変われるとしたら。   作:ゴリラとの逢瀬

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手に取ってくださり、ありがとうございます。


十二話 笑顔の理由

手を引かれるがまま歌をうたい、同じようにそうするまふゆの顔、そこには僅かばかり溢れた笑みがあって…

 

「綺麗、だったな」

『珍しいわね?熱に浮かされた顔して』

 

朝、休日の自宅。ミクに言われた通り、自分は嫌いな歌をうたった事実よりも横にいたまふゆの表情に熱をともされたんだろう。でもこんなの恥ずかしい、だって…あんな事酷い事言った後で、真っ当に綺麗だと思っただなんて、おかしいもの。

 

『ね、ついでで聴くけど。まさか忘れてないわよね?』

 

…?

 

「忘れたって、何を。リンちゃんの事?」

『はぁ。覚えてるなら早く行くわよ、手』

 

どうやら当たっていたようで、呆れた様子でため息を吐き、ミクは僕に手を出すように促した。今からセカイに行くの?

 

「今から?」

『気が変わってリンが「みんなで撮ろ〜!」なんて言い出されてもかなわないのよ…』

 

言うだろうなと、満開の笑顔を浮かべてそう言うリンちゃんを思い浮かべた。あの子は多分、最初からそのつもりで言ってると思うけど…。

思考もほどほどに、手をかざすミクに向かって手を合わせると眩しい光に包まれ、目を閉じた。

 

「着いたわよ、目を開けて」

「…っほんとう、この眩しさには慣れない」

「早くなれなさい」

 

目を開けると灰規写真館の前に立っていた。二階建ての黒い長方形の建物は見ているだけで何故か懐かしさを覚える。

 陳列窓には見知らぬ家族の写真や子供の成長を写した写真が並んでいて、少し羨ましい。

 自分はそういった代物を持っていないから。

 

「貴方、また立ち止まって…なに?改まって窓なんて眺めて」

「……羨ましいなって」

「…あっそ。早く行くわよ、終わらせたいのよとっとと」

「君って歌が嫌いなんじゃ無いの?」

「何よ貴方、昔言った冗談を間に受けてたの?嫌いよ。でも貴方は好きって言った方がやる気、出るでしょ」

「…」

 

好きって言えば僕のやる気が出る。自分の事は些細な事と考える自分を見透かすようにそう言うミクはいつもと変わらず無表情だ。

 

 

「他人ばかり思いやる暇があるなら自分を思いやりなさい?」

「大事だからそうしてる」

 

まふゆは今の自分よりも大事だもの、理由は…まだうまく言えないけど。

 

 

「それであの子がいなくなったらどうするの?」

「いなくなる、一緒に」

「……ホント嫌になる。まぁ良いわ、早く入りなさいな」

 

爪を指で擦りそう吐き捨てて、ミクは僕の背中を押した。

 

「あっ!あゆちゃん遅い!」

「いらっしゃい、歩くん」

 

写真館に入ると、リンちゃんとKAITOさんが笑顔で出迎えてくれた。

 ミクとは対照的な花咲いた笑顔をさっと隠し、私は怒ってますとリンちゃんが駆け寄って来た。

 

「もー!約束、忘れてたでしょ!」

「ごめんね歩くん、来たら叱るってリンちゃんが聞かなくてね」

「……ううん、KAITOさん遅れた僕が悪いから」

「…本当の想いは、見つけられたかい?」

「分からないけど、みんなに隠したままはダメかなって……迷惑?」

「迷惑じゃなーい!ずうっとそのままでいいの!」

 

KAITOさんとの会話に割り込むようにリンちゃんが間に入り、僕の姿を迷惑じゃないと断言した。

 リンちゃんのその気持ちのいいところは見習いたいし、嬉しいと感じるが、やっぱり声が大きいのは苦手。

 

「…僕としては、ずうっとは嫌かな?」

「む、そーゆー意味で言ったわけじゃ…」

「わかってる。それに、一緒に写真を撮るんでしょ?」

「そのままで笑ってほしいぃ〜…」

「えぇ…」

 

困ったな、笑う事そのものはパッと出来ないから、リンちゃんの希望には応えられない…。

 チラっとKAITOさんの顔を見れば、目が合い、彼は困ったように笑ってリンちゃんに向かっていった。

 

「リンちゃん。歩くんもやっと僕らに素の自分を見せてくれたんだ、それ以上を望むのも我儘だよ?」

「でも…」

「気持ちも分かるけど、ひとまずはおさめて…ね?」

 

俯くリンちゃんを優しく諭しながら、KAITOさんは僕とミクを交互に目配せをした。なんで?

