シャーレの先生 小町小吉 作:名無しのスレ主
サクラコたちとの話し合いが終わり、補習授業部の活動も一段落着いた。
「先生!相談があるんです!」
そう思った夜の事。
突然、ハナコが小吉の部屋に訪れた。
「……何かあったのか?」
現在の状況は、補習授業部としてみても、裏切り者の探索。
どちらの面で見ても順調であるといっていい。
少なくとも、緊急の相談として夜中自分の部屋に彼女が訪れる。という理由はないように思えた。
「……実は、アズサちゃん。毎晩のように、どこかへ出かけては夜明けまで戻ってないことが続いていて……。アズサちゃんが一体何をしているかはわかりません。ですが、そろそろ無理やりにでも寝かせてあげないといけないのでは、と。どこか、不安そうですし……」
「……なるほど」
確かに思えば、兆候は出ていたのかもしれない。
彼女の言動は、常にどこか敵を意識したものであり、実際に、昨日、彼女は敵の存在を想定した罠を仕掛けていた。
警備もあるからトリニティの外にまで出ているとは思えないが、それでも、夜中どこかに行っていると考えると、不安になるのも仕方のないことだろう。
「……アズサちゃんが、……。トリニティの裏切りもの、なのでしょうか」
「……俺にも、それは分からねぇな」
ハナコに対して、小吉はあえて、知っていることを言わなかった。
ミカの言い分では、ナギサが勘違いしているだけでアズサは巻き込まれただけの被害者だ。と。
だが、あくまでミカの言い分でしかないのだ。
実際に、今も、怪しい行動を繰り返している。
今、ハナコにこの情報を与えてしまえば、そうであるという前提で、アズサを見てしまう可能性もあるだろう。
それは、……よくない。すくなくとも、ハナコは、間違いなく補習授業部の面々といい関係を築けている。
その関係を崩すきっかけとなってしまうくらいなら、彼女にこのことを今、話す必要はない。
「まだ、しばらくは様子をみてやってくれるか?」
「本当に、いいんですか?」
ハナコは、じっと小吉を見つめながら、そう問いかける。
彼女が言いたいことは、こういうことだろう。
アズサのことを、自由にさせていていいのか。と。
実際、今の状況を早急に終わらせるのであれば、今夜にでもアズサの行き先を突き止めるのがいいのだろう。
ナギサからの依頼を考えれば、それでいい。彼女の命がかかっているのだ。
依頼を優先するのであれば、それが、最善かもしれない。
手段に関しても、アルに頼めば、それで終わるだろう。
ニュートンである彼女にしてみれば、いくらアズサの警戒心が強くとも、気が付かれずに尾行することなど、容易いことであるはずだ。
だが……。
「俺は、先生だからな……。たとえ、難しいとしても、生徒のことは信じてやりたい」
「……。だから、今はアズサちゃんを追わない、ということですか?」
「あぁ。そうだ」
沈黙。
そして、小さな、ため息をはいた後、ハナコは笑みを浮かべて、小吉を見上げた。
「先生、わがままなところもあるんですね」
「……少なくとも、疑わしいからってそんなことしてたら、生徒の誰にも信じてもらえなくなるだろ?」
「分かりました。なら、私の方でも注意して、アズサちゃんのこと、見守ってます」
「苦労かけちまうな」
「大丈夫ですよ。アルちゃんもいますから」
それじゃあ、おやすみなさい。と、そう言って、ハナコは部屋から出て行った。
「……ほんと、どうすりゃいいんだろうな」
結局、あの頃と変わらない。
何かが起こるまでは、後手で動くしかない。
そんなどうしようもない現状に、ため息をつきながら小吉は眠りにつくのだった。
そして、次の日の雨が降りしきる朝の事。
「でも、どうしたらいいんでしょう……。アズサちゃんを眠らせるには……」
「まぁ、確かに続くようなら問題よね。環境の違い、とかならともかくそうじゃないし、睡眠不足は、どうやっても勉強に影響が出るし」
シャーレの書類を片付けるから、少し遅れるとのことで小吉から補習授業部の面々にその話をするように頼まれたハナコとアルは、彼女たちのいる部屋に向かっていた。
