「配信スタートしたよ!みんな~聞こえてるー?」
コメント
・うわでた
・地 獄 の 始 ま り
・こんにちは
・今日はコヨリちゃんか
・まだましやな
・まだまし……?
・そんなヤバいのか?
・メンバー全員ヤバいぞ
・初見です
人の気配がしない森の中で一人の少女が虚空にむかって笑顔で話しかけていた。
いや。実際には、常人には見えない画面のようなものがそこにはある。
夜闇を思わせる様な真っ黒な髪が腰のあたりまで伸びていて、顔立ちは14歳に見える(実際には19歳だが)ほどの童顔な少女は画面越しに視聴者に挨拶をしていた。
「聞こえてるね!よかった!初見の方は初めまして!そしてこんにちは!コヨリです!みんなに素敵な夢を届ける素敵な配信者だよ!」
コメント
・夢……?
・届けたんじゃなくて奪ったんだよなあ
・素敵な配信者ですね!
・信者もいます(クトゥルフ感)
「じゃ、今日も頑張っていくね!」
井上乎和(いのうえこより)は転生者だ。
いや、コヨリだけでなくこの世界にはたくさんの転生者がいるらしい。
ある日、死んだことを神様に知らされた。
まあ、とても裕福な家庭とは言えないような家庭だったし、身体も生まれつき良い方ではなかったので自身が死んだという事実は結構あっさりと納得できた。
奪われるだけの人生だったのがちょっと悔しかったが。
つまり、結局。何が言いたいのかと言うと。
私のように死んでしまう人はたくさんいる。
死んだ後、生前の行いによって地獄にいくか、天国にいくかが決定するらしい。
地獄や天国というのは場所のことではなく、次に輪廻転生するまでの準備期間らしいが。
私は幸いにも悪いことはしていない(できなかった)ので天国へいくことができた。天国は人によってできることを変えることができるらしく、ゆっくりとしたり、おいしいものをたくさん食べたり、自分のタイプの異性とイチャイチャしたり。
あるいは。
自分の好きな漫画やアニメの世界に転生したり。
最近では天国へいった人の中でも、いわゆるオタクと呼ばれる人種は転生を選択するケースが多いらしい。
まあ、私も身体があまり良い方ではなかったので読書やアニメ鑑賞など身体を動かさないことが趣味になったが。
そういうわけで思い切り身体を動かすことができるし、好きな漫画やアニメの世界に転生できるという一石二鳥だったので私は転生することを選んだ。
ここまでが私―――コヨリがHunter×Hunterの世界に転生した経緯。
転生者にはチートは与えられなかったが、転生先の状況が悪くない、健康な身体などの特典(?)は受けられるらしい。
後は、転生者同士で配信をしたり、掲示板をつかってやりとりができる。それが私たちに与えられた特典だ。配信できたり、掲示板を使えるので不幸な目にあってもネタにできるというものだ。
せっかくそういった特典もあるし、なんやかんやあって私は配信者となった。
自由に身体を動かせることもできるし、これから好きに生きていこう!
「はいっ。そういうわけでみんなは前回の配信みてくれたかな?知らない人にも説明するとねー、サヘルタの秘境でめずらしい動物を見つけたからね、写真に収めようとしたんだよ!でもね、急な話だったからカメラ用意しようとしたんだけど時間掛かっちゃって。あ!配信には映ってるから気になる人はアーカイブで確認してね!でね、追いかけようとしたら見失っちゃって、周りをうろうろしたら犯罪者組織のアジトが近くにあったらしくて私に攻撃してきたんだよ!」
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・嫌な事件だったね
・カメラ探すのに時間かかったから……
・攻撃されても仕方ないことは普段からやってるしなあ
「動物の写真撮ろうとしてるだけの女の子を攻撃とか!さすがの私もプチおこですよ!」
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・プチおこ(領土略奪)
・プチおこ(みな〇し)
・プチでやることじゃないw
・てか、その場で復讐せんかったんか
・珍しい動物で頭いっぱいやったんやろな
そこまで話すと少女―――コヨリはよしっ!と手を叩いた。
「てことでね。動物も犯罪者組織も!ダブルリベンジしていくよ!」
「おい、そこ!気を抜いてんじゃねえ!」
「っ!はいっ!すんません!」
俺の怒鳴り声に驚いた新人の肩がビクッと震える。
B級犯罪者の頭として、たとえ安全だと思う状況でも気を抜いてはいけない。
それこそが長年犯罪者をやってきた俺の経験から得られた鉄則だ。
俺より遥かに優秀な人間でも、少しの気の緩みで破滅してきたヤツを何人も見てきた。