 

「はぁ…リン、ちょっと頭冷やしなさい。私と歩は別の部屋行くから、ほら行くわよ」

「えっ…うん、ミク姉ちゃん」

「早いところ撮るんじゃ…」

「うるさい。早く行くわよ」

 

そう言って僕の手首を掴み引っ張り、ミクは奥の部屋に向かっていく。

 部屋に入ると彼女は手首ごと僕を雑に投げ、扉を閉めた。強く掴まれたのか、少しだけ手首が痛い。

 

「…で?アナタ、まふゆと話したの?」

「話したよ、それが何?」

「…謝らないからねソレ。KAITOさんの目配せに気づかない貴方が悪いし。それで、話して貴方はどう思ったの」

 

僕の非難の目を無視して、ミクはまふゆと話した事をどう思ったのかを聞いてくる。

 どう思ったのか?

 

「…助けたいって」

「じゃなくて、どんな理由でそう思ったのか聞いてるの」

「どんな、理由?放って置くのは、ダメだって思った」

「……」

 

またしきりに爪をいじり始めたミクに、疑問が募る、放って置くのはダメ。だけじゃ、ダメ?

 

「…歩。貴方は、何の為に、まふゆを、救いたいと、思ったの」

「なんのためって…まふゆのため…」

「そこに貴方が居ないなら救うのなんてやめて。貴方はまふゆを救ってどうしたい訳?」

「それは…」

 

 

もう本音なら吐いた…歌なんて嫌いだ、まふゆの笑顔を見たって、本当の想いを綴った曲を歌ったってそれは変わらなかった。

 それに今更自分の想いなんて、思いつかないよ…

 

「…怖がらなくて良いの、わがままくらいここで吐いて。セカイは、そのためにある場所よ」

 

仕方ないといった風に立ち上がって、ミクは僕を手を握りあやすようにそう言った。セカイ、本当の想い、我儘…自分の、我儘。

 

「僕は、僕が分からない。分かることといえば、歌が嫌いなこと。それでも曲を作っていること。母さんはちゃんと、愛してくれていること」

「……そう」

 

ミクは珍しく表情を変え不快そうに片眉を上げるが、それでも続きを促す。

 

「それと…まふゆを救いたいと思っていること」

「……それで」

 

ミクはソファに腰を下ろして、突っ立ったままの僕に何をしたいのか聞く。

 僕は、それで…それで。

 

[昔のこと、少しも覚えてないもんね?]

 

昔のこと、おぼえていなかった。そんな自分の言葉なんて、羽毛よりも軽いって、初めて作ったあの曲で思い知った。

 あの時、まふゆに手を引かれた時に思い出した光景、それを知りたい。

 

「自分の事を、ちゃんと知りたい?」

「でも貴方はそこ居るじゃない、何を見つけるの?」

 

足を組み直してミクがこちらを見つめる。ちゃんと、言わないと。

 

「昔の自分を知りたいんだ。なんでこんな事になったのか…それに」

「それに?」

「まふゆが変わっていくなら、僕も変わっていきたいって、なんとなく思う」

「……」

 

そう言い終わるとミクは目を瞑り、こめかみを指で抑えた。

 …そんな変なこと言ったのかな。

 

「良いわよそれで、貴方らしい。ほら戻るわよ」

「そう、良かった」

「ふぅん」

 

突然ミクが肩に掛けた一眼レフを手に取り、シャッターを切る。

 

「…っまた勝手に撮って」

「あらごめんなさい。笑ってたから…チッ」

「えっ」

 

一眼レフを覗き込んでまたかと舌打ちを打つミクにそう言われて、パッと顔に手を当て確かめる。笑ってたんだ、何でだろう…自分のわがままを言葉にできた、から?

