願いの物語シリーズ【飯塚美月】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
テレビにドラマに映画に音楽番組に、慌ただしく日々を過ごしていた私は久しぶりに懐かしい人間と会っていた。
とは言っても、軽い会話程度なら何度かしているし、そこまで懐かしいという訳でも無い。
だからじっくりと話がしたいと言われた時意外だなと感じたものだが。
それ以上に彼女が私に持ってきた話が信じられなかった。
「……もう一度、言ってくれないかな」
「良いよぉ。あのねぇ。私たち、今度ライブやるんだけどぉ、二人にも来て欲しいのぉ」
「理由が分からない」
「理由なんて、仲直りって事じゃあ駄目なのぉ?」
「別に喧嘩した訳じゃないでしょ。私ら」
「まぁ、そうねぇ」
「あのさ。ひかり。こう言っちゃなんだけど。もう一緒にやるのは無理でしょ。私たちはさ。また炎上しちゃうよ」
「……沙也加ちゃんのお願いでもぉ?」
「どういう事」
「沙也加ちゃんが、また美月ちゃんと、スターレインやりたいって言ってるんだよ」
「それは」
どれだけ願った事だろう。それは。
でも、決して叶えてはいけない願いだという事も良く分かる。
特に夢咲陽菜と一緒に活動してきた私には。
アイツの横に立つという事は、同じステージに立つという事は、常にアイツと比べられるという事だ。
そこには何の害意も無く、ただただ思った事をぶつけるという幼児性があるだけだ。
気に入らない物を気に入らないと、玩具を放り捨てる幼子の様に、無邪気にその思いをぶつけるだけだ。
しかし、その言葉は私たちにはあまりにも重すぎる。
私はもうみんなが傷つくのは見たくないのだ。仲間だから。
だから、アイツの横に立ってすり減るのは私だけでいい。
それに、陽菜は……。
「良いじゃないですか」
「……っ」
「陽菜。居たの?」
「はい。聞いちゃいました」
「アンタ。忘れたの? また共演者を燃やすつもり?」
「ヒナは燃やしたかった訳じゃないんですけど」
「アンタにそのつもりが無くても、アンタのファンは止まらないでしょ」
「それは、でも……私は出来る事なら償いをしたいです」
「そう……なら良いけど。対策はするわよ。徹底的にね。それで良い? ひかり。陽菜」
「分かりました」
「わかったよぉ! じゃあよろしくね!」
ひかりは無邪気に笑いながら私の手を握り、そして、陽菜とも手を握り合う。
それから私たちは十分に打ち合わせを積み重ねて、準備を十分に行い、当日を迎える事になった。
多くのアイドルたちが集まる会場にやってきた私と夢咲陽菜はその会場の大きさと集まった人の多さに圧倒された。
大音楽祭。
そう呼ばれた今回のイベントの企画人は、すぐ横で間抜けな顔を晒している夢咲陽菜の兄こと、立花光佑さんだ。
いつの間にか業界の内部で大きな人脈を作っていた立花さんは、様々なアイドルに、そして事務所に声を掛けこんな馬鹿げたイベントを成功させた。
それもこれも妹の願いを叶える為だというのだから驚きである。
「そう言えば立花さんは?」
「今日のお兄ちゃんは、色々な所へ挨拶や調整に行かないといけないって朝から出かけちゃいました」
「まぁこれだけのイベントを企画したなら仕方ないか」
「そうですね。という訳で今日は私が美月さんの事見ててあげますからね」
「バカ。子供が生意気言ってんな。大好きなお兄ちゃんが帰ってくるまで迷子になるんじゃないよ」
「ぷー」
私は夢咲陽菜が被っていた帽子をより深く被らせて、頭を適当に撫でまわす。
夢咲陽菜はこういう子供扱いが嫌いなのだ。
だから私は嫌がらせの為に、わざわざこういう事をする。
「あ……」
「ん? あぁ……リーダー、いや加藤沙也加さん」
「リーダーで良いよ。美月」
「いや、そういう訳にはいかないでしょ」
「ボス。何立ち止まって……って! 美月じゃん!! 久しぶり!」
「由香里。アンタ相変わらずうっさいね」
「いや久しぶりに会った友達にうっさいって、ひどくない?」
「事実なんだから仕方ないでしょ」
「まったく。変わんないねぇ。美月も」