俺はそんなヘマはしない。
昔は優秀とまではいかなくてもそこそこの人生を歩んできた。つもりだ。
しかし、何かの弾みで階段を踏み外し、落ちて落ちて犯罪者の頭なんてもんになっちまった。
まあ、なっちまったもんはしょうが無い。
だが、そんな俺でもあのときああしていれば。こうしていればという考えはふとした時に浮かんでくる。そんなifを想像したところで意味なんてないとわかっているのに。
分かっているから、もう後には引けないのだ。
名前もなかった組織だが、今ではB級の犯罪者組織としてそこそこ名も広がってきた。
しかし、A級には届かない。
A級の―――それこそ
A級と、B級。
そこには壁があるのだ。
高い、高い壁が。
その壁を上るのには、あるいはぶち壊すには力がいるのだ。
他の有象無象も、力ある実力者さえも蹴散らす、圧倒的な力が。
そこまで思考したところで俺は新人にもう一度声をかけた。
「おい新人。ところで、ヤミはどうした?」
「ヤミさんなら、10分ほど前に小便に行くと出て行かれました」
「そうか。ではもうすぐ戻ってくるだろう」
「頭。アッシをお探しですかい?」
「ッ!?」
2人で話していたと思っていたところに突然気配が出てくる。
こういったことに慣れていない新人は驚きのあまり声もでない声で叫びを上げる。
「ほう、さすがだな。その気配を気づかせない技術にはいつも助けられる」
「ありがとうございやす、頭。しかし、これこそがアッシの役割でさあ」
「ああ、そうだな」
ヤミの気配を絶つ技術は組織の中でも随一だ。
そのスキルには技術だけでなく“能力”も関わっているのだが。
ヤミは具現化系に属する能力者でポンチョを具現化しそのポンチョを纏っている間、姿を透明化し自身が発する音をなくすという潜入や潜伏に向いた能力を開発している。
円の感知をごまかすことはできないから敵の円に注意しなければならないが、まあ馬鹿でかい円を持つものなどそうそういまい。
「それでヤミ。もう一度確認したいんだが、“例のブツ”はあったんだな?」
「頭は心配性ですな。へい、たしかにアッシのこの目で確認してきましたぜ。まあ、警備が厳重すぎて確認だけに留めましたが」
「いや、それくらい慎重の方がいい。油断は命に直結するからな」
ヤミの言葉に思わず口角が上がる。
貧者の薔薇。
そう呼ばれる爆弾はたしかにこの国で製造されている。
それを手に入ることができれば俺たちの名はさらに広がる。
広がるどころか、もう一段上へいけるかもしれない。
蜘蛛と同じ領域―――――――――A級まで。
「いや、調子に乗りすぎか」
先ほどまでの自分の考えに思わずふっと笑ってしまう。
聞くところによると奴らはそんなモノを使わずにA級となっている。
それにメンバー全員が能力者だとか。
能力―――――――念能力。
それは、簡単に習得できるものではない。
簡単には習得できないし、時間が掛かることを考慮しても若い奴らはバカが多いから手に入った力に簡単に溺れ制御が効かなくなる。
それだけならまだなんとかなるが最悪、“協会”の連中に目を付けられすぎる。
協会の底辺どもを返り討ちにしたところで、次にくるのはそいつらより実力のあるやつらが俺たちを狩りにくる。そいつらを撃退したとこでさらに実力者が―――。
と、協会の連中に目を付けられていいことなんてない。
今の俺たちにはそれを退けられるだけの力が無い。
長年A級なんて地位にいるやつらはそれができるだけの力を持つ、実力者ということだ。
だからこそ。“力”を与えるヤツは慎重に選ばなければならない。
そうしなければ、あるのは破滅だけだ。
「ヤミ。これから大仕事になる。それまでゆっくりと休んでおけ」
「へい」
俺の言葉にヤミがうなずくとふああと眠そうにあくびしながら自室へと戻る。
それを横目で見ながら、そろそろ新人も休ませなければ倒れてしまうだろうという考えに至り新人に声をかける。見張りが倒れては、敵の警戒なんてできないからな。
「おい。新人。お前も―――――――――」
――――――――――――そろそろ休みに入れ。
そう言葉にしようとしたが驚きのあまり声が途絶えた。
なかった。
先ほどまでそこにいた新人の姿がどこにも。
新人も小便か?
などといったふざけた考えは直ぐに捨てた。
小便に行くときは中にいる連中に声を掛けて―――――
「――――――――――中にいる、連中?」
そういえば、先ほどからやけに静かだ。
いつもならこの時間――――夜のこの時は見張り以外は酒や食い物をつまみながら他愛もない話をしている時間だ。
異様な雰囲気に思わずごくりと息を飲んだ。
なんだ。
なんだ、この違和感は?
