願いの物語シリーズ【飯塚美月】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第9話『私たちは、進み続けないといけないハズでしょ』

開幕のパフォーマンスを終わらせて、無茶をやった夢咲陽菜の頭に拳を一発落としながら、私は舞台裏から様々なアイドルを見る。

 

誰も彼も凄い人達ばっかりだ。

 

本来の私なら相手にもならないだろう。

 

しかし夢咲陽菜と一緒に居るというだけで、私は彼女たちよりも上の位置に置かれている。

 

それが何とも複雑な気持ちだった。

 

「皆さん凄いですねぇ」

 

「アンタ。それ、本気で言ってるの?」

 

「えぇ。まぁヒナには勝てませんが」

 

「それは本気で言ってるね」

 

「事実なので」

 

「ホント、良い性格してるわ」

 

もし、夢咲陽菜がもっと可愛げのある女の子だったら、私は彼女に対してこんな風に接しただろうか。

 

もし、彼女が誹謗中傷に晒されて、誰にも助けてもらえない可哀想な女の子だったなら、私は……。

 

「あ。次はスターレインの人たちですよ」

 

「ん」

 

「でも……何か様子がおかしいですね。トラブルでしょうか」

 

ステージに出た仲間たちは、まるで助けを求める様にキョロキョロと周囲を見ている。

 

リーダーが耳に手を当てている事からも、もしかしたら機材トラブルかもしれない。

 

いや、そうか、音が出ていないのか。

 

行かなきゃ……いや、私が今更どんな顔をしていけば良いと言うんだ。

 

大丈夫、私が行かなくても、誰かが……!

 

「行きましょう。美月さん」

 

「陽菜……?」

 

「行きたいんでしょう!? なら行くべきです。仲間の為に!」

 

「でも」

 

「美月さんが行かなくてもヒナは行きますよ? こんな事で失敗したくないです! ヒナの一歩目は!」

 

真っすぐに私を貫いて、遥か遠くにある空の彼方を見る様な瞳で私に訴えかける。

 

行け、と。

 

「……っ!」

 

私は陽菜を置き去りにして、走り出していた。

 

そしてリーダーの前に立つと、マイクを使わず声を張りながら会場に聞こえる様な声で話す。

 

「ごめんね!! 来るのが遅れちゃった!!」

 

「もう! 行くのが早いですよぅ!」

 

「遅れてるんだから急ぐのは当たり前でしょ!!」

 

「ほら、あんまりにも慌ててるから、音響さんがマイク設定出来てないですよ!」

 

「なら後で謝っておきなさいよ!」

 

「な! なんで私なんですか!!」

 

「陽菜が呑気に控室でお茶飲んでたから遅れたんでしょ!! あ。マイク繋がったみたいね」

 

「じゃあ打ち合わせ通りに、ここでスペシャルゲストって感じでサプライズ登場しましょうか」

 

「もうサプライズ出来ないんだけど?」

 

「うぇ!? な、なんで!?」

 

「そら。もう出てきちゃったからね」

 

「あうー。それは残念です」

 

「まぁ後ろも時間無いし。そろそろスターレインの人たちに返そうか」

 

「そうですね!」

 

「そろそろ準備は良いかな?」

 

「うん。大丈夫だよ。そっちも大丈夫かい?」

 

「勿論。歌も踊りも、完璧に覚えてる」

 

リーダーと目で合図をして、私たちは後ろに下がった。

 

あくまでこの場は、スターレインがメインだ。

 

それは当然会場のみんなだって分かってる。

 

だから私たちは後ろで当然だし。私たちよりも彼女たちが目立つのが当然なのだ。

 

「じゃあ、行くよー! 私たちの始まりの曲! 『Start Rain』」

 

あぁ、まったく。

 

何が変わっただ。何も変わらないじゃないか。

 

私が愛した世界は何も変わっていない。

 

昔と、何も変わっていない。

 

それがただ嬉しかった。

 

 

 

そしてスターレインの出番が終わり、私たちはそのまま締めのパフォーマンスをするべく、ステージに残った。

 

ここまで楽しんでくれたファンの人達へ感謝を送り、陽菜と共に今私が出来る最高を送るのだ。

 

そして会場を埋め尽くす観客たちは私たちの色の光を放ちながら、イベントの終わりを見送る。

 

思えば長く遠い日々だった様な気がする。

 

なんて言うと、これで引退みたいだが、本当にここまで長い旅だったのだ。

 

アイドルになった当初はこんな事になるなんて思わなかった。

 

本当に色々な事があったなぁと、私は少し昔を懐かしむ様な気持ちになりつつ観客席を見下ろす。

 

この遥か遠く彼方まで広がっていく光の海を見ていると、何処までも行けそうな気がするのだから不思議だ。

 

すぐに手を伸ばせば、星空に届いてしまう。そんな気持ちになる。

 

そう。すぐ横で、無邪気に、楽しそうに笑う陽菜と共に、何処までも。

 

そんなバカげた夢を私は頭から掻き消して、最後までミスをしない様に乗り越えた。

 

だって、それは叶わない夢だ。

 

いや、夢ですらない。考えてはいけない願いだ。

 

だってこの子は、きっとどこまでも行けるから。私なんていう重荷は捨てて、遥か遠く、どこまでも向こうに広がる空の彼方へ。

 

あの空に輝く星空にだって行けるはずなんだ。

 

だから私の役割は、この子が地上にいる間のおもり。

 

この子が変な所へ飛んで行かない様にするために。

 

