シャーレの先生 小町小吉   作:名無しのスレ主

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七話

「……すごいな」

 

戦場となったアビドスの校庭。

それを映すアヤネのドローン映像を見て、彼は素直に感嘆していた。

 

相手の数は、五倍以上。

 

映像を見る限り、カタカタヘルメット団と呼ばれた集団も、素人というわけでも急ごしらえの団体ではないというのは見て取れる。

 

だが、それでも、あの四人にとっては、相手にならない集団だ。

 

「そうですか?」

 

そんな彼女たちの強さに、アヤネは無自覚であった。

それは、彼女たちの強さを知らない。というわけではなく、単純に彼女には、物差しが足りなかったのだ。

 

彼女たちの強さを測る、比較対象が。

 

「例えば、……俺を案内してくれたシロコだけど。かなり場慣れしてるな。俺達がいる外とここじゃ、銃の脅威が違うってのはあるけれど、それでも、攻撃が当たるのに怯えていない。踏み込みが大胆だ。さっきの猫耳の……えーっと」

 

アヤネへの、分析を伝える途中。名前で詰まる。

そういえば、まだ、二人。襲撃があったから、名前を交わしていない生徒がいたことを忘れていた。

 

「セリカちゃんです。それと、大らかな雰囲気の人が、ノノミ先輩です!」

 

「セリカとノノミか。ありがとな、アヤネ。それで……だ。セリカもシロコやホシノって子に合わせるように突っ込めちゃいるけれど。シロコのそれとはまた別だな。勢い任せって感じで、粗削りに見える。実際、被弾も多いしな」

 

小吉がアヤネに示すのは、細かな動きの違い。

学年の違いか、あるいは戦闘経験の差か。見えるところをサポート役のアヤネに対して明確にしていく。

 

「そんな違いが……、確かに、普段もシロコ先輩とセリカちゃんだと同じような行動をしていても怪我の数が全然違いましたが……」

 

「単純に相手の攻撃を見て、シロコが動けてるっていうのが大きいんだろうな。とはいえ、セリカもあれだけ突っ込んで撃たれて、気力が衰えてないのは十分にすごいんだが……」

 

それはそれとして、見ている二人からしてみれば、危なっかしいことこの上ない。

幸い、今回の戦場は彼女たちの学校故に、不意打ちなどを食らわせられることはないが……。

 

「アヤネ……確か、もう一基のドローンで、支援できるんだったな?」

 

「はい!軽いけがの治療を……。もう、飛ばしますか?」

 

中継されるドローン。

その戦況は、圧倒的。これまで弾薬の不足によって暴れられなかった鬱憤もあるのだろうが、ほぼ前線の三人だけで敵を倒していっている。

 

そのせいか、後列に位置するノノミはいまいち、攻撃タイミングがないように思える。

そして、前線。特に常に後輩たちのダメージを抑えようと立ち回っているホシノは、ダメージこそ少ないが傷の数はセリカと同等か、それ以上。

 

どちらも、致命的ではない上、戦闘は明確に優位を取れている。

 

「いや、この状況なら、もうちょっと奥だな……。指示は頼んでいいか?あの感じだと、ホシノって子。俺からの指示嫌がりそうだし」

 

「……確かに、ちょっと警戒していたような気もします……。わかりました、それで。どんなことを」

 

「さっき確認したんだが、この先、バリケードがあるだろ?普段は弾避けになってるんだろうが、今回は、あのヘルメット団。って子たちに利用されてる。だから、ノノミって子の火力で一気に破壊して、あのボスっぽい子に切り込んだ方が被害を抑えられる。その間に治療を行えば、他のタイミングよりも士気も上がるはずだ」

 

「……分かりました。タイミングが重要ってことですね!」

 

「大丈夫、合図は俺が出すよ。だから、……ミスしちまっても俺のせいにしてくれていい。一応、先生……、だからな。責任くらいは取るさ」

 

「……!はい!ノノミ先輩!作戦をお伝えします!」

 

アヤネはそういって指示を出しながら、戦況を注視する。

 

小吉は、部屋から見える範囲で、見落としがないかを確認する。

 

漏れは、……ない。

 

「今だ!」

 

「皆さん、お願いします!」

 