「―――――――頭!人が、中の連中がいません!どこにも!」
先ほど自室へと向かったヤミが慌てた様子でこちらにかけよってくる。
落ち着け。
落ち着け。落ち着け。
こういうときこそ冷静にならなければならないと頭の片隅から警告が伝わる。
「――――――――――――新人も、消え―――――――」
「……そうだ。これは、おそらく、敵からの攻撃―――――――」
「―――――――――――こんばんは。素敵な犯罪者のおじさま方」
「「!?」」
いつのまにか仲間の姿がきれいさっぱりに消えていた。
その代わりに立っていたのは少女だった。
「誰だ!?お前は!」
「え、覚えてません?先日はお世話になったというのに!」
「……先日?」
少女――――――かは能力者なら見た目は偽ることができるから少女かは分からないが――――――あたりが暗くなっているのも相まってあまりはっきりとは見えないが夜闇と同化しているといってもいいほどの黒髪と少女の姿を脳内CPUに検索をかける。
そして、かけるまでもなくここ最近に出会った少女など一人しかしない。
頭がパニックになっていたので思い出すまでに多少時間がかかった。
少女と言えば先日、拠点のまわり―――――といってもすごく近い訳ではないが―――――をうろついていたので、拠点に来られても迷惑だと思い、少女の足下を派手に銃で撃った。
銃撃に驚いた少女はそのまま走り去っていったはずだ。
あの時の少女がなぜ。
「……せっかく逃がしてやったのだというのに」
恩を仇で返されるというのはまさにこのこと。
B級の頭といっても必要の無い殺し、それも相手がなんの罪もない少女となれば良心が咎められた。犯罪者にだって人の心はあるのだ。
しかし、それもここまで。
こうなってしまった以上、生かして返す訳にはいかない。
死んでいるかは分からないが、おそらく仲間のほとんどは死んでいるだろう。
頭として仲間の仇は取らなくては。
「……ふぅ」
息を吐いて気持ちを切り替える。
目の前にいるのは少女だ。少女の形をした、バケモノ。
俺やヤミに気づかれることなく仲間を殺したのだとするとそうとうの実力者。
舐めてかかるとやられるのは、こちらだ。
するとこちらが気持ちを切り替えたのが分かったのか少女はにやっと笑った。
「では。あらためて!私はコヨリと言います!今日は個人的な復讐に来ました!」
「……復讐?」
「あ、気にしないでください!こちらの話ですので!」
それに――――――と少女は笑う。
「――――――犯罪者を狩るのに、理由はいらないでしょう?」
「たしかにな!」
そう応えるとともにオーラを足に込めて地面を蹴り出し、少女――――コヨリとの距離を一息で詰める。
そのままの勢いで少女に殴りかかるがあっさりと躱される。
「あは!いいですね!そうでなくては面白く――――――」
「―――――ッ!?」
「―――――――ないですよね?」
頭である俺が気を引き、ヤミが不意打ちで倒すという長年のコンビネーションですら少女には通じなかった。
いや、先ほどのは何だ?
ヤミのナイフを少女の影からでてきたナニカが止めたように俺の目には映ったが。
そのナニカはうねうねとしていてまるで触手みたいな――――。
「ヤミ!ひとまず退け!」
「へい!」
そういって後ろへ退こうとするヤミだったが、しかし、少女の影から伸びるナニカがヤミの足に絡みついていてそれを許さなかった。
「くそッ!離せ!!」
振りほどこうとするヤミだったが影から伸びる、触手のようなモノはヤミの足だけでなく、全身に纏わり付く。
ナイフで切ろうとしても触手の方が早い。
「いいよ」
「ッ!ぐ、ぎゃあああああああ!」
コヨリが何かに許可を出したような声を発した途端、ヤミに絡みついていた触手はコヨリの影の中へと引きずり込み、消えていった。
「……な、なに、が……」
……起こっている?
それを言葉することはできなかった。
信頼し、頼りにしていた右腕がいなくなったからなのか。
もう、自分しか残っていないという事実を認識してしまったからなのか。
その答えは出せず、動けずにいると少女は話し出す。
「不意打ちに声をかけないのはよかったですよ!ポイント高いです!いるんですよねー、『もらった!』とか『油断だぜ』とか声を掛けてから不意打ちする人!それでは不意打ちする意味がありません!」
コヨリは評価をしていた。
先ほどの自分たちが行った動きに対する、評価。
そのことから自分たちが始めから脅威としてみなされていないことを悟った。
「いや、先ほどのコンビネーションはたいしたものでした!頭自らが囮となり、部下が不意打ちで倒す。それで。その行動で!たくさんの人を倒してきたんですよね!殺してきたんですよね!」
怖い。
「でも――――――――――――――」
怖い。
怖い。怖い。
怖い。こわい。怖い。こわい、こわい、こわいこわい――――――!!