しかし……。
「……なんか騒がしくない?」
彼女らの部屋に近づくにつれ、何やら騒がしくバタバタする音が聞こえ始める。
「何かあったんでしょうか」
「……確かめるわよ!」
少し前に、シスターフッドの襲撃もあった。あの時は、狙いは小吉であったが、……マリーの存在はどの組織でも警戒に値するもの。いつ何時、危険にさらされてもおかしくはない。
アルは、少し足早に彼女たちの部屋へと近づいて、そのまま扉を勢い良く開けた。
「あ、アルさん!?こ、これはちがうんです!!」
「……何が違うのよ、ヒフミ」
アルが駆け込んだ部屋の中。
そこにいたのは、ずぶぬれになったうえに泥まみれになった衣服を抱えた、これまたずぶ濡れの四人の姿であった。
「で……何があったのよ」
「え、えっと、実は……。洗い物が、たまってて……」
そう言われて、彼女たちの荷物をアルは考える。
少なくとも全員暫く泊まり込みになるとするにはちょうどいい量を持ってきていた。
実際、普通に暮らす分には問題はなかっただろう。
だが、今の生活は、普通ではない。勉強はニュートンであるマリーならともかく、ヒフミ、況や普段から勉強に対する姿勢のなかったコハル、アズサにはややきついものであった。それが、朝から夕方まで。
空き時間がないとは言わないが、なるほど。確かに彼女たちに、家事をする余裕があったとは言えない。
そんな折、ようやく服の余裕がないことに気が付いた彼女たちが、寝間着にしていた体操服以外を洗って干して……。
といったタイミングで、運悪く大雨……。
じっとりと湿って、慌てて取り込みに行った彼女たちもずぶぬれになってしまった。というところだろう。
「そのまま、いく。というわけにはいきませんよね……」
何せこの後控えているのは授業。小吉が遅れる。と言っていたことも考えれば、今着ているのを最低限、乾かすことくらいはできるかもしれない。……。だが……。
「まぁ、先生もいるわけだしね……」
学園指定のジャージであるとはいえ、先ほどまで寝間着に使ったものだ。それも、土砂降りの雨の中を駆けまわったの。そんなものを着て、先生の前に行くというのは、乙女たちにとっては抵抗のあるものであることは想像に難くない。
「私は平気だ」
「それはそれで問題よ……。ちょっとは、色々女の子らしく。っていうのは今のコンプライアンス的に不味いのかしら」
そう言いながら、アルは、小吉へと連絡を取り始めた。
「先生。私だけど、ちょっと、皆洗濯に失敗して着ていく服がないみたい。アズサはいける。っていってるけれど、流石にさっきまでの寝汗がしみ込んだ体操服で先生の前にだせないから、今日お休みにできない?」
「ちょ!?そ、そんな直接的にいわなくても!?」
流石に、そのざっくばらんで、単刀直入なアルの連絡に顔を真っ赤にしながら待ったをかけようとするヒフミであったが、既に吐き出した言葉を止めることはできない。
何方にせよ、身長百七十後半のアルの手で押さえられてしまえば平均的な女子高生でしかないヒフミの行動など容易く抑えられてしまうのだ。
ヒフミの妨害工作が上手くいくはずもなかった。
「着替えが全滅か……。まぁ、普段とは全然違う環境下だしな。よし、じゃあ、今日は自由時間だな。俺はいつもの部屋に基本いる。何かあったら、連絡してくれ」
そして、小吉もそれに対して特に何か触れることはない。
そもそもが、少ないとはいえ、ヒフミたちくらいの年代の少女との付き合いは元からあったのだ。
そんな状態で、大人の男の前に出されるなど、ありえないことくらいは、当然把握している。
勿論、今の彼女たちの試験に落ちればゲヘナ行きという状況を鑑みれば、休憩などできない。と言ってもおかしくはない。が、彼女たちの進捗は、かなりのものである。それこそ今は最終調整の段階と言っていい。
それも、トリニティの才女であるハナコと、ニュートンのアル。
その二人が彼女たちをたった一つの試験に対して合格できるようにするために組み上げた勉強メニューだ。
