!そのくらい……」

 

「大丈夫だ。探してるのは、ここにいるやつだから」

 

そうだろ?と、食って掛かる少女をなだめながら小吉はハナコへと視線を送る。

 

「はい、白洲アズサさん。私たちは彼女に会いに来ました」

 

「白洲アズサ?えっと、その子なら……」

 

少女が、その言葉の先を言おうとした時であった。

 

小吉たちの背後の扉が開いた。

 

「ただいま戻りました」

 

「任務完了です!現行犯の白洲アズサさんを確保しました!」

 

「え!?え!?げ、現行犯ですか!?」

 

ここにいるとだけ聞いていたのであろう、ヒフミはその言葉に驚く。

 

「おう、ハスミ。お疲れさん」

 

「先生。トリニティにいらしたのですね」

 

一方で、小吉は帰ってきた知り合いに対して、労いの言葉をかける。

 

「ちょっと色々あってな。アズサって子は、どの子だ?その子に用があるんだ」

 

「……。なに?好きにしていい。ただ、拷問に耐える訓練は受けてるから、口を割るのはそう簡単じゃないよ?」

 

小吉の声に反応したのは、銀髪の少女であった。

 

「お、おう。そうか?……なぁ、なんでガスマスクをつけてるんだ?」

 

「……先ほどまで、私たちとの追走の際。教材用の催涙弾を利用していましたから……そのほかにも、様々なトラップも使ってきて、……手を焼かされました」

 

よくよく見れば、大きなけがこそないものの、ハスミを含む少女たちは小さな怪我や、服の汚れなどが目立つ。

 

「随分やんちゃみたいだな」

 

「えぇ……。それで、少し事情を窺っても?」

 

「あぁ。そうだな」

 

小吉は、ハスミに対して掻い摘んで補習授業部についての説明をする。

幸いにも、こういった話になれているのか。彼女はすぐに飲み込んでくれた。

 

「お話は理解しました。先生が、その補習授業部の担任になる、ということですね」

 

「急な話で悪いな」

 

「いえ……。しかし、残念です。できれば、お手伝いしたかったのですが」

 

ちらり、と。ハスミは机に目を向ける。

そこにあるのは、書類の山を先に処理し始めた後輩たち。

 

「その気持ちだけでうれしいよ。それじゃあ、二人、借りてくぜ?」

 

小吉の言葉に、それまで控えていた、最初の少女が声を張って反応する。

 

「はぁ!?だめに決まってるでしょ!!絶対だめ!あの子は凶悪犯なのよ!!」

 

「コハル。先生は、ティーパーティーからの依頼でこちらに来ているのです。規則上、何の問題もありませんよ」

 

「え、えぇ……。まあ、でも、先輩がそういうなら」

 

もっとも、そんな主張も、先輩であるハスミからの言葉を受ければ、少しずつ尻すぼみになる。

 

「ふ、ふん!でも良いザマよ!こっちはこんな凶悪犯と一緒にいなくてもいいし!そもそも補習授業部なんて!!恥ずかしい!」

 

「いや、君も来るんだぞ?」

 

小吉のその言葉に、コハルと呼ばれた少女は、ぴしり、と石にでもなったかのように固まる。

 

「……はい、その、非常に言いにくいのですが。この部室で用があったのはもう一人下江コハルさん、貴女なんです……」

 

「わ、私っ!?な、なんで!」

 

「そりゃ……三連続で赤点取り出して留年目前だから、だな……」

 

下江コハル。

補習授業部において、唯一。不審な動きなどは一切見受けられなかったが、補習授業部の設立の名目が補修であるという理由であるが故に。裏の政治的な事情など関係なく、ただ、その実力をもって、入部を認められた生徒であった。

 

「あと一人、ですね」

 

下を向いて、呻くコハルと未だガスマスクを着けたままのアズサを引き連れ、小吉たちは、最後の一人を迎えに移動を始めた。

 

「最後の方はどこにいるのですか?」

 

「えっと、大聖堂で、お祈りをしているはずです」

 

「大聖堂?」

 

「知らないの!?先生なのに?」

 

疑問を口にした小吉に、コハルは先ほどまでの俯き具合はどこへやらと、常識がないというように食って掛かる。

 

「そうだな。俺は、ハナコたちと違ってこの学園について詳しくないし、教えてくれないか?」

 

だが、小さな少女の態度に、彼が怒ることはない。

それに、小吉にしてみても、コハルの性格を知るべきだと思ったのだ。

 

彼女が補習部入りした経緯を考えるに、ただ巻き込まれただけだとは思うが、それでも、小吉は彼女らの担当になるのだから。

 

「大聖堂は、トリニティで一番おっきな建物でシスターフッドっていう部活が拠点にしてるの!」

 

ほら、あれっ!とコハルが指さす建物に目線を移す。

 