「そう? 由香里は変わったけどね。リーダーも」
「年とったって事かな?」
「いやリーダー。それは無いわ。アイドルにそれは禁句でしょ」
「そうだよ沙也加。こういう時は大人になった。もしくは成長したと言うべきだね」
「大して変わらないでしょ」
「大違いなんだ。これが」
「全く沙也加は」
私たちは久しぶりに笑った。
笑いあった。
あの日から変わらないと信じていた日々が。
何処か遠くへ消えてしまった夢が、まだここにあった。
それが嬉しかった。
ただ、嬉しかった。
しかし、いつまでも笑ってはいられない。
私と夢咲陽菜は最初と最後に出番があるのだ。
このまま呑気に話をしていて遅刻しました。では話にならない。
そのため、私たちは二人にまた後でと言い残し、準備室へ向かうのだった。
「良かったんですよ? まだ話してても」
「悪いけどね。私はアンタみたいに神経図太くないのよ。本番前ギリギリまで遊んでるなんて出来ないわ」
「真面目ですねぇ」
「本当はその真面目枠は私じゃ無かったんだけどね」
「なら誰ですか? あ。分かりました。私ですね!?」
「アンタはクソガキ枠でしょ」
「ぷー! 酷い! 泣いちゃいますよ!」
「おーおー泣け泣け。アンタが泣いてると気分が良いわ」
「うー。えーんえーん」
「ウソ泣きが煩い……相変わらずのクソガキね」
私たちはくだらない話をしながら会場内を歩き、会場に着いてからは急ぎ気味に準備を行った。
やはり少し遅れ気味だったらしい。
恐ろしい話だ。
遅刻したらネット上で何を言われるか分かったものじゃない。
そして、全ての準備が終わり、これから行う挨拶の予行練習を口の中で何度も行う。
「緊張してるんですか?」
「そりゃこんな舞台で緊張しない奴は居ないでしょ」
「アハハ。そうですね」
「まぁアンタには関係ないでしょうけど」
「そんな事無いですよ。ここが目指していた夢の一歩目。私は、ヒナは緊張して震えが止まりませんよ」
宣言した言葉の通り、震えた手を抱きしめる陽菜の手を見て、私はその手をそっと取って、握ってやった。
大した意味はない。
ただ横で緊張されてたら、私が迷惑だからだ。
ただ、それだけだ。
「……驚きました。美月さんにこんな風にして貰えるなんて」
「へっ、ただ横でミスされたらやりにくいだけよ」
「ふふ。美月さんは素直じゃないですねぇ」
「何が」
「別にー。何でもないですよー」
「腹立つクソガキだわ。このイベント終わったらぶん殴ってやる」
「わー。怖い。じゃあ私はこのイベントが終わったら、美月さんに色々文句言っちゃいますねー」
「このガキ。私の世話になってる分際で文句とか……」
「あ。そろそろ始まりますよ。もう無駄口はここで終わりですよ!」
「いつか潰す」
私は小さく陽菜に文句を言いながら、真っすぐ前を見た。
『ここが目指していた夢の一歩目』
「そうね」
ここから私たちの一歩を始める為に、私は大きく前に踏み出した。
【いよいよ始まったな!】
【おぉ! 出てきたぞ!!】
【うぉぉおおお!! 陽菜!! 美月!!】
【やっぱこの二人で始まりだよな!!】
【こんな目立つ位置を見逃す女じゃないよ美月は】
【とは言いつつも、割と大人しめである】
【まぁ流石にこれだけデカい会場だと緊張するんじゃね?】
【あっっっっっっっっっっ】
【陽菜様「緊張? 誰に言っているんですか?」】
【流石すぎる】
【あれ絶対アドリブだろ。美月笑ってるけど、キレた顔してる】
【美月「私より目立ちやがって……」】
【本当に言ってそうなの笑う】
【しかし、今のはどういう動きなんだ?】
【大したことは無い。踊りの最中に突然捻りを加えたバク転を行い、すぐ背後に居た美月の正面に向かい合わせで立ち、そこからまるで舞踏会の様に手を取り合って踊った。ただそれだけだ】
【文章にするとホンマ意味不明な事やってんな?】
【人間技か?】
【大丈夫。少なくとも陽菜ちゃんは出来たし。多分立花光佑も出来るから。誰でも出来るぞ】
【誰でもの基準高くない? 大丈夫?】
【多分駄目だから安心しろ】
【何を安心すれば良いのか】
【お前らライブに集中しろ】