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怖い、まふゆを掴んだ手が震えてる。自分でもわかるくらい、そのまま視線を上に持っていくと、怪訝な顔をした彼女を目で捉える。
怖いよ、また昔みたいに君を傷つけるのが。
怖いよ、ずっと痛む胸の痛みを、また抱えるのは。
「……?」
掴む手の力が弱まり、手はすでに自由のまふゆ。それでも立ち尽くしているのはきっと、僕に対する疑問からなのだろう。反射した灰色の床越しからでも窺える。
「……君の絶望。最初に見た時から、分かってた」
「……分かってる、だから貴方に傷つけられて、恨んで…」
「裏切られた?」
彼女を床越しに見ていた視線を合わせ、遮る様に口を開いた。
視線がブレる、顔を合わせたくない、目を逸らしたくないと。でも、今みてなくちゃ、始められない気がする。
「……なんで、そこまで分かって」
「僕にはわからなかったんだ……傷ついた君を助けることが。生まれたばかりだったから、名前を知ったことだけで限界だったんだと思う」
ガラスの瞳と目が合う、震えは止まった。
「……」
「それで、知らないふりをして、君を傷つけて、顔を見た時、取り返しのつかないことを、したんだって思った」
その言葉を聴いた時。彼女の目が細まり、こちらを睨み、口を開いた。
「……そうだね、貴方がいなければ、私はずうっと…気づかないまま、いい子で入れたのに」
「……」
「それで貴方が謝ったり、申し訳無さそうにするなら……許すわけ無いけれど、それでも溜飲も少しは下がった。
だけど歩は逃げた。それで今更、取り返しのつかないことをした?ごめん?挙句に言い訳まで……生きてて、恥ずかしく無いの?」
まふゆは目を向けたまま、軽蔑の言葉を僕に向かって吐き捨てた。
そうだ。傷つけて、そのままずっと見ないふりをしたのは僕だった。今更どんな顔を向けて君を救うかなんて、僕にはわからない。
「……それは」
「聴いたよ?歩の曲」
「え…」
聴かれてた?聴かれていないと思った。どう、思ったんだろう。
「ふざけてるの?同じ場所にいて、同じだって言えば、私が救われるだなんて、本気で思ったの?」
「……え、違う、違うよ!」
「何が違うの?そうやって否定してばかりで、何もしなくて。救うだなんて……おかしなこと言うね?歩は」
「違う!誰が、誰が君みたいに、ボロボロになりたいと思うんだよ!」
「ひどい、嘘つかないでよ。私がそう思ってるのに、貴方が私みたいになりたくないなんて思う訳、ないでしょ?」
「…は?」
どうせまた、理由も分からず口角を上げてこちらを責め立てるまふゆに負けじと言い返す。
そしてまふゆは、私もそう思っているのに、僕がそう思っていない筈がないと、そう言った。
「私ね?歩がずっと羨ましかったの、縛られてない貴方が。分からないままでも、やりたいことをやれる貴方が。そんな子が私に縛られているのが、どうしようもなく不愉快だった」
僕が存在は、ずっとまふゆを追い詰めてたの?
「なのに貴方は、私を真似して、声のない曲を作って、さらに不愉快にさせて……」
僕の音は、やっぱり要らないの?
