シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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五十八話

「……こりゃ、大変だな」

 

そんなこんなで、多少の勉強の時間を設けた後行われた、第一次テストが終了した。

だが、採点を終えた彼女たちの答案を見て、小吉は少し、頭を抱えていた。

 

テストの内容は、彼女らの学年を考えても簡単なものであった。

小吉も学校の授業という意味での勉学を離れて久しいが、それでも多少の理解はできたし、現役の時期であれば問題なく解けた。そう確信ができる程度に基礎的な内容だったように思える。

 

そして、それは、ヒフミのテストの結果からもうかがえる。

 

ニュートンの疑いがあり、そもそもナギサが強引な手段をとって入部させたマリーは百点であるため、参考にはならないものの、ヒフミの点数は、テスト前に勉強時間を設けたうえ、百点満点、とはいかなかったもののしっかりと合格圏内の点数を取っていた。

 

だが。

 

「アズサちゃん!?コハルちゃん!!どういうことなんですか!?」

 

そんなヒフミの悲痛な叫びが、教室内に木霊し、その声の大きさに、コハルがマリーの後ろへと隠れてしまう。

その様子を見た小吉は軽く手をぱんぱんと叩き、ヒフミの視線を自分に向けさせた。

 

「落ち着け、ヒフミ。コハルがびっくりしてるぞ」

 

「う、……そ、そうですね」

 

だが、ヒフミの気持ちを小吉も分からなくはなかった。

なにせ、二人の点数は、その簡単なテストを受けていたとは思えないほどに低いものであった。

 

「……アズサちゃん、あれだけ勉強を熱心にしていたじゃないですか。それなのに、どうして」

 

まず、アズサ。

彼女に関して言えば、分からないことは熱心にマリーやハナコに聞いており、学習に臨む態度も及第点。

どころか、かなりよかったはずだ。

 

「紙一重だったか……」

 

「合格点よりも三十点以上低いのは紙一重じゃありませんよ!?」

 

だが、足りない。

内容は基礎的なものであったにもかかわらず彼女の点数は、合格点であった六十点を大きく下回るものだった。

それこそ、転入前の学園の学力が疑わしくなってしまうほどに。

 

そして……。

 

「コハルちゃん……」

 

「な、なによ……」

 

その、威圧するようなヒフミの声に、コハルは少しだけ口籠る。

悪いことをしていた子供が親に見つかって、でも素直に謝れないようなそんな風に。

 

「言っていましたよね?実力を隠しているって。なんなら、その先の勉強まで準備時間に始めてましたよね」

 

「そ、そうだけど……」

 

そう、彼女は、試験の開始前に行った小吉とハナコによるテスト対策授業。そして、その後に行われた勉強会で、試験範囲を完璧といい、その範囲の外まで手を進めていた。

 

……。だが。

 

「なんでアズサちゃんよりもさらに低い点数なんですか!」

 

「で、でも、難しかったし……」

 

「テスト内容は、基礎的な内容でしたよ!?」

 

彼女のそれは所詮、見栄でしかなかった。

それは彼女のテストの点数……。アズサを下回る11点という悲惨な数値を見ればわかる。

 

恐らく、それぞれ理由は違うのだろうが、ともあれ彼女たち二人は、基礎の時点でボロボロであったのだ。

 

「まぁ、こればっかりは仕方がねぇな」

 

そもそも、短時間の学習はしたとはいえ、所詮この日の数時間。

モモフレンズのために試験をぶっちぎったヒフミと、ニュートンへの警戒により意図的に引き入れられた二人とは違い、この二人は勉強の面での問題があったからこそ引き入れられたという面もあるのだから。

 

努力できない人間はどうしてもいるし、要領の悪い人間はどうしてもいる。

それは個人の性質であり、それが数時間。軽い触りだけで解決できるのならば、苦労はしないのだ。

こればかりはゆっくりと付き合っていくほかない。

 

「……どうしましょう」

 

ともあれ、それは個人の問題である場合。

 

「ま、まぁ、ヒフミさん。そんなに怒らなくても……」

 

何か重い罰があるわけでもないのだから。と、マリーは言いたいのだろう。

彼女がそう思うのも無理はない。なにせ、部員全員の成績向上が合格条件なのだ。

なにか、重たい罰があるのであれば、個人ごとに突破できるようにする。

 

そう考えるのも無理はない、だが……今回の場合は違う。

 

「違います!私たち!合格できないと!私たち全員ゲヘナに送られちゃうんです!!」

 

「「「!?」」」

 

一時的なものとはいえ、彼女たちへの罰は、ゲヘナへの強制的な留学。

無論、それは、小吉に協力を取り付ける前、シャーレの権限を利用して行う退学よりはよっぽどマシではある。

しかし、それは、あくまで比較対象が学園という後ろ盾を無くすのと比べてというだけの話。

 

