願いの物語シリーズ【飯塚美月】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
立花選手が暴走車から子供を助け、すぐに病院へ行かなくてはいけない体でありながら、球場へ現れて打席に立ち、チームを勝利へ導く為に大野選手からホームランを打った。
そんな概要のニュースをネット上のあらゆる所で見かける様になった。
当然の様にリーダーのモチベーションは最悪も最悪となり、続くように古宮ひかりのモチベーションも地に落ちた。
こうなっては仕方ないと私がグループを引っ張り、フォローし、支える役をこなしたのだった。
そんなこんなで地獄のような一ヵ月を乗り越えて、ようやく立花選手は目を覚ました。
このまま一生目覚めなかったらどうしようという不安もあったが、目覚めて何よりである。
まぁこの一件で、リーダーが立花選手のファンだという事が加藤沙也加ファンの間で有名になり、彼女の人気が落ちていく……なんて事は無かった。
むしろ私がフォローする前から既にファンの中で、「無理しないで」とか「一緒に立花選手の回復を祈ろう」だとか「ゆっくり休んでも良いんじゃないか」なんて声がいくつも上がっていたのだから驚きだ。
つまり会社が隠そうと隠すまいと彼らには知られていたのである。
その上で加藤沙也加を推していたのだと。
なんてことだ。これでは本当に弱点がないではないか。
別にこのネタを週刊誌に放り投げるつもりは無かったが、どこかで発覚して人気を奪い去れると思ったのに、残念だ。
しかも、何故かリーダーが立花選手を推しているという事が切っ掛けでファンが増えるという謎現象まで起こってしまった。
事件はライブ中。
低いモチベーションを何とか回復させ、ライブを形にしていたリーダーだったが、歌の最中にファンの一人が「立花が目を覚ました!」なんて声を上げたから大変だ。
正直マナー違反なんてレベルじゃないその行動のせいで、リーダーは、加藤沙也加は歌の最中だというのに、呆然とした顔で立ち止まり、ボロボロと涙を流しながら、ただ一言「よかった」と呟いた。
その後、なかなか泣き止まないリーダーの為に、この私がわざわざセンターに立って、ライブを続けたからこそ、大惨事にはならなかったが、下手するとライブが中断される様な大事件である。
だがしかし、だ。
ライブ中の一番大事な所でこんなやらかしをしてしまった加藤沙也加の評判は何故か下がらず上がっていった。
まるで意味が分からない。
お前らの推しているアイドルが別の男に恋してるんだぞ!?
遂に頭がおかしくなったのかと思い、私は掲示板でライブの件について調べてみる事にした。
したのだが、私の想像以上に、ファンという生き物は頭が大分アレな人々が多いようだった。
【立花が目覚めてホンマ良かった。落ち込んでるサヤは見たくないからな】
【てかライブ中に叫んだ奴はマジで自重しろ。後で言えば良いだろ】
【早く元気になって欲しかったんだろ】
【頭悪すぎだろ。バカはライブに来るな】
【邪魔なんだよなー】
【でも泣き出すサヤを慰めるひかりんっていう尊い光景は見れたろ】
【そういう事じゃねぇんだよ。金払ってライブ見に来てんだぞ。歌えよ】
【サヤファン以外イライラで笑う】
【飯塚美月ファンは喜んでんじゃねぇの? ここぞとばかりに前へ出ただろ】
【目立ちたがりだからな。チャンスは逃さない女】
【ピンチをチャンスに変えていけ】
【悔しがっている美月を見たいので、喜んでいるのは解釈違いです】
【人気投票で順位が上がって嬉しいとコメントしながらチラチラ上位を見て悔しそうな顔をする美月を見ろ。たまんねぇぞ】
【美月ファンってやべぇのしかいねぇな】
【てか気になってたんだが、加藤沙也加オタク共は、アイツがイケメン好きを公言してても良いのか? お前らの養分がイケメンに流れてるんだぞ】
【イケメンって言っても、立花光佑だしなぁ】
【むしろ立花光佑への課金先が無いから、それがサヤを通して行われてるなら問題を感じねぇ】
【こうなると大野に課金する方法も見つける必要がある訳だが】
【なんだこいつ等】
【頭が大分おかしい】
【これからの野球界を担う人材だからね。注目してる人は多いよ】
