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「「え?」」
何だそれと僕が溢し、困惑の声を奏があげた。
曲って何、それに歌うって……そんなの聴いてないよ。
「……ねぇ、何か聴こえない?」
「だよね、これって何かの曲なのかな?」
二人の言葉にミクがうんと頷き、肯定の意を示した。
何処かで奏でられている言葉のない音は、声を必要としない曲ではなく、本当の想いを口にするその人を待っているように流れ続けている。
「そうだよ。あの子の…まふゆの本当の想いから、歌が生まれようとしてる。」
ほら、とミクが顔を灰色の空に向けると、その音は次第に大きくなっていく。それと共に、自分の心臓の音が大きくなっていくのを感じる。
「本当の、想い?」
黒いミクが本当の想いを見つけれていないと言われた事を思い出す。
[本当の想いを見つけなさいな。見つけるとどうなるかは秘密よ、貴方絶対嫌がるから]
言わない筈だと合点が行った。そんなの僕は探さない、言葉を伴うものは怖くて僕には扱えないから。
「本当の想い?この歌が…でも、私はまだ見つけてなんて無い」
「ううん、まふゆは見つけれた。このセカイとこの歌がここにあるのが、証拠だよ」
まふゆの側に寄り添い彼女の手を取ったミクはそう言って、見つけてもらえた事に喜ぶように笑う。
「この音とこの場所に、私の想いが……?」
初めてこの場所に立っているかのように呟いて、空を見つめるまふゆに、僕は自分でも良くわからない感情に支配された。
嬉しい筈なのに、喜ぶべき事なのに、ただ純粋に空を見つめるその横顔に寂しさを感じている。
「……歩、ミク」
「何」「?」
「ありがとう」
感情を隠し聞き返す僕と、変わらず微笑んでいるミクを見つめるまふゆは、確かにかすかに微笑んでみせた。
救われたと思う、きっとそれだけで。
「さぁ、六人で、歌おう?」
まふゆのその言葉を聞き届けて、再びミクは僕達を見渡してそう言った。
「僕が?雪と…ううん、あの人達と?」
「…え?!なんで私達まで…Kと、…そこの人はともかく」
こちらをチラ、と一瞥するえななんと呼ばれた彼女はそう言った。
「本当の想いは、あなた達が見つけることができなかった。四人とも。ここへ来てくれてありがとう」
「別に私は…雪に文句を言いに来ただけで」
「僕もただ引き留めただけで、あの子にしてやれた事なんてないよ?」
礼を言われて照れくさく感じたのか。段々と言葉が尻すぼみになるえななんさんを横目に、同じくただ引き留めただけの僕が居る必要は無いと主張した。
「あなたはずっとあの子を見ていた」
「見ていたって。それだけじゃ、ダメだったじゃないか」
「ダメだったとしても、あなたはあの子にちゃんと寄り添えていたんだよ」
微笑んでそう言って退けるミクに、言葉が詰まる。だって…だってまふゆはそれで傷ついて…?
袖をまた静かに引かれる。引かれた右手を見れば、まふゆが袖をまた引っ張っていた。
「……」
「どうしたの?」
「歌って」
これまでそんな事はなかったのに、やけに強く彼女は歌う事を勧めている。
「…なんで?」
「これが、この曲が。私の本当の想いなら、必要だから」
「……」
本当の想いだから、必要。見つけたいと願って、もがいていた彼女の大凡初めてと言える、願い事。
応えるべきだ。答えてあげたい。だけど…
「僕って、要るの?」
「そんなの、知らない」
「なら、あの子達と行って来なよ。僕は帰るから」
「知らない、けど…」
「?」
知らないと言いだけど袖を離さないまふゆに疑問を持つ。
分からないよ、君の考えてる事全部。知らないならなんで引き止めたの?なんで僕に向かって、消えたいなんて吐いたの?
言葉は嫌いだ。ぐるぐるぐるぐる真意を探って、思い至る事は悪意だけ。そんな思いばかり浮かぶのは嫌なのに、こんな自分も、大嫌い。
「……」
「私は多分。追って欲しいから、貴方に消えたいって言ったんだと思う」
「それは、あの子達にも言ったんだろ」
「うん。でも貴方に言ってから自分を、私が何をやりたかったのか、考えたの」
「?」
何を、やりたいか?君は、ううん。前までの君は消えたいばかりで、いっぱいいっぱいの心を見るしかできなかったのに?
