願いの物語シリーズ【飯塚美月】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
いくつものイベントとライブを乗り越えてかなり有名になってきた私たちだったが、出会いや別れというのはいつ何時も起こるものである。
しかし、しかしだ。
こんなやり方ではなく、もっと別のやり方があったのではないかと考えてしまう。
「プロデューサー! 納得出来ません!! グループを解散するだなんて!!」
「上の判断だ」
「でもプロデューサーも納得したんですよね!? なら」
「なら。と言われてもな。ここでハッキリと解散になった理由を話しても良いが、お前らは大丈夫なのか?」
「大丈夫っていうのは……」
「解散の理由は、お前らの努力不足だ。という事だ」
「そんな、私たちはずっと、レッスンだってイベントだってライブだって、全力以上を出して、結果を出してきたじゃないですか」
「お前はそうだろうな沙也加。だが、真実全員がお前と同じ様にやっていたか?」
「え? いや、やってましたよ。だって私たちはチームで、みんなでグループで」
「お前の理想は素晴らしいがな。俺たちは遊びで会社を経営してるんじゃない。仕事なんだ。やる気の無い奴は切り捨てなければ、全体が腐り落ちる。今はそういう時期なんだよ」
「でも!」
「もう良いよ。沙也加。プロデューサー。グループが無くなっても、すぐクビって訳じゃないんですよね?」
「あぁ。人数を分割して、それぞれで活動してもらう」
「ほら。アイドルを辞めなきゃいけない訳じゃない。ちょっとしたクラス替えみたいなモンだよ」
「でも、でも!! 私たちは」
「沙也加! 何度も言わせるな! 俺たちは遊びでやってるんじゃない。アイドルごっこがやりたいなら他所でやれ!」
「……っ」
「納得しろとは言わん。飲み込め。これが社会だ。働いている以上、お前たちは結果を出さなきゃならん。そしてその結果にたどり着けないのなら、改善する必要があるんだ。例えそれがお前達が大切にしたグループの絆って奴でもな」
プロデューサーの言葉に私たちは静かに頷いた。
そして、それぞれ新しいグループごとに名前を呼ばれ、そちらに集まっていく。
一応解散ライブは行うらしいが、あまり派手な事をすれば結局アイドルを引退しない私たちへの批判になりかねず、粛々と行うそれなりなイベントになるだろう。
「ではここに残った四人。加藤沙也加、古宮ひかり、飯塚美月、朝岡由香里。お前たちと今度入ってくる一人を加えて新グループとする」
「……追加で一人増えるんですか?」
「不満か? 由香里」
「だって、一人増やすなら、前のメンバーから誰か選んでも良いじゃないですか。もしくは四人で」
「駄目だ。この追加は絶対に必要だ」
「でも、その一人が足を引っ張るかもしれない!」
「そんな心配は要らん。考えるだけ無意味だ」
「どういう意味ですか!」
「……分かった。彼女について少しだけ説明しよう。先に言っておくが、お前たちは俺にとって最高のアイドルだ。お前たちと過ごした日々は俺にとって宝だ。初めてのライブ、週間ランキングで一位を取った時、ライブ会場が満員で埋まった時、イベントでファンたちが満足して帰っているのを見た時、そのどれもが俺の心を震わせ、この仕事をやっていて良かったと思えた。お前たちにで会えてよかったと思えた。だが、そんな物に何の意味もない。そんな物はただの自己満足だ。ゴミだったんだ」
「プロデューサー……?」
懐かしい物を見る様に私たちを見ていたプロデューサーは自分の震える右手を抑えながら、恐怖に引きつった声で続きを語る。
まるで悪魔にでも出会った人間の様に。
「彼女は、夢咲陽菜は天才だ。いや、彼女を天才なんていう陳腐な言葉で表現しても良いのか分からないが、とにかく普通の人間とは何もかもが違う。そうだな。例えば、由香里。お前は新しい曲の振り付けを覚えるのに、どれくらい時間がかかる?」
「どれくらいって、曲にもよりますけど、多分二週間とかそのくらいじゃないですか?」
「一度だ」
「は? え?」
「彼女は一度そのビデオを見ただけで完璧にマスターし、さらには改善点まで提示してきた」
「……っ!」
「なぁ、ひかり。お前は歌が好きだよな。お前が心に残る様な素晴らしい歌を聞いた時、何を思う?」
「えっと、感動したなぁとか。もう一度聞きたいなぁとか。でしょうか」
「そうだな。普通はそうだ。お前の歌が好きなファンは多いが、みんな同じ様な意見だろう。だがな。彼女の歌を聞いた時、その直前までお前たちのグループに新しく加えるかどうか話していた社長たちが。お前たちの輝きを誰よりも信じていた俺たちが、彼女に最高のデビューをさせる為に、どうすれば良いか。考え始めたんだ。そこで出た意見が、お前たちを分散し、別々のグループにして、そして、一番人気で彼女の横にいても邪魔にならないであろうお前たちを選出して、踏み台にしようと……! あぁ! 俺たちはなんて事を!! こんな、こんな事の為に俺は!!」
「プロデューサー。しっかりして下さい!」
まるで自分の行動が理解出来ていないかの様に頭を抱えているプロデューサーに私たちは得体の知れない恐怖を感じた。
これじゃ本当に悪魔に魅入られた人みたいじゃないか。
そんなにとんでもない子なのか。その夢咲陽菜という子は。
「でも、夢咲陽菜なんて子。聞いたこともありませんよ?」
「だろうな。彼女はまだテレビに一回しか出ていない」