【てことは、加藤沙也加がその若い芽を狙ってるって話?】
【同じ年だぞ。別に付き合ってもおかしな事もない】
【いや、恋人とかそういう話は関係ないだろ。ただ立花光佑のイチファンだったってだけの話だぞ】
【そもそも関係性が無いしな】
【サヤはその辺の量産型アイドルとは違って、アイドルを人気商売とかでやってねぇから。アイドルをそういう適当な精神で投げ出したりしねぇよ】
【加藤沙也加オタク君めっちゃ動揺してるの笑うんだが。結局アイドルと付き合えるとか思ってる勘違いオタク君じゃん】
【ちなみに、加藤沙也加と立花光佑は小学校と中学一年の短い時間だが同級生だったらしいぞ】
【お前、それ何処情報だよ】
【ソース出せ】
【ソースは俺の弟。二人の元同級生だ。集合写真とかもあるぞ。てかこの時代から立花イケメンで腹立つ。人生余裕だろうな】
【流石にお前、今病院で一月ぶりに目覚めた人間に、人生余裕はちょっと】
【お前と違って、その輝かしい経歴と容姿を持ちながら、見ず知らずの子供の為に体張った男だぞ。恥ずかしくないの?】
【他人を羨む事でしか生を実感できんのか。哀れな奴だ】
最新まで読んでいたが、もう私たちの話とは関係ない話で盛り上がっていて、私は途中で読むのを止めた。
まぁ結局の所、やっぱりと言うべきか、恋人ではないから応援出来ているのだろう。
現状のリーダーはただの立花光佑ファンだし。接点もない。
むしろ同じ野球好きという趣味を持っていると考えていて、親近感を覚えていると。
なるほど。
これなら、リーダーが炎上するって事は無さそうだと私はとりあえず一安心するのだった。
そして掲示板を見始めたついでに色々と見て、私のファンが集まる掲示板を見つけた為、中を確認した。
【今週の可愛い美月集めようぜ】
【優勝はどう考えてもライブでセンターに立ってドヤ顔決める美月】
【一応美月的にはフォローの為に動いたんだろうな。上位二人が仕事出来てないし】
【そうなんだよ。動く前の焦った顔と、何とかしなきゃっていう使命感に満ちた顔から……何故かドヤ顔】
【多分センターに立ったのが気持ち良すぎたんだろ。承認欲求が仲間の危機を救いたいという純粋な善意を上回った瞬間】
【流石すぎる】
【美月はこうじゃないとな!】
【今でも人気投票のコメント見返すと楽しすぎて、こう、笑みがね。こぼれてしまう】
【美月「この結果は、ファンの皆様の、私への想いが形となった物であり、最高の結果だと受け止めております。嬉しさで言葉もありません。三位でも、いや、三位……嬉しいです。次は、いえ、次も頑張ります」】
【これ美月よく知らない奴が、途中から本音が漏れてるとか言われてるけど、全部本音なんだよな】
【分かる。応援されてるのが嬉しいってのも本音だし、それが結果で出るのも嬉しい。ファンのみんなありがとうっていうのも全部全部本音で、三位で死ぬほど悔しいというのも本音という】
【本音しか出せない女】
【握手会で、選挙カーばりに自分の名前を繰り返す女】
【グループのファンになると、まず美月の名前を覚えるからな】
【美月「あ。応援ありがとうございます! 美月! 飯塚美月です! よろしくお願いします」】
【俺たちは選挙演説でも聞きに来たんか?】
【美月だからね。しょうがないね】
【毎日エゴサして人気確かめてるらしいぞ】
【あまりにも解釈一致】
【つまりここも監視されてるってこと!?】
【見てない訳が無いだろう】
【つまりここに要望を書いておけば美月が拾ってくれるって事ね。理解したわ】
【次回、人気投票で突然最下位になって何も理解できず、涙を流して、コメント出来ませんって言う美月下さい】
【ドラマの役貰って、喜んでたら、加藤沙也加と古宮ひかりが主役だと気づいて、嬉しいのに悔しくて頭ぐちゃぐちゃな美月ください】
【美月がセンターの曲を貰って、喜んでたら、やっぱりセンターは加藤沙也加にするわって言われた時の美月ください】
【どれもメンバーを祝福しつつ、悔しすぎてぐちゃぐちゃな感情で泣いてるのが想像出来て興奮するわ】
【今夜はこれで良いか】
私はもはや何も言わずそっと端末の電源を消してしまった。
明日からは少し人の目を気にしないで生きよう。
そう思うのだった。