願いの物語シリーズ【飯塚美月】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
人生とは決断の連続である。
だからこそ、他者を想い、誰かの為にする行動は素晴らしい。
例えそれで世界中から非難されようとも、その勇気ある行いを私は尊敬する。
とは中学時代の担任であった恩師の言葉である。
その言葉通り、先生は常に他人の為に悩み、考え、行動する素晴らしい人だった。
そんな先生から教えを授かった私も、先生の様に仲間の為に生きようと思う。
例えそれで、私が世界中から疎まれたとしても。
きっと先生は、私を褒めてくれるハズだから。
「ちょっと、もう一回言ってよ。美月」
「聞こえなかった? だから……もうこのユニットは解散しようって言ったのよ。もう無理でしょ。結構な勢いで炎上してるし」
「でも、スターレインは私達の」
「仲間の絆って?」
「……っ」
「ねぇ、リーダー。周りを見てよ。もう居ないんだよ。私達の仲間なんて。どこにも」
私の言葉にリーダーは、あの無敵のアイドル『加藤沙也加』は泣きそうな顔になった。
クールで格好よくて、絶対に勝てないと私が感じたあの最強のアイドルは何処かに消えて、ここに居るのはただの弱い18歳の女の子だ。
「それにもうこれはプロデューサーにも話してあるの。どうせ炎上を止める事は出来ないし。それならそれを利用して夢咲陽菜を売り出す方針にしたわ」
「っ、夢咲、陽菜」
「それで私もあの子と一緒にやる事にしたから。だから解散」
「え? ちょっと待ってよ。何で美月もあの子と一緒にやるんだよ。また炎上しちゃうよ?」
「別に良いじゃない。それだけ注目を浴びるって事でしょ。まぁ人気者になったら、批判が集まるのはしょうがない事よ」
「まって、待ってよ! だって、あの子が一人で活動するなら、それで良いじゃない。私たちは、またスターレインやろうよ! また前みたいにさ」
「やりたいなら勝手にやれば? 私には関係ない」
吐き捨てる様な私の言葉に、リーダーたちは酷くショックを受けた様な顔をしていた。
私はそれを見て、胸の内に暴れまわる感情を抑える様に目を細める。
「関係ない、って、だって美月だって、スターレインの仲間でしょ?」
「仲間だなんて、思った事、一度も無いわ。あの場所は私にとって、人気アイドルになる為の場所。ただそれだけ。それが今度から夢咲陽菜に変わる。ただそれだけの話よ」
「……そんな」
「ま。そっちはそっちで適当にやってよ。こっちはこっちで勝手にやるからさ」
私は彼女たちに背を向けて、右手を軽く振りながら部屋を出ていく。
押し殺した感情を表に出さない様に歯を食いしばって。
これからやる事にリーダーたちを巻き込むわけにはいかない。
そうだ。
これは私にしか出来ない。
承認欲求が強くて、目立つためなら何でも出来て、とにかく有名になりたい私にしか出来ない事なのだ。
それからすぐにスターレインの解散が発表され、私と夢咲陽菜の二人ユニットが発表された。
炎上は多少収まり、残されたやかましい奴らは全員私に集中している。
その後、リーダーたちへの誹謗中傷が収まったのを確認してから、再結成されたスターレインの事など誰も気づきはしないだろう。
当然だ。
世界は今、夢咲陽菜に集中している。
そしてその夢咲陽菜の足手まといであり、厄介な目立ちたがり屋に目が集まっているのだ。
真にアイドルを楽しみ、ファンの為にと考え、努力してきた彼女たちの事など見向きもしない。
それでいい。
また一からのスタートになるかもしれないけど。
前よりもファンは減るかもしれないけど。
それでも、あの場所には夢咲陽菜のファンには無い暖かさがあった。
確かな温もりがあった。
アイドルとファンの確かな絆があった。
ゆっくりでいい。
それを取り戻して貰えればと、私は思う。
「夢咲陽菜とー」
「飯塚美月の」
「「さっくりクッキング―」」
「はい! 始まりましたね! この番組が!」
「はぁ」
「なんですか。なんですか。いきなり、ため息なんて吐いて」
「今日も子守の時間が始まってしまったなと嘆いていたのよ」
「子守? ここに子供なんて居ませんよ?」
キョロキョロとセットの近くで周りを見る陽菜を私は無言でジッと見つめた。