勿論前提として、補習授業部の面々がこなせる範囲で組まれてはいるが、内容はかなり濃密。
彼女たちの負担を考えれば、少しくらいは休憩を入れるべきタイミングだったのだ。
「ということで、休みになったわ」
「うぅ……恥ずかしい……。ですけれど、ありがとうございます」
「どういたしまして。それより、アンタたちそれ脱がないと風邪ひくわよ」
そういって、アルは彼女たちを指さす。
なにせ、今彼女たちは、土砂降りの雨に降られた直後。
籠に入れた洗濯物たち同様に、彼女たちの服は、濡れている。
「で、でも着換えは全部洗濯して……」
「着替えたぞ」
そういって、ばさっと服を脱いだアズサが身に着けていたのは……。
「な、なんで水着なんて着てるのよ!」
そう。スクール水着であった。
実際彼女たちの手持ちで、今、濡れていない服。
……いや、水着を服と言い張るのは厳しいが、それでも、流石に今のままだと風邪をひいてしまうのは、間違いない。
「ぅ、ぅぅ……、い、嫌よ!こんなの!」
だが、当然のことではあるが、過酷なアリウス育ちのアズサはともかく、他の面々が、人前で、それも、水泳でもないのに水着を着るとなると、流石に羞恥が勝る。
「確かに、これはちょっと、恥ずかしいですね……。体はタオルで拭いて……、服は、ドライヤーとかで乾かせば、大丈夫でしょうか……?」
そういって、ヒフミが、自分の服を乾かそうと、ドライヤーを手に取った瞬間であった。
轟音と共に、雷光が奔ったのは。
「ぁ……」
「……停電ね」
そして、その一撃は、容赦なく、彼女たちの最後の希望を奪い去った。
「うぅ……どうして、こんなことに……」
「そりゃあ、大変だったな」
停電ということで、仕事を切り上げた小吉は、合流して、ここまでの話を聞いて、そう頷いた。
……。彼女たちが身にまとう、スクール水着の格好にはもちろん、触れないまま。
「というか、普段着くらい買ってきてやればよかったろ。トリニティの相場は分からねぇけど、全部が全部超高級志向ってわけじゃないだろ?」
「何言ってるの。先生……。値段もだけど、この子たちは忙しかったとはいえ洗濯を後回しにして、結果的に今日のツケを払ったの。ちゃんとした教訓として学びを得るなら、こういった時変に甘やかすのはよくないわ!」
そう。
アルの意見は、ある種正しいといっていいだろう。
確かになれない環境であり、トラブルもないわけではなかった。
だが、それでも彼女たちには勉強以外の時間もしっかりあった。
かなり遅くまでアルとハナコのスケジューリングには、生活の時間も考慮されていたのだから。
彼女たちに、勉強が忙しくて、何もできなかったという言い訳は通らないだろう。
……。しかし。
「お前とハナコまで水着にならなくてもよかったんじゃないか?」
「そ、そうですよ!アルさん!なにも、水着を買ってまでしなくても……!」
そう、アルと、巻き込まれたハナコもまた、水着姿になっていた。
流石に、アルの方はもってなかったからだろう。トリニティのスクール水着ではなかったが、それでも屋内できるはずもないその格好をあえて彼女はしていたのだ。
「いいえ!指導手伝いの立場になったのだし、あの子たちだけ恥ずかしい思いさせるわけにはいかないでしょ?それに、見られて恥ずかしい体はしてないわ!」
堂々とそう返すアル。
実際、彼女の肉体はニュートンの完成形に一つなのだろう。
そのプロポーションは、いっそ暴力的と言っていいくらいであり、確かに、見せることに恥を覚える必要は皆無だろう。それこそ、そのままポーズでも決めれば、瞬く間にグラビア雑誌の表紙を飾れるだろう。
そして、そうまで言われてしまえば、小吉も、退く理由はなかった。
「……仕方ねぇな……。俺もちょっと海パン用意して……」
「!?先生まで!!駄目です!それは!!私たちには刺激が強すぎます!!!」
こうして、顔を赤く染めたハナコの静止により小吉のボディが、年頃の若い少女たちの前に晒されることはなかった。