私はきっとアイドルになったのだろう。

 

そんな感傷を胸に秘めながら私は、挨拶と共に舞台裏へと下がった。

 

背中の向こうからはアンコールを望む声が聞こえるが、それに応えるかどうかはスタッフと話し合う必要があるだろう。

 

私は陽菜と共に管理スタッフを探して、舞台裏で周囲を見渡した。

 

「美月ちゃん」

 

「あ。ひかり。悪いんだけど、須藤さん見なかった……ひかり?」

 

「美月ちゃん。ごめんね。私色々考えてたけど、やっぱりこうするしか無いかなって」

 

「ひかり、何を言って」

 

「だから、ごめんね」

 

「美月さん!!」

 

「バイバイ」

 

会場から地面に下りる為のちょっとした階段。

 

高さは私の身長くらいはあるだろうか。

 

それが私の背中の向こうにはあった。

 

そして、ひかりに体を押された私は、当然の様に体を支えておく事が出来ず、地面に向かって落ちていく。

 

ひかりの動きがトロくて、少し余裕があったからか、腕で庇えば頭とかは守れそうだったけど、それでも骨折とかはしそうな高さだ。

 

でも、それでも痛いだろうななんて考える。

 

何だかスローになっていく世界で、私は驚きながら私を見ている人々を視界にいれた。

 

ひかりは泣いていた。

 

私を突き落とした癖に。

 

そして、陽菜は、スローになっているハズの世界で、私が思っているよりも早く動いていて、私を支えようと手を出していた。

 

しかし支え切れる訳が無い。

 

それなのに、無理やり私の体を押し上げて、私は陽菜のその勢いで階段の手すりに思い切りぶつかった。

 

頭と脇腹を強くぶつけた私は痛みに、女の子らしからぬ声を上げながら、何とか手すりを掴んで体勢を維持する。

 

それで落ちていきそうになる体は支える事が出来た。

 

ギリギリだった。

 

冷や汗が止まらない。

 

心臓が止まるかと思った。

 

陽菜が居なければ、無事では済まなかった。

 

流石にこれは陽菜に感謝しないと、なんて思いながら横を見たが、陽菜が居ない。

 

そして直後、階段の下の方から大きな悲鳴が聞こえた。

 

その声に、私は階段の下を見て、思考が止まる。

 

「……ひ、な?」

 

地面に倒れた、陽菜が、頭から赤い血が、でも、陽菜は私を助けてくれて。だって、陽菜は世界一のアイドルになるんだって。

 

なんで……!

 

「誰か救急車!!」

 

「早くしろ!!」

 

「陽菜? ねぇ、冗談はやめてよ」

 

「美月さんも動かないで!」

 

「違うでしょ。なんでアンタが私を助けるのよ。アンタは、もっと自分勝手なクソガキで、私の大切な場所を壊した奴で、誰よりも強くて、アンタはてっぺんに輝いて無いと、駄目じゃない」

 

私は近寄ってきた人を振り払って、地面に倒れている陽菜に近づいた。

 

歩くたびに、動くたびに、頭にも胸にも痛みが走る。

 

それでもふらつきながら、歩き続けた。

 

だって陽菜がそこに寝てる。

 

こんな所で寝ていたら、風邪をひいてしまう。それに、衣装だって汚れるし。

 

「起きなさいよ。陽菜。いつまでも寝てる様な時間じゃないでしょ」

 

「美月さん。陽菜ちゃんは頭を打ってる。動かしちゃ駄目だ」

 

「待ってよ! だって、陽菜なのよ!? 夢咲陽菜! この子は、誰よりも我儘で自分勝手な癖に、人の事ばっかり気にしてて、でも、アイドルの一番星になるんだって、言ってて」

 

「美月さん! 落ち着いて!!」

 

「ちょっと! 美月さんも頭から血が出てる!」

 

「安静にしてください!」

 

「駄目よ!! 聞こえてるでしょ! 陽菜! ファンが呼んでるのよ!! 私たちを呼んでる! アンコールだって! ねぇ、聞こえるでしょ! 起きなさいよ。私たちは、進み続けないといけないハズでしょ」

 

私はもう立っている事も出来なくなって、倒れそうになる体を両手で地面に付いて、支える。

 

呼吸が荒い。

 

頭が痛い。

 

胸も痛い。

 

でも、ここで寝てはいられない。

 

だってファンが呼んでる。

 

私たちを呼んでる。

 

起きなさい陽菜。

 

私たちは、一番星に、あの空に……。

 

「……行かないと」

 

「美月さん!? 美月さん!! しっかりしてください!!」

 

「野次馬どかせ!!」

 

あぁ、遠くなっていく。

 

折角目の前にまで来ていたのに。

 

私は、私たちは……。

 

 

 

【ヤバい。大事件だ】

 

【なんだ。何があった】

 

【こっちじゃ何も分かんねぇよ!】

 

【陽菜ちゃんと美月が階段から落ちて意識不明らしい】

 

【はぁ!? 何だよそれ!】

 

【事故って事!?】

 

【いや、なんか聞いた話じゃあ突き落とされたとか何とか】

 

【それマジなら大事件じゃん】

 

【何? 人気に嫉妬とかそういうの?】

 

【犯人とかどうでも良いから陽菜ちゃんが無事なの祈るわ】

 

【マジそれ】

 

【……美月】

 

【陽菜ちゃん! 頼む神様!】

 

【なんか奇跡をくれ! 神様!!】

 

【陽菜ちゃんに奇跡を!!】

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