変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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十話 本当の想い

改めて言うけど、言葉は嫌いだ。特に自分の言葉は伝えたい事を伝えられない、今まで歩んできた人生よりも遥かに軽い羽毛のようだから。

 

『君の楔になりたい』五年の月日で培った重しは小石よりも軽い自負すらある。だけど、まふゆにとってはそうじゃないらしいし、自分でも相応の覚悟を持ってそう言ったつもりだ。

 

でも、この状況を言葉にする事くらいなら、別に良いか。良いよね。

 

「ねぇ、まふゆ」

「何?」

「いつまで上にいるの」

「?楔になるって言ったのは、歩」

 

いまだに両手で体を支え、僕に覆い被さっているまふゆに対して問いかけると、否定し辛い言葉を返された。楔と言ったのは僕だし、撤回する気なんて今後ありえないけど……えっと、何て言えば…。

 

「楔、って言ったのは…そうだけど。この体制ってどちらかと言えば、君が楔になってない?まふゆ」

「そうね」

 

それでいいの?……まふゆがそれでいいなら、そうするけど。

 

「…」

「…」

 

長い沈黙、だけど前のように痛い沈黙ではない。憂いが解けた顔のまふゆを見るとそう思える。

 ……かれこれ、背中に存在する白の地面に熱が移るほど、こうしている。

 目を逸らそうにも、目の前に彼女の顔があり、どう背けても彼女の菫色の髪が目に入る。

 

ふと、誰かの話す声がきこえた。

 

「……?」

「……」

 

僕は耳を、まふゆは目線だけその方向に傾けて、その誰かを確かめようとした。……三人、だろうか?その内の二人は聴き覚えの、あるような。

 

「ねぇ、まふゆ」

「何」

「この場所って、誰か来てるの?」

「三人」

「……離れて、くれる?」

 

他人に見られるのは恥ずかしい。まふゆは…どうだろう?表情からは窺えない。

 

「……」

 

彼女に睨まれた後、溜め息をつかれ、渋々といった風に僕の上から体を避け、また座り込んだ。

 僕も体を起こし、同じようにその場で座り、声のした方角へ目を向ける。遠目だけど白、黒、桃が印象的な三人が見えた、話す内容は聴こえない。

 聞き耳を立てるのやめて、改めて疑問に思った事をまふゆに向き直り、聞いた。

 

「まふゆ、は……」

「何?」

「あの三人に、何か、言われたの?」

 

三人のいる方角を指差してそう告げると、まふゆは俯いて、何を言うべきかを悩んでいるようだった。

 こうやって、向き直ってまふゆの仕草をみていると、彼女自身、こうやって相手を慮ることが癖になっているのだろうか。事実、宮女に向かい話を聞こうとした時、彼女の人を尊重する一面が窺えたから。それが、自然と出たものか、若しくは、断りたくても断れない、手癖の様なものなのかは、さておいて。

 

「……歩の言ったことと、かわらない」

 

顔を三人の方向に向けたまま、まふゆがそう言った。悩んでいる様に見えた横顔に対して、何ができるだろう。何もできないだろうな。でも…

 

「……何?」

 

地面についた彼女の手を自分の手で覆い、落ち着かせる様に顔を向け、言葉を続ける。

 

「大丈夫。だって、君を追いかけて、ここまで来た子達でしょ?なら、大丈夫だよ」

「……よく、分からない。不安かどうかも。だけど何故か、締め付けられたみたいに、苦しい」

 

顎を引き、自分の胸を見つめ不思議そうに、そして戸惑いを隠せない表情でそう言った。

 

「……」

 

だから、嫌いなんだ。わからないこの子に、伝えれる言葉、何もかも、わからないから。

 

覆ったその手を、そっと離した。

 

「…」

 

曇った宝石のような目が、光で揺れた気がした。

 

「たとえ、君の事、責めるために来たとしても、それは……」

「何も喋らないなら、黙ってて」

「……」

 

言葉の通りに、押し黙って、目線をまふゆから外して、膝を抱える。

 三人の声が聴こえる。視線から外れているからか、或いはこの黒い建造物が塞いでいるのか、未だ自分達が、まふゆが見つからないようだ。

 

「でも」

 

口を閉ざした僕に、まふゆは、僕が拗ねたか、落ち込んだと思ったのか、言葉を取り繕うように続けた。

 

「でも、貴方がここに来た事は……嫌じゃ、ない……筈」

 

そんな言葉を耳に受けながら、僕は思い切り両手を合わせて、音を鳴らした。

 何も聴こえなかったこの場所に、風船が破裂したような音が響いた。

 …どうやら、まふゆがいる事に気付いたようだ。やっぱり、この子の事、探してた……え?

 

「いきなり……?どう、したの」

「なんで、奏……いるの?」

「?」

 

銀色にぼやけた輪郭は、見覚えのある人物を形取っていた。なんで、ここに奏がいるの、それに……えっと、瑞希さんも。

 

「居た!良かった……雪ってばいきなり逃げ出してびっくりしちゃったよ〜真っ直ぐ行ったはずなのに、全然見つからなかったし」

「ちょっと!アレだけ好き勝手にKに八つ当たりしといて逃げ出すなんてどうゆう事!?」

「……やっと、見つけた…ゆ……え?」

「え?…あっもしかして、先輩が引き止めてくれてた感じ?ありがと!助かったよー!」

「誰……?じゃなくて……ありがとうございます?」

 

………。

 

「うん!そうだよ?それに…えっと、久しぶりだね?積もる話…ああいや、今はこの子に構ってあげて?」

 

そう言って、立ち上がって離れようとすると、まふゆが袖を引っ張って引き止めた。

 変だ、さっきから彼女の行動が……ううん、元からわからなかったけど。この場で僕は、何ができるんだろうか。

 

「……どうしたの?」

「…居て」

 

まふゆにとって、その手の震えはどの感情からくるかわからないもの、彼女らを目の前にしてから起こったそれは彼女自身の不安をさらに煽るもの?