その指示の瞬間、ノノミのミニガンがアビドスのバリゲードを吹き飛ばし、アヤネのドローンで傷をいやした前衛三人が、切り込む。

 

そうなってしまえば、彼女たちに抵抗の余地はない。

元より実力差があったのだ。

 

それこそ、襲撃してきたヘルメット団の少女たちの誰もが、四人の中で年齢も含め一番未熟であるセリカ未満の実力なのだから。

この結果は、彼がいなくても導き出せたものだろう。

 

「私、皆さんのところに行ってきます!」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

前線に出た四人をねぎらうためだろう。

アヤネは、小吉を置いて部屋から飛び出し仲間たちに合流しに行く。

 

「……さて、あとは、……ちゃんと、手続きをあの子が受けてくれるか、だが」

 

残された小吉は、窓の外。

今回の勝利を素直に喜んでいる【三人】と、もう一人を見ながら。そうひとり呟いた。

 

「さっきの、先生が指揮してたでしょ」

 

「バレたか」

 

帰ってきて早々、ホシノは、小吉に詰め寄っていた。

 

「……普段のアヤネちゃんなら回復のタイミングがもうワンテンポ早い」

 

「後輩を、よく見てるんだな。そうだ、実際、アヤネはそのタイミングでドローンを飛ばそうとしていた」

 

座ったままの小吉に対して、ホシノは強く感情をあらわにしている。

 

「……ん、ホシノ先輩。落ち着くべき」

 

「そうですよー。むしろ、普段より戦いやすかったのは、先輩もわかっていますよね?」

 

「それは、そうだけど……」

 

そして、後輩に諫められれば、納得する。

……少なくとも、その程度には冷静であった。

 

「まずは、謝る。よそから来た相手に戦いの口出しをされるのは不快だっただろう。悪かった。ホシノ」

 

「ぅ……やめてよ、先生。……わかった。ごめんね、ちょっとだけ、イライラしてて」

 

そして、そんな状態になり、相手から謝罪されれば彼女の様子は、少しだけ落ち着いたものになる。

自分が理不尽な振舞をしている。という自覚もあったのだろう。

少しだけ表情には、落ち込んでいる様子が浮かんでいる。

 

「……よし、じゃあ、話を戻そう」

 

パン!っと、その場のよどんだ空気を揺らすように、小吉は手を強くたたく。

 

「改めて自己紹介だ。俺は、小町小吉。シャーレの顧問で、先生をやっている。君たちの名前はアヤネから教えてもらったりしたけど、改めて聞いていいか?」

 

「はい!それでは、改めてご挨拶を……。私たちは、アビドス対策委員会です。私は、書記とオペレーターをしている奥空アヤネです。そして、こちらは同じく、一年のセリカ、二年のノノミ先輩とシロコ先輩。そして、……三年で委員長の、ホシノ先輩です」

 

アヤネの紹介に応じて、それぞれ、応答を返す面々。

ホシノも少し落ち着いたからか、のんびりと、よろしく~、と。間延びした返事をしてくれる。

 

「……よろしくな。ところで、対策委員会って、何を対策してるんだ?トラブルが横行してるのは手紙で分かったんだが……」

 

「そうですね……。まずはそのあたりから……。ご覧になった通り、現在のアビドスは危機に晒されています。そのため、シャーレに支援を要請して、先生がいらしてくれたことで、当座の危機を乗り越えることができました。もしいなかったら、……さっきの人たちに学校を乗っ取られていたかもしれないですし。感謝してもしきれません」

 

大まかな実力を把握した小吉としてみれば、信じられないものであった。少なくとも、シロコとホシノには、それくらいに、あの集団との実力差があったように見えた。

だが、少なくともこの考えはアヤネだけではないらしい、そういったことに対して強そうなシロコも、同意見を示しているあたり、彼の想像以上にキヴォトスでは銃撃戦の占めるウエイトが大きいのかもしれないと納得する。

 

「えっと、……それで、対策委員会とは、このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」

 

「うんうん、全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです!」

 

「なるほど……ん?全校生徒?」

 

そう言われ、小吉はあたりを見回す。

シロコ、アヤネ、ホシノ、セリカ、ノノミ。

 