「つまり、ちょっと前まで一般人だったって事ですか?」
「そうだ。気になるなら、11月28日の『古今東西アイドル発掘隊』って番組を見てみれば良い。歌わず、踊らずトークだけだが、既に恐ろしいまでに人を惹きつける才能を感じるよ。目がな。離せないんだ。彼女の仕草が、笑顔が頭から離れない」
「……」
「ただし、一つだけ忠告をしておく。太陽はあまり見すぎるな。頂点に立たずとも、お前たちは最高のアイドルだ。それだけは、忘れるな」
私たちはいっそプロデューサーの反応が常軌を逸しているため、逆に冷静になっており、そのアイドルとやらを見てやろうじゃないかという気持ちになっていた。
プロデューサーの話では彼女のパフォーマンスを見た事で私たちは解散させられ、しかも私たち四人は彼女の踏み台として選ばれたのだと言う。
ネット上から該当の動画を探し出すと、既に数百万回再生されており、私はその異常さに目を細めた。
「これ、凄い人気の番組なんだね」
「いや、そんな訳無い。この番組のネット動画なんていい所数百か行っても千ちょっとなんだよ。ほら、前の週とかは少ないでしょ? 多少普通よりも増えてるけど、もっと前を見ればさっき言ったくらいの数字だと思うよ?」
「じゃあ、その子のお陰で再生数が増えてるって事?」
「さやかちゃん……」
「大丈夫だ。私たちは、大丈夫。とりあえず、見てみよう」
リーダーの合図に私は動画を再生した。
なんてことはなく、それなりに有名で語りの上手い芸人さんが進行役をやって、いよいよゲストが呼ばれる。
『はい。では本日のアイドルを紹介しましょう。夢咲陽菜さんです!』
『はーい。はじめまして! 夢咲陽菜です』
『あ、あれ? 夢咲さん?』
『はい。陽菜です』
『えっと、何だか驚いちゃったなぁ。凄く可愛い子が出てきたから。あれ? これ、本当に地方の番組だっけ?』
司会さんの声に会場が笑いに包まれるが、画面を見ている私たちは彼の動揺が少なからず分かる。
アイドルなんてやっている以上、私たちは自分たちが可愛いと思っている。
しかしだ。そんな物、この陽菜という子に比べれば何処か物足りない。
その足りないものが何かを説明する事は難しいが、しいて言うなら輝き、人を惹きつける魅力とでも言おうか。
「上手いな」
「うん。凄く話慣れてる。聞きやすくて、冗談も言うし。とにかく笑ってて可愛いって印象を受けるね」
「画面を見ているだけなのに、まるでこっちを見ているみたいに。視線が合う。何、これ? 怖いんだけど。私たち見られてる?」
「流石にそれはホラー過ぎるでしょ。ただ単純にそういう視線誘導が上手いんだよ」
「こんな小さい子が?」
「それがプロデューサーの言ってた才能って奴なんでしょ」
なるほど。種は分かった。
そういうトリックだ。
それに客側や視聴者が気づいているか分からないが、この陽菜って子はひたすらに視線を合わせて笑いかけてくる。
無邪気な子供らしい笑顔で、とんでもなく整った可愛らしさで。
そりゃ暴力みたいなもんだ。殴られればイチコロだろう。
この動画を見ている奴はみんな思うんだ。彼女が俺に、私に笑いかけてるってね。
これに、プロデューサーや社長を狂わせた歌声とか、踊りとかが付いてくるらしい。
考える限りの最悪だ。
しかし、考えようによっては利用できなくもない。
踏み台だって言うのなら、こっちも利用してやろうじゃないか。
夢咲陽菜がどれだけ高く飛べるのか知らないけど、その足に捕まって私も天上世界へ案内して貰おうじゃないか。
「……上等」
私は画面の向こうで笑う少女を見て、不敵に笑う。
そして、おぞましいまでの才能を見せつけた彼女と戦う決意をした私は、いい加減体の毒だから動画を見るのを止めようと思ったのだが、その番組中盤。事件は起こった。
『えーっと、ゆく秋の? 秋の』
『あー。読めない漢字があったかな。難しい手紙だからね』
既にデレデレと話している司会を無視して、私はこれからどんな媚テクニックが飛び出してくるのかと少し楽しみにしながら動画を見ていたのだが、彼女の反応は私の想像の斜め上に飛び出した。
『お兄ちゃーん』
「お兄ちゃん?」
「いや、私を見られても。動画を見なさいよ。動画を」
『どうした? 陽菜』
「……っ!」
夢咲陽菜の甘えた様な癇に障る声に反応して、横から出てきた人を見て、私たちは体を強張らせた。
見たことがある。なんて物じゃない。
彼は……。
「立花君……? なんで……?」
呆然と呟くリーダーの声にチラリと視線を向けつつも動画を見続ける。
動画内では立花光佑君を横に座らせた夢咲陽菜が楽しそうに文字を教わりながら手紙を読み切って、さらにそのまま進行する。
「いや、これ、放送事故じゃないの?」
「こんなの予定に入ってるわけ無いでしょ」
私はもう動画は良いかと再生を止め、当時の掲示板を見たり、キーワードで調べ始める。
流石に私たちと組む前から炎上しているとかは勘弁して欲しいから。なのだが、どうやら調べる限り、あまり燃えてはいないようだった。
まぁ流石に妹が兄に甘えている様な構図だったし、そこまで燃える様な要素も無いのだろう。
しかし、我がグループとしては心情複雑だ。
「……リーダー。大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。立花さんの妹、でしょ? 何の問題もないよ」
明らかに動揺している様子のリーダーを見ながら私は深く溜息を吐いた。
これは前途多難だな。