これまでの人間関係を強制的に絶ち切られ、決して友好的ではない学園に向かうことになる。

その衝撃は、未だキヴォトスに来て一月と立っていない小吉には分かるとは言い難いものであった。

 

一気に、重たくなる空気に、小吉はもう一度ヒフミに声をかける。

 

「そこまでだ。……落ち着け。全員が合格点をとればいい話だ」

 

「……、でも」

 

不安そうな表情で、ヒフミは、小吉に、コハルたちに対して最悪の一言を吐き出そうとする。

だが、その言葉が飛び出る前に、ヒフミの口元を小吉は優しく覆う。

三人からの視線が、ヒフミに注がれて、彼女は自分が言おうとした言葉の重さを、改めて理解し、崩れ落ちそうになる。

 

「言いたいことは分かる、でも、その先は口に出さないほうがいいぜ」

 

「そうですよ、ほら、落ち着いて」

 

言葉を止められたヒフミを、今度は優しくハナコが抱きしめる。

 

身長差もあいまって、顔から胸元にうずめられたヒフミは、恥ずかしかったのか、ハナコをなんとか引きはがして距離をとる。その顔は、普段より少し赤らんでいる。

 

「わ、わかり、ましたからっ!?もう、大丈夫です!」

 

「あら、残念♡」

 

そんな風に慌てるヒフミをからかうように笑うハナコ。

それによって場の空気は、少しだけ和らいだ。

 

「まぁ、とにかく、今回全員が合格点を得られなかったから、明日からは全員で泊まり込みの合宿だ。各自、しばらく自室には戻れないから、簡易的な家具はあるそうだが、寝間着とかの宿泊の準備をしておいてくれ。ハナコ、皆のこと、頼んでいいか?俺は、合宿先の施設について話してくるよ」

 

「は~い。それじゃあ、皆さん、明日に向けて、準備を整えましょうか」

 

そんな風に補習授業部の面々を率先してリードするハナコの姿を見ながら、小吉は、部屋を出た。

 

 

「先生、お疲れ様です」

 

向かった先は、ティーパーティーのサロンである。

人払いを終えたのか、今日も彼女以外には誰もいない。

 

「アフタヌーンティーには遅いんじゃないか?」

 

「ふふ、そうですね……。先生もどうぞ、こちらへ」

 

そう誘われるがままに、小吉はナギサの用意した席へと腰を掛ける。

 

「……テストの結果は、芳しくなかったみたいですね」

 

「ヒフミとマリーはともかくアズサとコハルがな。基礎学力の問題だな、ありゃ。正義実現委員会と転入生には、別のプラン用意したほうがいいんじゃねぇか?」

 

コハルにアズサ。

その学力は明らかにこの学園についていけてないように見える。

それが、どちらも所属や、状況のせいであるというのなら、改善すべきだろうという、真っ当な意見である。

 

「それについては……。正義実現委員会の他の生徒たちは問題ないですからいいとして。転入生に関しては、……そうですね。転入、というのがあまりなかったのもあってあまり考えていませんでしたが、対応をきちんとするべきでしょう」

 

そんな、紅茶とお菓子を軽く摘まみながらの他愛のない話。

……。だが、問題はここではないのだ。

 

「……今日一日みて、どうでしたか?」

 

本題は、トリニティに存在する裏切り者。

 

「まだ、なにか言えるような段階じゃないな」

 

そういいながら、小吉は一人の生徒にあたりを付けていた。

 

白洲アズサ。

 

勿論、このキヴォトスにおいて環境は各自治区ごとに大きく異なることは理解している。

実際、アビドス、ミレニアム、トリニティ。そこそこ時間を過ごしたが、どれも各自治区ごとの個性にあふれていた。

 

だが、その上で、彼女ほど軍事的に行動する少女はいなかった。

 

そして何より、彼女は転校生。

トリニティへの愛着があるかどうかわからない。

その面では、誰よりも、トリニティを裏切ってもおかしくはない。

 

あるいは、裏切る以前に、そもそもが、内部からの協力者として学園に入学した可能性もある。

 

 

「なぁ、ナギサ」

 

「?なんでしょうか、先生」

 

「アズサは、どこの学園出身なんだ?」

 

と、そこまで考えて、小吉はふと、そんなことを考えたのだ。

彼女はどこからやってきたのか、と。

 

「彼女を疑っているのですか?」

 

「単純に気になってるだけだよ。相手のことも知らないのに疑うなんて、出来ないからな」

 

これに関して言えば、マリーもそうだ。

疑いを向けるにしても、未だ小吉は、彼女らのことをよく知らない。

 

「そうですか。では、そちらについてはこちらでも時間を割いてみます」

 