そしてやや時間を置いてから陽菜は驚いた様な表情で、私に詰め寄る。
「あ。その目! もしかして、私の事を子供だって言ってます!?」
「あら。自覚あったのね」
ワハハ。
私の言葉に反応して観客席から笑い声が響いた。
掴みは上々。
このまま続けていく。
「でも、感謝してるわ。陽菜」
「何がです?」
「貴女のお陰で、私の料理がとても美味しく見えるもの」
「ムキー! 今日こそ上手く作ってみせますよ!」
陽菜はまるで本当に子供らしい子供の様に怒ったり、笑ったり、悲しんだりしてみせる。
その演技はあまりにも自然で、夢咲陽菜の事をよく知っている私ですら真実なのでは無いかと疑ってしまう程だ。
しかし、違う。
夢咲陽菜は違う。
常に周りを見ている。その驚異的な観察力で、こうあるべきという子供の姿をトレースして描き出している。
ただそれだけだ。
この場において、夢咲陽菜は欠片だって本心を見せてはいない。
「包丁! ギラリ」
「ちょっと、怖いから置いてくれる? そして離れてくれる? ついでに家に帰ってくれる?」
「もうクビですか!? まだ包丁持っただけですよ!?」
「仕方ないわね。ほらまた教えてあげるわ。後ろからアシストするわよ」
「おー。凄い。私の手が勝手に野菜を切っていきます。あ。ピーマンさんは要らないですね」
「あら。陽菜はピーマン嫌いなの?」
「いや、嫌いって訳じゃないですよ? ただ、その、ちょっと苦くて、ね?」
「なるほど。嫌いじゃないなら多めに入れてあげるわね」
「あー! やっぱり嫌いです! 大嫌いです!」
「あら。大嫌いなの? じゃあ多めに入れてあげるわね」
「どう言っても! 美月さんは悪魔です!」
陽菜の叫びに、また会場が沸く。
とりあえずバラエティー番組としてはまぁまぁの手ごたえという所だろうか。
夢咲陽菜の人気はうなぎ登りだ。
これからも色々な番組への出演依頼が来るだろう。
何故かはよく分からないが、最初は沢山あった私への批判も今ではかなり少なくなってきていた。
そのせいで、スターレインの方に嫌な奴らが行っているのでは無いかと不安になり、色々と調べたが、特にそういう事は無いらしい。
復活ライブも前ほどの人数は居ないが、それなりに盛況な様だし。
ファンも喜んでいた。
全ては万事うまくいっている。
これ以上ないくらいの成果だ。
ただ、たまに夜一人で苦しくなるくらいだ。
でも大丈夫、だって私は人気者になったんだもの。最初に望んだ夢の通りに。
そう。人気者に。
【陽菜美月相変わらず面白いな】
【まるでずっとコンビでやっていたかの様なテンポ感。いい】
【何でこの二人炎上してたんだ?】
【二人というか。炎上してたのは美月だけ】
【美月ってか前に陽菜と美月が居たユニットが炎上したんだよ。燃やしたのは厄介系陽菜オタク】
【数いるとマジで意味わからん理由で燃えるからな】
【まぁでもしょうがないんじゃない? 今でもライブやると美月の出しゃばり癖がヤバいからな】
【何でバックダンサーが前で踊ってるんだ……?(困惑)】
【いや、あれはもはや笑えるだろ】
【まぁあの目立ちたがりは燃えてもしゃーない】
【美月のせいで元メンバーが燃やされたって事ォ!?】
【否定できん所があるな】
【承認欲求が強すぎたんや】
【(陽菜のソロパート)美月「今です!」】
【今じゃねぇ。下がれ】
【陽菜が見えねぇんだわ】
【まぁでも陽菜ちゃん自身が面白がってるし。まぁ良いかの精神】
【よくはねぇな?】
【まぁでも、美月アンチっぽいのも減って来たし。世間に認められてきたって事じゃねぇの?】
【美月「つまり、もっと目立つ為に動いて良いって事ですか!?」】
【違う。そうじゃない】
【本人が言いそうなの笑う】
【俺は二人の関係性が結構好きだから、このまま二人で活動していくのを見守るぞ】
【二人の関係性……つまり、百合って事ですか!?】
【陽菜「美月お姉ちゃん!」美月「計画通り(ニヤリ」】
【最悪やんけ】
【笑ってくれ、美月】
【……?】
【なんか変な事言ってる奴いるな】
【めっちゃ笑ってただろ。美月】
【もしかしてこの掲示板は別の時空に繋がっているのでは……?】
【なんだ。突然寒くなってきたな。裸なんだ勘弁してくれ】
【服着ろ】