「君はさっきまで、消えたいってばかり思ってたと思うけど」
「…今もそう。でも消えたいと、貴方の手を振り払って、傷んだ胸の理由を知りたいとも思ったの」
「…なんだよ、それ」
「だから歩。一緒に歌って」
すでに袖を引いた手は離れて、僕がこちらに来るのを待つように手の平を差し出している。
「嘘だよ」
ただ否定したくて、言葉にしたものは驚くほどに実感が湧かず、言葉を詰まらせる。
「…」
「君は僕の事を何もしないって言ってたじゃないか。それなのにそんなこと言われても、僕は…ただ、君に理不尽な事、言ってしまう」
言葉を伝える。それを伝えるだけで溝ができるような言葉を。
「言って」
まふゆはなんて事はないように話すことを促す。
「……」
「貴方が私のことを知りたいって言ったから、私も知る」
「……」
「だから、貴方も、私のことを知って」
知りたいって言ったから、まふゆも知る。だから代わりに僕も知ろうとして欲しい。
「僕は、歌が嫌い」
「うん」
自分の事を知るために、まふゆを傷つける言葉を吐く。
「僕の歌は誰かを失望させたから」
「それは誰」
「顔も知らない誰か」
知らないまふゆのために、僕が知っている僕を教える。見るに耐えないものをヤスリで粗く削って見せるように恥ずかしい。
「私に聞かせたい歌を誰かに失望されたからやめるの?よく分からない」
「自分でもよく分からないよ。君にさえ届けばよかったと思ったのに、誰かに届いた途端、その誰かの影を追ってたんだもの」
「……」
「その誰かの影を追わず、曲を作った君が羨ましかったんだ、自分の為に救われるように足掻いた君が、とても……綺麗だと思った」
泥に塗れた姿が綺麗だと、傷だらけだからこそ美しいと。そんなものまふゆにとって、救われてほしくないと願われる事と同じなのに。
「…そう」
肩肘を抱えて、まふゆは目を伏せた。
「ちょっと!せっかくなんとかなったのに、なに雪に好き勝手言ってるの?!」
「えななん、煩い」
「はぁ!?あんたの為に言ってるのに何それ!?」
「まぁまぁ、雪も…えーっと」
間に割ってこちらを非難するえななんさんを、まふゆは煩いとピシャリといった。それに怒ったえななんさんを瑞希さんは宥めながら、こちらに対して言い淀んだ。
ああ、本名はダメなのかな。
「夜毎で良いよ」
「助かるよー、よまいねー…ん?夜毎?」
「…え"」
そう言ったきり固まった二人を無視して、まだ俯いているまふゆに向き直る。
しばらくすると青の目をこちらに向け、まふゆが再び口を開いた。
「……気持ち悪い」
ただ単純な、拒絶な言葉だった。
「……だよ、ね。それだけ、帰るね」
「…でも、貴方事を知れたのは、嫌じゃない」
分かりきった結果に踵を返した僕に、まふゆは続けてそう言った。嫌じゃないって、何。
「…嫌じゃないのに、気持ち悪いの?」
「うん」
「そう……ねぇ」
僕の疑問に、迷う事なくそう言ったまふゆに同意して、また問いかけた。まふゆは不思議そうに首を傾げこちらの質問を待っている。
「……?」
「なんで僕と歌いたいの。知りたいとか、そんなの建前なんでしょ?」
「……ただ、そうしたい、から?」
何もわかっていないように、言葉を絞り出したまふゆに疑問ばかりが募る、だけど……。
まだ差し出された手は糸に繋がれたようにそこにある。
「僕は、君が分からないよ…」
「そう」
「歌だって、歌いたくなんて無い」
「そう」
「でも、君はそうしたいんだろ」
「きっと、必要だから」
思い違いだった、止まってたなんて。知っていたのに、傲慢にも目を逸らしてた。
一人で絶望を抱えて、救いを求めて足掻ける子なのに。それを僕は蔑ろにして壊した。
ああ、なら放っておくなんてダメだよね。
差し出された手を取った、青の瞳が輝いた気がした。
「………うん、歌うよ。まふゆ」
「そう、じゃあ行こう」
その手を少し懐かしいと思いながら、なすがままに手を引かれる。なんで、懐かしいって思ったんだろう……ああ。
「昔、こうやって手を引かれたっけ」
握られた手が、少しあたたかく感じた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
嫉妬に狂いそうとはこの事でしょうか?それとも草臥れただけでしょうか。
いずれにせよ、書きたい事は書きたいものですね。