この申し出には、小吉は助けられた。

今の小吉には、彼女らの人となりを把握することに手一杯で、トリニティに所属している生徒である他三人はともかく、アズサの転校前の学園まではさすがに手が回らなかった。

 

「……それと、一応聞くんだが……受ける試験とか、簡単になったりしないか?」

 

「それはできません。……というよりも、今回のテストは、かなり甘めの試験だったのですよ?」

 

「まぁ、そうだよなぁ」

 

もう一つ、コハルとアズサの点数を鑑みて、一応の確認をと尋ねたが、これは彼も理解していることであった。

 

故に、これ以上下がるということはない。

これに関してはもう、コハルとアズサ。それに、先生である自分たちが頑張るほかない。

 

しかし。

 

「……よかったのか?」

 

「?何がですか?」

 

彼女の出したテストの難易度は、小吉にとっては疑問であった。

勿論、それが悪い、というわけではない。

寧ろ、好ましいと思う部分ではある。

 

だが、前提として。

 

ナギサは、トリニティの裏切り者を探していたはずだ。

 

故に、テストの難易度が、あまりに低いのは。彼女にとっては、不都合であるはずなのだ。

 

なにせ、この試験は純粋に、頭がいい。

それだけで条件をクリアできてしまうのだから。

 

もしも、裏切り者の頭が良ければ、あんな試験さらりと合格できてしまう。

 

「……そうですね。ですが、ペナルティも明かされていないうちに襟を正して行動する生徒には、チャンスが与えられるべきではないですか?」

 

「それが、自分を殺すかもしれないと思っている相手でもか」

 

「……。さて、これからについて話しましょう」

 

小吉の問いに対して、ナギサは応じない。

 

その言葉に返してしまうことは、自身の立ち位置を決定することになる。

あの日多くを明かし、助けを求めた彼女は、ここにきて、初めて、小吉にもわかる形で、言葉を誤魔化した。

 

「そうだな。明日からは合宿だったか」

 

「はい、指定した校舎を利用してください。とはいえ、しばらく使われていなかったものですから、ある程度の層掃除は必要になるでしょう」

 

そして、小吉はその対応に、何も触れなかった。

何故なら、彼女はあの日、さらけ出した。小吉を信頼して。

 

故に、今、彼女が話せないというのであれば、それは、悪意からではなく、別の理由があるということだろう。

 

ならば、小吉としてはそれを受け入れる。

 

「そういえば、明日からの合宿にあたって。講師役として一人、俺の生徒を呼びたいんだがかまわないか?」

 

「はい。こちらで手続きしておきます。お名前と所属の方をお願いできますか?」

 

「おう」

 

だから、これは意趣返しなどではない。

提示された名前に、ナギサの表情は固まった。

 

「……えぇと。……大丈夫、なんでしょうか」

 

「信頼のおける奴だ。問題ねぇ」

 

そう、はっきりと告げる小吉。

だが、ニュートン疑惑のあるマリーを、無理やり巻き込んだナギサから見れば、ゲヘナのニュートン。

陸八魔アルの名前は、頭を抱えた。

まさに現在のキヴォトスにおいてトラブルメイカー。ましてやゲヘナ生を連れてくること。

その説明を通すのが、どれほどの手間か。先生は理解しているのか、と。

 

しかし、同時に理解できた。

 

今追っているのは、伊落マリーはニュートンの疑惑がある。

そういいだしたのは、そもそも彼女自身である。

 

そして、彼女の知っている話において、彼はニュートンの首領を倒したが、それは決して一対一ではない。

伊落マリー。そして、シスターフッド。

 

彼女が所属している団体が、彼女の影響を受けている可能性は否定することができない。

 

最悪のケースは、既にシスターフッド全てが、彼女の手中に落ちている場合。

 

彼女らは正義実現委員会とは別の独自の戦闘部隊を所有している。

それが、全て、彼女の手によって育てられているものであるのなら?

 

伊落マリーと、歌澄サクラコの関係性を、ナギサは把握している。

彼女たちは苗字こそ違うものの姉妹、あるいは、その年齢差から考えれば違和感を覚えるが、母子のような関係を築いている。

 

シスターフッドにも、二人とも幼少期から出入りしていたことも、彼女は知っていた。

 

「分かりました。彼女の入校証を用意しておきましょう」

 

もし、マリーがニュートンであると仮定した場合、そんな彼女を擁するシスターフッドが、彼女の影響を受けていないというのはあまりにも楽観的な考えだ。

最悪の場合、小吉が、彼女らとの衝突することすら、想定しなくてはならない。

 

「それでは、引き続き……。よろしくお願いします」

 

そういって、彼女は明日までに自身が仕上げなくてはならない緊急の書類が一つ増えたことに、小さく頭を抱えるのであった。

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