「……えぇ、全校生徒といっても、私たち五人だけなんです」

 

「他の生徒は転校したり、学校を退学して町を出ていった……。それで、こんな状態だから都市の住民もほとんどいなくなって、あの三流のチンピラたちに学校を襲われたりしてる始末……。在校生としては恥ずかしい限りだけど、現状、私たちだけだと、学校を守り切るのは難しい……」

 

「補給品も底をついてたし、流石に覚悟したね。……ほんと、いいタイミングに現れてくれたよ」

 

「うんうん!これでヘルメット団なんてへっちゃらですね。大人の力ってすごいです☆」

 

「……買いかぶらないでくれよ?俺に出来ることなんて、たかが知れてるんだから」

 

事実、小吉が現状できる支援の手は限られている。

 

……いや、制限せざるを得ない。というべきだろう。

シャーレの権力は大きい。

だからこそ、どこかに肩入れしすぎるということは、キヴォトスのバランスを大きく崩す結果になりかねない。

 

割り当てられた予算も、膨大、というわけではない。

 

弾薬の支援程度なら問題にならないが、武器装備の一斉更新などのそれ相応の、正当な理由がなければ応じることはできないだろう。

 

「……ん、でも、先生の補給があったとしても、あいつらは諦めない。……また数日したら、襲ってくる」

 

「あー……、あいつらしつこいもんね」

 

「こんな消耗戦、何時まで続けないといけないのでしょうか……。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに」

 

「……いや、ここで終わりにしよう」

 

「はい?」

 

小吉の言葉に、アビドスの面々の視線が向く。

 

「話を聞く限り、かなりの頻度でここを攻めてきてるんだろう?なら、相手の拠点はそう遠くない。違うか?」

 

「……一応、偵察は終わってる。ここから30㎞……。今から行けば、今日中にはつくけれど」

 

「遠いが、無理じゃない距離だな。怪我と、補給だけ済ませたら、すぐに行こう。君もそういう考えだったんじゃないか?ホシノ」

 

そういって、小吉は、唯一、彼の提案に驚きを見せていなかったホシノへと視線を向ける。

ホシノは、少しだけ不服そうに、うへー、と、漏らすと。彼の言葉に小さくうなずいた。

 

「……見透かされてるみたいで、ちょっと嫌だけど。うん、そうだよ。計画は、ずっとあった」

 

「え!?」

 

「ホシノ先輩も考えてたんですか?じゃあ、なんで?」

 

セリカとアヤネから上がる疑問の声。

そうなるのも当然の話だ。問題は数多くあり、その上で解決策があるのならば、実行すべきだという考え。

それは間違いないだろう。

 

「……弾薬不足。違うか?」

 

「うん、それと、時間不足かな。ヘルメット団の拠点を攻めるには一度叩いてからじゃないと、基地を襲撃した時にアビドスが乗っ取られてましたーじゃ、意味がないから。でも、これまでは弾薬を気にして時間をかけすぎてたから」

 

だが、現実問題、解決策があることと、解決に動けるかは別の話だ。

時間、資源。どちらもまた、問題解決においては、重要な物。

 

アビドスには、積み重なった問題によって失われていた。

 

「だから、今日」

 

「うん、先生のおかげで面倒な補充も気にしなくていいし」

 

「ヘルメット団は、体勢を立て直せていないから、アビドスへの侵略は気にしなくてもいい」

 

「まさか、ヘルメット団も、自分たちが攻撃されるなんて、昨日までのアビドスの状況を知っていたら思いもしないでしょうし~」

 

そう、今日、この瞬間はアビドスの生徒たちにとって、ヘルメット団の隙をつける絶好のチャンスなのだ。

今日を逃せば、アビドスに補給の手段があることが知れ渡り、対策を変えなければならなくなる。

 

「善は急げってことだね」

 

果たして、意見は固まった。

 

「はい~それでは、しゅっぱーつ!」

 

「あぁ、……行こうか」

 

「いや、先生はアヤネちゃんとお留守番しててよ」

 

「外から来た先生を連れていくには、流石に敵のアジトは危ない」

 

そんな、出発の出鼻は、彼女たちのもっともな意見によってくじかれたのであった。

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