「―――――――――――『ルルイエ』には、届かない」
「うわああああああああああああああああ!!」
情けない声を上げながら、もう一度少女との距離を詰める。
逃げることなど考えない。
逃げられもしない。
この少女を倒さなければ。
この少女を殺さなければ。
自分が助かる道など、存在しない。
ありったけのオーラを拳に集める。
俺は強化系の能力者だが、仲間を補助する能力のため、もはや意味がない。
補助するべき仲間は、もうどこにもいない。
「くらいやがれッ!」
言葉と共に、渾身の一撃を放つ。
今まで生きてきた中で一番と呼べる一撃だった。
だが。
そんな渾身の一撃さえも少女に当たることはなかった。
少女の影から伸びてきた触手に阻まれた。
しかし、効果はあったようで拳を受けた触手ははじけ飛んだ。
「―――ッ!なら!もう一度――――」
そこで気づいた。
「あ……」
影から伸びた触手は少女を守るだけでなく、敵の拘束まで行っていたことに。
俺の下半身に巻き付いた触手。
それからは先ほどのヤミの末路を想像させた。
「いやだ……」
死にたくない。
こんな時にそんな考えは浮かんでくる。
自分も、たくさん殺してきたくせに。
たくさんの命を、奪ってきたくせに。
「いやだ、いやだ!」
なんとかしてこの触手から逃れようとするも逃れるどころか上半身にまで触手はきていた。
「はい!では、一名様、ご案内!」
「あ……」
少女―――――コヨリの言葉と共に触手はものすごい速さで俺を影の中へと引きずり込んだ。
影の中はどうなっているのか。
その答えは、すぐに分かった。
「――――――――――ッ!!?」
息が。
息ができない。
苦しい。
まるで水の中のよう。
いや、水の中なのかも知れない。
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
助けて。
誰か、誰か!俺を助けてくれ!
そう思っても。願っても。俺が何かをつかもうとするその手に触れる感触は水だけ。
溺れていく。
助けなど、ないのだ。
死にゆく意識で自覚する。
今までたくさんの命を奪ってきた自分は助かることなどないのだ。
犯罪者になることを選んだ時点でこうなることは分かっていたのだ。
このような末路をたどると。
理解していたのだ。
この苦しみは、罰なのだ。
散々悪いことをしてきた自分への罰。
こんなことなら犯罪者になど、なるべきではなかった。
些細なことで親と喧嘩して、その勢いのまま家を飛び出た。
そんな俺にまともな職などなく金に困っていたとことに手を差しのばしてくれた先輩。
しかしその先輩の誘いは罠であり、気づかぬまま犯罪者になっていた。
あの時、家を飛び出すのではなく。謝れていたら。
ごめんなさいと。俺が悪かったと一言言えていれば。
何かが変わったのだろうか。
(あ……)
死にゆく間際。
走馬灯のように浮かんできたのは両親のことだった。
どんな人間にもいるのだ。
自分のことを大切にしてくれる。愛してくれる。
そんな人が。
しかし、自分は気づけなかった。
(ごめん……)
今更だけど。
もう遅いのだけれど。
だけど思わずにはいられないのだ。
(ごめんなさい……。父さん、母さん……)
そうして、薄れていく意識の中。
彼は祈ったのだ。
神への助けてくれという祈りではない。
どうか自分のことは忘れて、幸せになってほしいと。
しかし、彼の両親は自分の息子を忘れることなどない。
今でも愛しているのだから。大切に思っているのだから。
だから、彼の両親もまた、祈っているのだ。
いつか、ふらっと息子が帰ってくることを。
そうしたら謝ろうと、心に決めていた。
自分たちも悪かったと。言い過ぎてしまったと。
遠い地でもう二度と帰ってこない息子を、2人は待ち続ける―――――。
―――――――――――――――――――――――――――――
「はい!これで一つ目のリベンジ完了だね!」
コメント
・はい
・はいじゃないが
・相変わらず怖いw
・ふんぐるい!むぐるうなふ!くとぅるふ!るるいえ!うが=なぐる!ふたぐん!
・発狂してる人もいます
「これで心置きなくもう一つのリベンジに挑める!がんばるぞ!」
コヨリの配信はその後10時間に及んだ。
しかし、影から敵を捕まえる能力を保有していても、珍しい動物の影すら捕らえることはできなかった。