 じゃあ、居る事にしよう。

 

「わかったよ、どこにも行かないから……立てる?」

 

そう言って袖を掴んだ手を支え、まふゆを立たせる。彼女はまだ、俯いて、あちらを見ようとはしない。

 

「な、なんか…雪もそういう相手いたんだ…しかもセンパイって、なんというか…イガイ?」

 

 瑞希さんがこちらとまふゆを交互に見てそう溢す、独り言が知らずのうちに出たのだろう。

 …自分でも、こんな関係になってしまった事が意外だ。

 

「…雪、私じゃ足りないのかも知れない、けど、それでも…雪を救う曲を書き続けるから……!」

 

まふゆを何時間も探したのだろう、体力の尽きた様子の奏は、それでも息を整え、まふゆに向かってそう宣言した。

 その姿は。あまりにも眩しく、だけど、どこか翳っているのにも見えて…少しだけ、彼女がその言葉を言える事が、羨ましく感じた。

 掴んだ僕の手を支えに立っているまふゆが、顔を上げて、こちらを見た後、奏と目を合わせ、また視線を下に外した。

 

「……まるで、鎖みたい。外れなくて、絡まって、自分で解けない鎖。どうして…」

「まふゆ?」

 

独り言ととれるほど小さな声でそう呟く彼女の名前を、思わず呼ぶ。

 どうやら本当に独り言だったようだ。

 

「……ねぇ、K。貴方は私を救うって言ったよね、それでもダメだったら『まだ救われていない』って言って欲しいって」

「えっ……うん。そうしたなら、わたしはずっと、雪を救う曲を書き続けれるって」

 

驚いたように声をあげる彼女は、それでも雪に対して真摯に言葉を続けた。他の二人は先行きを見守っているようだ。

だけど不思議だ、奏は自分自身の手段は、曲しかないと言っているように感じる。そんなに真っ直ぐ言葉を伝えれるのに。そうやって、まふゆを前に目を逸らさずにいられるのに。

 

「どうして、皆、私に構うんだろう……」

 

諦めたようにまふゆがそう呟いた、目を伏せて何かを考えるその姿は、どこと無く微笑んでいるようにも、呆れたように息を吐いてるようにも見えた。

 

「いいよ、どうせもう……行き止まりなんだし。見つからないかも知れないけど。期待しても良い?K、それと……」

 

K、奏をそう呼んだ後、僕を黙って見つめるまふゆ。絶望と不安に濡れた瞳に僕は。

 

「うん」「……ありがとう、雪」

 

その暗い瞳に、応えたいと、本気で思った。

 

「なんとか、なった…でいいのよね?」

「ひゃー、ホントびっくりした、だってセンパイがいるんだもん。」

 

いきなり瑞希さんに話しかけられた、いる事が……ああ、イヤ。まふゆのセカイにいる事がまずおかしい…のかな?

 

「え…?あ、そうだね?僕も気づいたらここに居て…あはは」

「へー、と言う事はぁ…雪の事心配で追いかけてきた感じだ!」

 

…こういう子と改めて顔を合わせて接するのは、初めてかもしれない。

 ニヤニヤと揶揄うように笑う瑞希さんを見て変わらず僕は笑顔を繕いながら言葉を続ける。

 

「んーそうだね?心配だったんだ……ね?雪」

「そうだね……ねぇ、K。私達の曲、聴いたんでしょ?」

「え?私達って…?」

「なら今度教えて、私が、どんな音を出したのか…彼じゃ、口が足らないから」

 

まふゆは粗雑に僕らをあしらうと、奏を呼び、今度自分の音がどんな想いを出していたのか聴かせて欲しいと頼んだ。

 

「あはは、今までそうだったから、否定できないな……えっと、Kさん、で良いよね?」

「あ……うん。どうか、しましたか?」

 

関係を隠すようにユーザーネームらしき名で奏を呼ぶと、少しさびしそうに口をつぐんだ後、何もなかったように返答した。横目で、また本音を隠したと半目で責めるように睨んだまふゆが視界に入る。

 

「雪の事でお礼を言いたくて……ありがとう、僕じゃ出来ないこと、君は…ごめん、今は関係のない事だったね、忘れて」

 

感謝の言葉を言えたのに、思わず口からこぼれそうになる言葉を呑み込んで、また謝ってしまう。

 瑞希さんと、えななん?と呼ばれる人が騒がしく戯れている音を背に、ただ気まずくなり、目を逸らす。

 

「ううん、わたしもありがとう。雪の手を掴んで引き止めてくれて……わたし達だけじゃ、きっと間に合わなかったから」

「……うん、そう言ってもらえると、救われるよ」

 

そう言い終わると同時に、後ろにいる騒がしい二人とは別で、一人の足音が聞こえた。

 その方向に振り返ると、いつか話した、白いミクが微笑みながら立っていた。

 

「よかった……本当の想いを見つけられたんだね」

 

ここ居る全員を見渡しながら嬉しそうにそう言うと、どこからともなく音が聴こえてくる。これって、曲?

 

「これでやっと、一緒に、歌える」

 




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