「今回もまた、耳障りの良い言葉を並べてるだけ。ねぇ歩?」
だから嫌なんだ、言葉なんて、無くなれば良かったのに。絵で、音で全部、知ってもらえる世界なら、どれだけ生きれたんだろう。
「人形に憧れて、私に構うのはやめて?いい迷惑だから、不愉快だしそれに……いい子で、いられなくなっちゃうから」
……そう、そう。
「そうだね、人形みたいに生きれたらどれだけ良かったかって、本気で思ったことなんて、何回もあるよ」
「そう、じゃあ…」
「でも、君みたいに半端に足掻いてる様な、みっともない人形には、なりたくは無いよ?絡まったマリオネットじゃないんだから」
「……は?」
もう知らない、傷付けるとか消えるとかどうでもいい。
「ずっと嫌だったんだよ、喋っても、喋ろうとしても、傷つけるし、居なくなる。うんざりだった、君を見つけた時、好都合とすら思った」
「何を…」
こんなに傷つくなら、手を取らなきゃ良かった。音楽なんて作らなければ良かった。
『ひどい歌詞、何も伝わってこない』『薄っぺらい』『メロディだけ』『勿体無い』『埋もれるだろつまんね』
散々だった、好きな物が空の言葉で蔑まれた。何も知らないのに勝手なこと言わないでよ。好きな物も分からないくせに、分からないのにあんな歌詞を……ああなんて
「羨ましいんだよ、君の全部が。口を閉ざしても。勝手に愛想を振りまけて、人に愛されたくもなかったのに、愛されて……親にもいい顔できて、全部、羨ましいんだよ」
たった数年で思い知らせた。自分は不器用な人間だと、自分は情けない人間だと。
「そんなのほしくなかった!私はただ、自分を見つけたくて……」
「僕はそんなの要らなかった!君を知ろうって思い立った短い期間で思い知らされた!僕を自覚してからの数年で痛いほどわかった!口を開いても出るのは傷付ける言葉だけ!そんな自分なんて要らなかった!」
これが、子供の喧嘩なのだろうか?年不相応に自分の欲したものを掴んで引っ張り合うようなコレがそうならば、昔のこと、すこしは思い出せたら良かったのに。
「っ何で!私を救うなんて嘘ついたの!」
「笑顔になって欲しいから!これからもずっと!」
「またそれ?!良い加減にしてよ…!私は消えたいの!消えて全部、忘れたいの!」
「じゃあ何でわざわざ僕にそんなこと言ったんだ!黙って消えればよかったじゃないか!何も言わずにふと消えて終えば良かったじゃないか!」
「っ……何で!?いつもいつも、やって欲しくないことばかり!邪魔しないでよ!」
「消えたくない子を引き止める事の何が悪いんだよ!」
ボルテージばかりが上がって、何を伝えたいのか、どうやって説得するのかなんて全部投げ捨てるように、言葉をぶつけあってる僕たちは、消えたい消えたくないを馬鹿みたいに言い合っている。
こうやって、ちゃんと言葉で伝えようとした事なんて、いつ以来だろうか?ないか。
「みんな私の場所に勝手に土足で踏み込んで!好き勝手言って!何が引き止めたいよ!何が救いたいよ!もう何も、ききたくない……!!!」
まふゆは取り乱しながらそう言ってしゃがみ込み、そのまま耳を塞いで目を閉じた。
聞く耳はもう無い、勢いのまま言ったものは呑み込めない。どうしたら、どうしたらいいんだろう。
「……」
「……」
沈黙。振り出しに戻った様。でも、きっと振り出しじゃない。
しゃがみ込んだまふゆに目線を合わせる様に座り込んで、震える背中をそっとさすった。
「……」
言葉は嫌いだ、今も、今までも、きっとこれからも。みんなを傷つけるモノだから。
だから声のない曲を書いたんだ。それを伝えるために絵を描いたんだ。
じゃあ、僕に出来ることなんて、彼女が消えてしまわない様に、黙って見てるだけ?
「僕は。まふゆ、の、楔になりたい」
「…っ」
「ただ君が消えてしまわないように。絶望の中、身を投げない様な、楔になりたい」
「……」
「僕の、エゴ。これじゃあ、ダメ?」
「…それでも、私が」
手を止め、うつむいたままのまふゆに目を合わせるように覗き込む。彼女の目は、こちらを写していた。
「……私が、消えたいって、本気で願ったら?一緒に、落ちてくれるの」
思ったこと、躊躇ったこと。だから言葉は嫌いだ。
「……今度こそ、約束す…っ」
『約束する』そう言い終わる前に、僕の目線は灰色の空に向いていた。目の前の映るのはどこまでも灰色に染まった空ではなく。ブリキの様に無機質な瞳でこちらを見つめるまふゆの顔だった。
「嘘じゃ、ない?」
「もう、君に嘘は付きたくない」
解けた髪は空を塞ぎ、僕の目にはまふゆしか映らない。彼女の目には、僕自身が映って見えるほどに近く、嘘を見透かそうと覗かせる。
「……呪い、みたい」
「そうだね……最初に呪ったのは、どっちなんだろう」
「しらない……ねぇ」
「どうしたの?」
「昔の貴方に、もう興味なんてないけど……それでも、裏切られた。また裏切ったら、許さないから」
そう言ったまふゆの顔は、少しだけ、憑き物が取れた様な顔をしていた。
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