「なるほど、確かにありゃでかいな」

 

高さも、幅もトリニティの建物の中で間違いなく群を抜いて巨大。

 

それこそ、今建物に向かっている途中であるにもかかわらず、その影が早くも小吉たちを飲み込むほどに、高くそびえていた。

 

「しかし、シスターか……」

 

最後の一人。

すなわちその生徒は、ニュートンの疑いがある生徒。ということになる。

 

だが、彼にとって、神に仕えるものという立ち位置はどうもニュートンとは結び付かないのだ。

なにせ、彼らが目指したのは合理の先。人という種を神の座に届く生命にし、次代の世界において、自分たちニュートンの一族が人類の王として人類を導く存在になること。

 

それを思えば、シスター、という地位は、あまりに不釣り合いなように思えた。

 

「扉もデカいな……」

 

そういいながら、その巨大な扉を開ける。

 

中に入ると、そこにあるのは外観相応の、どこか厳かさを感じる石造りの教会。

ここに所属するであろうシスター服を着た少女たちは、誰もが慌ただしく動いていた。

 

「ようこそいらっしゃいました。先生。ナギサさんから連絡は届いております」

 

「君は?」

 

「……申し遅れました。私は、このシスターフッドの長を務めております。歌住サクラコです」

 

そんな中、彼女たちの代表が小吉に気がつき声をかけてきた。

その所作の一つ一つがナギサに劣らないほどに、丁寧な物。

 

まさしく、組織の長を名乗るのに相応しい立ち振る舞いである。

だが……、小吉は、どこか棘のようなものを感じた。

 

「今回の話、納得していないのか」

 

「……はい。実のところ、そうなのです。あの子は優秀で、これまで受けた試験で、人様に出せないような点数を取ったことはありませんでした。一度ナギサさんには抗議も行いましたが、聞き入れてはもらえず……」

 

無理もない話である。

アズサやコハルのように点数が低い訳でも、ましてや、ヒフミのようにテストそのものを蹴ったわけでもない。ナギサは強引な手段をとって、ニュートンの疑いのある生徒に対して補習授業部入りを強制している。

 

そもそも補習授業部という肩書自体、あまりよろしくはないものだ。

組織の長としては、そんなものに一時的とはいえ所属することになることを快く思わないというのはむしろ当然のことだろう。

 

「サクラコ様。何度も申し上げましたが、私は気にしていません」

 

そんな中、先ほどまでシスターたちの作業の手伝いをしていた少女が一人、前に出てくる。

 

「こんにちは、先生。私は、伊落マリーです。今回はよろしくお願いします」

 

「話は聞いてるんだな。こっちこそ。巻き込んで悪いな」

 

「いえ、手違いは仕方ありません」

 

そういって、柔らかく微笑むマリー。

その姿を見て、小吉は、判断できなかった。

 

あの男も、確かこんな風に笑うこともあった。

 

だが、彼は、地球のニュートン。ジョセフ・G・ニュートンは、そんな姿のまま、あまりに自然にあの火星で裏切って見せた。

 

「……先生?どうかしましたか」

 

「いや、なんでもない。君が、補習授業部の四人目だ。いい子そうでよかった」

 

そんな思考を誤魔化すように、小吉は、言葉を紡ぐ。

 

ニュートンは。

少なくとも外ではそう名乗っていた一族は、このキヴォトスにも存在する。

アルはそう名乗っていたし、それに違わぬ力も発揮していた。

 

だが、眼の前の彼女。マリーがそうであるかは、……小吉には分からない。

 

「大丈夫だ。今回のテストだってそう難しいものじゃないし、全員合格だからハードルはちょっと高いかもしれないが、きっと、時間を少しもらうだけで済むよ」

 

目的を考えればそうなると困るが、それでも、それは本心である。

この四人が本当に無関係であればいい。

小吉にとって、それは間違いなく本心であった。

 

「そう、だとしても。いえ、……先生。マリーのことをよろしくお願いします」

 

サクラコも、それでなんとか納得したのか、小吉に頭を下げる。

 

「……おう、任せといてくれ。それじゃあ、皆教室に移るぞ。試験までまだ時間はある、ちゃんと勉強すれば、問題なく終わるさ」

 

実際、ナギサの用意した問題は小吉から見ても難しいものではなく、百点満点を求められるならまだしも、そこそこの点数をとればいいだけなのだ。

 

ナギサの依頼は果たせなくなるかもしれないが、それならそれで、巻き込まれた生徒たちは解放できる。

 

「そ、それでは、皆さん!がんばりましょう!」

 

「お、おー!って、皆さんやらないんですか……?」

 

ヒフミの号令に従っているのはマリーだけであったが、それでも、コハルもアズサもやる気はある。

 

問題はないだろう。と、小吉は少し安心した。

 

……彼女たちがとった、点数を見るまでは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。