 

「……ミク」

「なぁに」

「ごめんね」

「そうゆう時はありがとうって言いなさいよ、辛気臭い…あとKAITOさんにも言って。あの人が言い出しっぺなんだから」

「ならリンちゃんにも、言わなきゃね」

「…あの子は調子に乗るからダメ」

 

またミクは、そういうことばかり言う。

 でも、嬉しそう。背を向けて扉に向かうミクを見ながらそう思う。

 

「歩との話は終わった。そっちは?」

「おや、やっとかい?なら、早速写真を撮ろうか」

「…まだ諦めてなかったの?」

「撮られる事が嫌いなミクがちゃんと撮られてくれるチャンスだし、ね?」

「はぁ…」

 

ミクが話が終わった事をKAITOさんに告げると、ニコニコとスタジオの上に立ち手をこまねいていた。

 KAITOさんの言う事に渋々従ったミクにリンちゃんが嬉しそうに駆け寄り、一緒に撮れる事を喜んだ。

 うまく、笑えるだろうか?不安だ。

 

「ミク姉ちゃんも取ってくれるの!?ヤッター!」

「うるさい…分かったから。ほら」

「うん!…カイトせんせも一緒に撮ろ!」

「僕もかい?分かったよ。」

 

リンちゃんが二人を引き寄せパッと笑って、釣られて二人がまた笑う。その光景を見て、なんとなく胸があたたかくなる。

 眩しいな、いつも彼女はキラキラと笑ってて…

 

「あゆちゃんも!」

「えっ」

「え!じゃないの!元はあゆちゃんに撮ってもらうためなのに!ほらほら座って座って!」

 

リンちゃんはスタジオに鎮座しているソファに腰掛けて、隣をポンポンと大きく叩き、僕に座るように促した。

 そうだけど…うまく笑えるかな。

 

「うん。でも笑えるか分からないよ?」

「う…それは、ソノ…ゼンショしてほしい、の?」

 

バツが悪そうにリンちゃんが笑顔を促すが、僕は写真なんて撮られようと思ったことも無いし、自然と笑うことそのものがよく分からないから、勝手が分からない。

 

「うん、もちろんやってみるよ。みるけど…」

「フフ、いいよ、任せて。大方ミクから話した内容を聴いたからね」

 

リンちゃんに肯定の意を示し、KAITOさんの方を向けば、任せて欲しいと言ってくれた。任せてって…と言うか、ミクと話してたんだ。

 

「ミク?」

「私は言いたいこと言ったし、リンはそもそもおバカだから言いたいこと変わらないしでKAITOさんに話したのよ」

「ミク姉ちゃんひどー!」

「ハイハイごめんなさいね。ちょっと詰めなさいよ」

「グエッ!?もー!」

 

ミクはリンちゃんを適当にあしらい、ソファの端に体を無理矢理捩じ込んだ。

 リンちゃんが抗議の声を上げるが、ミクは耳を塞いで聴いていないフリをしている。

 

「…うん、これで良し。三人とも、合図をしたら笑ってね?」

「ハーイ!」

「イヤ」

「善処します」

「はは…さてと、後ろ失礼するね。」

 

ソファの後ろに回ったKAITOさんは僕の肩を手で叩いた。

 何だろうと振り向いて見上げたら、ニコニコとしながらKAITOさんは僕を見ていた。

 

「なんですか?KAITOさん」

「うん、ミクから聴いたよ。頑張ったね、君は君自身の想いを見つけれた。見つけれたから、君は必然と笑うことができた、自然にね…考えることはいい事だけど、思い返す事もまた大事だよ。歩くん」

「思い、返す事?」

 

思い返す事。まふゆに、僕のことを知りたいと言われて手を引かれた。そうやって昔、遊ぶために手を引かれたことを思い出して…それで。

 

「うん…ほら、前を向いて」

 

それで、その光景をもっと知りたいと願って……。さっき聴いたシャッターの音が聞こえた。まだ写真は撮られていないのに。

 

『笑っていたから。』

 

自分で言った言葉を思い返す、変われるなら変わりたいとねだった自分の言葉。分からないままあの子を救いたいと願った自分は変わらないし、これから変わるかも分からないけど、変わるために、昔の自分を知るために。

 理由を示してくれた二人には感謝、しないとな。

 

「…チッ」

 

誰かの声をかき消すように、再びシャッター音が響いた。

 

 

 




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